Marketing Native特選記事

ソウルドアウト長谷川智史が語る「デジタルマーケティングで成果を上げられる人の条件」

「誰よりも深く、しつこく」。BtoBマーケティングのトップメディアとして確固たる地位を築いているLISKUL。創設者の長谷川智史さんに話を聞いた。

新しいWebメディアが次々と誕生する一方で、有力メディア閉鎖のニュースを時折、目にすることがあります。そんな中、2014年の立ち上げから現在に至るまで、B to Bマーケティングのトップメディアとして確固たる地位を築いているのが、ソウルドアウト株式会社が運営するLISKULです。

なぜLISKULは多くの読者を惹きつけ、B to Bメディアのトップの一角に君臨し続けられるのでしょうか。今回はソウルドアウト株式会社の上席執行役員でLISKUL創設者の長谷川智史さんに、成果を出すメディア運用の秘訣をお聞きしました。

さらに、本文後半では長谷川さん個人が成果を上げ続けてきた理由に迫ります。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:稲垣 純也)

    

コンバージョン獲得に効果的なメディアの立ち上げ

――ソウルドアウトさんのWebサイトを見ると、長谷川さんの仕事は現在、「メディアを活用した成果創出に従事」とあります。具体的な仕事内容と、「成果」の意味を教えてください。

ソウルドアウトという会社の紹介からさせていただきます。ソウルドアウトは日本全国の地方、中小・ベンチャー企業のデジタルマーケティングのお手伝いをしている会社で、今年(2019年)、東証一部に上場しました。

中小・ベンチャー企業は大企業と比べて予算が限られているお客さまが多く、支援会社として利益を出しにくい構造が一般的です。そんな中、ソウルドアウトは「中小・ベンチャー企業のお手伝いをする」という理念を掲げ、どうすれば利益を出しつつ持続可能な形でサービスをご提供できるのか、常に挑戦を続けているところです。

その挑戦の1つがメディアです。広告仲介の場合、マージンは15~20%くらいですが、自社メディアで記事広告が取れれば、そのまま粗利になり、利益率が高くなります。業界トップのサイバーエージェントさんも自社メディアを作っていますし、中小・ベンチャー企業のデジタルマーケティングを支援している会社で見ても、リクルートさんや楽天さんも自社のプラットフォームをお持ちなので、ソウルドアウトでもそういう方向性で成果を出せないかと模索しています。

――その場合の「成果」とは何でしょうか。

一概に断定するのは良くないですが、基本的にはコンバージョンを取ることを成果として定義しています。認知獲得やブランディングも大事ですし、お客さまにはその点についても別の形でサービスをしっかりと提供していますが、売り上げにつながるコンバージョン獲得に強みを持つのがソウルドアウトの特徴の1つです。

2つのオウンドメディア失敗から学んだこと

――わかりました。では、LISKULを2014年に立ち上げられた背景をあらためて教えてください。

ソウルドアウトはテレアポが強い会社だったのですが、私が入社した2012年にプル(pull)を強化するという方針が決まり、私が担当することになりました。アウトバウンドからインバウンドへの方針転換を具現化するさまざまな施策の1つとして立ち上げたのがLISKULです。

――2018年のデータとして、月間で約70万PV、50万UUとあります。ここまで来るには紆余曲折があったと思いますが、いかがでしょうか。

実はLISKULの前にオウンドメディアを2つ失敗しています。最初は記事制作を外注していたのですが、うまくいきませんでした。その反省を踏まえ、記事制作を内製化する形で立ち上げたのがLISKULです。LISKULは立ち上げ後すぐにPVが大きく伸びました。一方で、リードの獲得には1年弱かかっています。

画像出典:LISKUL

――なぜ2つのオウンドメディアはうまくいかなかったのでしょうか。

コンテンツマーケティングのことをよく理解しないまま、概念だけで中途半端に始めてしまったことが反省点としてあります。外部のライターを確保して記事を書いてもらったのですが、オウンドメディアのテーマであるネット広告に関する知識が少なく、検索して調べながらの執筆なので、納品された記事を見てもどこか少しずれているんです。例えば「CPC」と出てくるたびに毎回 「(コスト・パー・クリック)」とカッコ書きがしてあるのを見ると、我々は違和感を覚えます。そのように「決定的にダメなわけではないが、何かしっくりこない」という記事が多く、「これならライターに差し戻すより、自分で書いたほうがいい」と感じました。記事内容のレベルが高くないので、仕方なく「初心者ブログ」と名前を変更したのですが、そもそも初心者向けの記事ほどわかりやすく書く必要があるわけで、記事のレベルが低いから「初心者」と名前を変えている時点で、失敗ですね。

――ありがちですね(笑)。では、LISKULを立ち上げてからは社員の方が書いているんですか。

立ち上げのときはそうでしたが、今は外注しています。いろいろと工夫しながら、少しずつ仕組みを作っているところです。

――なるほど。LISKULを立ち上げてから短期間でPV数が伸びたのはなぜでしょうか。

立ち上げ当時はまだコンテンツマーケティングの黎明期でしたから、早いタイミングで着手できたのが良かったと思います。現在は「メディアを立ち上げてから1~2年は成果が出にくい」という認識が一般的だと思いますが、立ち上げ時はコンテンツマーケティングのブームが来たくらいのタイミングで、自社メディアを立ち上げているWebマーケティングの会社はそれほど多くありませんでした。また、当時は「はてなブックマーク」もそれほどこなれていなくて、被リンクを短期間でたくさん集めることができました。さらに記事の書き方についても、SEOで検索順位の上位に掲載されるようなノウハウをコンテンツマーケティングの支援会社から教わり、結果として半年ほどで50万 PVくらいを達成しました。

――順調に伸びましたね。

3つ目ですから(笑)

インディペンデント・メディア収益化への高いハードル

―─リード獲得までは大体1年くらいですか。

そうですね。開設が2014年1月で、PV が跳ねたのが7月くらい、リード獲得ができ始めたのは10月くらいです。最初はリード獲得を目的にオウンドメディアとして運用し、試行錯誤はありながらも、月間200件以上のリード獲得で安定したため、2018年5月に月額5万円でできる記事広告サービスの「RentaLISKUL」を新たに立ち上げました。

――LISKULの運用は現在うまくいっていると考えていいのでしょうか。

苦戦する期間はありましたが、人件費、外注費を含めても、次のステージへ行ける段階に来たと認識しています。

ただ、オウンドメディアとインディペンデント・メディアの違いの大きさはよくわかりました。オウンドメディア時代の2015年単体で見ると、リード獲得の貢献を金額換算したら採算は合っているんです。しかし、リードを獲得しつつ、メディアとして収益化するのは非常に難しく、頑張ってようやくその状態を作ることができたところです。オウンドメディアとして記事広告を掲載することは難しくありませんが、インディペンデントのWebメディアとして採算を合わせるのは本当にハードルが高い。LISKULはやっと社内外の皆さまに貢献できるところに来た感じです。

プロが本気で書く本物のメディアが生き残る

――立ち上げからずっとWebマーケター向けのノウハウコンテンツ中心だったのを、2018年にCMOになるために必要な情報を提供するメディアにリブランディングしたということですが、これはなぜでしょうか。

まず、「なぜCMOか?」ですが、弊社の取引先の中で急速に伸びる会社には、社長のほかにマーケティングの決済ができる「右腕」がいるという特徴があるんです。どのようなタイプかというと、コメ兵でマーケティング統括部長を務める藤原義昭さんや横河電機マーケティング本部・本部長の阿部剛士さんのような方です。一方、「右腕」を作れずに社長のワンマン体制のまま成長しようとしている会社は、あまり伸びていない印象があります。そのため、経営視点を持ったCMOのような人が世の中にたくさん登場すれば、成長する中小企業の数も増えるのではないかと考えました。

――Webメディア全般の話としてお聞きしますが、マーケティング戦略におけるメディアの立ち位置や重要性は今後も変わりなく続くでしょうか。

今後も重要性は変わらないと思いますが、プラットフォーマー攻略のような小手先の施策で成果を出せた時期は終わっていて、現在は本気の本物のメディアだけが勝てる時代になったと考えています。

――本気の本物ですか。

そうです。LISKULも弊社のオウンドメディアだったときは、リスティング広告の最前線にいる社員がリスティングの記事を書いていたので、お客さまにも読者にもご満足いただける血の通った記事を作ることができました。専門性の高い人が本気で書く本物の記事だったからLISKULは早期に成功できたのだと思います。最初に記事制作を外注して失敗したのも今となってはうなずけます。

――その分野のプロが書かないと、メディアとして成立しないということですね。

「プロが書かないと」というよりも、そもそもコンテンツだけでなく、プロダクトやサービスも、その会社のミッションなりビジョンなりを実現するためのツールという意味合いがあるはずです。それなのに、例えば弊社が「経費精算」のような専門外のキーワードで記事を書いたとしても、経費精算のツールを提供して世の中の経費精算の在り方を変えたいと本気で思っている会社の記事に勝てるわけがありません。

コンテンツマーケティングとは見込み顧客に対する価値提供なので、世の中の課題を解決するためにプロダクトやサービスを開発・提供し、その思いをコンテンツにして届けられれば、いずれお金として返ってくると思います。美味しいラーメンの作り方を広めたいなら、美味しいラーメンを毎日何杯も作っている人が書いた記事には勝てないわけで、美味しくないラーメンを売るために、コンテンツを作って何とかしようと考えるから、おかしな話になるのです。

――SNSはどうでしょうか。B to BはSNSとの親和性を疑問視されることもありますが、バズを狙ったほうがいいのでしょうか。

SNSも大事ですが、バズを狙うというよりも、本物がこだわりを持って本気の熱量を込めたコンテンツであれば、自然と広まっていくものだと思います。SEOも同様で、テクニカルなことよりも、その分野に関する専門性の高い人がユーザーに対して本気で価値提供をしたいと思って書いたものが結局は上位に来ます。その本質は変わらないと思いますね。

コミュニケーションの苦手な人が成果を出す方法

――最後に長谷川さん個人のことを教えてください。オプトさん、ビービットさんで高い成果を上げられてからソウルドアウトさんに入社されたということですが、自分ではどういうところが優れていたとお考えですか。デジタルマーケティングの世界で名前の知られている方なので、興味を持っている読者も多いと思います。

私は人見知りで、コミュニケーションを取るのがあまり得意ではないのですが、しつこく突き詰めて考える癖があるんです。そこでしょうか。

――「しつこさ」って、とても大事ですよね。

例えば、アパレル企業のプロジェクトにアサインされたら、自腹でその企業のスーツを買ったり、お店の近くから様子をずっと観察したりしてきました。オプトにもビービットにも優秀な社員が多いのですが、自分は他人よりも時間を多く使って、本質をつかむまでしつこく粘り強くやってきたことが成果を出せた理由かなと思います。

理論やKPIではなくて、芯を食うまで突き詰めて考え、納得できるかどうか。何となくやって成果が出ることもありますが、私は因果関係の根っこの部分までごりごり考えて腹落ちしないと我慢できないタイプなので、ユーザー理解をするために「自分がお客さまなら本当にそんなふうに行動するだろうか?」と納得するまで考えるようにしています。

─―ユーザー理解のために実際に人と会われているのですか。

いや、横から見ています。私、人の心があまりわからないタイプなので、共感が苦手なんです。ユーザー理解で大事なのは共感か観察かだと思っていて、共感が得意な人は空気を読んで話ができますが、私は共感力が低いので、観察して、自分がユーザーになりきってみて、それで成立するかどうかを考える思考プロセスです。

――部下の方にも「もっとしつこく」という指導をしているんですか。

そういう言い方はしていませんが、「どうして?」と聞いたときに、納得する説明が返ってくるかどうかは見ています。きちんと理解できていれば、よどみなく全部説明できるはず。引っかかるところがある場合は、十分に理解できていないということです。表面的に何となくわかった気になって、前に進もうとしている人もいますね。

――コミュニケーションが得意ではない人でも、ちゃんと成果の出し方はあるということですね。

そうですね。私の強みは、ネット広告から組織運営、ブランディングまで幅広く現場の最前線にいて、自分で手を動かした経験があることです。一方、人を動かして成果を上げるのはあまり得意ではなく、そこが弱みだと認識しています。2016年の上場直前期、私は取締役CMOとして、主力事業のデジタルマーケティングの組織をマネジメントする立場でした。しかし、人を動かすのが得意ではないとわかり、2017年からは新規事業の責任者として、少人数のチームで手を動かす仕事が増えました。自分で手を動かすのと、人を動かすのは全然違います。確かに見え方は降格ですし、挫折と言えば挫折ですが、気にしていません。

数字と成果に執着し続ける姿勢が自分を成長させる

――デジタルマーケティングの仕事をしていると、20代半ばから後半くらいでゼネラリストのようになり、「次に何をやろうか」と踊り場に来るタイミングがあると思います。そんなとき、どのようにアドバイスしていますか。

「数字や責任を早めに背負ったほうがいいよ」と言っています。私も以前、会社の数字を全部背負った経験があります。ソウルドアウトなら、拠点を立ち上げたり、新サービスの責任者を務めたりして、強いプレッシャーの中で数字と責任を背負った人がやはり伸びています。だから、「言い訳できない何かを背負って成果を出さないと次のステージには行けないよ」と思っています。

私も前職では難しい案件をよく担当しましたが、胃が痛くて眠れないような日々の中、クライアントワークに全力で取り組みました。言い訳のできない状況に追い込まれながら、数字と成果に執着し続けたことが自分を大きく成長させたと感じます。

――自分から手を挙げて背負ったほうがいいんでしょうか。

自分から手を挙げたほうがいいですね。自主的に背負わないと、上司に言われたことを背負う形になります。そうすると、うまくいかなかったときに、背負わせた人を恨んでしまいがちなんです。ただ、あまりに背負いすぎるとつぶれてしまうので、勝負どころは決めたほうがいいですね。LISKULの前にメディアを2つ潰したときは背負っていませんでした。LISKULは社長を説得して、それなりのコストをかけて立ち上げましたので、「これが失敗したら自分はまずい」という危機感がありました。だからうまくいったのだと思います。

――そうだったんですね。

ソウルドアウトの経営理念・ビジョンは「ともに覚悟する。ともに挑む。」ですが、本当に覚悟して仕事に取り組んでいるか、常に問われます。中小・ベンチャー企業の社長の中には、家族に焼き肉をご馳走するはずだったお金を広告費に回してくれる人もいるんです。そんな大切なお金を預けたのに、「成果が出ませんでした」なんて言われたときの社長の気持ちや痛みを想像できるのか、ということです。

――聞いているだけで胃が痛いです。

次のステージへ行けるのは、覚悟を決めて、修羅場をくぐり抜けた人だけだと思います。

――そういう人は伸びますか。

伸びます。とはいえ、追い込みすぎるとつぶれてしまう人もいますので、誰かに言われたから背負っているのか、自分から希望して背負っているのかを見定めてやる必要があります。仮に誰かに背負わされた仕事であっても、自分で一度捉え直して、「これはお客さまからオファーがあったクライアントワークだから、自分が絶対に取り組むべき仕事だ」と背負い替えられるかどうか、その仕事に当事者意識を持てるかどうかがポイントだと思います。

――本日はありがとうございました。

Profile
長谷川 智史(はせがわ・さとし)
ソウルドアウト株式会社上席執行役員。
1979年生まれ。株式会社オプトを経て、2008年株式会社ビービットに入社。コンサルタントとして大手企業、Web系企業のWebマーケティング改善に従事。2012年ソウルドアウトに転職。成果改善部門やLISKUL立ち上げを経て、2016年取締役CMOに就任。現在はメディアを活用した成果創出に従事。

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

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