森田雄&林真理子が聴く「Web系キャリア探訪」

少ない予算で「シェアNo.1を取れ!」上司の無茶ぶりでも楽しむ仕事術から身についたコト

ロレアルやAmazonなどの外資系企業でデジタルマーケティングを担当し、現在は株式会社MJ代表・宮野淳子氏に、これまでのキャリアを聞いた。

「上司に無理難題を言われ続けてきましたが、その状況をおもしろいと思って取り組んできました」

こう語るのは、ロレアルやAmazonなどの外資系企業でデジタルマーケティングを担当してきた宮野淳子氏だ。不可能に思えることでもあきらめず、奇跡を起こし続けたことで「マジシャン」の異名を取った。その経験を生かし、今ではコンサルティング業として独立。日本企業のサポートをしている。会社の改革には痛みを伴うが、その責任を引き受けて嫌われることもいとわないと言い切る宮野氏に、これまでのキャリアと仕事観について伺った。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。
インタビュアーは、Webデザイン黎明期から業界をよく知るIA/UXデザイナーの森田雄氏と、クリエイティブ職の人材育成に長く携わるトレーニングディレクター/キャリアカウンセラーの林真理子氏。

就職浪人中にヘッドハンティング! 未経験なのにエキスパート枠で入社へ

株式会社MJ 代表 宮野淳子氏

林: Webに触れたきっかけから教えてください。

宮野: オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学大学院(以下、RMIT)に留学していたとき、授業でWebサイトを作るようなことがありました。私はマーケティング専攻でしたが、その学校自体はテクノロジー寄りでしたね。

林: 海外の大学院に行かれていたんですよね。留学に至った経緯は?

宮野: 高校時代にアメリカに交換留学したことがきっかけで英語を学びたいと思い、大学は日本で英文科に入りました。英語力を活かすなら通訳や翻訳の仕事がいいだろうと思い、通訳・翻訳コースがあるオーストラリアのモナシュ大学大学院に進学したんです。しかし通訳は、相手が言っていることをそのまま訳さなければならないので、その人が間違ったことを言っても訂正できません。自分の意見が言えないことが私にはおもしろくなく……。それでオーストラリアで再受験し、RMITでマーケティングを勉強することに。授業では、世界のマーケティング事例を学びました。そこでよく取り上げられたのがP&G社とロレアル社で、私はロレアルに就職したいと思っていました。

森田: それでロレアルに新卒入社されることになったのですか?

宮野: 実は、特殊な経緯でロレアルに入社しました。2002年12月にRMITを卒業したので、日本企業の新卒採用時期に間に合わなかったんです。帰国してからは、就職浪人のような形で、スポーツメーカーの契約社員として働いていました。そしたら突然、ヘッドハンターから「日本ロレアルが求人募集している」と連絡があったんです! しかし募集しているのは、マーケティング経験が5年以上のエキスパート枠のみ。私は未経験でしたが、面接に行ったところ副社長に気に入ってもらって2003年2月に入社が決まりました。ちょうどロレアルの代表ブランドである「ロレアル パリ」を日本でローンチするタイミングで、立ち上げを担当することになりました。

林: 新卒、未経験で、ヘッドハンターから連絡を受けてエキスパート枠で入社というのは、なんというかロケットスタートですね!

宮野: 前代未聞とのことでした。ただ、いざ入社したら本当に大変でしたね。ロレアルはフランスの会社のため、上司はフランス人でした。彼らはエモーショナルなので、思ったことは何でも主張します。フランス流のやり方で教育されましたね。

森田: フランス流の教育とはどんなものでしょうか?

宮野: たとえばダイレクトマーケティングで顧客にハガキを送るのに、日本では当時1通50円かかります。それなのに『予算は1通30円だから、30円で送って』と言われましたね(苦笑)。「法律で決まっているから30円では無理です」と何度説明しても、すぐには納得してもらえなかったです。ただ私は、これも「厳しい状況でも頭を使いなさい」という教育だと理解しました。他にも、競合の化粧品メーカーが莫大な予算を持っているなか、『少ない予算でシェアナンバーワンを取れ』と言われたことも。ほとんどの人はできないと思ってあきらめますが、私はなんとか3か月でナンバーワンを取ることに成功しました。おかげで、社内からは「奇跡を起こすマジシャン」と呼ばれるようになりました。

林: エピソードが強烈ですね。ロレアルでは、デジタルマーケティングも担当されたのでしょうか?

宮野: はい。2006年にデジタルマーケティング部門ができて、配属になりました。実はその前から、Webサイトやメルマガを運用する担当者がいなかったので、私が行っていました。というのも、採用基準が厳しいので、なかなか新しい人が入ってこないんです。当時は「日本のマーケティングは、アメリカの3年遅れ」と言われていたので、アメリカなど世界のトレンドをみて3年後に備えていました。

森田雄氏(聞き手)

森田: どのように世界のトレンドを把握していたのでしょうか?

宮野: 自分だけでは情報を追いきれないので、外資系のパートナー企業を頼っていました。また売り込み営業の話を聞いたり、外資系企業が集まるイベントに参加したりしていると、いま何がトレンドかわかるようになってきます。そこで得たヒントから、メール会員を募って、データベースに顧客情報をためてお客さんとコミュニケーションをとるようにしたり、顧客のセグメント分析をしてコミュニケーション方法を変えたりといったことをしていました。

林: ロレアルから次へ、転職を考えられた経緯というのは?

宮野: ロレアルには2014年末まで、11年勤めました。その頃、本社の経営方針が変わったこともあって転職してみることにしたんです。自分のキャリアを構築してきた愛着のある会社を離れることは、とてもつらかったです。でも、ずっと同じ環境にいるよりも、新たな分野を経験することが自分の成長のために必要であると考え、転職を決めました。

ジェフ・ベゾスに反対されてもあきらめなかった施策が大成功

林: その後、Amazonに転職されたんですよね。

宮野: はい。Amazonに転職していたロレアルの元同僚に誘われて、私も入社しました。ソーシャルメディアマーケティングの責任者として、ソーシャルメディアを使って売上を伸ばしたり、プライムメンバーを獲得したりするのがミッションでした。Amazonは、営業職やバイヤー出身の方が多くて、マーケティング経験者が少ないので、他の人とは違ったチャレンジをしました。

森田: どんなチャレンジをしたのですか?

宮野: たとえば、Amazonの大きなセールの際に、ソーシャルツールを使って盛り上げる施策を行いました。大手外資系企業では、日本独自でユニークな企画を展開することは難しい環境にあります。それでも私はあきらめずに、数字を使い、なぜそれが日本に必要なことなのか、また、その企画によってどのように短期・中長期に売上貢献があるのかを示し、日本のトップと本社に交渉をして合意を取って進めるようにしました。

森田: 技術的な話をするのではなく、やりたい内容に対して合意を取り付けて実践するのが肝ですね。

宮野: 新しいことを提案すると、みんなから嫌われてバッシングを受けることもありますが、私は気にしないです。どんなに反対されても、売上にどう貢献するのか、KPIはどうかなど、シミュレーションから数字を示して説得し、実績を出す。そこに意味があります。

いざ入社したら解雇に! そして独立へ

林: Amazonにはどのくらい勤めていたのでしょうか?

宮野: 1年半いました。ソーシャルメディアマーケティングで実績を出したあと、ファッション部門のブランドマーケティング責任者になりました。しかし、トップが変わったタイミングで部門が解体になり、ちょうどヘッドハンターからオファーをいただいたので、再び転職をすることにしました。今度は、自分の経験を活かせるジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、JNJ)に入社。そこではマーケティングトランスフォーメーションを担当しました。

林真理子氏(聞き手)

森田: すべてヘッドハンティングで転職されていますが、タイミングよく、ヘッドハンターから連絡が入るものなのでしょうか?

宮野: 1度きりの連絡ではなく、定期的に何度か連絡をいただくので、転職のタイミングに合うんですね。海外だと女性の活躍が経営上重要で、女性経営層の採用を強化しています。日本では、デジタルマーケティングの部門で実績があって、かつ英語を話せる人が少ないので声がかかるのかなと思います。JNJの後にゴディバへ転職しますが、それは以前からニューヨーク本社の社長に声をかけられていたからです。ゴディバジャパンが本社になるタイミングで、私は今まで外資系の日本支社でしか働いたことがないので、本社機能として他国を統括できるポジションに魅力を感じ、転職を決めました。さまざまな実績を出し、大きなDX構想も進めていましたが、非常に残念ながら経営層が退職しなければならない状況となり、退職しました。

森田: そして独立されたんですね。

宮野: そうですね。以前より副業としてコンサルティング業をしており、中国のタクシー配車アプリの日本ローンチなどを手がけていました。これからは副業のほうをメインでやろうと思っていたこともあって、思い切って独立することに。独立してからは、出光興産のCGOを務めました。その他、今は食品会社のオールハーツ・カンパニーのアドバイザーなどもしています。

外資系企業の経験を生かし、日本企業を全力でサポート

森田: コンサルティング業は、どのように仕事をするのでしょうか?

宮野: まずマーケティング活動やブランディング活動がすでに社内であるものの、「うまく回っていない」と相談を受けるところから始まります。そこで社内をヒアリングして、企業理念や消費者調査、マーケティング戦略を見直して、ゼロからのフェーズで成長プランを考案します。

林: 立ち位置や役どころとしては、どんなふうに介入していくのですか?

宮野: 本気で売上を上げるために携わっていますので、私も社員と同様に動いて販路を拡大していますし、私が社員の方に指示もしています。肩書きはアドバイザーですが、売上のミッションも課せられているので、立ち位置は中の人ですね。私がいなくなっても継続できるよう、人材育成や組織作りまで行う伴走スタイルです。なので、組織戦略や人事評価システムにアドバイスをさせていただくこともあります。

林: 人事にも関わっていらっしゃるんですね。ご自身の主戦場とか守備範囲として意識しているラインって何かありますか? たとえば、製造は守備範囲外とか。

宮野: 必要なことがあれば人事でも製造でも、何でもやります。すべてが上手く噛み合うことで成長すると思っています。ただ人材育成や組織作りは、そう簡単ではありません。社員の向上心が必要ですし、自分だけでなく会社の成長も考えられるようにならないといけません。

森田: 宮野さんの持つ視座はどこで身につけたのでしょうか?

宮野: やはり最初に入社したロレアルでしょうね。フランス人上司に無理難題を言われ続けてきましたが(笑)、私はその状況をおもしろいと思って取り組んできました。外資系企業は基本的に環境がタフなので、それが普通になると、大体どこへ行っても解決策が見つかります。

森田: では最後に、今後の展望やキャリアを教えてください。

宮野: 長年、外資系企業に勤めてきたこともあって、外資系企業と日本企業の文化や習慣の違いを感じています。日本企業には、素晴らしい製品力があり、素晴らしいマインドを持った非常に優秀な方たちがたくさんいらっしゃいます。少しアプローチの手法を変えるだけで、海外での競争力を大きく持つことができると思っています。これから、GAFAのように世界で注目される日本企業がたくさん出てきてほしいです。そのために、あらゆる業界、あらゆるサイズの企業様の成長のお手伝いを全力でやっていきたいと考えています。

本取材はオンラインにて実施

二人の帰り道

学生時代の「自分の意見が言えないことが私にはおもしろくなく」という自己発見が、今にも通じる宮野さんのキャリア軸のように感じられました。「職人的に働く」というより、自分の専門分野がどこだとか守備範囲の内か外かとかにこだわらず、領域をまたいで包括的に組織活動の意味を考え、ゼロから作り出していく。腹をくくって、常に自分の総力を結集して事にあたっていく力強さに魅了されました。キャリアデザインって、あまり頭でっかちになっちゃうと、自分の専門性を磨ける見通しが立つなら意味がある仕事、そうでなければ意味がない仕事みたいな評価に縛られてしまいかねないけれど、仕事の原点に立ち返れば、自分の専門性を上げるために仕事しているんじゃなくて、人の役に立つことを仕事としてやっている。その道中で、生計が立つに留まらず、自分が発揮したいパフォーマンスをもって人に喜んでもらえたり、自分の鍛えたい専門性も磨かれたり、自分も予想外の能力や態度が養われたりと複合的な産物がある。ちょっと抽象的になっちゃいましたが、宮野さんのお話には、そんなふうにキャリアのコンセプトをほぐしてくれる感懐を覚えました。

森田

刷り込みといいますか、仕事と向き合う人生において最初に叩きこまれたことがその後のキャリアでも「正」として生き続けるみたいなところって、やっぱりありますよねえ、そうですよねえと思いながらお話を伺っていました。奇跡も、魔法も、あるんだけど、その実現は愚直に信念をもって押し通すという果てぬチャレンジに裏打ちされているというのがよく分かりましたし、そうそうたる社名が連なるキャリアだなと思うのですが、どこにおいても仕事の根底に横たわるものは同じだなとも感じまして、なんというか勇気ももらえてしまうインタビューであったと思いましたね。ご自身もおっしゃっていましたが、タフな環境に順応済みということで、非常にパワフルなんでしょう。実際、話も途切れず力で押し切るかのごとく、たくさんのエピソードをお聞かせくださいまして、非常に楽しかったです。現在は独立されていてとても身軽な環境でもあるわけですので、本当にあらゆる業界のあらゆるサイズの、たくさんの日本企業に関わっていって欲しいなと思いました! 素敵なお話をありがとうございました。

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