コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の十弐
ベータ版の解説書が出てしまう注目度
時間が節約できるのでアマゾンで本を買うことも多いのですが、時間を見つけては「関心空間」の外側と出会える書店巡りをします。
蔵書が充実していない小さな駅前書店で、『Google Docs & Spreadsheets徹底活用法』という書籍を発見してビックリしました。まだベータ版のサービスの解説本が置かれていたからです。ベータ版とは「ほぼ完成品」で、「ほぼ」の解説が「書籍」という立派な商品になり、小さな書店にあるところに、グーグルに対するネット関連業界の注目の高さを見せつけられた気がしました。
やっぱり素敵なグーグル生活
「Google Docs & Spreadsheets」(2007年2月28日時点でBeta版)は、グーグルが提供する「ワープロ&表計算ソフト」で、ワードやエクセルのファイルを読み込めてネット上で無料で使用できます。
グーグルが提供するアクセス解析サービスの「Google Analytics」では、行列ができる焼き肉店「スタミナ苑」に上海や台北からのアクセスがあることをビジュアル的に見ることができます。スタミナ苑には毎年ゴールデンウィーク頃に台湾から来るお客さんがいるので、その方のアクセスかも知れません。
携帯電話でGmailを閲覧し、どこでも必要なメールだけをチェックできるようになりました。
確かに注目されるに値するサービスをグーグルは提供してくれています。
もうマイクロソフト帝国は崩壊したのか?
そんなグーグルがマイクロソフト帝国を崩壊させ、ヤフーを玉座から引きずり下ろしたという見方をネットで散見します。あのNHKスペシャル「“グーグル革命”の衝撃 あなたの人生を“検索”が変える」が放送されて以来、ネット関係者以外でもグーグルを礼賛する「にわかファン」が増えてきました。
NHKスペシャルでは、ビルゲイツの宿敵(笑)、スティーブ・ジョブズの会社の「マックOS」が多く映し出されていたことも、マイクロソフト帝国の落日を「予言」しているのかも知れません。
しかし、国内では依然としてヤフーが強く、マイクロソフト帝国のOS「ウィンドウズ」のシェアが圧倒的です。国内では検索エンジンでも、OSでもブラウザでも「グーグル全面勝利」と断じるのは早計です。
Web2.0的ブログがグーグル離れを加速させる
グーグルが今現在、クールな企業であることに一片の疑いもありませんが、秒進分歩のITの世界では、またたく間に常識が塗り替えられることがあります。
私は昨春までグーグルに依存していましたが、コピペブログと引用ブログのヒット率の高さに嫌気がさし、検索エンジンの手応えを自己評価し、使い分けるようになりました。カテゴリー登録の名残からか企業情報などはヤフーが探しやすく、IT関係の多数派意見を集めるときはグーグルといったようにです。
「エントリーと無関係のトラックバック」が検索結果として表示されることも「グーグル離れ」を加速させました。
イメージ検索に躊躇するイラストレーター
2002年のサッカーワールドカップ予選の「日本対ベルギー戦」を埼玉スタジアムで観戦できたのは私の一生の宝物です。その対戦国ベルギーで注目の判決が下されました。
2007年2月13日、ベルギーの裁判所は「Google News」に国内新聞各紙からの記事を掲載していることが著作権の侵害としたのです。違法だと判じられ、グーグルは「フェアユース」だと上告しました。グーグルはこの種の係争を世界中で抱えています。
あるイラストレーターは「ウェブに公開して沢山の人に見てもらいたいが、コピーされている現状を見るとできない」と言います。この話を聞いたとき、台湾のイラストレーター「陳淑芬 平凡」でイメージ検索してみると、ちょっとした作品集ができあがりました。「作品」で食べている人には死活問題です。
法律が追いついたときに何が起きるか誰もわからない
詳細は法の専門家に譲りますが、フェアユースの一例を挙げると、雑誌の書評のように「一部紹介」だというものです。書評は執筆者にも出版社にも許可なく行えてギャラも発生しません。一方、違法の解釈は「情報提供会社」のグーグルが情報の「仕入れ」にお金を払わずに「不当な利益」を得ているというものです。
「解釈」がどっちに転ぶかはまだわかりませんが、グーグルの本社がある米国には「制裁的賠償金」によって天文学的賠償金額の判決が下ることがあるのもくすぶる火種かも知れません。
今はまだ杞憂に過ぎませんが、法律は現実をキャッチアップして改善、改悪されていきます。「すべての情報をインデックス化する」というグーグルが挑む人類初の試みに、法の答えは出ていないのです。
Web担当者が管理職になる時代に向けて
法の解釈を待つ間も、商売用ホームページの需要は増えていきます。更に10年も待たずに産まれたときからインターネットがそこにあった「ネイティブ」が社会に出てきて、考えもつかなかった商売を生み出していくことでしょう。電話からテレクラが生まれたように。
その時「グーグル」は? 著作権は解決されているのか? 検索精度は? IEとネットスケープナビゲーターのブラウザ戦争、ヤフーを脅かしたグーグルの躍進。歴史は唯一永遠の勝者を許しません。
商売用ホームページのWeb担当者は「ウェブ利用者」と一線を画さなければなりません。グーグルが提供してくれるサービスを「活用」するのは結構ですが、ファン心理から絶対視するのは危険だということです。
法律がキャッチアップしたときに起こるリスクや、ネイティブが生み出した新サービスに迅速に対応できるフットワークの軽さこそ、将来「管理職になるWeb担当者」に欠かせない資質です。
もちろん、今の時点では「便利なグーグル」を「活用」するのは結構なことです。「依存」でなければ。
♪今回のポイント
ネットとリアルは地続きの世界。
法律という大人の事情にも敏感であるべし。
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