企業ホームページ運営の心得

ウェブ近未来予想図~無料の彼方にあるもの

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の伍十弐

グーグルアースでサンタを追跡

ノーラッドが毎年公開しているサンタ追跡プログラム。iGoogleのガジェットも用意されている。

ノーラッド(NORAD)」のサンタ追跡プログラムに注目が集まる季節になりました。このサイトに出会ったのは確か20世紀の最後の年だったと記憶しています。「天翔るサンタ映像」に驚き、夜を徹して追いかけ、幼かった甥や姪にサンタの存在を洗脳する証拠映像として見せたものです。今ではグーグルアースで「地球の上」を追跡でき、お金を払っても見たいコンテンツの1つです。

ネットサービスは次々と無料になりました。今では「ネット=無料」も常識かのように語られます。サンタ映像もグーグルの各種サービスともに「無料」です。利用者としては結構なことですが、つい「ただより高いモノはない」という言葉を思い出してしまいます。

無料の先に待つものは何か。今回は年末特別企画「ウェブ近未来予想」としてのいくつかの仮説をお届けします。

仮説1 プラットフォーム戦争の結論

無料トレンドのトップランナーがグーグルであることを疑う人はいないでしょう。検索はもちろん「Gmail」「Docs(旧スプレッドシート)」「Picasa」などすべて無料です。グーグル信者ではないので「エクセルはいらない」というほど絶賛できませんが「ちょっと使う」のにスプレッドシート(表計算アプリ)は重宝しています。

これらはウェブ上で使用することができ「ウェブがプラットフォームになる」と、グーグル信者は「ウィンドウズ」との主役交代を高らかに宣言します。

プラットフォームを支配しソフトを無料で提供する。ここから1つの記憶が蘇ります。

ウィンドウズパソコンでワード搭載モデルが何故か安かった時代を経て、日本語ワープロの玉座は一太郎からワードへと交代しました。「ロータス1-2-3」に「ネットスケープ」も同じです。有利な立場を濫用すれば、ライバルの排除などたやすいものです。また、店頭価格で1万円安いといった可愛いモノではなく「無料」という究極も実現しているのが気になります。

仮説2 動画の氾濫が引き起こすネットの先祖返り

ブロードバンドの普及により通信コストも感覚的に無料に近づいています。価格と反比例して通信速度は上がり、動画の流通を活発にしました。ミクシィも動画投稿を受け付け、YouTube、ニコニコ動画などもネット上ですっかり定着し、吉野家の「テラ豚丼」騒動はリアル社会を騒がせました。しかし、これが先祖返りの呼び水となります。

ネット回線の値引き競争は限界に近づくなか、データが大きい動画が流通しだしたことで回線は悲鳴を上げています。追加設備の負担も容易ではありません。そこで利用した分だけ支払う「従量制」へという動きがでてきています。懐かしい「テレホーダイ前夜」への先祖返りです。

総務省「ネットワークの中立性に関する懇談会」の資料にもありますが、総務省の谷脇泰彦氏によれば50~60%の帯域をわずか1%のヘビーユーザーが利用しているとみられ、ここへの課金が検討されています。メールや検索程度のユーザーへの影響は軽微と見られていますが、つい「落とした」動画で高額な請求書が届く、従量制時代……。妻に内緒の「徹夜チャット」がばれた亭主族の姿を思い出します。

仮説3 ネット広告が脅かすCMクイーンの存在

無料ネットサービスの大半は「広告収入」で賄われています。民放のテレビが無料で見られるのも、テレビCMという広告があるからです。ここ数年は、ネットの普及にともなってネットの利用時間が増えたこと、ネットでモノや情報を探すことが一般的になってきたことから、ネット広告に期待が集まります。

ネット広告はテレビ媒体の広告より安いのですが、さらに費用対効果も高いとなればテレビCMは削られることでしょう。テレビCMで注目を集めて映画、歌へという「方程式」は瓦解し、「CMクイーン」はいなくなります。今なら「新垣結衣」さんでしょうか。

また、CMに依存していたテレビの制作費は暴落し、費用のかかるドラマは再放送に置き換えられ、ニュースは衛星中継をやめて「FOMA(携帯電話中継)」となり、オリンピックやサッカーワールドカップのような「放映権料」が高いモノは、半ば税金のように受信料を徴収している「みなさまのNHK」以外は放送できません。

値段で比べるとネットに利がありますが、仮にネットで新垣結衣さんのCMを流したとしても、世代や性別、嗜好での「セグメント化」が潮流となっているネット広告では万民の目に触れることはなく、期待できる一般認知度は涼宮ハルヒと同程度に落ち着きます。

その時「国民的アイドル」は死語となります。

仮説4 大人の事情に飲み込まれる日

広告を原資としたビジネスが自由な発言を制限するのは既存のメディアが証明しています。とある記事で「A社とT社の悪口は書けない」と綴ったところで、校閲でバッサリ落とされました。掲載先に両者の関連企業があったことが理由です。家庭用洗濯洗剤がスポンサーの番組で「河川汚染」はあまり取り扱わず、廃棄家電の横流しが発覚したニュースでは、出稿量の多い企業は「量販店」と報じ、出稿量の少ないライバル店は実名報道です。

スポンサーを気遣うのは「大人の事情」です。検索エンジンが米国や中国に「配慮」した事実からも、ネット界だけ「特別」であると考えることには無理があります。

また、金銭的な「大人の事情」はもっと深刻です。「無料」という風潮から利益を上げにくい構造がうまれ金持ち企業への買収を余儀なくされ一極集中が加速していきます。グーグルは今、買う側です。

仮説5 未来を疎かにした禍根

記憶に新しい米脚本家組合のストライキは「ネット配信」での再利用料を求めてのものでした。権利意識が確立している米国らしいというより、ビデオの「再販」の際に「どれだけ売れるかわからない」と説得され妥協したところ、現在2,000円のソフトで3~4円の取り分しか受け取れなかった雪辱を「ネット配信」で果たすということです。

当たり前のことですが「コンテンツ(作品)」は無料ではありません。多くの作家はネットでの情報収集はもちろん、それ以上に資料となる書籍や雑誌を自費で購入し現地に足を運びます。取材相手との飲食代をもつこともあるでしょうし、執筆期間を支える生活費も必要です。

これらの「経費」や「報酬」がネットとなると疎かにされるのが不思議です。

ネット=無料の終着駅にハリウッド映画はなく、新垣結衣さんもいないかも知れません。

♪今回のポイント

タダより高いモノはないを噛みしめる。

無料のコストは誰かと時代が負担している。

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