理想のマーケター像を描くために必要なものは何か?
花王株式会社の辻本です。
新卒で入社して以来、ずっとデジタルマーケティングを中心に担当してきましたが、30歳を目前に控え、自分が将来どういうマーケターになりたいかを、改めて自問する機会が増えてきました。
「理想のマーケターとは何か」と、最近よく考えるのですが、周囲の先輩方を見るにつけ、それは「信念があること」だと思うようになりました。信念とは「それを正しいと固く信じている心」です。
社内外問わず、先輩方がマーケティングについて語るのを聞くとき、まさにこの「信念」を感じます。言葉に重みがあります。それに比べて、私の言葉にはまだ、そのような重みがありせん。このような違いが生じる理由は何なのでしょうか。どうすれば先輩たちのようになれるのか、考えてみました。
理想のマーケター像と信念
自分にとっての「理想のマーケター像」を探す上で一番の障壁になるのが、身近なロールモデルを探すことが難しい、という現実です。
現在は、デジタルを活用して生活者へアプローチするための業務が増えています。具体的には「ECサイト内のブランドページ構築」や「SNSでの情報発信」など。こうした業務を推進するため、専門部署や、部門横断プロジェクトが数多く発足されていますが、中には、1人が複数の部署を兼務するケースも珍しくはありません。そのため個人の経験は、昔よりも多岐にわたるようになりました。
一方、そんな状況の中で、ほぼ同じキャリアを歩む先輩をドンピシャで見つけ出し「あの人と同じようなキャリアを歩みたい」と憧れを持つことが難しくなりました。私はこれまで、先輩方のキャリアに囚われすぎて、誰を参考にすべきかわからず、道なき道を歩んでいる感覚がありました。でも今は悩んでいません。
では、私はいったい先輩たちの何を参考にして、この先進んでいくべきと考えたか。悩んだ末に出てきたキーワードが「信念」です。
生活者をとりまく環境が変わって、マーケティングにデジタル技術が導入され、それに伴い企業の業務や組織が変化しても、人間の本質が変わらない限り、マーケティングの本質も変わりません。だとすれば、憧れの人のキャリアと、自分のキャリアがかけ離れていても、その人が持つマーケティングの考え方は参考にできるのではないか。
たとえば現在は、TVCMにデジタル広告が加わることで、見るべき指標が増えたり、新たなツールの活用を求められたりしますが、情報接触によってパーセプションチェンジを起こすという枠組みは同じです。サブスクリプションやシェアリングなど、注目の事業モデルで採用される価格戦略も、従来型ビジネスモデルの価格戦略と本質は変わりません。
だからこそ、たとえ手法が今と違っていたり、業界やビジネスモデルが違っていたとしても、人間の本質に刺さるマーケティングを実践してきた先輩たちの教えから学びが得られると思います。そうした信念のあるマーケティングを実践してきた人たちに着目することで、私なりのマーケターの理想像を描けるのではないかと思いました。
マーケターとしての信念を見つけるために
そこで、私自身の信念は何かと自問してみましたが、残念ながらまだ明確な答えは出せません。なぜ出せないのか、自分のこれまでを振り返って考えてみました。
入社して数年はとにかく、周囲が当たり前としていることを当たり前にできるようになるために一生懸命でした。足りない知識を補うために勉強して、経験を積んで、そのおかげで、失敗も成功も体験しました。そして、都度そうした体験を振り返ることで、今後に向けた目標設定の材料にしてきました。
しかし、そうした行為は個々の経験として完結してしまい、これまでの経験すべてを結びつけて大きな視点で考える、ということをして来なかったように思います。
もしかしたら、私の考える信念とは、これまでの経験から整理した、経験に基づく個人の思考・思想を指しているのかもしれません。そう考えると、これまでやってきた自身の経験の振り返りは、決して無駄なものではありませんが、一方で、その程度の思考では信念というものにはなり得ないのではないか、とも感じています。
経験に基づく思考を信念にまで昇華させるためには、自分の経験とはまた別の、客観的なものと照らし合わせるべきだと思うのです。
その客観的なものを得るにはどうすべきか。私は学問が最適だと考えています。学問とビジネスは違うと一面的に断じて軽視することや、学者の思考過程を知らずに法則やフレームワークをただの道具として使うことには、強い違和感があります。学問的知見は客観的真理であり、自分の経験に基づく考えとはどう違うかを図る、格好の基準です。その考えの違いに自分の信念が表れていると思います。
また、他者との対話によって信念が明瞭になる場合もあります。ただ、こうした対話がうまくいくケースは、自分の信念がある程度見えつつあるときです。自分の考えをぶつけて、少しでも共感した相手同士だからこそ対話になり、自分の信念を確認できます。そうでない相手とだと、せっかくの会話が消化不良になる可能性があります。
マーケター同士で対話するなら、事前にそれぞれが所属する業界の特性や、それぞれが持つ経験に基づく考えの相違点をしっかり認識したうえで対話する意識を持っておくと良いと思います。
最後に
今回は私の漠然とした悩みから「理想」や「信念」をテーマに、筆を進めてきました。
これを読んだ方の中には、「堅く考えすぎだよ」「学問よりも、ビジネス経験が大事だよ」と思う方もいらっしゃることでしょう。これを機に、いろいろな方と意見交換ができると嬉しいです。
私はこれから自分だけの信念を見つけるために、さらにさまざまな経験を積み、血肉にしていきたいです。本を読み、人に学び、そして人と対話する。40代になる頃には、後輩に道を示す「理想のマーケター」として、1つ1つの発言に重みのある人間になっていられるように、30代を駆け抜けようと思います。
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