データ活用革命のヒント

「ToDo」から「ToBe」へ。エージェンティック広告時代にマーケターが生き残るための条件を、Web広告の歴史に探る

インティメート・マージャー簗島亮次氏が、Web広告の変遷を解説し、AI時代に人間がやるべきことを予測する。

簗島亮次

7:05

Web広告の約30年にわたる歴史は、デジタル化とテクノロジーの進化が最も顕著に表れている領域の一つです。

単なるWebサイト上の「看板」から始まり、金融工学を応用した自動取引、プライバシー規制の波を乗り越え、現在では自律的に思考し実行する「AIを活用したエージェンティック広告」へと至るまでの変遷を解説します。

1. 黎明期:純広告の時代(1990年代〜2000年代前半)

Web広告の歴史は1993年頃にさかのぼり、日本ではYahoo! JAPANが誕生した1996年頃から本格化しました。

初期は「純広告」と呼ばれる形態が主流であり、これはWebサイト上における「看板広告」のようなものでした。特定のページ(例えばYahoo!のトップページ右上など)に掲載され、1ヶ月に何千回表示されるかというインプレッション課金や期間ベースで販売されていました。

しかし、当時の仕組みには大きな課題がありました。広告枠の販売は営業担当者が手作業で行う「手売り」であったため、アクセス数の少ない個人のブログや立ち上げ直後の小型メディアは広告枠を販売できず、収益化が困難でした。

さらに、現在の広告のように「誰に配信するか(ターゲティング)」や、「広告経由でどれだけ売れたか(効果測定)」を把握する手段も存在していませんでした。

2. 発展期:アドネットワークと検索連動型広告の時代(2000年代前半~2010年頃)

純広告の課題を解決するために登場したのが、「検索連動型広告(リスティング広告)」と「アドネットワーク」です。

アドネットワークは無数の中小メディアを束ねて、ある程度のボリュームで広告枠を販売する仕組みであり、これにより少額の予算しか持たない小規模な広告主でも出稿が可能になり、同時に小型メディアも収益化の機会を得られるようになりました(ロングテールの収益化)。

しかし、この仕組みにもジレンマが生じます。

買い手である広告主は「できるだけ安く買いたい」と願い、売り手であるメディアは「1円でも高く売りたい」と考えます。

その間に立つアドネットワーク事業者は、どちらの利益を優先すべきか曖昧になり、結果的に広告主側を向くことが多く、メディアの広告枠単価が下落していくという問題が発生しました。

3. テクノロジーの飛躍:金融工学の応用とRTBの時代(2010年代〜)

アドネットワークの「値付け」の課題を解決するために、2010年頃に「RTB(リアルタイム入札)」という仕組みが広がりました。

興味深いことに、この仕組みは2008年のリーマンショック後に広告業界に流入した金融系エンジニアによって、株式のトレーディングシステムを広告の自動取引に応用して作られたものです。

これにより、広告枠の取引は以下のように分業化されました。

  • DSP(Demand-Side Platform):広告主側。ターゲットを安く効率的に買いたい
  • SSP(Supply-Side Platform):メディア側。広告枠を高く売りたい
  • DMP(Data Management Platform):株式アナリストのような役割。ユーザーの質(コンバージョンする可能性など)を解析し、ROI(投資対効果)に基づく適正な値付けを支援する

しかし、この市場は関与するプレイヤーが多すぎるという欠点を抱えていました。

DSPやSSPなどの中間業者が多額のマージン(場合によってはDSPが7割を取ることも)を抜くため、広告主が支払った金額のわずかしかメディアに還元されないというコスト構造の悪化を招きました。

4. 転換期:プライバシー規制とAI最適化によるアドネットワークへの回帰

2018年に発覚したケンブリッジ・アナリティカ事件(SNSのデータが政治的に不正利用された事件)などを契機に、「GDPR(欧州一般データ保護規則)」や「CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)」「個人情報保護法」といったデータの取り扱いに関する法規制が世界的に強化されました。

また、データの越境移転による国防上の懸念なども背景にあり、サードパーティCookieの利用が厳しく制限されるようになります。

業界はこれに対応するため、Cookieに依存しない仕組みを各社で開発し、プライバシーを保護しつつターゲティングを維持するテクノロジーを生み出しました。

同時に、AI技術の進化が業界の構造を変えます。人間が介在して細かい入札調整を行うRTBよりも、巨大プラットフォームのAIによる自動最適化のほうが圧倒的に高いパフォーマンスを出すようになり、論理的な意思決定がネットワーク側に戻った結果、アドネットワーク型のメディアへと回帰する現象が起きました。

5. 最新形態:生成AIとエージェンティック広告の時代(現在〜未来)

現在、Web広告は「誰に広告を出すか(ターゲティング)」の最適化から、生成AIを活用して「ユーザーの属性や興味関心に合わせてクリエイティブやメッセージを自動生成する」フェーズへと進化しています。

さらにその先にあるのが、「エージェンティック広告(自律型AI広告)」の世界です。AIエージェントが過去の運用ログやオペレーションプロセスを学習し、コンバージョン最適化のための設定のオンオフやA/Bテストを土日昼夜問わず無限に繰り返すようになっています。

将来的には、AIが自らマーケティングプランを提案し、人間はそれを「承認(Approve)するかどうか」を判断するだけの工程へと変化していくと予想されています。

これに伴い、人間の役割は、管理画面の細かな設定を行う「ToDo(作業)」から、事業目標を定義しAIに適切な指示を出す「ToBe(どうありたいか)」の設計へとシフトしており、AIと人間の分業をディレクションするスキルが求められるようになっています。

ビジネスの最終的な目標や目的を定義し、それをAIに正しく与えることは、人間にしかできない重要な役割として残ります。

まとめ

Web広告の歴史は、営業担当者による「手売り」から始まり、金融工学を応用した「自動取引」、そしてAIによる「自律的な最適化」へと、他業界に先駆けてDX(デジタルトランスフォーメーション)を体現してきました。

今後は、プライバシーを遵守した良質なデータをそろえ、AIエージェントに自社の文脈や目的をいかに学習させるかが、持続可能なマーケティングの最大の鍵となります。

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