世界の巨大広告主も警鐘を鳴らすアドフラウド問題。日本のマーケターはどうすべきか?

デジタルマーケティング業界のスゴい5人がデジタル広告詐欺やグローバルマーケティングについてJAA主催セミナーで語った。
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左からコーディネーター:山口 有希子 氏(パナソニック)
パネラー:小出 誠 氏(資生堂ジャパン)
石橋 昌文 氏(ネスレ日本)
馬渕 邦美 氏(フライシュマン・ヒラード・ジャパン)
今田 素子 氏(インフォバーングループ本社)

アドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティなどのデジタル広告詐欺やブランド毀損などの問題で、P&Gが41%、ユニリーバが59%のデジタル広告費を削減したという。

アドフラウドの比率はデジタル広告全体に対して、グローバルでは5~20%、日本では5~10%ぐらいあると言われている。日本のデジタル広告でも確実に被害は起こっているのだ。「自分には関係ない、そもそもその問題を知らない、対策していない」という言いわけが通用しないところまで来ている――。

デジタルマーケティング業界を牽引している5人が登壇し、「今、知っておくべき激動する世界のマーケティング潮流」のテーマで日本のマーケティングを語り合ったパネルディスカッション(12月5日、JAA主催)の内容をお届けする。

  • アドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティ問題
  • GoogleとFacebookによる広告市場の独占と「コンテンツはだれが作っているのか」問題
  • マーケティングの変遷
  • 日本とグローバルのマーケティングの違い
  • ストーリーを届けることの重要性とコンテンツマーケティング
  • アドテクの近未来は自動でメディアバイイングするAI

といったトピックに加え、このテーマをさらに深掘りする日本初開催のカンファレンス「WFAグローバルマーケターカンファレンス2018」(2018年5月)の情報もあわせてご覧いただきたい。

アドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティ問題

山口 有希子 氏(以下、山口): 「アドフラウド」「ビューアビリティ」「ブランドセーフティ」という問題によって、世界の2大広告主、P&Gとユニリーバがデジタル広告費を削減したという話題が数か月前、駆け巡りましたよね。

  • アドフラウドとは、広告主(アドバタイザー)がプラットフォームなどに広告を出稿して広告費を支払っているにもかかわらず、詐欺的な広告の消化がされているものを指します。

  • ビューアビリティとは、インターネット広告が「閲覧者が見られる状態にあるか」の観点と、それを確保するための動きを指します。

  • ブランドセーフティとは、広告主のブランド価値を毀損する形で広告が表示されたり、広告出稿によって反社会勢力などへ意図せず資金提供する結果になったりすることを避ける考え方を指します。

馬渕 邦美 氏(以下、馬渕)P&Gさんが41%、ユニリーバさんが59%デジタル広告費を削減したと言われています。エージェンシーにとっては、売り上げダウンにつながる問題でしたが、広告主側にはさほど大きな影響が出なかったとも言われています。とはいえ、この状態が長期化するとタッチポイントが減って、広告主側にも影響が出てくるでしょう。

小出 誠 氏(以下、小出): 日本でも、これらの問題に対する危機感が最近徐々に高まっています。アドフラウド比率はグローバルでは5~20%、日本では5~10%ぐらいだと言われています。現場担当者の問題意識として浸透してきていますが、対策をしている企業はそんなに多くありません。

山口: 石橋さんの企業では、どんな対策を取られていますか?

山口 有希子氏

石橋 昌文 氏(以下、石橋): 昨年、ネスレの本社(スイス)でこれらの問題に対するガイドラインを決定しました。各国のマーケットである一定の水準を設けて、トラッキングして、メディアのブラックリスト化とホワイトリスト化をしています。実際に、ホワイトリスト化されたところを利用すると、広告効果が上がるという結果が出ています。

ネット広告市場の7割をGoogleとFacebookが独占

馬渕インターネット広告市場の約7割をGoogleとFacebookの2社が独占していることも問題の1つです。

今後、Amazonなどもデジタル広告業界に参入して競争が激化すると予想されますが、彼らに共通することは大量のデータを保有していることです。GoogleならばGmailなどを含む「検索データ」、Facebookは「ソーシャル上のデータ」、Amazonは「購買データ」を持っています。

広告最大手のエージェンシーWPPなどは、「データ・ホリゾンタリティ」というWPP傘下の企業が分散して収集・蓄積しているデータを提携させて、プラットフォームに対抗していく動きもあります。

馬渕 邦美 氏

今田 素子 氏(以下、今田): この問題の裏側に「コンテンツをだれが作っているのか」「コンテンツを作っている人に広告費が適切に配分されているのか」という観点があります。

コンテンツを作って情報を出しているのはメディアであって、GoogleやFacebookのようなプラットフォーマーは、コンテンツを持っていません

にもかかわらず、広告主が支払う広告費のうち、代理店やプラットフォームに60%も消えていき、コンテンツの作り手であるパブリッシャー(メディア)には40%しか残りません。さらにそこから、アドフラウドなどで12%消え、最終的にパブリッシャーに28%しかお金が残らない状況になっていると、2016年のWFAの調査で明らかになっています。

2016年のWFAの調査より

マーケティングの変遷

山口: デジタルマーケティングの変遷についてどう感じていますか?

小出: デジタルの変遷で感じてることが2つほどあります。

  • 1つ目は、「デジタル広告を使うこと」や「デジタルマーケティング」が目的化していること
  • 2つ目は、デジタル広告費を使えば、パフォーマンスは維持したまま、広告費全体を抑制できると単純に思われていること

デジタル広告は、消費者とのコミュニケーション手段の1つであるはずなのに、デジタル広告を使うことが目的となっている側面があります「それ、本当にデジタル関連のメディアを使うのが一番いいのでしょうか?」ということもあります。

また、デジタル広告を増やせば「単価が下がって全体の広告費が安くなるんじゃないか」と思われています。今後デジタルメディアへのシフトがより増えると需給関係も変化しますし、加えてアドフラウドやブランドセーフティなどの対策をしていくと、その対策費が追加で必要になります。

さらに、どの企業もホワイトリストを作り始めると、そのメディアへの出稿競争率が高くなって、その分単価も上がるでしょう。今は「テレビよりもデジタルは安い」といわれることもありますが、今後それが逆転する可能性もあります。

小出誠

日本とグローバルのマーケティングの違い

山口: 「日本にはCMOがいない」と言われていますが、グローバルと日本のマーケティングの違いはありますか?

石橋: ネスレ日本の場合、グローバルと日本で大きな違いはありません。スイス本社と日本の組織構成はミラー構造になっています。売上と利益に責任を持つのは事業部で、事業部がマーケティング(=経営)の中核です。それら事業部を横串で見てサポートするのが、私が所属しているマーケティング&コミュニケーションやファイナンス、製造、人事、物流、営業といった組織です。私たちの部署は、事業部の消費者コミュニケーションに関わるパート全般をサポートしています。

石橋昌文氏

小出: CMOが機能せず、事業部の足並みがそろわないということを耳にします。日本の伝統的な組織構造として、事業部が主体となって営業や販促活動を進め、CMO不在のまま長く企業活動をしてきました。そういった背景もあって、CMOが少ないのではないでしょうか。

資生堂では2016年よりグローバル経営体制に移行しており、6つの地域に分かれてマーケティングや営業などを統合した組織運営となっています。私が所属する資生堂ジャパンも、日本のマーケットを担当する地域本社としてこのタイミングで設立され、同時にCMOが着任しました。現在は、資生堂ジャパン社長がCMOを兼務しています。

山口: 事業部とCMOの足並みがそろわないことってありますか?

石橋: ネスレ日本では、そういったことはほとんど起きていません。事業部の意見とCMOの意見が違うときは、話し合いを重ねて最終的にどれがベストか決めていきます。それでも決まらない場合は、CEOまでエスカレーションすることもありますが、ほとんどそのような事案になることはありません。

山口: 典型的な日本企業のマーケティング組織はどうなっているのでしょう?

馬渕: すごく話しづらいですね(笑)。マーケティングにおいて、ボトムアップで決まらないことは多いです。特に「新しい価値を創造する」ような場合、複数の部署から人が集まります。しかし、それぞれがそれぞれの立場で言いたいことを言うので、決まらないということはよく起こっています。

エージェンシーとしては、すごく歯がゆいですよね。「経営 = マーケティング」となっていない企業を、どうデジタル化して行くか。デジタルマーケティングではなく、マーケティングをどうデジタル化していけるか。この課題を解決するのが、会社全体最適の役割を担うCMOなのかもしれません。

ストーリーを届けることの重要性とコンテンツマーケティング

山口: デジタル広告は刈り取り型が中心でしたが、どのように変化してきていますか?

今田: 特にECの場合はデジタル広告から商品購入へとダイレクトにつなげられるので、買わせること(パフォーマンス)を目的にしたデジタル広告が非常に多かったです。

しかし、購入されるまでにどう認知されて、どこで態度変容が起こったのかを探ってみると、テレビCMや雑誌、新聞などが購買者の気持ちを醸成している、そこに広告主が気づき始めたわけです。そこでようやくプロダクトや企業のストーリーを届けることの重要性を再認識し始めました。

そういったことでコンテンツマーケティングへの注目が集まっていると言えると思います。

今田素子

山口: 実際どんなコンテンツマーケティングをしていますか?

石橋ユーザーとのコミュニケーションを目的としたコンテンツという意味でいうと、「ネスレアミューズ」があります。ネスレアミューズには、ネスレの各ブランドサイトや公式YouTubeの「ネスレシアター」、ECなどネスレに関連したサイトを集約しています。

ユーザーに楽しんでもらうことを目的としてネスレに関連したサイトを集約したのが「ネスレアミューズ」
https://nestle.jp/

ブランドへのエンゲージメントをどう高めるのか」という文脈でコンテンツは重要です。15秒や30秒のテレビCMではエンゲージメントできません。もっと深いブランドのコンセプトやメッセージを、少し長い尺のショートムービーで伝えていく、そうしたことがユーザーとのコミュニケーションにつながります。

そうしたコンテンツを「見たから買った」という因果関係は見えてきていませんが、ネスレシアター内のコンテンツを見た人と見ていない人では購買に違いがあるという相関関係は表れています

2013年から映画監督と組んでYouTubeのネスレシアターでコンテンツを作っていますが、全体で3300万回再生されています。ネスレアミューズの訪問者数は年間7000万人、会員数も530万人ほどに成長し、コミュニケーションを目的とした1つのプラットフォームとしては、成功してきたかなと思っています。

アドテクの近未来は自動でメディアバイイングするAI

山口: 広告業界にアドテクノロジーの波がやって来て久しいですが、次はどんな流れがやってくると思いますか?

馬渕: AIファーストの流れはやって来るでしょう。自動でメディアバイイング(広告枠の買い付け)をするという機能を持っているAIも登場し始めています。

操作は簡単です。

  • 広告を買う目的(売上、気づきを得るなど)
  • その目的を解決する方法(ディスプレイ広告、プログラマティック広告、ソーシャル広告など)

を選択して予算を入力すると、自動学習で最適な買い方をします。

運用初期は人間の勘が優れているが、情報がある一定以上集まると最適化が加速度的に行われます。そうなると、1000分の1秒の速さで入札していける機械は強いですよね。

しかも近い将来、勝手にカスタマージャーニーを作って「ここで詰まっていますよ」と問題点を指摘してくれるようになるらしいです。AIは未来を描くことはできませんが、人間をサポートする強力なツールとして活用される時代はすぐそこまで来ています。

まとめ

山口: 最後に小出さんから一言いただけますか?

小出: JAAのデジタルメディア委員会の委員長として来年以降強化していくことが2点あります。

  • 「アドフラウド」「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」への現状把握と対策強化する
  • テレビCM量とデジタル広告量をすり合わせる

JAAの会員を対象にアドフラウド、ブランドセーフティ、ビューアビリティの状況把握と対策を議論するセミナーを2018年1月以降に開催していきます。

また、流通企業との取り組み現場では、棚割がGRP(テレビCMの延べ視聴率)の多寡で決まる傾向があります。つまり、テレビCMを大々的に流せば流すほど、小売の店頭で棚を確保できるということです。

しかし、生活者のコミュニケーションにおけるデジタル化が進んでいる現在では、棚割の決定にもデジタル広告量を加味していかないと実際の顧客の動きとすれ違いが起こりかねません。

ですので、デジタル広告との接触も加えて「テレビとデジタルの合計で何人が何回広告に触れたか」といった判断基準に変えていっていただけるようにJAAとして取り組んで行きます

また、会場から次のような質問が投げかけられ、小出氏が質問に回答した。

――デジタルを使ったときのリーチの限界について教えてどう思われるか?

小出: デジタルだけでは限界があり、得られるリーチのカーブもテレビに比べるとデジタルは緩やかです。デジタルとテレビ、デジタルと紙といったように何かと組み合わせて、最適なコミュニケーションをすることがゴールなので、その最適な組み合わせを模索する必要があります。

また、ブランドとコンシューマが直接つながるコンテンツとコンシューマ同士がつながるコンテンツをそれぞれ最適化して、リーチの限界を作らないようにしていきたい。

今回のパネルディスカッションで扱った「今、知っておくべき激動する世界のマーケティング潮流」というテーマや問題に関してさらに詳しく論ずるカンファレンスを、JAA(日本アドバタイザーズ協会)とWFA(世界広告主連盟)が2018年5月に開催する。

グローバルのマーケティングがどんな流れなのか、グローバル企業は今日パネルで挙がった問題に対して「どのように対策しているのか」といったことを直接見聞きするカンファレンスだ。

WFAとは世界最大の広告主団体であるWFAグローバルマーケターカンファレンス(World Federation of Advertisers: 世界広告主連盟)。世界54ヶ国の広告主企業と団体で構成され、構成メンバーの総広告費は世界のマーケティングコミュニケーション費の90%にのぼる。

毎年各国にて開催されるWFAグローバルマーケターカンファレンスには世界のトップマーケターが集い、最新のマーケティングやコミュニケーションについて議論が行われていて、日本では初の開催決定となる。

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