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楽天・三木谷社長が語る、“送料無料ライン全店舗3980円以上”を行う理由と今後の物流戦略

楽天グループが開いた「Rakuten Optimism 2019」で行われた「楽天市場 戦略共有会」の内容をレポート。

この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。

楽天グループが開いた「Rakuten Optimism 2019」の2日目(8月1日)に行われた「楽天市場 戦略共有会」。登壇した三木谷浩史会長兼社長の講演で多くの時間が費やされたのが、楽天独自の配送ネットワーク「ワンデリバリー」構想について。購入者の送料負担を0円とする送料無料ラインを3980円以上に設定した経緯などを、三木谷社長などの講演内容などをもとにまとめた。

「ワンデリバリー」構想への投資額は2000億円超

「楽天市場 戦略共有会」冒頭で流された動画

(物流への)大型の投資をしなければ将来の成長はできない」。三木谷社長は来場した「楽天市場」出店者にこう宣言し、「ワンデリバリー」構想の実現に向けた投資状況について説明した。

投資計画は2000億円超。「第1フェーズで700億円の投資がほぼ終わった。これから1300億円の投資をしていく」(三木谷社長)。

楽天の「ワンデリバリー」構想の実現に向けた投資額は2000億円以上

積極投資を行っているものの1つが楽天の総合物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」。現在、大阪(牧方)、兵庫(川西、尼崎)、千葉(市川、流山)、神奈川(相模原)の6拠点体制から、2020年までに8拠点体制とする。

新たに新設する物流拠点は千葉(習志野)と神奈川(中央林間)。野村不動産が開発する大型物流施設「Landport東習志野」の全フロア、ダイワコーポレーションの大型物流施設「ニッセイロジスティクスセンター横浜町田」の一部フロアを貸借する契約をそれぞれ締結する予定。

楽天の総合物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」の拠点

物流拠点を増やすことで、楽天独自の配送サービス「Rakuten EXPRESS」の配送対象エリアを拡充する。「Rakuten EXPRESS」は楽天が運営する配送サービスで、日用品のECサービスを提供する「Rakuten Direct」、「楽天ブックス」「Rakuten BRAND AVENUE」、「楽天スーパーロジスティクス」で担う「楽天市場」の出店店舗の一部商品を楽天が配送している。

また、「Rakuten EXPRESS」の品質面の拡充も進めている。たとえば「置き配」。楽天ブックスでは「置き配」を通常の配送方法として追加し、「置き配」のシェアが急激に上がったという。「苦情、クレーム、事故はほぼゼロ。お客さまにとっても便利。将来的にはトラッカーを導入したい。そうすれば盗まれても荷物を追跡できる」(三木谷社長)

楽天では、深夜不在再配達、置き配、集荷サービスなどを始めている
楽天では、深夜不在再配達、置き配、集荷サービスなどを始めている
楽天ブックスが「置き配」を通常の配送方法として追加。「置き配」のシェアが急激に上がった
楽天ブックスが「置き配」を通常の配送方法として追加。「置き配」のシェアが急激に上昇した

「Rakuten EXPRESS」の人口カバー率は現在約30%。「人口カバー率を6割まで上げ、2021年には『楽天市場』で扱う物量の5割を『Rakuten EXPRESS』が配送できるようにする」と三木谷社長は言う。残る期間は2年。配送シェアを一気に引き上げる一丁目一番地の策が、送料の消費者負担を0円とする“送料無料ライン”を「楽天市場」全店舗共通で税込み3980円以上にする送料施策だ。

「Rakuten EXPRESS」の人口カバー率は現在約30% 2021年には『楽天市場』で扱う物量の5割を『Rakuten EXPRESS』が配送できるようにする

“送料無料ライン”全店舗共通で税込み3980円以上とした理由

「購入金額●●●●円以上で送料無料」といった送料の消費者負担を0円とする“送料無料ライン”を、「楽天市場」全店舗共通で税込み3980円以上にすると発表した楽天。三木谷社長は「2020年の2~3月までにはスタートしたい」と言う。

楽天は8月1日、「購入金額●●●●円以上で送料無料」といった送料の消費者負担を0円とする“送料無料ライン”を、「楽天市場」全店舗で税込み3980円以上にすると発表
「Rakuten OPTIMISM」で三木谷会長兼社長が発表した

対象の配送地域は日本全域。メール便・宅配便(160サイズ以下)にて配送する商品が対象となる。冷蔵・冷凍品などのクール便、家具などの大型宅配便で配送する商品は対象外。

出店者が送料を負担する“送料無料ライン”を3980円未満にする場合のライン設定は、自由に設定することが可能。こうした「楽天市場」の“送料無料ライン”設定について、三木谷社長は次のようにコメントしている。

この構想を発表したとき(2019年1月)に、南米の例(南米最大のマーケットプレイスと言われる「メルカドリブレ(MercadoLibre)」が、出店型のマーケットプレイスでありながら送料無料ラインの統一を断行した事例)を紹介した。バラバラだった料率を統一したことで、物流量、GMSが30%以上アップした。「楽天市場」も送料を統一することが、売り上げの劇的な向上につながる

「メルカドリブレ(MercadoLibre)」の事例

楽天では「楽天市場」全店舗を対象に3か月間テストを行ったところ、送料無料ラインを3980円に統一したことで、購買金額は約15%増、店舗あたりの新規獲得客は約14%増となったという。「これを導入すれば、10%以上の売上増が見込めると思っている」(三木谷社長)

「楽天市場」全店舗を対象に3か月間テストを行ったところ、送料無料ラインを3980円に統一したことで、購買金額は約15%増、店舗あたりの新規獲得客は約14%増となった

出店型のマーケットプレイスは個々の店舗で扱う商材が異なる。メーカーもいればNB(ナショナルブランド)を仕入れて販売する小売店などさまざま。特に仕入れ商材を扱う企業には大きな負担となる。こうした状況もありながらも全店舗統一に踏み切ったのは、「楽天市場」の送料に関する消費者の不満が大きいことがあげられる。

三木谷社長はこう言う。

消費者もバカじゃない。“送料無料”でもどこかでコストがかかるとわかっている。ではどうすればいいのか? 64%の消費者が送料無料ラインを統一してほしいと考えている。送料無料ラインの統一がなければ、一緒に成長していくことは困難。消費者目線に立ち、合意をいただいて前に進めていきたい。

ECサイトの送料についての楽天市場ユーザーの抱える不満
「楽天市場」ユーザーが抱える送料への不満など

決済・物流を制すものが、通販・ECを制す

三木谷社長の講演の後、出店者限定の戦略説明会が行われた。その説明会では、矢澤俊介執行役員(マーケットプレイス事業ヴァイスプレジデント)が登壇。そこでも“送料無料ライン”統一についての説明が実施された。

出店者によると、主要サイズにおける配送両の他社比較として、FBAマルチチャネルサービスと楽天の物流・配送サービスの料金比較に関するスライドを公表。それによると、次のような料金比較が示されたという。

  • ポスト投稿サイズ
    楽天:248円
    FBAマルチチャネルサービス:550円~650円
  • 宅配60~100サイズ
    楽天:496円
    FBAマルチチャネルサービス:700円~800円
  • 宅配120サイズ
    楽天:648円
    FBAマルチチャネルサービス:1000円~1025円

また、楽天が出店者の倉庫へ集荷に伺う集荷サービス、楽天の配送拠点に出店者が持ち込みを行えるサービスの提供もスタート。日本郵便の「ゆうパック」が特別料金で利用できる「楽天特別運賃プログラム」は9月1日に値下げされるという。

“送料無料”ラインの統一による店舗負担を下げようと、楽天はさまざまな物流・配送関連の施策を実行。出店者によると、登壇した矢澤氏は「年間物流での損失は200億ぐらいで考えている」と楽天のコスト負担を説明したという。

現在、楽天が扱う「楽天市場」の物流量は約10%。2021年末までに「楽天市場」における物流の50%を楽天が担うとしている。

現在、楽天が扱う「楽天市場」の物流量は約10%。2021年末までに「楽天市場」における物流の50%を楽天が担うとしている

消費者との最後の接点であるラストワンマイルの急速な整備を進める楽天。通販・EC業界には「決済・物流を制すものが、通販・ECを制す」という格言がある。楽天の“送料無料”ラインの統一施策は吉と出るか――。

オリジナル記事はこちら:楽天・三木谷社長が語る送料無料ライン全店舗3980円以上を行う理由と今後の物流戦略(2019/08/07)

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