プレスリリースを元にした記事に佐藤秀峰氏が著作権侵害と激怒! 弁護士「実は佐藤氏が正しいんです」
今日は、著作権に関する話題を。プレスリリースに添付されていた漫画の画像を記事に使ったところ、著作権者から「侵害だ」と指摘されるという事件がありました。この背景にある法律上のポイントを、弁護士の伊東孝氏(東京弁護士会所属、小笠原六川国際総合法律事務所)に聞きました。
佐藤秀峰氏が、リリースを元に記事を作ったおたくま経済新聞にクレーム事件
こんな事件が、最近ありました。経緯は次のとおりです。
漫画家の佐藤秀峰氏が、リイド社から最新作を出版。
リイド社が発行に関するお知らせをプレスリリースとして配信。
おたくま経済新聞が、そのプレスリリースをもとに記事を制作・掲載。記事には、プレスリリースに添付されていた漫画1話分の画像を掲載。
記事に漫画1話分が掲載されていたことに対して、佐藤秀峰氏が著作権侵害だと指摘。
おたくま経済新聞は、指摘を受けて記事内の漫画画像を削除してお詫び。
これだけ見ると、おたくま経済新聞が悪いように見えます。
しかし実際には、おたくま経済新聞はリイド社からのリリースをもとに記事を作っています。そして、リイド社がプレスリリースに添付していた漫画の画像は、著作権者である佐藤氏の許諾を受けていなかったことが判明します。
つまり、ミスをしたのはリイド社であって、おたくま経済新聞ではなかったのですね。
権利を侵す意図がなかったおたくま経済新聞に罪はあるのか?
実際にリイド社からは「悪いのはリイド社でありおたくま経済新聞に落ち度はない」旨の説明があったということで、そうしたこともおたくま経済新聞はツイートしていました。
しかし、それに対して佐藤氏は「著作権侵害をしたのに、自分は悪くないと主張している」と指摘。
こうした流れに対して、「わざとでないのに侵害って」「おたくま経済新聞は“善意の第三者”であり、罪はないのではないか」という意見が見られました。
実際に、私もそうした意見でした。
しかし弁護士に聞くと「法的には、侵害していることになる」ということでした。
法的には、故意でなくても「侵害」は認められる(ただしその意味あいは一般的な「侵害」とは異なる)
弁護士の伊東孝氏は、この件に関して次のように解説しています:
法律的に正しいのは、著作権者の佐藤氏がツイートしている、
結果的に著作権を侵害した事実は変わらないのに、「盗んだけど私に落ち度はないし悪くない」と主張したいようです。
というものです。世の中法律だけではないですけど。
つまり、「おたくま経済新聞は故意に著作権侵害をしたわけではないので、問題はない」と考えるのは、法律的には正しくないということです。
具体的には、どういうことでしょうか。伊東氏は次のように解説しています。
著作権のこの手の侵害は、①刑事と②民事に大きく分かれます。
刑事は、故意犯です。つまり過失で侵害しても刑事犯とはみなされません。
民事は、過失が関係する部分とそうでない部分があります。
無過失であっても、侵害の事実があれば差し止め請求はできます。
しかし損害賠償請求については、侵害に加えて故意・過失が必要です。
権利者の許諾なしに使用してしまえば、無過失でも侵害ということになります(それが引用などの例外規定に当てはまらない限り)。
つまり、故意でなかったとしても、侵害は侵害。だから、著作権者が「掲載するのをやめるように」と請求することは可能なんですね。
ただし、故意ではない場合には、それによって生じた損害について損害賠償を請求することはできないと。
さらに伊東氏は、この「侵害」という言葉の意味あいに関して、わかりやすく補足しています。
ただし、著作権法上の「侵害」と、一般的な国語としての「侵害」は、ニュアンスが違うとは思います。
著作権法上は、無断利用的なものがあれば、無過失であってもそれを「やめて」と著作権者が言える権利を認める必要があります。そのため立法技術上は、過失の有無にかかわらず「侵害」を設定する必要があるのです。
とはいえ、(無過失の場合)その「侵害」という表現に非難の意味合いは薄いといえます。実際、無過失であれば刑事はもとより損害賠償も認められないわけですから。
改めて解説すると、今回のおたくま経済新聞は、「それが著作権者の権利を損ねるものではなく、適切に権利処理されたものだ」と信じて行っていたものです。そうした状況であっても「侵害は侵害」です。しかし、その「侵害」という言葉は、あくまでも著作権者の望まない状態になっていることを示すものであり、一般的に考えるような悪意を意味したり非難を意味したりというものとは、少し異なるということですね。
つまり、「侵害は侵害だから、著作権者からの要請があれば、著作権侵害状態を解消する必要がある」「しかし、それは強く非難されたり、あとから損害賠償を請求されたり、または、刑事事件として告訴されたりするようなものではない」ということです。
昨年に問題になったいわゆる“キュレーション”メディア系でも、Wikipediaや「どこかのブログ」にいちど転載させ、それをコピペすることで権利侵害がないように見せかけるやり方があったようです。しかし、そうした経緯があっても掲載を停止するように著作権者が要請することは可能なんですね(損害賠償については、その裏の動きを暴かないと認められにくいという問題は残りますが)。
そもそもリリースは権利を許諾しているのか? リリース内に許諾を明示するべきでは?
この件に関して、「メディアはすべてのプレスリリースの内容について、権利関係を確認しなければいけないのか」という声もありました。
もちろん、ソースが何であれ、メディアが掲載する前にその内容に関して裏取りをするのは必須です。それは間違いありません。
しかし、あらゆるメディアから「プレスリリースに添付されているこの画像は記事に使用していいのか」という問い合わせが来たら、広報部はパンクしてしまいますよね。
そんなことをしても、だれも得をしません。社会の効率が悪くなるだけです。
でも、よく考えると、「プレスリリースに掲載・添付されている内容は、記事に利用していい」というのは、あくまでもビジネス慣習によるものなんですよね。明示的に許諾を受けたものではないんですよね。
昔はプレスリリースに関係するステークホルダーの数が少なかったからだれも気にしなかったと思うのですが、いまのリリースというものは、ネットに公開されてだれでも見られるようになっているんですよね。
そこで、1つ提案です。
プレスリリース・ニュースリリースでは、そこに記載されている内容や、添付されている素材に関して、メディアでの利用を許諾する旨を常に記載するというのは、いかがでしょうか。
そうすれば、メディアは安心して利用できますし、法的な問題もクリアできます。
どうでしょうね。テンプレに入れるだけだと思うのですが、やはりそうしようとすると法的な問題がいろいろ出てくるんでしょうかね。
ソーシャルもやってます!