【深津式プロンプト】「ChatGPTに役割を与える」活用例と使い方
2022年11月末のリリース以降、1週間未満でユーザー数が100万人を突破するなど、大きな注目を浴びるChatGPT。マイクロソフトが検索エンジンBingとChatGPTを融合した、新しい検索機能を発表したことでも話題を呼んでいる。
そんなChatGPTにいち早く注目し、さまざまな活用方法を考案しているのがnote株式会社 CXOの深津貴之氏だ。同氏は2月9日(木)、「あなたの仕事が劇的に変わる!? チャットAI使いこなし最前線」と題したイベントに登壇し、豊富な具体例とともに仕事でも役立つChatGPT活用術を公開した。
本レポートではChatGPT初心者に向けた基礎知識を整理したうえで、“深津式”ChatGPT活用術を紹介していく。
ChatGPTとは? 何がスゴイ?
ChatGPTとは、OpenAI社が開発した自然言語処理のAIモデル「GPT」を搭載した、対話型のAIチャットツールのことである。ChatGPTが話題を呼んだ理由は、「やり取りの柔軟性」と「知識量の豊富さ」だろう。
ポイント1やり取りの柔軟性
ChatGPTは、多少アバウトな質問や命令でも意図を汲み取れ、生成する回答文は人間が書いた文章のように自然で、機械が作ったとはおよそ思えないほどのクオリティだ。ポエムや物語のような情緒的な文章もかなり自然に生み出す。
さらにチャット形式のため、前提条件や文脈を維持しながら、追加の質問を重ねることも可能。ときには間違いを認めたり、不適切な指示を拒否したりと、人間らしいリアクションを見せる。
ポイント2知識量
ChatGPTはインターネット上のありとあらゆる文章から学習しており、その知識は膨大だ。報道によると、MBA試験や米国の医師資格試験の問題を解いた結果、合格ラインに達したという。
ChatGPTの仕組みと注意点
ChatGPTのベースとなる「GPT」の仕組みは案外シンプルだ。それは深津氏によると、「手前の文に、確率的にありそうな続きの文字をどんどんつなげていく」というもの。
たとえば「昔々」という途切れた文章がある場合、GPTは次の文字を予測して、最も確率が高い「あるところに」を返す。GPTはこれを繰り返して文章を生成している。
この単純な仕組みのAIモデルを、5兆語ともいわれる大量のデータでトレーニングをした結果、知性を持つかのように振る舞うことがわかったのだという。深津氏は「ChatGPTの仕組みを理解すれば、ChatGPTを使いこなす真髄を理解したことになる」と強調した。
一方で、深津氏は「ChatGPTは過度な期待を持たれやすいが、実際には課題も存在している」と指摘する。
注意点1真実の保証がない
最も確率の高い言葉をつなげるという仕組みにより、学習していない情報を求められた場合も、真実かに関わらず「それらしい答え」を返してしまうことがある。
また「GPT」は学習した単語間の確率分布に従って答えを返すため、インターネット上で多数派が間違った知識や偏見を持っていた場合、ChatGPTもその間違った知識を返すことになる。
OpenAIは、後処理としてこのようなバイアスを軽減するための工夫をしているが、完璧ではないのが現状だという。
注意点2無難なことしか言わない
最も確率が高い言葉をつなぐということは、多くの人が考えるような無難な文章が出来上がることを意味する。企画やキャッチコピーのアイデアを求めた場合も、基本的には無難で平凡なアイデアが返ってくる。
しかしこの点は、深津氏が考案した方法で改善可能だ(後述する)。
ChatGPTの活用方法
ChatGPTの特性を頭に入れたら、具体的な活用方法を見ていこう。
活用シーン
深津氏はChatGPTの存在を「秘書に近いもの」と表現し、具体的な用途として次の6つを挙げた。
- 知識・文章の要約
- ブレスト
- ロールプレイ
- クロスレビュー
- 改善レビュー
- 危険度チェック
クロスレビューとは、ある物事への評価を複数人で行うことを指す。ChatGPTに「法務の観点で気を付けること」「ファイナンスの観点で気を付けること」など、専門家としての役割を与えて命令すると、ポイントを押さえた回答を素早く得られる。深津氏はプロジェクトの立ち上げ段階などで、ChatGPTからレビューをもらい、そこで下調べをしたうえで、専門家に話を聞きに行くことがあるという。
クロスレビューの他にも、記事タイトルなどの改善案をもらったり、ある行為について想定されるリスクをレビューしてもらったりすることも有用だという。
一方で深津氏は、一定の確率で誤った情報が混ざり込むという理由からChatGPTは質問をするツールではないと考えており、現状は検索サービスとしての活用はおすすめしていない。また、記事の量産に活用するという話題もよく出るが、深津氏は「ChatGPTとキャッチボールをしながら記事を作るのは意外と面倒くさい」として、記事量産への活用は難しいと見ている。
ChatGPT活用の極意は「可能性空間の限定」
ChatGPTをフル活用するには、「プロンプト」への入力内容が重要となる。プロンプトとはChatGPTへの命令文のことで、検索サービスでいう検索語句(=クエリ)にあたる。
深津氏は、プロンプト作成の最重要事項を「“可能性空間”とでもいうべきものを限定すること」だと表現している。
たとえば「リンゴについて教えて」と命令すると、ChatGPTは確率上ありえそうな答えを返すため、「フルーツのリンゴ」の定義を返すことになる。
しかしフルーツのリンゴ以外にも、リンゴには次のようなさまざまな側面がある。
- リンゴ(ニュートン)
- リンゴ(聖書)
- Appleコンピューター など
つまり、GPTの持つ可能性空間の中に、フルーツ以外のリンゴの情報が埋まったままになっている。
しかしここで「宗教におけるリンゴについて教えて」と命令すれば、聖書などと関連するリンゴの情報を切り出すことができる。これこそが「可能性空間の限定」だ。
では、どのように可能性空間を限定していけばいいのか。深津氏は、具体的な手法として次の3つを挙げた。
手法1文脈や前提情報を与える
「この商品の特徴は○○です」と前提情報を与えてから、「商品企画を教えて」と命令する。
手法2役割を与える
「プロフェッショナルなライターとして」「P&Gのマーケターとして」など具体的な職業名で役割を与えてから、「○○を書いて」「商品企画を考えて」などと命令をする。
手法3品質を指定する
「エモいブログのタイトルを」「小学3年生にわかるように解説して」など、具体的な表現や感覚的な表現を駆使して品質をコントロールする。文字数の指定も有効。
深津氏は、試行錯誤の中で編み出した「深津式プロンプト・システム」を公開してくれた。このプロンプトの型をベースにすれば、可能性空間を適切に限定して、精度の高い回答を得やすくなる。
深津式プロンプト・システム
# 命令書:
あなたは、プロの編集者です。
以下の制約条件と入力文をもとに、最高の要約を出力してください。
# 制約条件:
・文字数は300文字程度
・小学生にもわかりやすく
・重要なキーワードを取り残さない
・文章を簡潔に
# 入力文:
<ここに入力文章>
# 出力文:
なお深津氏は自身のnoteで、このプロンプトを活用して「人格注入」という面白い試みをしている。
その他のテクニック
深津氏はその他のテクニックも教えてくれた。たとえば、あらゆる命令の最後に次の文を入れる:
このタスクで最高の結果をだすために、追加の情報が必要な場合は、質問をしてください
商品企画のアイデアを出させる際も、最後に不足情報の質問を促す文を入れることで、「ターゲットは何ですか?」「競合商品は何ですか?」などと、ChatGPTが聞き返してくれる。
また「ベストプラクティスを聞いてから、そのベストプラクティスを実行させる」のも効果的だ。
たとえば「記事のタイトルを書くときに一番大切なことを教えて」と命令し、回答をもらってから、「それらを大事にしてタイトルを考えてください」と再度命令すると、普段のChatGPTより賢い答えが返ってくる。
英語でも命令しよう
GPTの学習ソースは大半が英語であることから、英語での会話の方がChatGPTの精度は高くなる。深津氏は「日本語と英語を比較すると、イメージ的には中学生と大学生ぐらい頭の良さが変わる」と表現した。
英語のほうが高精度なことから、日本人であってもChatGPTに英語で答えを出させてから、回答をDeepLなどの翻訳ツールで日本語にする、といった使い方も有効だという。
そして将来的な見立てとして、深津氏は「AIの生産性にレバレッジがつくほど、英語話者と日本語話者でアクセスできるAIの性能に大きな格差が生まれる可能性がある」と懸念点を指摘した。
最後に
ChatGPTはマイクロソフトのBing以外にも、さまざまなサービスに組み込まれてきている。
メディアプラットフォームのnoteは、ChatGPTのベースとなる言語モデルGPT-3を活用した創作支援ツール「note AIアシスタント(β) 」を発表。書きたい記事のアイデアを入力すると、タイトル案や構成案などが自動生成される機能などを構想中だという。なお、2月28日まで先行ユーザーを募集している。
最後に深津氏は「食わず嫌いが一番良くない。まずは試すのがいいと思う。もし試すネタがない人は『noteに記事を一本投稿したいけど、試すネタがない。何を書いたらいいですか?』とChatGPTに聞いてみてください」とアドバイスを送り、イベントを締めくくった。
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