人事部門にもマーケティングスキルが必要だ! 転職者のミスマッチを防ぐための現場マーケターからの提言
こんにちは、ライオンの内田です。
このリレーコラム連載も、4回目となりました! 今回のテーマは、人事部門が持つべきマーケティングスキルについて。
わたし自身、キャリアの最初に採用担当を経験し、ベンチャーから大企業へ転職した身から感じる現場感を率直に書きたいと思います。
現在は人事部門にいるわけではないので畑違いの浅はかな意見もあるかもしれませんが、現場で企業を動かしている当事者意識を持って、問題と解決策を考察してみました。
なぜ人事部門にマーケティングスキルが必要なのか
わたしが言うまでもないのですが、現在の働き方は非常に流動的で自由度が増しています。データサイエンスでもマーケティングでもデジタルトランスフォームでも、携わっている仕事の中で一定のスキルがあれば、わたしたちは会社や働き方を自由に選ぶことができます。さらに複数の転職経験がある人も急増しているので、社歴が多いことが転職・採用活動の中でデメリットとなるケースも非常に稀になってきました。
一方で、企業側の目線になると、終身雇用前提の制度では対応しきれなくなっているのが実情です。若くて勢いのあるスタートアップやワークライフバランスを配慮した福利厚生制度を持つ企業、フリーランス等といった選択肢と肩を並べて、自社で働く価値を創り出す必要があるのです。
それだけではありません。優秀な人材が獲得できたとしても、「いかに本人の能力を発揮して事業成長を支えてもらうのか」というところまでデザインできなければ意味がありません。わたしたちメーカーが製品をただ作るのではなく、使ってもらう・体験してもらう部分まで仔細に設計するように、人事は自社における就労体験までデザインできる能力が必須なのです。
そしてどんなに価値のある仕事に就いていても、退職する日が来れば、退職後もその人が企業のファンであり続けてくれるような、ストレスのない退職フローで送り出す必要があります。
自社で働く価値を創り出して最高の就労体験をデザインし、ストレスをかけずにファンのまま送り出す。まさにマーケティング担当者が実践しているスキルがそのまま必要だと思いませんか?
見えてきた2つの課題
上記のような感覚をお持ちの方は、読者の中にも実は多いのではないかと思っています。それではなぜわざわざここまで説明しているのかというと、こういった競争環境の中でも、いまだに多くのミスマッチや考慮不足と感じる体験設計を目にし、耳にするからなのです。
わたしが感じ取った、さまざまな企業で起こっている現状は以下のとおりです。
①全部否定族の氾濫
「全部否定族」というのはわたしの造語ですが、これは、入社してきた方が「既存のマーケティングや仕事のやり方すべてを完全に否定し、変革する」ことに全力投球しているという状態です。
もちろん実務において課題のない企業などないと思いますし、変革は常に必要であると言えます。しかしここでよく起こりがちなのが、
- 変革者がとにかく「変革」にのみフルスロットル
- 人の話に耳を傾けることができない
- ひどい場合は、組織の文化を汲み取ることなしにすべてを破壊し尽くす「神」となる
- 単純に周りがついていけなくなってしまう
といった問題です。
マーケティング部門やデジタル部門で人材の流動が激しい場合、次々に新しい破壊神が送り込まれます。その際、新しい概念であればあるほど正義となりがちで、旧破壊神と新破壊神の戦いが勃発したり、持ち込まれるフレームワークが頻繁に変わるためKPI管理に難儀したりしてしまいます。
ただし、わたしは破壊神と化してしまった変革者が全面的に悪いとは決して考えていません。組織を変革することができる人というのはやはり天才の部類に属することが多く、その能力はこちらが理解できないことも多々あるのです。理解できないからといって排除しているようではその企業に未来は望めなさそうです。では、理解できなくてもとにかく信じるべきなのでしょうか?ここで最も重要な役割を果たすのが人事であると、わたしは考えています(人事が担うべき役割については後述します)。
②レールを敷くことでイノベーティブになりきれない
わたしには、日本の人事担当者のなかでも腕利きの、信頼のおける友人がいます。その友人と話していたときに出てきた課題が「事前に周到にレールを敷きすぎる」というジレンマです。
著名なマーケターが次々に入社してくるような企業は、①のような状態(破壊神の暴走)を防ぐために採用時から徹底的にすり合わせを行なっています。例えば、
- 「ミッション」や「組織として求める価値観」への親和性を徹底的にディスカッションしてチェックする
- ミスマッチを防ぐために現場感を正直に伝える。具体的にはオウンドメディアでミーティングの様子を見てもらったり、既存メンバーが選考に加わったりする
といったような工夫をしているようです。
しかし、こういった事前すり合わせの結果、事業に変革を起こすような(ある意味で)異端な人間は採用の過程で排除されるか、その企業の敷いたレールの上を走る「機関車トーマス」と化してしまう恐れがあります。つまり、イノベーションはもたらされにくくなるということです。
友人の所属する企業の場合、創業者直下のプロジェクトはイノベーティブであっても、ボトムアップで同様のレベルのものを生み出すにはまだまだハードルがあるようです。これは、①に比べると、若く勢いのある企業でも生じうる課題ではないでしょうか。
何が原因で、どういう対策が可能か
「①全部否定族の氾濫」のような問題が起こるとき、原因は「採用前の人事からのオリエンが圧倒的に足りない」ことにあるのではないかとわたしは考えています。
大企業に見られがちなのが、組織の大きさゆえに時代へ柔軟に合わせたマーケティング活動やデジタライゼーションへのスピーディな切り替えができないという焦り・不安です。そう、みんな焦っているんです。ニュースでもTwitterでも大企業病と呼ばれ、煽られ、危機感でいっぱいなのです。
そのため、変革をもたらしてくれそうな好人物がいた場合に、飛びつくような気持ちになって「とにかく我が社に変革をもたらしてくれ……」ということのみ(もしくは偏重した)をオリエンしてしまうのではないでしょうか。わたしも、過去の転職活動中に企業から求められた価値観は「常識にとらわれない革新的なやり方をいかに実現できるか」という点に尽きるものだったと感じています。
入社後の社内コミュニケーション・デザインを丁寧に行う
もちろん、自社の課題を強調してオリエンすることは間違いではないと思います。しかし、それだけでは圧倒的に情報量が足りていません。
変革者が変革するべき組織の本当の課題は何なのか。
いざ変革に乗り出す際にボトルネックとなり得るポイントはどこなのか。
どういうやり方でこれまで失敗し、どういうやり方であれば成功しそうだと考えているのか。そしてどんな未来像を描いているのか。
そういったことを採用者に伝え、入社後の社内コミュニケーション・デザインを丁寧に行うべきではないでしょうか。
焦らない
採用される側にも考えるべき部分があります。企業は案外、自社の本当の課題が見えていません。特に人事部門と現場の距離感がある組織にはその傾向があります。これでは正当なオリエンはなされないものと思った方がいいです(代理店に勤められている方はよくわかるかもしれませんが、ざっくりとしたオリエンでアイデアの提案を行うのってめちゃくちゃ大変ですよね。採用の現場もあれと同じことが起きているのです)。
わたしもどうすればいいのかバシッとした答えを持っているわけではないのですが、採用する側、される側、両方にひとつ伝えさせていただくとすれば、「焦ってもいいことないよ」と言いたいです。
転職者が入社後に既存のやり方を頭ごなしに否定してしまうのは、「そこに採用された自分の価値を早く見出さなければ」という焦りや責任感であるように感じています。しかし、採用時のオリエンだって正しいとは限らないし、正しかったとしても組織に所属してからわかることだってたくさんあるというか、そういったことだらけだと思うのです。だからそんなにスピード重視で焦らなくても大丈夫ですよ、ちゃんと頼りにしていますからね。
自由演技をしてもらう余地を残しておく
また、②レールを敷くことでイノベーティブになりきれないといった問題が起こるときは、(わたしの勝手な意見ですが)採用者と企業の間での事前すり合わせが厳重すぎること・人事部門と既存の現場部門の事前すり合わせが足りないことが可能性として挙げられるのではないかと考えています。
①の問題と逆説的になるかもしれませんが、採用前の事前すり合わせをあまりに厳重にしすぎると、採用者がレールの上に乗せられて、入社後ガチガチに身動きできなくなってしまいます。情報が不足していることはいけませんが、本質的な課題を包み隠さず伝えた上で、自由演技をしてもらう余地も持っておくことが必要ではないでしょうか。
異端者を排除しない共通認識を持つ
そして、変革をもたらすような人物が現れたとき、選考に既存の現場部門メンバーが含まれる場合は、人事部門と現場部門の間で「異端者を排除しない共通認識」が必要になると思います。前述したとおり、変革者は天才に近しい能力を持っている場合が多いので、既存メンバーから理解されないことが多いです。しかし、人事が既存メンバーとともに、
- 組織の中での本質的な課題は何なのか
- その課題解決のためにどういった人材を欲しているのか
といった認識合わせができている場合は、既存メンバー自ら、「異端であっても自社に必要な人材は誰か、そしてその人を組織になじませる方法は何か」を検討できるのではないでしょうか。
もし、既存メンバーと上記のような共通認識がない場合は、にがい薬を吐き出すように、変革者も組織から受け入れてもらえない可能性があがると思います。
以上が、現在は人事でも何でもない一現場社員のマーケターから見た、問題と原因と解決策の考察でした。
ここまで考察してきましたが、つくづく、人事部門にはマーケティングスキルと似た能力が求められているなと思います。今回挙げた課題はたった2点なので、マーケティングの中でもほんの一部のスキルと共通する点でしたが、そのほかにも様々な共通事項があると思います。
読者のみなさんは、組織のどんな課題を抱えているのでしょうか。人事部門の方だけでなく、会社に所属する全員で当事者意識を持って議論していけると嬉しいです。
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