インターネット広告を出す前に知っておきたい! 基本の仕組みと失敗の原因
突然ですが、筆者はWebの世界に広告があって良かったと思っています。いつでも自社サイトに人を集められますし、期末の売り上げが足りない時はパソコンに向かって広告を増やせば、翌日から結果が出るからです。
昔は、サイトに来てもらうにはよそのサイトにリンクを貼ってもらったり、アドレスが書かれたカードを配ったり、地道な作業が必要でした。しかし、Web広告はうまく運用しなければ諸刃の剣です。予算ばかりかかって結果が出ないと、Web担当者の立場が危うくなってしまいますので、正しく仕組みを理解して効率的な運用を行いましょう。今回はインターネット広告の仕組みについて解説します。
インターネット広告の登場と基本の仕組み
インターネット上に広告が誕生したのは1994年。最初はアメリカの通信会社AT&Tのサイトに小さなバナーが表示されるだけのシンプルなものでした。それからインターネット広告は成長を続け、新聞やラジオを抜き、2019年ついにテレビ広告費を追い抜いたというデータもあります。誕生から27年経ち、インターネット広告は今やB2Bの会社でも広告を検討する時代になりました。
使わないともったいないインターネット広告ですが、思ったような成果が出ないという声も聞かれます。まずは仕組みを理解して、使いこなしていきましょう。インターネット広告が表示される基本的な仕組みは以下です。
インターネット広告が表示される仕組み
- 顧客が情報を探して、あるページを見ようとする
- そのページに広告枠がある場合、ウェブサーバが広告配信サーバにリクエストを投げる
- 広告サーバはリクエストに応え、予め設定された条件に合致する広告を送り出す
- ページの広告枠に広告がはめ込まれて、顧客の見ているページに表示される
企業側にとって大事なのは、顧客にインターネット広告が表示された後、上図の5~7番の仕組みです。
インターネット広告が顧客に表示された後の仕組み
- 顧客がインターネット広告から購買に至る仕組み
- 顧客が広告をクリックする
- 顧客は広告主の企業が持っているウェブサーバ上のページに飛ぶ
- 納得すれば顧客が商品を購入したり、会員登録したりという成果が発生する
- 広告配信サーバに成果の記録が送られる
マス広告とインターネット広告の特徴と違い
基本的な仕組みがわかったら、次はテレビや新聞・雑誌などのマス広告とインターネット広告の特徴を理解しておきましょう。
マス広告はマスメディア媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌を「4マス」媒体と言います)に出す広告です。マス広告とインターネット広告の主な特徴は以下の通りです。
マス広告 | インターネット広告 | |
---|---|---|
発信者 | 発信できる媒体が限られているので少ないが、受信者は多い | 誰でも発信できる |
制作の手軽さ | 各媒体に必ず編集権者、発行責任者がいて煩雑 | 自分で簡単に広告文を書ける |
信ぴょう性 | 信ぴょう性は高いとされている | GoogleやYahoo! などの媒体が信ぴょう性をチェックしているが、漏れがあることも |
配信スピード | 工数がかかるため配信に時間がかかる | 広告を作成したらすぐに配信できる |
価格 | 高価 | 安価 |
これらの特徴を踏まえながら、マス広告とインターネット広告の違いを深掘りしていきましょう。
マス広告とインターネット広告の違い (1)スピード
マス広告は、何度も顧客に広告を見てもらい、商品やサービスを覚えてもらって、売り場に行った時に思い出して買ってもらう必要がありました。AIDMA(アイドマ)の法則です。
Attention(注意を引く)→ Interest(興味がわく)→ Desire(欲しくなる)→ Memory(覚えておく)→ Action(売り場で購入)
一方、インターネット広告は顧客が広告をクリックすれば必ず自社が用意したWebページに訪問するので、たくさんの情報を提供することができます。そこで動画やゲームを楽しませることで、より自社のサイトや商品を好きになってもらうこともできるでしょう。さらにリンク先を設けて、その場で商品購入、資料ダウンロード、会員登録などの目標到達させることもできます。インターネットは広告からすぐにアクションにつながり、そのスピード感もインターネットならではです。
マス広告とインターネット広告の違い (2)安価
これは特にGoogleなどの検索エンジンに出稿する「リスティング広告(検索連動型広告)」についてですが、インターネット広告は値段が安いのも特長です。「クリック課金方式」は、1クリック100円から始められます。広告が10クリックされたら1,000円の広告費です。1日の予算の上限を決めておけば、それ以上の広告は表示されなくなるので、広告費を使い過ぎる心配もありません。また、広告がクリックされたら課金される方式なので、100クリックなら100人をほぼ間違いなく集客できていることになります。マス広告のように、「新聞広告を出したけどまったく反応がなかった」などの空振りは起こりにくいです。
ただし、クリック課金方式では、キーワードの人気によって広告の値段がつり上がります。多くの会社が同じキーワードに広告を出すことがありますが、そうするとより高いクリック単価を提示している会社の広告が先頭に表示され、多くの人の目に留まります。先頭の表示を多くの会社で争えば、どんどん値段がつり上がる仕組みです。人気キーワードでは1クリック1,000円、10,000円になることも珍しくありません。
テレビなら1回CMを流すだけで何百万人もの人が見るかもしれませんが、リスティング広告で100万人のクリックを得るためには、1クリック100円でも1億円かかります。つまり、リスティング広告は単純に安いのではなく、的確なターゲット顧客を自社サイトに招くようにすることが不可欠ということになります。
マス広告とインターネット広告の違い (3)独占性
インターネット広告では、広告からの移動先を自由に作れます。広告から飛んでくるページのことを着陸する場所という意味で「ランディングページ」と呼びます。
ランディングページは自分で自由に、商品やサービスを顧客がより「欲しくなる」ように作ります。ランディングページにさえ来てもらえれば、競合他社を気にすることなく、自社だけの理屈で顧客を説得できるのです。メールアドレス登録をしてもらえれば、その人にメールを送り続けることも可能です。このようにターゲットを独占し、コミュニケーションを深められる点も、ネット広告の魅力です。
マス広告とインターネット広告の違い (4)絞り込み
もう1点、マス広告とインターネット広告が大きく違う点で、対象者の絞り込みがあります。マス広告は利用者が多く、年齢や趣味嗜好も異なる人が同居しがちです。番組や媒体の性格で「概ねこの年代層が多い」「このタレントのファン層が多い」といった傾向は示されますが、媒体側で絞り込んでいるわけではありません。
最近はテレビでも「個人視聴率」「コア視聴率」という成績が重視されるようになってきました。年齢性別を特定したリーチを重視するようになったわけです。
インターネットでは、特定層の絞り込みがより鮮明です。市町村単位で配信先を絞り込めたり、年齢性別、嗜好傾向といったことを指定できたりする機能があります。もちろん誰もが年齢性別を明かしているわけではないので100%ではありませんが、マス媒体に比べればかなりの絞り込み精度です。
これまでに挙げた違いをまとめると、インターネット広告には以下のような特徴があるといえます。
- 対象者を細かく絞り込んで広告を見せられる
- その場で反応を取ることができる
- 絞り込める分だけ広告費は安く抑えられる
- 見た人を自社媒体に引き込んで独占的に情報提供できるので販売可能性がより高まる
この特徴を理解して運用すれば効果は出ますが、理解しないままマス広告のように運用すると効果が出ないので気をつけましょう。
インターネット広告の注意点
インターネット広告は低予算から実践できますが、予算が低いということはプロの手を借りにくいです。個人商店がリスティング広告を少しだけ出すのに、大手広告代理店に依頼するわけにはいきません。
小規模なネット広告は企業自身が行うか、中小の制作会社がサポートするのが普通です。残念ながら広告のプロに頼らず広告を出すことになります。予算が少ないと、制作会社も広告にあまり手間をかけられません。
だから、インターネット広告は企業自身がしっかり考えなければ成功しません。「そんなこと言われてもネットも広告もあまり詳しくない素人だから……」と思うかもしれませんが、素人でも大丈夫! 普通の企業人が考えられることですから、恐れずに考えてみましょう。
インターネット広告を出す時に企業が考えるべきこと
インターネット広告を出す前に、しっかり考えておくべきポイントは以下です。
- 今回の広告で呼びたいのは誰か
- その人は何を探しているか
- その人に自社商品のどこを見せたら欲しくなるか
それぞれについて説明します。
今回の広告で呼びたいのは誰か
まず1つ目の「今回の広告で呼びたいのは誰か」を決めることが一番大切です。広告を出す作業自体が面倒なので、つい気が急いて広告出稿画面に向かって入力を始めてしまいがちですが、必ずExcelなどでターゲットリストを作成しましょう。
たとえば、ローカルサービスなどでは地域が大切です。北海道に物件を持つマンションメーカーなら、東京や大阪の人が多く広告を見ても、あまりお客様にはならないでしょう。ターゲットリストには「札幌在住の人」「函館の人」といった地域を限定する対象者を書き入れていきます。
また、B2Bの会社などでは対象となる業界が決まっているものです。「〇〇業界の人」「△△業界」とリストアップしていきます。その中でも経営者に見せたいのか、現場のプランナーなどに見せたいのか。細かく決めていきましょう。
ついでに、製品の特長も把握しておくと良いです。製品が売れるには、その製品の特長を評価する人がサイトを訪れるのが一番です。仮にその製品が、競合製品の中で飛びぬけて安いのであれば、広告とランディングページの両方に「安い」と書かれている一貫性が必要です。
たとえば、札幌のマンションメーカーで物件で「リモートワークに最適なワークルームのあるマンション」という特長があるならば、それを広告文やランディングページでうたう必要があります。
「製品の特長」と「誰を呼びたいか」を忘れて広告を書くと「この広さでこの価格のマンション」などとなってしまい、「地域」や「特長」などの絞り込み条件がなくなってしまいます。札幌のマンションなのに、東京でマンションを探している人が広告をクリックしても無駄になりますし、札幌の人でも広告をクリックしてランディングページで初めて「リモートワークに最適」と書かれていたら、「うちはリモートは必要ないし」と思ってしまうかもしれません。ニーズに合う商品の特長を探している人をうまくとらえるように広告を配置しましょう。
その人は何を探しているか、その人に自社商品のどこを見せたら欲しくなるか
2つ目と3つ目の「その人は何を探しているか」「その人に自社商品のどこを見せたら欲しくなるか」という点は、商品の特徴に沿って何パターンもあります。
たとえば、同じマンション物件でも特長は複数あります。「全戸南向き」を探している人には「全戸南向き」の広告を見せるべきですし、「リモートワークが増えたからちょっと会社から遠いところに引っ越しても良いか」と考えている人には、それに合致する広告を見せることです。顧客が何を探していて、何を求めているのかをよく考えて、広告を出し分けましょう。
インターネット広告の出稿で失敗する原因
広告を出す前に考えておくべきポイントがわかったら、次は失敗する原因を理解して避けましょう。インターネット広告は出稿が簡単なので、すぐに申し込んで広告配信を開始できてしまいます。特にリスティング広告では、キーワードを決めて、そのキーワードに対して広告文を作るという作業だけで出稿できてしまいます。簡単なので、多くのキーワードで広告を出してしまいがちです。
しかし、リスティング広告をたくさん出しても、ランディングページは制作にお金がかかるため1ページだけになってしまい、たくさんの広告から1つのランディングページに誘導するパターンが多くなっています。
たとえば、以下のキーワードでリスティング広告を出したとします。
- 安い マンション
- マンション 全戸南向き
- リモートワーク マンション
一方、ランディングページのメッセージは、以下の順番になっていたとします。
- 安い
- 全戸南向き
- リモートワークに最適
すると、次の図のようなことが起こります。
広告をクリックした人が最初に見るのは「安い」というメッセージです。「マンション 全戸南向き」で検索して「全戸南向き」の広告を見つけた人がクリックしても、出てきたランディングページには「安い」と書かれています。ここに、顧客の要望とこちらのメッセージのずれが生まれます。「リモートワーク」で探している人にも「安い」を見せてしまうことになってしまいます。ニーズと広告、ランディングページのアピールポイントは以下のように1対1で対応していることが理想です。
- 安いマンションを探す人 → 「安い」をアピールするランディングページ
- 全戸南向きを探す人 → 「全戸南向き」をうたうランディングページ
- リモートワークを探す人 → 「リモートワークに最適」のランディングページ
しかし、一般には広告出稿を行うのが広告業者で、ランディングページをつくるのが別の制作会社なので意思疎通ができず、広告内容とランディングページの内容が不一致になっていることが非常に多いです。
その結果、広告ランディングページの成績が非常に悪くなっています。私の手元の計測では、多くのランディングページが直帰率97%。つまり、「いますぐ購入」「資料請求」といったボタンをクリックして次へ進む人はわずか3%しかいないのです。
広告費用を10万円かけたとして、これでは9万7000円がいきなり無駄になってしまっています。ランディングページの制作費には20万円くらいかかっているかもしれません。もったいないですよね。
これを防ぐための方法は、「誰を集めるか」「その人は何を探しているか」「何を見せれば欲しいと思うか」をしっかり考えて、それを一貫してアピールすることです。
事前に考えておくのが一番ですが、事後にもチェックは可能です。ランディングページができ、広告案ができたら、全部プリントアウトして会議室のテーブルに並べてみてください。ランディングページは一番目に付く、上部だけをプリントアウトすればOKです。
広告をクリックして、対応するランディングページが表示されたら、“お客様がどう感じるか”を追体験するのです。ニーズとアピールが合致しているかどうかを確認しましょう。
ランディングページの制作会社は「もう少し下まで見れば『リモートワーク』のことも書いてありますから」と言うかもしれませんが、特長を下に書いても顧客はそこまで見てくれません。一般にWeb閲覧者は、表示されたページが価値があるかどうか3秒以内に判断していると言われており、期待したものと違ったらスクロールせずに帰ってしまうのが普通です。
3秒で目に付くメッセージだと、ページの上の方、第1スクロール部分を使わなければなりません。しかし、第1スクロールにできるだけ多くの人のニーズに応える内容を詰め込もうとすると、誰にとっても良くないランディングページになります。
1つのランディングページが受け止められるユーザーニーズは3つくらいまでだと思う方が良いでしょう。
ニーズが多い場合のランディングページの工夫
ランディングページの制作費は高額です。製品の特長が10個あって、10種類のキーワードで広告を出したとして、各ランディングページを制作したら膨大な費用になってしまいます。
ニーズが複数ある場合は、ランディングページのメッセージブロックを並べ替えればいいのです。ランディングページは一般に、複数のメッセージブロックを縦に積み上げる形になっています。順番に製品の特長を伝えることで説得し、何ブロックか見たところで説得されて「資料請求する」「今すぐ購入」といったボタンを押します。
このブロックを並べ替えて、それぞれのニーズに対応したキーワードを先頭にしたランディングページを見せましょう。「全戸南向き」の人には、「全戸南向き」を一番上に、「リモートワーク」の人には「リモートワーク」を上にして、それぞれの興味をつかまえ、下にスクロールさせるのです。たとえば、次のような順序で説得します。
このマンションは自分が探していたリモートワークにぴったりのワークルームが標準装備されている!
↓
お、全戸南向きだと書いてある。
↓
おおー、安い! これなら買えるかも!
この方法であれば、1つのページを作成して、顧客ニーズに合わせて順序を入れ替え、それぞれの希望に沿ったランディングページを量産することができます。
集めるべき対象者の要望を考えておけば、広告とランディングページの順序で要望通りの内容を伝えることはできるはずです。このように考えて、できるだけ広告のパフォーマンスを高めていきましょう。
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