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『大衆化するIT消費』

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『大衆化するIT消費』

評者:神野 恵美(編集者、ライター)

IT化が日本人の消費スタイルで本当に変えたものとは?
1万人のアンケートをもとに分析した消費社会の“いま”

  • 野村総合研究所 消費者マーケティング研究チーム 著
  • ISBN:978-4-492-55594-1
  • 定価:本体1,600円+税
  • 東洋経済新報社

ブロードバンドの普及によって新たに大衆層に生まれた、ITを活用した消費スタイルを“IT消費”と名付け、野村総合研究所が1万人を対象に行ったアンケート調査の結果分析のレポートを書籍化した一冊。“ロングテール”をはじめとする10種類に分類・整理した消費スタイルの紹介にはじまり、IT消費が大衆化した理由や、マーケティングのアプローチ方法が指南される。

しかし、個人的に本書で興味深かったのは、むしろ“ITに左右されない”部分の日本人の消費スタイルに対する考察だ。本書では、日本人固有の消費価値観を“寄らば大樹”“流行追求”“こだわり消費”の3つに大別しており、これらすべてに共通しているのが、日本人の“周りを見る”意識の強さだと指摘している。

折しも本書の読書中に『ミシュランガイド東京2008』が発売された。多くのマスコミが大々的に取り上げたこともあり、同書は発売初日から品切れの書店が続出する好調な売れ行きを記録し、紹介されたレストランはその日から予約電話が殺到する事態になる盛況ぶりだという。ミシュランは言うまでもなく、フランスのタイヤメーカーがレストランを星の数で格付けした、美食家のための有名なガイド本だ。しかし、審査は少人数の調査員によって行われ、その基準は明確にされていない。それにもかかわらず、こうした“格付け”にこれほどまで人々が熱狂したのは、本書が指摘する日本人の“周りを見る意識”がことのほか強いことの表れのように思える。

一方、本書も指摘するように、Web 2.0時代の消費スタイルの変化は、情報の主権が消費者に移行したことに起因していることが多い。“UGC”や“CGM”の言葉に代表されるように、ブロードバンドの普及は消費者に自由でオープンな情報発信と交換を行う場を提供したと同時に、あらゆる情報の中からより慎重に選択するリテラシーを要求するようになった。常に“周りを見る”日本人が枠を外れることなく自分たちの消費価値観を達成するためには、しかるべき“指標”がより必要とされるようになったという本書の考察は、今回のミシュランブームを説明する裏づけにもなる。

ミシュランは、日本人のこうした消費気質を逆手に取ったパブリシティを仕掛け、大きな成果を勝ち取ることに成功したといえるだろう。多くの海外ブランドにとって、日本人消費者はカモだと言われている。そう言われてみると、ミシュランの例に限らず、日本にやってくる多くの海外ブランドが同じようなパブリシティ展開を行っていることに気がつく。それを思うと、日本人の1人としては、ワンパターンに仕掛けられたワナにネギを背負って出向く我々の姿がなんだか情けなくも思えてしまうが、それが外側から捉えた日本人だというしかるべき現実なのだろう。

本書では、IT消費をはじめ、日本人の消費スタイルを改めて整理分類しているが、そこから導かれるのは、結局のところ「ひとりの消費者の傾向を一言で言い表すことができない」という結論にすぎない。また正直なところ、やや強引であったり、疑問を呈したくなる分類や理論がないわけでもない。しかし、本書の意義は、現在の消費者市場をデータをもとに客観的に細分化することを試みたことにあり、そのポイントはマーケティング担当者にとっては外せないものばかりだ。

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