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日本初「クスリの販売機」がJR新宿駅に登場、体験してみた|大正製薬に設置のねらいも聞いた

【体験記】大正製薬が5月31日、JR新宿駅の構内に「クスリの販売機」を設置し、約3か月間の実証実験を開始した。何のための実験なのか?

コロナ禍により対面販売を避ける傾向から自販機の需要が増え、変わり種の自販機ブームが巻き起こっている。

そんななか大正製薬が5月31日、JR新宿駅改札内に「クスリの販売機」を設置した。薬の自販機は国内初であり、約3か月間の実証実験となっている。一体どんなものか、実際に買ってみた。

購入まで約3分。ワンタッチではないが、手軽にクスリが買える

「クスリの販売機」はIoT化されたタッチパネル方式で、扱っているのは第2類医薬品、第3類医薬品、医薬部外品の約30品目。

JR新宿駅構内の南口改札付近にある

まず画面をタッチすると、本実験への参加に同意するか否かを求められる。確認事項として、18歳未満(高校生含む)は購入できないという。「はい」を選択し、次に進む。

本実験への参加同意を求められる

クスリの選び方は、次の2種類:

  • 症状からえらぶ
  • 商品からえらぶ

まずは「症状からえらぶ」を選択してみた。

症状一覧は、身体の部位や特徴ごとにカテゴライズされて表示される。今回は通勤時のストレスを想定し、「おなか・おしり」を選択。そして「胃もたれ、胸やけ」の項目をタッチ。

「頭」「鼻・のど」「おなか・おしり」などの部位でカテゴライズ
さらに「胃もたれ、胸やけ」「胃痛、腹痛」などの症状でカテゴライズ

すると今回は「大正漢方胃腸薬」が該当した。商品を選択すると、次の2つが表示される。

  • 服用に際しての注意事項
  • 効能や成分、用法・用量について

どちらも確認して、「はい」を選択。

効能や成分、用法・用量についても確認する

そうすると、この情報が近くのドラッグストアに送られ、薬剤師・登録販売者が端末から内容を確認する。販売が承認されると、決済画面へと続く。

薬剤師・登録販売者が確認するまで、少しだけ待つ

現時点での決済方法は交通系ICカードのみ。Suicaでピピっとお支払いすると、取り出し口に商品が届けられる。ガラスケースが自動でゆっくり開くので、取り出して完了。

今後はクレジットカードや現金、QRコードなど複数の決済方法に対応予定
大きすぎる取り出し口にちょこんと鎮座する「大正漢方胃腸薬」

商品に対して自販機が大きすぎる気がするが、これは元々、IoT自販機を製造するブイシンクが展開する、駅弁やスイーツなどを売るための自販機だったから。今回の実証実験でも同じ型式の自販機で、システムを変えて使っている。将来的には、薬に合わせた小さい自販機で販売することを目指しているという。

顔認証システムで、濫用防止対策も

次に、「商品からえらぶ」でもやってみる。「パブロン」や「ナロン」などおなじみのシリーズのほか、目薬やのど飴、栄養ドリンクなども選択可。

今回は、解熱鎮痛剤の「ナロンエースT」を選択。「ナロンエースT」は濫用のおそれのある成分を含む医薬品であるため、顔認証システムが作動する。顔認証自体はものの2~3秒程度で終了し、商品情報の確認画面が現れ、効能や成分、用法・用量などが表示される。

「はい」を選択すると、この情報が近くのドラッグストアに送られ、薬剤師・登録販売者が端末から内容を確認する。

薬剤師・登録販売者の端末にはこのように表示されている
※本画像は「ナロンエースプレミアム」を購入する際のタブレットイメージ

承認されると、同じようにICカードでの決済へと続く。

なお、もう一度「ナロンエースT」を購入しようとすると、顔認証システムが作動し、購入することができない。用法・用量を守って使い切る日数が経過すると再び購入可能になる仕組みで、こうして薬物濫用を防ぐ

店舗のすぐそばにある、深いワケ

さて、勘のいい(あるいは情報通の)読者はお気づきかもしれないが、実はこの販売機、駅構内にある薬局のちょうど向かいにある。JR東日本クロスステーション(JR-Cross)が運営するドラッグストア「Eki RESQ」新宿南口店で、その距離たったの約8メートル。まさに目と鼻の先。

ドラッグストア「Eki RESQ」

そんな近くに、自販機って必要?

と思われるのももっともだが、ちゃんと意味があるのだ。

これまで、一般用医薬品は、薬剤師や登録販売者がいる薬局やコンビニなどでしか買うことができなかった。しかし店舗側にとっては、そうした人材を確保することは簡単ではない。購入者にとっても、該当店舗にアクセスできない人や店舗の営業時間内に行けない場合は、購入が困難だ。インターネット販売もあるが、配送時間によるタイムラグが生まれ、今すぐほしいというニーズに対応しきれない。こうした課題を解決するために、「クスリの販売機」は有効な手段だと言える。

ところが現行法下においては、一般用医薬品を販売機で販売するにはいくつかのハードルがある。薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などの基準を満たすためには、次の条件などが求められる:

  • 店舗から視認可能
  • 販売機から店舗まで迷うことなく容易に到達可能
  • 店舗販売業の店舗と一体となった状態で設置されている

その結果、この場所に設置することになったというわけだ。

大正製薬が目指す姿とは?

「クスリの販売機」でよく買われる薬

大正製薬が目指すのは、完全な遠隔操作による医薬品の販売である。今回の実証実験は新宿駅構内のみの設置だが、たとえば山手線全駅に販売機を設置し、JR本社に薬剤師や登録販売者が複数名待機して、遠隔によって医薬品の販売承認を行う。

そうしたことが実現できれば、医薬品へのアクセス性を改善でき、セルフメディケーション意識の向上や医療費の削減につながるかもしれない。今回の実証実験はそのための第一歩である。

実証実験の結果次第では、10メートルしか離れていなかった店舗と販売機の距離が30メートル、50メートル……と延び、やがては、一般用医薬品の購入が難しかった地域や場所にも販売機を置けるようになるかもしれない。

これは、働き方を広げることにもつながる。

たとえば、出産や育児などで現場に復帰できないでいる薬剤師は、遠隔操作によって、家にいながら仕事ができるようになるかもしれない。コロナ禍によってリモートワークが一般化し、医療においてもオンラインや電話での診察などが可能になったように、薬剤師のリモートワーク化も、実現する日が近づいているのだろう。

販売機の稼働時間は、当初は10時から18時までだったが、現在は7時から21時に延びている。実証実験の期間は8月31日(水)までの予定。薬が必要になったら、試してみては。

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