コロナで変化する店舗集客。Webとアプリを活用したアルペンのデジタル戦略
流通小売業界では、リアルとデジタルを橋渡しするものとしてスマートフォンアプリの活用が進んでいる。さらには、災害や感染症のアウトブレークなどで店舗営業が困難になると、デジタル接点はさらに重要なものとなる。「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」のセッションでは、ヤプリの島袋孝一氏が、アルペンの西村将一氏に話を聞く形で、アプリの活用方法などを紹介した。
コロナ禍により強化されたデジタルプロモーション戦略
アルペンと言えばウインタースポーツのお店というイメージを持つ人も多いかもしれない。西村氏も入社するまではそうだったというが、「現在ではスポーツ全般の商材を取り扱っている」(西村氏)という。その業態は下記4つに分かれている。
- アルペン:スポーツ用品全般、アパレル、シューズ スポーツデポ:スポーツ用品全般、アパレル、シューズ
- ゴルフ5:ゴルフ用品
- アルペンアウトドアーズ:アウトドア用品
西村氏のスポーツマーケティング部は、「ゴルフ5」を除く「アルペン」「スポーツデポ」「アルペンアウトドアーズ」のマーケティングを担当している。
2020年初頭からのコロナ禍の影響について西村氏は、次のように述べている。
弊社もコロナ禍の影響は当然ありましたが、他社が開示している業績と比較すると、気持ち踏みとどまれたような気がしています。逆に今回の経験が今後のビジネスの在り方やプロモーションについて考え直す、いいタイミングだったのではないかと考えています(西村氏)
営業時間短縮や臨時休業といったタイミングでは、当然ながらデジタルに強く特化したプロモーションが必要となり、「朝令暮改のレベルで日々行われた」と西村氏は言う。
通常であれば数か月前からプランを立てて動くが、それを全部覆し、Webの公開やアプリ、SNSの更新などをどんどんアップデートし、顧客との接点をデジタルを通して強化していった(西村氏)
アルペンのデジタルメディア戦略 Webメディアによる見込み客の獲得
では、アルペンではどのようなデジタルマーケティング活動を行っているのか。ひとつは、Webメディアの「アルペングループマガジン」の活用だ。立ち上げは約3年前で、当初はランニングに特化した「アルペングループ・ランニング」というWebメディアだった。それが成長し、現在ではオールスポーツのメディア「アルペングループマガジン」になっている。
アルペンにはECサイトもあるが、売上を直接作るECと違い、オウンドメディアはその立ち位置が難しいと言われることもある。アルペン入社前に西村氏は、広告収入をビジネスモデルとしたWebメディアを運営していた経験もあり、「広告でマネタイズするメディアはきつい」と実感していたという。一方、企業のオウンドメディアは、広告収入モデルのWebメディアとは役割が異なる。
スポーツを軸として、新しいメディアを作ることで、既存のお客様とは違うお客様と出会えるわけです。企業のオウンドメディアの役割は、アルペンを知ってもらい、最終的にはオンライン・オフライン問わず店舗に来てもらうこと(西村氏)
つまり、見込み客の獲得ということだ。
前述のメディア集客の施策としては、広告ではなくSEOによるオーガニック検索からの流入がメインだという。その他、「スポーツを軸にした話題性のあるタレントや、本社のある名古屋を軸にした関連性の高いタレントを起用したコンテンツの発信も、常々意識している」という。旬なタレントを起用すると、SNSで話題になり、そこから流入が増えるといったことも期待できる。現在、「アルペングループマガジン」は年間数百万規模のアクセスがあるという。
アルペンのデジタルメディア戦略 CRMツールとしてのアプリ活用
もうひとつの取り組みがスマートフォンアプリである。現状、下記の3種をラインナップしている。
- アルペングループメンバーズ アプリ
- ゴルフ5 アプリ
- アルペンアウトドアーズ アプリ
アプリは業態別に分けているが、アプリについては3つとも西村氏が関わっているそうだ。
アプリは、常にユーザーの手元にあるスマートフォンに、アイコンとして表示され続けることもあり、継続的な接点としての期待が大きい。ヤプリの島袋氏は、「オーガニック検索で入ってきた方にお客様になってもらった後、継続的にコミュニケーションをとっていくための手段としてアプリがあったのでは」と予想している。
さらに最近増えているのが、CRMツールとしてのアプリ活用だ。よく見るようになったと思うが、会員証やポイントカードとして、アプリにバーコードを表示するというものである。アルペンでも、約1年前にポイントプログラムが立ち上がっている。きっかけとしては、さまざまなIDを統合して顧客情報を整理するフェーズを迎え、それが具現化したのがこのポイントプログラムだという。
まだ立ち上がったばかりだが、ポイントプログラムから得られるさまざまな情報をマーケティングオートメーションと紐づけることで、パーソナライズした情報をアプリを介して発信すべく進めている(西村氏)
スマートフォンアプリは、せっかく作ってもダウンロードしてもらえないとまったく意味がない。そこがアプリ開発の最後の難関だ。西村氏によれば、「例えばゲームアプリなどの場合はデジタルプロモーションを鬼のようにかけると思うが、我々の場合はほぼ店舗で取れている。ペイドパブリシティをしかけなくてもアプリストアランキングで常に上位にいる状態」だという。アルペングループメンバーズの会員数は300万人を突破している。
ダウンロード施策としてよく聞くのは、
- 声掛けマニュアルやアプリ紹介のポップを店舗に配布する
- 店舗ごとにダウンロード数を競わせる
などだが、アルペンではある部署が中心になって店舗でより効率的に会員を獲得することを常に考えているという。昨今は、お客さん側も、「ポイントカードでお財布がパンパンになるのがイヤなので、アプリで会員証があればいいのに」と思うようになっているという背景もあるだろう。
アプリ開発の事情とニーズ
スマートフォンにはAndroidとiOSという2種類のOSがある。このため、アプリ開発には、それぞれのOSのエンジニアとサーバなどのエンジニア、デザーナーなどが必要になるため、かなり人的リソースが必要というのが一般的なイメージだ。加えて、スマートフォンのOSは頻繁にアップデートされるし、新しいデバイスもどんどん登場するため、そこへの対応も必要になる。
つまり、一度アプリを作ったらそれで終了ではなく、きちんと稼働させるだけでも手間がかかるし、もちろんアプリを使ってビジネスを成功させるための分析も必要だ。
そんなアプリだが、開発方法は大きく分けてスクラッチ型とクラウド型の2種類がある。自社のやりたいことに合わせて要件定義から始めてオーダーメイドで作るのがスクラッチ型、あらかじめ用意された機能を選択していくだけでカジュアルに作れ、月額課金の開発環境が提供されるのがクラウド型である。
この2つは、どちらがいい悪いというものではなく、必要に応じて適した方法を選択すべきものだ。たとえば自社独自の機能や特別なセキュリティが必要な場合は、オーダーメイドで作るしかない。それに対して、一般的なアプリであれば、あらかじめ用意されている機能だけで十分ということもある。
この場合は、開発にかかる時間とコストが最小化でき、アプリのローンチまで数か月ですむこともある。特に今回の緊急事態宣言のように、デジタルへの注力が急遽必要になった場合などは、ローンチまでの期間が短いクラウド型は強みを発揮する。
エンジニアでなくとも3か月でローンチ可能 クラウド型アプリ「Yappli」の強み
ヤプリの提供するYappliは「クラウド型アプリ開発プラットフォーム」と銘打たれている。キャッチコピーは「アプリの開発・運用・分析のすべてを。モバイルシフトを加速させるアプリ開発クラウド」で、アルペンを含む400社以上の開発実績がある。ちなみに、今年3月にローンチした「アルペンアウトドアーズ アプリ」の場合は、3か月でローンチできたという。
仕様を決めるところからローンチまで3か月かかっていない。しかも、仕様を決めていたのはエンジニアでもなく、社内の意見をマーケターの私が集約しかたちにした。それでも、アルペンアウトドアーズアプリをダウンロードして見ていただくとわかるかと思いますが、これくらいのものは作れてしまう。それも、採用したポイント(西村氏)
クラウド型は提供されている機能が限定されるイメージだが、「Yappliはバージョンアップや機能アップデート、要件に合わせたカスタマイズも可能。最近はスクラッチ型と遜色ない」と、島袋氏は言う。
最後に島袋氏は、Yappliの特徴を以下のようにまとめ、セッションを締めくくった。
- OSのアップデートなどに合わせた自動アップデート
- 年間300以上の機能アップデート
- 直感的な管理画面
- カスタマーサクセスの専門チームが成功支援
- 代理店や制作会社向けに、紹介パートナーやリセラーのブログラムあり
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