中途入社のデジタルマーケターが「仕事で成果を出す」ためにやった4つの施策
デジタルマーケターはどのように仕事を作って行けばいいか。「デジタルマーケターズサミット 2020 Winter」に登壇した、テレビ東京の明坂氏は、リクルートからテレビ局に中途入社した。自らの経験をもとに、テレビ東京におけるデジタルイノベーションに向けた取り組みについて語った。
テレビ局にイノベーションをもたらす使命感をもって入社
いまなお、絶大なリーチ力をもつ「テレビ」。テレビ局は、その強力なメディアを自らのプロモーションにも活用し、大いに恩恵を享受してきた。そんなテレビに憧れながら、SIer、SEO会社、リクルートなどデジタル先進業界を経て、デジタルマーケターとしてテレビ東京に中途入社した明坂氏は、「流しておけば見られるというテレビに依存してきた結果、テレビ局のマーケティングはデジタル活用にやや遅れた印象があった」と語る。
そもそもテレビ局のビジネスモデルは、スポンサー企業からの広告収益が主な収入源である。一部、グッズの販売や有料イベントへの参加費などの売上はあるが、視聴者が番組そのものに対して料金を支払うことはない。サービスの対象はBtoC、収入モデルはBtoBという特殊ケースになる。そのためマーケティングを考える際、戦略が定まりにくいという可能性も否めない。
とはいえ、メディア市場の変化に伴い、視聴率が低下傾向にある中で、テレビ局もまたデジタルマーケティングの有用性を強く認識しており、「視聴者=ユーザー」と位置づけた施策も展開されつつある。
デジタルマーケターとして入社した明坂氏にもさまざまなミッションが課せられ、自社番組のデジタルプロモーションから、動画配信アプリの集客や月額有料配信サービスの会員獲得なども担い、時に自身でカメラを回し、編集まで行うこともあるという。
さらには課せられたミッションだけでなく、自発的に取り組みをはじめた施策も多い。その気付きと実践に至った理由は、やはり前職のリクルートとの違いを感じたことが大きいという。
企業文化や風土は異なりますが、どちらも働く人のモチベーションは高いです。しかし、テレビ業界はプロダクトライフサイクルとしては成熟期も過ぎ、ともすれば衰退期に差し掛かろうとしています。私が憧れてきたテレビが新しい価値を生み出し、輝き続けるには、新たなチャレンジが必要だと考えました。ここ2~3年が勝負と感じており、私自身もそのイノベーションに貢献したいと思ったことが入社動機となりました(明坂氏)
自発的ミッションとして取り組んだ4つの事例を紹介
実際にテレビ東京に転職したものの、すぐに「イノベーションを生み出す」ための環境が整っていなかった。つまり、外から知見持ってきても、必ずしもすぐさま効果が出る体制ではなかったと明坂氏は振り返る。
たとえば、マーケティングやテクノロジーへの理解度に差があったり、デジタル関連事業が組織ごとに細分化・重複し、活動も知見も分散していたり、新規事業構築を行うプロセスも未整備だったりしたわけだ。
そうした環境下でイノベーションを目指し、どのようなことを行ったのか。明坂氏は自身が取り組んだ4つの施策事例を紹介した。
施策① メジャーメント(成果)の整備
ほとんどの広告出稿は、成果について測定がなされていなかった。しかし、より良い施策のためには成果を把握することが絶対不可欠である。そこで「広告代理店に任せっぱなし」「出しっぱなし」を改め、成果を評価し、PDCAサイクルを構築することを考えた。
視聴率の変動要素が多く評価が難しく、そもそも取得できる要素が少ないなどの制約もあったが、視聴率に影響しそうなデータを可能な限り取得して分析し、それを共有できるようなダッシュボードとしてまとめた。
また、社外データとして「ニュースサイトのクローリングサービスによる掲載データ」や「SNSでの話題数」などを購入し、自社データの「Webのアクセスログ」「番宣CMの本数や放映時間帯」、そして自社で調査した「認知調査の結果」などを集計・整形し、DWHに取り込んでTableauで作成したダッシュボードに流し込み、全員が見られるように用意した。これによって、毎朝集計して昼には、前日放送番組のあらゆる指標がダッシュボード上で閲覧できる状態になった。
定量的なデータに基づかない議論は極めて無駄が多いです。意見の違いは定性的に埋めるのはとても難しい。あらゆる部署で“同じもの”を見ることができれば評価が揃い、そこではじめて議論が始まります。施策を評価しないのは何もやっていないのと変わりません。しかし、誰も評価基準を持っていないのなら、つくるしかない。まずは評価する指標づくりやそれを見て議論する文化を醸成することが大切と考えたわけです(明坂氏)
施策② 重要箇所へのアクション
①の施策の分析を通じて、見えてきたのが、「ネット上の番組プロモーションの影響はごく小さい」ということだった。テレビCMの影響力が甚大であり、デジタルよりも優先的にテレビの番宣CMの配信最適化を図るべきと判断されたわけだ。
そこで明坂氏は、属人的な判断に委ねられていた番宣枠の設定支援に機械学習を活用することを模索。過去の視聴ログデータをもとに、視聴者の情報や出演者、内容などのデータを機械学習に流し込み、視聴率が最大化する番宣枠を算出するシステムを開発した。
デジタル担当として入社したとはいえ、自分のミッションゴールへのカギがデジタル外にあるなら、枠を超えて手を出していくべきでしょう。活用余地のあるデータをどう活用し、何に対してアウトプットすると利益が上がるのか――。デジタルマーケターが成果を出すには、そうしたことを常日頃から考え、情報を収集することが大切です。さらに機械が得意とすることを、時間をかけてわざわざ人間がやっていないかも、当事者意識をもって周囲を見渡す必要があります(明坂氏)
なお、本機械学習システムは内製によるもので、そのメリットとして明坂氏は「費用削減」をあげ、「機械学習は調査やプロダクトの方針決定など外注できない部分こそが肝であり、プログラム自体はさほど負担がない」と語った。
施策③ 自動化による業務拡大
オンラインのプロモーションとして一般化した「公式SNS運用」だが、本来は状況を見ながら人がタイムリーに対応していくことが理想的とされている。しかし、テレビ局ではそもそもSNS担当がいない番組も多く、運用が十分ではなかった。そこで自動化できる部分を考え、電子番組表のデータを利用して、放送の概要などを140文字以内に要約するAIを開発し、自動的に生成・配信できる仕組みを開発した。
人がいないなど、リソース不足やボトルネックはどんな企業にもありますが、テクノロジーで解決できる範囲もあるはずです。小さな仕組みでも適用可能範囲が広ければ横展開ができ、積極的に投資すべきでしょう。本施策も、週1で一方通行というテレビ放送に対して、頻度と距離感を保管できるSNSは活用する価値が高いと考えて取り組みを行いました(明坂氏)
施策④ マネタイズの多角化
オンライン動画など競合が増え、人口は減少する中で、視聴率が継続的な減少傾向にある。新規視聴者の獲得が難しくなることもあり、利益確保のためには顧客の囲い込みとサービスの拡大が不可欠だ。そこで、顧客のLTV(顧客単価、購買頻度、継続率)を向上させることで、利益を向上させる仕組みを開発することを考えたという。
そもそもテレビ局のビジネスモデルにおいて、BtoBは視聴率の低下もあってスポンサーからの増収は見込めない。そこで対象となるのがBtoC向けのマネタイズ拡充策だ。今までは書籍やDVD・グッズなどの物販や、ライブやセミナーなどのイベントが主だったが、さらにデジタルを活用したオンラインイベントやファンクラブ、ライブコマースなど、マネタイズのチャネルを増やしつつある。
なお視聴率が高いほどマネタイズの機会があると考えがちだが、視聴率がたとえ1%でもロイヤルティの高いファンが多い番組の方がマネタイズが成功する可能性が高い。そうした番組を見定める必要が重要となる。そこで番組ごとにアンケート及びデプスインタビューを行い、資料者のカスタマージャーニーとインサイトの抽出を行っているという。
ファンミーティングなどの施策は、視聴者を深く理解するだけでなく、ファンのロイヤルティを高める効果もあります。濃いファンになっていただくことでLTVも上がり、物販など購入額が増え、さらに口コミなどで新たなファンに広げることにもつながるでしょう。先細りにならないためにも、既存ファンへのサービスと新しい視聴者獲得との両輪を考えていく必要があります。また、こうした顧客の状態を知り、可視化することで、打ち手について社内への説得も行いやすくなります(明坂氏)
デジタルマーケターだからこそイノベーションを牽引できる
4つの事例を通じて、明坂氏は「なかなか進みにくいレガシー企業のイノベーションのために、デジタルマーケターが貢献できる部分は大きい」と語る。
デジタル変革が進まない原因として、組織全体での環境やポジションで得られる情報や価値観が違うために、視点や基準がバラバラになって話が進まなくなることがあります。とはいえ、価値を生み出し続けることは経営のゴールであり、情報や課題の整理をすることで共通見解が生まれれば、建設的に進んでいけるはず。それこそデジタルマーケターならではのスキルであり、それをもとに構築できるソリューションが必ずあります。そして、今の経営に最も重要なものだと思います(明坂氏)
そして、デジタルマーケターが牽引するイノベーションのためのソリューション開発について“上手くための6つのポイント”をまとめ、セッションの結びとした。
- 意識が共有できて、かつ責任を持てる人との協働
ロジックで押し通せる文化ならともかく、正しいことを主張しても、理解してもらえなければ始まらない会社もある。まずは意識の共有ができる決済者との関係をつくる。 - 顧客をベースに多くの人が納得できる整理をする
経営のゴールを目指すに当たり、顧客を深く理解することがその指針となる。そして、そのための情報整理や分析を可視化することが重要。 - “やったほうがいいこと”とは無限にある。影響力と実行力を踏まえて優先度をつける
リソースの関係上、できないことの切り分けは明確に行うべき。たとえデジタルの範疇でも、優先度が低いものなら、ロジカルに認識を合わせて思い切って手を付けない選択もある。 - 手段に惑わされない、顧客のインサイトを捉え続けること
AIなど最先端技術による事例が世の中を席巻しており、心惹かれるもの。果たしてそれが顧客のインサイトにフィットしているかを見極めることが必要。 - ある程度、腰を据える
- できれば、楽しむ
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