コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の七十弐
Win-Winという傲慢
IT界に負けず劣らず、経済界も「ご都合主義」のトレンドが大好きです。以前流行した「Win-Win」とは、自分も勝ち相手も勝つとことを指し、勝者と敗者が分かれる「Win-Lose」の対極にあるといいます。取引先と互いに勝利する方法だという解説が目立ちました。しかし、取引とは互いに利を得るもので、受発注、双方のメリットが取引を支えます。つまり「Win-Win」です。
「勝ち組、負け組」という線引きも同じ頃から目につき始めました。「勝ち組、負け組」は、ブラジルに渡った日本の入植者の間では逆の意味で使われていた言葉です。中小の現場で立場の強いものの「総取り(根こそぎ勝利する)」が、より目立つようになった頃と「Win-Win」が重なります。そして、並び立たない不平等条約は常態化しています。
下請けイジメが常態化している時代
新規分譲マンションで売れ残りがでると、出入りの業者に売りつけることがあります。建築費などを融資した銀行は売れ残りを嫌います。その後、「中古物件」として転売させるのですが、損をした場合の差額は売れ残りを買った(買わされた)業者負担です。この「押し売り」を断ると、次の仕事はきません。また、下請けへの代金の支払い延期は日常的で、値引きの交渉ではなく要求は普通に行われます。
大なり小なりを含めればどこの業界でも行われており、都合の良い流行語が積極的に活用されます。
「売れ残りがでると次の現場の銀行審査が降りないんだよね。協力してよ。Win-Winを目指そうよ」
人権を叫ぶ国は人権の問題を抱えているように、「Win-Win」の存在しない場所でよく耳にした言葉です。
弱肉強食というよりイジメ
下請け、孫請け、ひ孫請けと「丸投げ」に連なる人たちは「中間搾取」に腐心します。そして現場には「絞りカス」が放り込まれます。ザ・ブルーハーツの「Train-Train」の歌詞にある「さらに弱いものを叩く」という図式です。私の最期の勤務先、中小の広告代理店は下請け仕事も多く叩かれる側です。一方で、業者に発注する際は1円でも安く「叩こう」とし、取引先の血の涙を流さんばかりの値下げを手柄と褒め称えます。自分がされて嫌なことは他人にしてはいけない。幼稚園の砂場で習ったことがまかり通ります。
独立の際に決めた1つに「嫌なものはやらない」があります。そして「Win-Win」は嫌な箱にはいりました。本義はともかく、下請けイジメに使われ、さらに自社と取引先だけが勝てばいいというニュアンスを含むところが嫌だったのです。
Win-Winの果ての偽装事件
商売は客がいれば成功します。客が利益を運びますし、クチコミをしてくれ、営業マンともなります。これがWin-Winだけで考えていくと、客に不利益を与えることもあります。取引先と手を組んで品質を落としたり、ライバル企業と結託して談合すれば、企業がWin-Winで、Loseは消費者です。昨今流行した食品の「偽装系」はこの典型です。また、冒頭で指摘したように、多くの商売が取引先の協力により成り立つのですから、「互いに勝つ」というスローガンがそもそも異常なのです。
「ユーザーとメーカー」「メーカーと取引先」とそれぞれにWin-Winと当てはめるという主張もあるでしょうが、個人と企業をそれぞれ別個で考え、その上で調和を取るのは至難の業です。そこで、同列に並べて、一緒に考えてしまえばよいのではないかと考えたのが「トリプルウィン」という思考法です。
八百屋で考えるトリプルウィン
トリプルウィンの初出は「全員勝利の方程式」と題したメルマガ(現在休刊)のテーマとした4年前です。ちなみに、近江商人の残した「買い手良し、世間良し、売り手良し」という「三方良し」とは微妙に違います。トリプルウィンとは取引に関係した3者の勝利が絶対条件です。
- お客様 => Win
- 取引先 => Win
- 自社 => Win
八百屋を例に考えてみます。
客が喜ぶ(勝利)ことに「安売り」があります。安売りのためには仕入れ値を下げさせなければならず、取引先が負けてしまいますし、利益を削れば自社の負けです。トリプルウィンは全員が勝つことが前提ですから「安売り」での全員勝利は難しく別の切り口が必要となります。「食の安全」ならどうでしょうか。安売りではなく「安全で安心な美味しい野菜」を提供するということです。
- お客様 → 安心して口にできる野菜が買える
- 農家 → 値下げ交渉に巻き込まれず、野菜作りに専念できる
- 八百屋 → 顔の見える良質の野菜で差別化を計れる
(※多くの八百屋は仲買から買いますが便宜上農家としています)
全員が勝利者となる「切り口」を探し出すことがトリプルウィンの基本です。
ウェブ担当者だからのウィン提案
もちろん、コンテンツにもウェブ企画にも使えます。
一般的なコンテンツは企業の視点だけで作られます。最近ではホームページに来る「客」を意識したサイトも増えてきましたが、これではWin-Win止まりです。企業ホームページには多くの「取引先」やその予備軍がアクセスします。彼らに「ウチの会社と取引するとメリットがあるよ」と感じさせることで、より充実した取引環境を作り出すこともでき、そこから顧客利益を導き出します。
「取引先紹介コンテンツ」はその一例です。仕入れ先や生産者を紹介することで客へ安心感を与えることができ、同時に取引先の営業機会を与えます。このコンテンツから仕事が入れば、紹介企業から「恩返し」がありますので客に還元します。ビジネスシーンの「義理人情」は健在です。ホームページがない企業ならより効果的で、ほぼ「0円」で作れるコンテンツが莫大な勝利=Winをもたらすことがあります。
トリプルウィンは「思考法」としてさまざまな分野に応用できます。ポイントは「もう1つのWinに触れられているか?」。企画や戦略に煮詰まったときは「もう1つのWin」を。弊社の「企画」の基本です。
♪今回のポイント
世界が2人だけのものというのは恋人同士の話し。
もう1人の勝者を忘れずに。
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