コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の七十壱
増収増益に忍び寄る影
日本時間の4月18日に発表されたグーグルの2008年1月~3月期は増収増益で過去最高を記録しました。グーグルの絶好調はいつものことですが、今回はちょっと違いました。前四半期を停滞と報じられ、直前に「検索連動型広告」全体の不振が伝えられていたからです。成長し続けている企業へは「そろそろ」という警戒感が働き、IT企業の成長鈍化と重なり「グーグルよ。おまえもか」と。そこでの増益発表に株価は上昇し悲観論は撤退しました。
グーグルの快進撃が続きます。そこで今回は視点を収益源である「広告」を軸にして「到達点」を辿ってみたいと思います。GW休みから目覚める「思考実験」とお付き合いください。
広告という不確定要素
グーグルを広告代理店と評する人がいるように、検索結果に広告を表示させ、クリックされたときの手数料が主な収益となっています。費用はテレビや新聞広告などと比較して非常に安価で、「探している人に広告」を出すことから高い広告効果を期待できます。「タウンページ広告」は今でも効果の高い広告媒体であるのと同じ理由で、「探している人」はページをめくり電話をかけてきます。
しかし、広告は景気に影響されやすいというリスクを抱えています。今回の増益を背景にグーグルのエリック・シュミットCEOは強気な発言を繰り返しますが、景気が停滞し業績が悪化したときに、人件費などと違い「気軽」に削れる経費が広告費です。業績が悪化するとネガティブ思考が支配し、ポジティブ発想は影を潜めるものです。ガードを固めて一方的になぐられているボクサーと同じ心境でしょう。
高度成長の先にある客離れ
好事魔多しというように、景気が安定している時に不幸のタネは芽吹きます。
グーグルの増収増益発表によると、売上は「米国以外」の割合が51%となりました。まさしく「世界が市場」で、グーグルが世界を塗りつぶすまでは「成長余力」があると見られています。しかし、いま現実に「客離れ」が起こりつつあります。
「探している人」へ向け安価に出稿できる検索連動型広告は中小企業にとって理想的でした。しかし、富の泉を市場はそっとしておいてはくれません。儲かるとわかり、競合他社が殺到します。「検索結果」で他社の動きは一目瞭然です。各社が入札を繰り返し、広告単価が吊り上がっていきます。私のお手伝いしている先でもこの半年で50%以上吊り上げられました。効果の高い広告媒体は人気が高まり、価格が上がるのが市場原理です。そして「小口」の客は離れていき、資本力のある大企業が主力プレイヤーとなります。
グーグルの未来とネット広告の歴史
ネットに人が集まり広告がやってきました。
まず初めに一世を風靡したのは「バナー広告」でした。人気が集まり市場原理から価格は暴騰しました。すると費用対効果を疑問視する声があがり、「クリック保証型」が登場します。バナー広告をクリックした回数分だけ課金するというもので、効果と費用が連動すると歓迎されたのも束の間、広告会社が社員を使って不正にクリックし、料金を水増していたという噂が広まったためか急失速。そして検索連動型広告が登場しました。
ネット広告は進化を繰り返し、いま「ターゲティング広告」へと移行しつつあります。ターゲティング広告とは趣味嗜好に合わせた「広告」を表示することで、より効果を高めるといいます……が、ここで思考実験はクライマックスへと向かいます。
グーグルスキップはいつか来た道
入札価格の高騰で「資本力」のある企業の広告ばかりが上位を独占し、ターゲティング広告という「好み」で絞り込まれます。少ない選択肢の中から絞り込まれることで「いつも同じ広告」が表示されるかもしれません。自分好みの情報でも繰り返されれば好奇心は刺激されなくなります。「いつも同じ」なら尚更です。そして「クリック」どころか「目に映らなくなる」ことでしょう。
人は当たり前のように存在する興味のないものを「無視」する特性があるのです。今現在でも、検索結果の広告表示部分を「無視」している人もいるのではないでしょうか。
家庭用ビデオレコーダーの普及により、テレビ番組を録画して視聴する人が増え「邪魔」なCMを早送りしはじめた「CMスキップ」と重なります。人は不要な情報を「抹殺」するのです。
グーグルの広告がスキップ(抹殺)される日、テレビが直面している「スポンサー離れ」と対峙することになります。テレビ局は番組というコンテンツをもっていますが、番組(コンテンツ)を紹介した際の広告収入に頼るグーグルは……。もちろん、これはグーグルに限ったことではありませんが。
グーグルがダークサイドに落ちる
さすがというかグーグルは広告以外の取り組みも積極的で、すべては杞憂に終わるかも知れません。しかし、広告媒体は認知されると同時に広告効果が低下します。広く認知されることで空気のような存在となり「刺激」が少なくなるのです。広告収入のもつ宿命的リスクだということです。
検索市場を制したグーグルは「Googleドキュメント」でワープロや表計算という「アプリケーション」を提供し、ブラウザはOSに代わるプラットフォームになるとメッセージを投げかけました。環境に依存しない「HTML」ムーブメントの興奮を思い出します。そして、この春、「Google App Engine」という開発環境を提供しました。
順序に違いはありますが、あの帝国の記憶が蘇ります。OSを制して無料ブラウザを標準装備し、ワープロも表計算も「同化政策」にてデファクトスタンダードとしたあの帝国と。この春の開発環境はさしずめ「VB」といったところでしょうか。
「グーグルよ、おまえもか」。
そうネットユーザーが呟く日に、私は歴史の果てでこう呟くでしょう「歴史は繰り返す」と。ま、1つの思考実験ですが。
♪今回のポイント
成功者の辿る道程は似てくる……か!?
連休ボケの脳みそは壮大な思考実験でリハビリを。
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コメント
>しかし、広告は景
>しかし、広告は景気にされやすいというリスクを抱えています。
ここは景気に影響されやすい、でしょうか。
ご指摘ありがとうございます
編集部の池田です。
>しかし、広告は景気にされやすいというリスクを抱えています。
編集時に見逃していましたが、“広告は景気に影響されやすい”ですね。
こちら急ぎ修正させていただきました。ご指摘ありがとうございます。