チェックリストでわかる 運用型広告のインハウス化に必要な10の業務とチーム作り
本連載は、運用型広告のインハウス化に興味がある、または検討している事業会社向けに、インハウス化を成功させるために押さえておくべきポイントを紹介します。
前回(「運用型広告のインハウス化はするべきか。判断基準と目指すべきゴールとは?」)では、昨今の運用型広告を取り巻く環境の変化の概要と、インハウス化を進めるにあたり目指すべきゴールとリスクについて紹介しました。
今回は、具体的に運用型広告のインハウス化を実践する際に発生する業務の内容と、スムーズに実行するためのチーム作りについて紹介します。
初めてのインハウス化に必要な10の業務
まず、インハウス化を開始する前の準備期間に実施する10個の業務例を以下に紹介します。
1. 広告アカウントの開設、移管
まず、Google 広告、Yahoo!広告など自社が運用する広告媒体の広告アカウントを開設、または移管します。既存の広告アカウントを継続して利用する場合は、媒体のヘルプ等に記載されている手順にしたがって広告アカウントを移管します。既存の広告アカウントを利用しない場合でも、過去データを閲覧できるように、既存の広告アカウントを移管しておくのがおすすめです。
2. タグ、ピクセルなどの設定
広告のコンバージョン計測や、ユーザーリスト蓄積のために必要なタグを設置します。直接HTMLにタグを埋め込んでいる場合は、Google タグ マネージャーなどのタグ管理ツールを利用してタグを設定しておきましょう。
3. ユーザーリスト作成または共有
新しく作成した広告アカウントでユーザーリストを蓄積する場合、過去のデータはリセットされます。そのため、前述したように既存の広告アカウントのユーザーリストを新しい広告アカウントに共有しておくのがおすすめです。
4. 支払い方法の設定
広告媒体社への支払い方法を設定します。主にクレジットカード払いと請求書払いの2つの選択肢があります。しかし、広告媒体により選択の可否が異なるため、各媒体社に確認を取りながら進めてください。また広告予算が大きい場合、支払い用のクレジットカード等の上限金額に達して広告が配信されないという事態に陥らないように注意が必要です。
5. 商標の使用許諾の申請
会社名や商品名などの商標を広告に使用する場合は、広告媒体社にその旨を申請する必要があります。自社の商品・サービスだとしても、仮に商標の登録・使用許可が降りていないと広告の配信に制限が掛かってしまうため、あらかじめ広告媒体社に商標の使用許可を申請しておくことをおすすめします。
6. 予算やKGI、KPIの整理
年間の広告予算やKGI、KPIを月別などで整理しておきます。予算やKGI、KPIの策定が完了したら、それらの進捗を日々追えるように、どのようなレポートフォーマットにするかを検討します。
7. アカウント分析と設計図の作成
アカウントにキーワードや広告などを登録するために、広告アカウントの分析結果を基にした設計図を作成します。アカウント分析や設計図の作成は、対象広告媒体の運用経験がある人または、運用実績のある外部の協力会社に依頼することをおすすめします。
8. パラメータ付与ルールの整理
Google アナリティクスなど計測ツールで広告の成果を確認するためには、広告のリンク先URLにパラメータを付与する必要があります。BIツールを活用する場合は、パラメータルールを整理しておかないとデータの統合が上手くできないケースが発生しますので、注意してください。また、パラメータは途中で変更できますが、Google アナリティクスで蓄積・計測されたデータは変えられないため、頻繁に変えなくて済むようなパラメータルールを作成しておく必要があります。
9. 入稿作業とエディターのダウンロード
7で作成した設計図が完成し、8で実施したパラメータルールの整理ができたら、広告アカウントにキーワードや広告などを登録します。その際、Google 広告 エディターや、Yahoo!広告のキャンペーン エディターを利用すると、管理画面から登録するよりも効率的に登録できます。どちらのエディターもWindowsには対応していますが、Chrome OSには対応していなかったり、Yahoo!広告のキャンペーン エディターはMacに対応していなかったりするため、Windows以外のOSを利用している場合は注意が必要です。
10. Google 広告と連携可能なツールの設定
Google 広告は、Google アナリティクスや、Google マイビジネス、Google サーチコンソール、Salesforceなどのツールと連携が可能です。連携することで確認できるデータや利用できる機能が増えるため、必要に応じて連携すると良いでしょう。
これらを実行する際の前提として、インハウス化プロジェクトに従事するメンバーに運用型広告に関する知識がない場合は、運用型広告についての概要や基本的な運用方法をあらかじめ学習しておく必要があります。
インハウス化が軌道に乗った後の業務例
運用型広告のインハウス化が軌道に乗った後は、さらなる成果拡大を目指します。そのためには、運用型広告に限らない、マーケティングに関する幅広い取り組みが必要となることが多いです。
企業により優先するべき取り組みは変わりますが、以下に例を記載します。
- クリエイティブ(バナー、サイト、LP、動画など)の改善
- 効果計測や広告配信への自社データの活用
- Webサイト、SEO、SNS、マスメディアなどとの連動
成果拡大という目的以外にも、ブランド棄損を避けるためにアドフラウド対策の実施など、企業が運用型広告を活用する目的や、業種・業態、目指すべき指標によって取り組むべき内容は変化します。
チームメンバーの役割分担はどうするべきか
運用型広告の成果を拡大し続けるために、運用型広告のインハウス化プロジェクトに従事するメンバーには、以下の役割が必要です。
- プロジェクトマネージャー
戦略・戦術立案、KGI・KPI設定、予実管理などを中心に対応。 - 広告運用者
日々の進捗確認や、入札調整、入稿作業、レポート作成などを中心に対応。 - デザイナー、クリエイター
広告に使用するバナー画像の作成、LP・サイト修正、動画編集などの役割を担う。 - エンジニア
タグに動的な値を出力したり、自社データをマーケティングに活用したり、APIを使ってレポーティングの自動化や、入稿、入札調整などの効率化も図ったりする場合に協力を仰ぐ。 - ダッシュボード構築者
BIツールを利用する場合において、日々の進捗確認や、データを分析するためのダッシュボードを構築するための役割を担う。
もちろん、リソースの兼ね合いで1人で複数の役割を担うケースもあります。
インハウス化を進めるにあたり、最低限プロジェクトマネージャーと広告運用者は内製化する必要があります。広告の配信状況に合わせて迅速に判断・対応できるようにするためです。デザイナー、エンジニア、ダッシュボード構築者は、必ずしも内製化する必要はありません。社内に適任者がいれば協力をお願いし、適任者がいない場合は外部パートナーへの委託を検討します。
インハウス化初期メンバーの人選
運用型広告のインハウスチームメンバーはできれば3人以上、最低でも2人以上配置できることが望ましいです。
※専任だけではなく、兼務も想定した人数
また人選する際は、運用型広告またはマーケティング業務経験者を少なくとも1人は任命できるのが理想です。
たとえば、「広告管理画面を触って入稿作業をしたことがある」とまではいかなくても、「広告代理店からの報告を聞いて、改善施策について議論をしたことがある」といった経験があると良いでしょう。
いずれの経験もないメンバーから人選しなくてはならない場合、いきなりインハウス化を進めるのではなく、広告代理店などに一度委託して、運用型広告の知見や経験を得てから再度インハウス化を検討することをおすすめします。
おわりに
今回は、インハウス化を実践する際に発生する具体的な業務内容や、チームメンバーの人選について紹介しました。運用型広告をインハウス運用する中で成果を出し続けるためには、効率化・自動化できる部分は、積極的に効率化・自動化する必要があります。
業務の中でも、特にレポーティングは自動化しやすい業務領域です。レポーティングを自動化することで、空いた時間を多角的な分析や新たな戦略立案に充てることができるようになります。今回紹介した10個の業務のチェックリストを以下に記載しますので、活用してみてください。
- 広告アカウントの開設、移管
- タグ、ピクセルなどの設定
- ユーザーリスト作成または共有
- 支払い方法の設定
- 商標の使用許諾の申請
- 予算やKGI、KPIの整理
- アカウント分析と設計図の作成
- パラメータ付与ルールの整理
- 入稿作業とエディターのダウンロード
- Google 広告と連携可能なツールの設定
次回は、インハウス運用におけるBI/ダッシュボードの重要性と、インハウスでの広告運用の際に使いやすい広告ダッシュボードについて紹介します。
ソーシャルもやってます!