AIで“なりたい自分になれる”を叶える自販機型什器「KATE iCON BOX」はどう生まれた?
グローバルメイクアップブランドのKATEが開発した、AI技術での顔印象分析よって自分に似合う色のアイシャドウパレットがカスタムして買える自動販売機型什器「KATE iCON BOX」。AI分析により自分に似合う色や新しいメイクの提案をし、新たなユーザー体験を生み出すと聞いて、インタビュー前に編集部員も早速体験して楽しんだ(レポート記事はこちら)。「KATE iCON BOX」開発の経緯やコンセプト、KATEの目指す顧客体験について、マーケティング担当の松本典子氏、PR担当の若井麻衣氏にお話を聞いた。
デジタル×リアルで1セットの購買体験を楽しんで欲しくて生まれた「KATE iCON BOX」
――まずは普段のお仕事内容を教えてください。
松本氏(以下、松本): 国内のマーケティング業務を幅広く担当しています。ブランドにまつわる施策を戦略立案から実行に至るまで、リアル、デジタルの施策を問わずにすべて行っています。
若井氏(以下、若井): KATEブランドに関わる新商品含む、既存品などの商品をメディアなどに伝える情報づくり、イベント・発表会を運営して商品PRを行っています。
――2022年3月1日から、ココカラファイン 東京新宿三丁目店で設置されている「KATE iCON BOX」ですが、これはどのようなサービスでしょうか? 改めて教えてください。
松本: AIによる顔の印象分析をもとに、ユーザー一人ひとりに合わせた4色のアイシャドウを提案、自動販売機のように商品が出てくる什器です。バーチャル上で顔にメイクをのせることもでき、提案された色以外を選ぶカスタマイズもできます。それから、アイシャドウパレットにつける保護フィルムに名入れもできます。
(「KATE iCON BOX」の詳しい説明は体験レポートにて)
――「KATE iCON BOX」開発の企画立案、きっかけは何だったのでしょうか?
松本: もともと、LINE公式アカウントを通して「KATE MAKEUP LAB.」というサービスを2021年2月にローンチしていました。このサービスは、スマートフォンのカメラを通して顔のパーツ比率や顔印象を分析し、ユーザーの「なりたい顔に変われる」メイクメソッドを習得したり、メイクアップアイテムを提案したりするものです。今回の「KATE iCON BOX」は、この「KATE MAKEUP LAB.」の技術を使用して顔印象分析を行っています。
他にも、YouTubeチャンネル「KATE CHANNNEL」や「KATE MAGAZINE」というサイトでは雑誌のような記事コンテンツも作成して、様々なデジタル施策を先に行ってきた中で、今度はデジタルだけではなく、リアルの店頭でお客様にもっと楽しんでもらえる施策はないかと取り組んだのが「KATE iCON BOX」です。
デジタルでは体験できないリアルの場で顔印象を診断して、AIに提案された色を画面上でメイクをお顔にのせて試すことができ、すぐに買えるという1セットの購入体験を提供する目的で開発しました。
――デジタル施策を行ってきた知見を活かして、リアルで何かできないかと開発したのですね。
松本: LINE公式アカウントで「KATE MAKEUP LAB.」を通して商品を買ってくださる方もいますが、LINEですぐに商品が買えるような、デジタルを使いこなせる人は若い世代や詳しい人が中心です。デジタルを上手く活用できないような方や、より多くの人にKATEを知っていただくためには、デジタルだけではなくリアルと掛け合わせることが大切だと思っていたので、方法を模索していました。
什器の開発はゴールイメージを共有して凸版印刷と共に実現
――この「KATE iCON BOX」は凸版印刷と共同開発だとリリースで拝見しました。開発にあたって難しかったことはありますか?
松本: 複数色を組み合わせることにより、色×色の相乗効果や意外な組み合わせが楽しめるメイク体験をお客様に提供したいと思っていました。「KATE MAKEUP LAB.」ではLINE上でメイク提案までは行っていますが、「KATE iCON BOX」では数種類のアイシャドウを提案から実際に購入できるところまで実現したいという思いがあったので、機械を一からどう作るかが大変でした。とはいえ、機械の部分は知見をお持ちの凸版印刷さんにご相談して、ゴールイメージ・思いの具体的共有を行ったのでスムーズだったと思います。
若井: 私たちの実現したい理想的な体験を凸版印刷さんの技術で実現していただきました。特に、凸版印刷さんは普段からKATEの店頭什器を担当していただくことが多く、関係が長いのでKATEの思想や、やりたいイメージの共有ができているからアウトプットがしやすかったです。
――「KATE iCON BOX」開発時のゴールイメージを具体的に教えてください。
若井: 「『なりたい自分になれる・変われる』ことを、店頭でも体験できるコンテンツを作りたい」というのがゴールです。「KATE iCON BOX」では、アイシャドウを自由に選択することもできるけれど、AI技術による顔印象分析に合わせて「あなたはこういう印象なのでこれがお勧めです」というおすすめの4色を提案できる技術や体験はKATEならではの特長だと考えています。なので、凸版印刷さんには「診断・体験する楽しさ、選ぶ楽しさそれぞれ兼ね合わせた什器を作りたい」というオーダーをしました。
松本: 分析のロジック的なところと、リアルならではの体験・ワクワク感の両軸を持った自販機にできるよう気を付けましたね。「KATE MAKEUP LAB.」の方は顔パーツごとの距離や角度、輪郭のタイプなど細かく診断でき、自分の顔の印象を追及して知りたい人に向けて、とことん深く情報を渡しています。しかし、リアルはやはり体感する・使っているというのが大切です。
そのため、「KATE iCON BOX」では細かいところを出さずに直感で楽しめるようにしています。また、友達やほかの方と一緒に楽しめるようなアウトプットができるように目指しました。
若井: お客様も、店頭と1人ご自宅にてスマートフォンで見ているときではマインドが異なるので、知りたい情報も変わると思っています。なので、「KATE iCON BOX」は店頭でのマインドに合わせて最大限の情報を得てもらうことを意識しています。
――「KATE iCON BOX」という名前にもコンセプトがあるのでしょうか?
松本: 実はこの名前、2021年4月入社の新入社員の男の子がつけました。名前の由来は以下です。
- 「i」=「information」「iPhone」「iPS」など最先端のイメージ
- 「CON」=「color」+「scan」
- 「iCON」=「icon」(偶像や憧れのイメージ)
最新の技術で顔を診断して憧れの色を見つけるというコンセプトにピッタリの名前を持ってきてくれたので、採用となりました。
若井: KATEチームは、「いいものを持ってきてくれれば誰でもwelcome」という体制です(笑)。
ターゲット層は幅広く設定し、コンセプトの「no more rules.」や新しい体験を多くの人に楽しんで貰いたい
――前回「KATE iCON BOX」を設置した原宿の@cosme TOKYOは若者が多い店舗ですよね。ターゲットもやはり若者に設定しているのでしょうか?
松井: KATEのターゲット層である10代、20代が使ってくださるのがもちろん大切ですが、デジタルで接点を持てない方も視野に入れています。
若井: 単純に年齢だけではなく、新しいものに興味がある方々に使っていただきたいと思っています。設置したのがまだ2店舗目ということもあり、なかなか多くの方に来ていただくことができない現状ですが、デジタル感度が高い人や美容感度が高い人の中で徐々に広まりつつあるなという感触はあります。
――この「KATE iCON BOX」で出来ることを端的に説明するのも難しいですし、まだ1台しかない状態で不定期に各地に現れるので、PRや認知を取ってくるのが難しいと思いますが、その部分はいかがでしょうか?
若井: この什器自体の魅力は多岐にわたっている部分があるので、何を一番に伝えたらユーザーが「やってみたい」と思えるかと、伝える情報に優先順位をつけるのが大変でした。あとは、AIや顔印象分析という言葉に馴染みのない人に対して、簡単な言葉で面白さを伝えるのは難しかったです。リリースだけではなく、メディアの取材などで新しい取り組みを紹介する際も、言葉選びや表現・言い回しには苦労しましたね。
松本: 私たちが魅力だ・すごいと思っているところがまだお客様に伝わっていない可能性がありますもんね。
若井: 事前に色んな方と話をして、その人の反応やどこが響くかなどを見ながらリリースを書いたこともあります。実際に商品が什器から出てくる楽しさは皆さん一貫して興味を持ってもらえるので、そこは必ず伝えていかなければならないなと思いました。また、「KATE iCON BOX」のを開発するきっかけになった「KATE MAKEUP LAB.」も似合うメイクを提案するだけではなく、新しい自分に変われる・気づかせてくれることが特長です。男女問わず、変わりたいという欲を持っている方も多いと思います。もっとよく見られたいという潜在ニーズに対して、自分では普段選ばない色やメイクが実は自分に似合うんだという発見できるという点は伝えられるように気をつけています。
松本: 私も什器をテストしてみたときに、自分じゃ似合わないと思っていた色が出てきましたが、実際にメイクしてみると非常に可愛いと感じました。普段使わない・選ばない色だけど、AIが提案してくれたから使ってみようかなという気になり、実際満足する。そういうところを評価いただいていると考えています。
――KATEはドラッグストアに並んでいる所謂「プチプラコスメ」ですよね。「デパートコスメ」と違い、BAさんがいて似合う色の提案をしてくれるわけじゃない。こういった体験部分をAIやLINEで補って、顧客体験を上げていきたいというところですか?
若井: そうですね。「KATE iCON BOX」だけじゃなく、「KATE MAKEUP LAB.」も反響がいいのは「なりたい自分に変われる」というコンセプトに共感を得られているからだと思います。元々KATEは「no more rules.」というコンセプトで、なりたい自分に変われるチャンス、きっかけを与えられる商品を作っていると自負しています。
松本: 「KATE MAKEUP LAB.」の方はコンセプトに共感した口コミがたくさん来ているので、リアルの仕組みと掛け合わせながら「KATE iCON BOX」でもKATEのコンセプトと新しい体験をユーザーの方に届けられたらいいなと考えています。
――今後、「KATE iCON BOX」はどうやって運用していきたいと思っていますか?
松本: 中長期的に運用をしていきたいです。「KATE iCON BOX」は「いろいろな街に出現する」というコンセプトなので、まずは設置していただくお店を探すことに注力しています。なので、今すぐ自販機自体をアップデートとはいきませんが、商品のアイシャドウは新色が出る度にメイクパターンをリニューアルしています。アイシャドウはトレンドの色に合わせて新色を出しているので、旬なメイクができるというのはファーストセットにしています。ゆくゆくは台数を増やしたり、もっと面白い店頭での設置を考えたりしていますが、まずは早く「KATE iCON BOX」をいろいろな場所に出現させることが優先ですね。
KATEが考える顧客体験は「なりたい自分になれる」を体感してもらうこと
――最後に、KATEがこれからユーザーに提供したいことは何でしょうか? どんな顧客体験を提供したいか教えてください。
若井: KATEは、ブランド誕生時からトレンドを追うだけでなく斬新なメイク提案を行ってきました。常にトレンドを追い続けつつ、半歩先行く提案ができるようにするために、時代にあった声を聞く活動に注力しており、声の中から潜在的ニーズをくみ取って商品にする活動をしています。そうやって開発したKATEの商品をお客様が使うことによって新しい自分になれる、なりたい自分に変われるというワクワク感じられるところまで顧客体験として落とし込みたいと思っています。
松本: デジタルとリアルを切り分けるのではなく、デジタルとリアルの良さを掛け合わせてもっと良い顧客体験を生み出せたらと思っています。メーカーとしては、お客様が「買いたい」と思ったときにデジタルでもリアルでも、いつでもどこでも購入できる、楽しめる状態を目指したいと思っています。
また、“圧倒的な体験”をお客様に提供していきたいと思っています。顔印象分析にとどまらず、インサイトを拾いながら、お客様が想像もしていなかったような体験を最新技術や商品を通して提供していきたいと思います。
――これからも楽しいメイクアップ体験を期待しています。ご協力ありがとうございました。
撮影: 吉田浩章
※記事掲載時点ではココカラファイン 東京新宿三丁目店に「KATE iCON BOX」が設置されており、終了日は5月9日を予定していますが、変更する可能性もあります。
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