BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

ネットビジネス成功の鍵、メタデータ活用の秘密/書評『ウェブは菩薩である』

ブックレビュー

BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊

『ウェブは菩薩である メタデータが世界を変える』

評者:山川 健(ジャーナリスト)

「メタデータ」をキーワードにユーザーの身近な視点で
最新のウェブサービスの動向や将来の姿を解き明かす

  • 深見 嘉明 著
  • ISBN:978-4-7571-0241-5
  • 定価:1,500円+税
  • NTT出版

タイトルから連想されるのは、昭和を代表するアイドル歌手、山口百恵さんを論じた書『山口百恵は菩薩である』(1979年、評論家・平岡正明氏著)。菩薩は、悟りを開いて人々を救おうと修行を重ねる者。崇拝対象でもある。今、崇拝され、人々を救うのはアイドル歌手ではなく、ウェブということか。ウェブの進化によって「将来、万人にご利益がもたらされます。まるで慈悲深い菩薩のようではありませんか」「万人の自由を拡大するというのがウェブの進化の本質です」。著者はタイトルについてこう書き記している。

とはいえ、本書はウェブの進化を大局的・思想的に論じている訳ではない。サブタイトルにあるようにキーワードは「メタデータ」。メタデータとは、コンテンツに付けられた属性情報や評価情報などの付随情報。最近、膨大な情報を整理する際に用いられるようになった。本書は、今ウェブで起きている現象や、今後実現されること、現実社会に及ぼす影響を平易な文体でエッセイふうにつづり、身近な例にたとえてメタデータによって変化する世界を描き出す。

著者が採ったのは、実際のウェブ利用シーンで起きている現象から、それを実現する技術や背後にある仕組み、ビジネスモデルを解き明かす手法。大所高所からではなく、ユーザーのパソコンの画面に現れる細かな変化を出発点にしている。そのため理解しやすく、親しみもわく。経済学でいうと、一国の投資や消費の集計から考えるマクロ経済ではなく、消費行動や企業活動から経済全体をとらえるミクロ経済と似た感覚だろう。

著者は、各先進的なウェブサービスを論じた後、広くユーザーに活用されるウェブサービスの特徴を2点挙げる。

  • (1)コンテンツが活用されるために必要なメタデータを充実させる機能が備わっている。
  • (2)利用者が生み出したメタデータを利用者同士でうまく活用できる工夫がされている。

ウェブでは何よりもコンテンツを探し出してもらうことが最重要。しかし大量のコンテンツそれぞれに適切なメタデータを付けることは容易ではない。そのため、利用者にいかにメタデータ生成に参加してもらうか、がポイントになる、というのだ。

利用者から幅広くメタデータを集める方法は「意図せざる協働」を引き起こすアーキテクチャ設計。「大事なのは・より多くの人に・より負担をかけずに・より多くの機会で、メタデータを作成してもらい、集めて活用するプラットフォームを作ること」。自分が使いやすいよう利益を追求することが、ウェブサービスの利用者全体の利益につながる仕組み。ユーザー自身、他のユーザー、そしてサービス提供者のいずれもが利益を享受できるのが、理想的なウェブ社会。そう考えると、ウェブビジネスを成功させるために欠くことのできないのが、メタデータだと言える。

著者はプロローグで言い切る。「正直言って、筆者はウェブ2.0なるものの本質は、いまだにわかりません。ましてやウェブ3.0なんてわかるはずもありません」。そして「ウェブは、1.0から2.0、2.0から3.0へというように、一瞬にしてガラッと変わるという視点で進化を捉えようとすると、本質は見えてきません」と断言。ウェブ2.0、3.0などのタイトルが付けられた書籍と一線を画すことを表明している。

本書では、各章のタイトルも、グーグルの検索の仕組みについては「空気を読めないグーグル先生」、アマゾンの商品推薦のシステムに関しては「アマゾンはワタシよりもワタシの好みを知っている?」など、企業や技術の視点ではなく、ユーザーの身近な目線で付けられ、そのスタンスで解説を試みている。利用者の立場から見たウェブサービスのトレンド入門書として、特にコンテンツ系やオンライン通販系のウェブビジネスに関わる層には有益だろう。

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