なぜ“ファンベース”が重要なのか―ディノス・セシール、日本ピザハット、ボタニストによる実践事例【実践編】

デジタル施策で狙うべきは、新規獲得よりも既存顧客のLTV向上
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Salesforceが7月10日に都内で開催した「少数チーム&少額予算でもできる!『お客様と長くつながる』デジタル施策実践セミナー」の前半では、ファンベースカンパニーのさとなお(佐藤尚之)氏によって、“ファンベース”の重要性が語られた。

【前編】さとなお氏の基調講演「デジタル施策で狙うべきは、新規獲得よりも既存顧客のLTV向上―なぜ“ファンベース”が重要なのか」はこちら→

本記事では、後編となる、ディノス・セシール、日本ピザハット、ボタニストによる実践事例のセッションを取り上げる。

限界CPAはLTVに依存する

石川森生氏
株式会社ディノス・セシール Chief e-Commerce Officer 石川森生氏

ディノス・セシールの石川氏は、LTVの重要性を実際のビジネスの観点から説き明かした。ディノス・セシールはECサイトも運営しているが、もともとはカタログ通販/テレビ通販の会社だ。通販業界では、マーケティング活動を以下の2つに分けて考える。

  1. 新規顧客獲得
  2. リテンション(既存顧客維持)

リテンションでは一般的に下記の法則が知られている。

  • 1:5の法則(新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかる)
  • 5:25の法則(顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善される)

健康食品などはテレビCMを大量に出稿しているが、これは彼らが限界CPA(赤字にならない新規獲得コスト)を過去の実績から事前に計算できるからだ。

限界CPA = LTV×利益率

獲得した顧客のLTVと利益率がわかれば、限界CPAがわかる。つまり、新規獲得のためのコストを増やしたいなら、LTVを上げるか、利益率を上げるかだ。しかし、利益率をマーケターが調整するのは難しい。結局、マーケティングで限界CPAを上げるためには、顧客のLTVをアップさせるしかない

逆に言えば、LTVのための施策を怠っているなら、新規獲得にいくらコストをかけてもザルに水を汲むようなもの。結局はリテンションへの対応が必要という話に帰着する。新規獲得よりリテンションが重要なのは間違いない。

UXからCXへ、差別化ポイントはリアル

EC業界では、LTVを高めるための取り組みとしてUX(ユーザーエクスペリエンス)が重要とされてきた。しかし、それはAmazonの登場で決着がついたと石川氏は言う。「欲しい物があって、ボタンをひとつクリックしたら翌日届く。このワンクリック決済を超えるUXはない」(石川氏)からだ。そのため、今はCX(カスタマーエクスペリエンス)にフォーカスが移っているという。

UXは主にWebサイト上での体験について語られることが多い。一方、CXとは顧客体験全体にフォーカスする。つまり、オンラインもオフラインも含めて、すべての接点における体験を最適化するということだ。実際に、ECで覇者となったAmazonやタオバオは、リアル店舗への取り組みを始めている。

ディノス・セシールは、幸いなことに元々持っている紙のカタログという強みがある。脳科学的にも、紙はディスプレイよりも情報を受け取りやすいと言われている。紙とWebは対立構造ではなく、補完する関係だ。両者を連携する取り組みを進めている(石川氏)

ディノス・セシールのMAツールの使い方

ディノス・セシールでは、Salesforceのマーケティングプラットフォーム「Marketing Cloud」を導入している。これをどのように活用しているか、石川氏は実例を紹介した。

その① ストーリーテリング

ディノス・セシールは数十万点のアイテムを扱っているが、それぞれに購入に至るストーリーがある。それを個別に実装することは難しいため、MAツールにシナリオとして組み込んでいる。

例えば、オリジナル商品「スティッククリーナースタンド」の例が分かりやすい。これは、ダイソン製のスティック型掃除機を立てるためのスタンド商品だが、1万円ほどと高価だ。このため、元々高価なダイソンの掃除機を購入するタイミングではレコメンドしない。ただし、ダイソンのスティック型掃除機は自立しないため、立てかけておくとそのうち倒れる。何度か倒してしまったユーザーは、「この掃除機の居場所を作らねば」という気持ちになる。そのため、スティック型掃除機購入後、一定期間経ってからレコメンドした方が反応がよくなる。

適切なタイミングでレコメンドすることが接客であり、CRM的には「ファンを増やす」方法ということだ。石川氏は、「Marketing Cloudを導入したのは、ストーリーテリングをソリューションで解決したかったから」だと言う。

その② 紙とWebを横断したコミュニケーション

もともと、ディノス・セシールでは紙とWebが分断されており、「部署も違えば予算もKPIも全部別だった」(石川氏)。しかし顧客は、どちらか一方だけと接触するわけではない。

以下の図がディノス・セシールの考えるCXの全体像だ。Webから入ってきた顧客にも紙カタログを送り、紙カタログで購入しなかった顧客には、Web、メルマガ、プッシュ通知、LINEなど、あらゆるタッチポイントを使って、どこかで買ってもらうという戦略に切り替えているという。

ディノス・セシールの考えるCXの全体像

こうした丁寧な接客をするのは手間がかかるため、どのタイミングで何をすればいいかのノウハウがあっても実現が難しい。そこで、クロスチャネルのタッチポイントのシナリオを統合するのにMarketing Cloudを役立てているという。

例えば、カートに入れたまま購入せず放置されている場合のシナリオで、カート放棄された商品を即座に紙ハガキのダイレクトメールで送るという取り組みはレスポンスがすごく良かったという。これが、ディノス・セシールの試算を最大限使ってファンになってもらうための取り組みの一つだ。

チャネルを拡大してLTVをアップする

藪内浩平氏
日本ピザハット株式会社 マーケティング部 デジタルマーケティング課 藪内浩平氏

次に登壇したのは、日本ピザハットの藪内浩平氏だ。ピザハットは言わずと知れた宅配ピザのチェーン店だが、日本においてピザは年に2-3回も購入されれば良いほうだという。そのため同社のメンバーシッププログラムでは、以下のようにランクを決めている。

  • VIP:年に6回以上購入
  • GOLD:年に2~5回購入
  • REGULAR:年に1回購入
  • LAPSED:1年間未購入

マーケティングの目標は、各ランクの人を上に引き上げることで、マーケティングファネルのうち「購入」「リピート」「ロイヤリティ」の部分がCRMの範囲となっている。

マーケティングファネル

LTVについては、一人当たりの年間購入金額で評価している。また、Web会員でもメールの受け取りを拒否している会員よりも受け取りを許可している会員の方がLTVは高くなっている。

つまり、ピザハットでは、CRMアプローチができるデジタル会員、特にメール会員の獲得が売上貢献につながるということだ。

デジタルシフトが進む中、ピザハットでは以下のような課題を解決するため、Marketing Cloud導入に踏み切った。

  1. 高速PDCAを可能にしたい
  2. 新しいセグメント(お持ち帰り)へのアプローチ
  3. メルマガ会員以外へのアプローチ(チャネルの拡大)

導入した結果、もともとは外部ベンダーの協力がなければならなかったABテストや自動メール、セグメント作成などがマーケティング部のみで完結できるようになり、メール経由の売上前年比115%、セッション数前年比1.2倍という成果を上げているという。

LTVに話を絞ると、メールが届いていない会員に、何らかの方法でアプローチできればLTVは向上するはずだ。そこで、Marketing Cloudによってチャネルの拡大に取り組み始めているという。

チャネルの拡大を目指す

すでに試しているのがSMS(ショートメッセージ)だ。メールを受け取らない会員でもショートメッセージであれば送信できる。テストでは、キャンペーンのお知らせを送信した1万7000人のうち、520人がリンクをクリック、コンバージョンに至った人も1~2%いたという。従来は、メルマガを受け取らない人にはDMを送ってアプローチしていたが、SMSのコストは1通5~6円と、非常に安価にできる。また、実はCTRがメールよりも良いことがわかったという。

もうひとつがアプリプッシュ配信で、開始直後からアプリのCV数が前年比約1.4倍となっている。今後、デジタル広告やLINEも検討しているという。

また、ピザハットでデジタルマーケティングに携わっているのは3人と少人数であり、メルマガ、SNS、CRMそれぞれを別システムで対応していた時は運用の負荷が大きく、誰かが欠けた時の対応などにも苦労があったという。これも、MAの導入によって解決された。

藪内氏は、「マーケティングオートメーションを活用すると、顧客への認知から囲い込みまで多種多様な施策を実行することができる。今はジャーニーを組むところまでは至っていないが、かゆいところに手が届くマーケティングを目指す」と締めくくった。

ファンベースで躍進したボタニスト

今井 新氏
株式会社I-ne 取締役 ブランディング本部 本部長 今井 新氏

ボタニカルライフスタイルブランド「BOTANIST」(ボタニスト)は、ファンベースの成功者と言える。

I-ne社がボタニストのブランド展開を始めた2015年当時、I-neにマーケティング部署は存在せず、ドラッグストア流通ノウハウもなく、広告販促費も大手の10分の1以下、社員数が約50名に対して業界経験者はゼロだった。そうしたなかで、ボタニストが取った商品戦略は下図のようなものだった。

ボタニストの商品戦略のポイント

2015年1月の発売直後からボタニストは躍進し、競争の激しいレッドオーシャンであるヘアケア業界でシェア第3位へと躍り出た。ブランドが急拡大していった経緯を、I-neの今井氏は次のように説明する。

  • Instagramユーザー数が拡大し始めるタイミングでローンチし、ユーザー拡大と呼応して認知が伸びた
  • インフルエンサーマーケティングという言葉がメジャーになる前から、イノベーター理論を念頭に、情報伝達の順番を考えた

インフルエンサーについては、「モデル/タレントがイノベーターというイメージが強いが、実は彼らはアーリーアダプターだったりする。モデル/タレントに対するインフルエンサーは、スタイリストやヘアメークアップアーティストで、その人たちを中心にギフティングを行った」(今井氏)という。

BOTANISTはファンコミュニケーションのツールとしてInstagramを重視している。今井氏によると、Instagram経由で購入した顧客は、LTVがそれ以外の約3倍に達するという。ブランドの世界観に共感することでLTVは高くなるという考えから、ストーリー機能の活用、アーティストや海外フォトグラファーとのコラボなど多数の施策を実施している。

施策にはリアルでのイベントもある。2017年に原宿にフラッグシップショップをオープンし、新商品のローンチパーティやワークショップなどを開催、その様子をInstagramで配信した。リアルで盛り上がっていることも、デジタル上で発信されていなければ、デジタル上の世界では存在しないのと同じという考えからだ。

ブランドへの共感・共鳴にはコミュニケーションの多様化が必要

また、ブランドの世界観やブランドの存在意義に対する共感(いいね)や共鳴(シェア)をいかに多く生めるかが、より長く、深く愛してもらいLTVを高めることに繋がる。そのためには、パーソナライズが重要だと今井氏は語った。

今井氏は、「我々はリアルとデジタルの2つの世界に生きている。さらに、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)/MR(複合現実)など、世界は拡張していっている。だから、コミュニケーションの多様化が必要」と語り、講演を終えた。

3つの事例セッションにおいては、デジタル施策のみならずリアル施策を組み合わせていることが印象的だった。

組織や人材についてディスカッション

最後に開催されたパネルディスカッションでは、組織や人材にも話題がおよんだ。

例えば、ディノス・セシールの場合は紙のカタログのチームとデジタルのチームは別で、KPIも違う。石川氏はサイロ化された8つの部署を横断する役割を担っている。

一方、I-neの場合はブランドごとに各機能を持ったチームになっている。どちらの形が良いかは状況によるため、組織も柔軟に変更していく方が良いだろう。

また会場からの質問で、マネージメントで気をつけていることを問われたピザハットの藪内氏は、「属人化しないこと」という点を挙げた。ピザハットでは、以前はメルマガ、SNS、CRMがそれぞれ別システムで担当者しか扱えなかったが、Marketing Cloudを導入し、共通で使うことで、誰かが不在であっても残った人員で回していけるのが大きなメリットだという。

今回のセミナーでは、全編を通して、既存顧客、特にファンを大事にすることの重要さが強調された。これは、“デジタルマーケティングといえば、場所や時間を問わず効率よく消費者にメッセージを届けるためのもの”――というイメージを一新させるものだ。今の時代に企業が取るべき施策は、相手に合わせたコミュニケーションによりファンの支持を高め、LTVをアップさせることだと言えるだろう。

パネルディスカッションの様子。聞き手はグロービス経営大学院大学准教授の武井涼子氏

大変好評だった本イベントの内容の一部を変更して、11月6日(水)に再度開催が決まりました。
11月6日(水)開催のイベントへのお申込みはこちら→

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