ソーシャルメディアで共感を得るには同じ目線に立つこと、現場取材でネタを集める「産業能率大学」
中高生や大学生にとってソーシャルメディアが日常的なツールとなった現在、教育機関におけるソーシャルメディア活用も必須といえるだろう。単なるコミュニケーションツールとしてだけでなく、情報収集に使う人もいる。
アクティブラーニングに定評のある産業能率大学。ソーシャルメディアを活用して、学生生活やイベントの様子などを幅広く発信している。共感を得る投稿のポイントは、学生とのコミュニケーションにあるという。
大学の公式アカウントを運用する企画広報部の村山滋氏と金井暁子氏に話を聞いた。
- Twitter: @sanno_univ
- Facebook: @sanno.univ
自ら実践して知見を得る
――ソーシャルメディアの運用をはじめた経緯を教えてください。
村山ソーシャルメディアは、Webサイトだけでは伝え切れない学生生活や活動、イベントレポートなどの独自情報を配信することを目的に運用しています。運用しているなかで、Twitterは主に在学生が見ており、Facebookは在学生や受験生の保護者の方や卒業生が多く見ているように感じています。
Facebookは2012年3月に、Twitterは2013年8月にアカウントを登録しました。まずアカウントの確保のために登録しておいたもので、公式に運用を開始したのはもう少し後です。
アカウント登録した当初は、ソーシャルメディアが今ほど浸透していなかったので、どのように運用すればいいのかわかっていませんでした。しかし、すでに多くの大学がソーシャルメディアの運用を開始しており、大学の「いいね!」ランキングなども発表されています。積極的に運用していくことで大学の存在感を高めることができるのではないかと考え、いろいろと研究しながら運用を始めました。
――運用にあたってどんな研究をされたのでしょうか。
村山まずは他大学がどんな情報発信をしているのかをチェックしました。私自身は、それまで個人的にはソーシャルメディアを使っていましたが、公式アカウントでの発信の経験がなかったので、運用する上で情報収集しました。
ただ、一部の先進的な大学を除くと、ホームページの新着情報を紹介するためのリンク集になっているところが多かったので、企業のアカウント運用も参考にしました。
アカウントの運用を開始してしばらくは、担当が私1人だったので、自分で取材をして投稿する文章を作成し、アップまで1人でやっていました。イベントのときは、臨場感を伝えるためにリアルタイムで投稿していました。その後、昨年から金井がメンバーとして加わり、取材と投稿文の作成を担当してもらうようになりました。
足を使った取材で心を動かす投稿を作成
――メンバーが増えたことで、運用マニュアルや投稿ルールは整備しましたか。
村山担当者(金井)が書いた原稿は課長が確認し、部長である私が承認して投稿するという運用体制です。2段階の承認を経ることで、日程の間違いなどのケアレスミスを防ぐことができます。
複数の人間が運用することについては、ユーザーが混乱しないようにトーン&マナーが大きくブレないように気をつけています。ただ、担当者それぞれの個性やユーザーとの向き合い方など、書き手の色が自然と出てくるものについては、そのまま活かしています。
投稿の文字数に制限がある場合は、文章をまとめるスキルも必要ですが、それ以上にどれだけ読者の立場になって考えて書けるかが、メッセージ作成の重要なポイントだと思っています。ですからマニュアルで均一化することよりも、読者とどのように向き合い、何を伝えるかというコミュニケーションの基本を重視しています。
もちろん事実確認はしっかり行いますし、著作権や肖像権への配慮には最大限の注意を払います。あと、魅力的に描写することは大事ですが、実態以上に見せかけるのはダメだと言っています。10のものを5でもなく15でもなく、ちゃんと10で伝えることに気をつけています。もっとも、最近は最初の頃に比べて直しも減り、ほぼそのままで最終承認までいくようになっています。
なお、ソーシャルメディアは情報発信の場というよりもコミュニケーションの場と考えていますので、投稿にコメントや返信が来たときは、基本的に返信するという方針で運用しています。たまに海外からコメントをいただくこともあるので、自分のスマホに翻訳アプリをインストールしました。
――投稿作成のネタはどのように集めていますか。
金井ゼミや部活、イベントなどに関わる学生を取材して原稿を書いて、一緒に撮影もしています。現場に足を運び、学生と一緒の目線で話を聞くことを心がけています。以前は、パンフレットを見て原稿を作成したり、写真を提供してもらって書いたりすることもありましたが、それでは心に刺さる原稿ができないんです。
産業能率大学では、学外の企業や団体とのコラボレーションプロジェクトなどを積極的に実施しています。単に学生が企業に提案したり、企業と話をしたりするだけでなく、「調査」「プレゼン」「フィードバック」「企画の実現」「その後の調査」というところまで一貫して行います。
先日も、学生がカフェのメニューを考えるというプロジェクトがありましたが、そのときはお店と学生との打ち合わせの段階から取材しました。打ち合わせを経て提案したメニューが採用されて、実際にお店に出るところまで、時系列で追って投稿を作れたのはよかったですね。
また、学生も自分たちの活動や写真が大学のソーシャルメディアに投稿されることをすごく喜んでくれて、ソーシャルメディアの投稿が学生のモチベーション向上にもつながっています。学生が登場する投稿は、関係するゼミの学生だけでなく、他の学生、高校生などからの反応もいいですね。
取材の経験を積んでいくことで、より周りに伝わるような書き方ができるようになってきました。取材するときは、「広報部です」といって距離をとるよりも、一緒におしゃべりをして心理的な距離を詰めるところから始めています。そうした方が、学生が本音を語ってくれますし、写真も自然な表情が撮れるんです。
現場に足を運び、学生と一緒の目線で取材することで心に刺さる投稿を作れる。
コミュニケーションして距離を縮めればネタが集まってくる
村山ソーシャルメディアの運用が定着するにつれて、ありがたいことに「ソーシャルメディアで活動を紹介してもらえませんか」と先生や学生から連絡をいただいたり、「今度ゼミでイベントをやるので取材に来て下さい」という依頼をいただくことが増えています。そういう場合、最終的なアウトプットだけでなく、できるだけプロセスも取材するようにしています。
あとは取材とかではなく、たまたま廊下ですれ違った先生との立ち話で面白い情報に出くわすこともあるので、ネタに困ることはありませんね。先生方が授業を工夫しているので、広報としても取材のやりがいがありますし、ありがたいと思っています。
広報担当者の最大の悩みは「情報が集まらないこと」という話を聞くことがありますが、情報は「集まる」ものではなくて「集める」ものです。情報が集まってくるのを待つのではなくて、現場に足を運んで情報を集めることが大事だと思います。
一度取材した先生から、他の先生の取り組みを紹介していただくこともあり、情報がどんどん入ってくるようになります。
情報は待っているだけでは集まらない。普段のつながりが、情報集めのきっかけになる。
ツイートを検索してオープンキャンパスの感想をチェック
――投稿作成のコツについて具体的に教えてください。
金井Twitterの場合は特にフォロワーに大学生や高校生が多いので、堅苦しくなりすぎないようにやわらかくしています。といっても、学校という立場ですから、馴れ馴れしすぎることはなく、ちょうどよい距離の取り方を考えています。サラッと読めて、感覚的に頭に入りやすいということを意識していますね。
Facebookは同じように柔らかくはありますが、ユーザーが保護者の方や卒業生が多いことから、少し年齢層が上の方を意識して作成しています。
TwitterもFacebookも画像が重要なので、なるべく画像をつけて投稿しています。特にTwitterは文字数に制限がある分、内容をイメージしやすい画像で伝えていく必要があります。
取材のときは、学生が普段どのようにソーシャルメディアを使っているのか話を聞いて、投稿の参考にすることもあります。
村山金井の投稿は、読んでいる人や取材した人への思いやりを感じます。ソーシャルメディアを通して学生を増やそう、イメージを上げたいというよりも、「学生ががんばっていることをまずは知ってもらいたい」という気持ちが感じられ、受け手側としてもすんなり内容が頭に入ってきます。
――効果測定はされていますか。
金井KGI、KPIを設定して改善するというような本格的な効果測定はしていませんが、「いいね!」やリツイート、コメントが多い投稿については、何が良かったのか振り返っています。また、多くの人に伝えたい内容だったのに反応が悪かった場合は、何が悪かったのかを分析することもあります。
正直、「いいね!」の数などはそれほど気にしていません。学生に取材に行くと、「あの投稿見ましたよ」と言われることも多く、「いいね!」が少ない投稿でも、実際に見ている人は多いと感じています。
投稿はツールの「つぶやきデスク」を使っています。ツールでリンクのクリック数を計測していますが、それを見ると「いいね!」数は少なくてもクリックされていることもあります。
村山運用の効果測定ではありませんが、ユーザーのツイートなどを検索してどういうことがつぶやかれているか調査することもあります。
オープンキャンパスなどのイベントの後には、キーワード検索して参加した高校生がどんなことをつぶやいているのか見ることがあります。イベントではアンケート調査も行いますが、ソーシャルメディアでは、その瞬間のより自然でリアルな感想が収集できると感じています。
ソーシャルメディアでは、その瞬間のリアルな感想を収集できる。
ツールの導入で重視したのは承認ワークフローが回せること
――ソーシャルメディアの運用ツールは、どのような基準で選定しましたか。
村山お伝えしたように、最初は私1人で運用していたので、取材や投稿の作成がリソース的に限界でした。また、夏休み期間中など、休日の対応をどうするのかといった課題がありました。組織的に運用する体制を作らないといけなかったのですが、企画広報部の全員をアカウント管理者に登録するのも現実的ではありませんでした。
アカウント管理の問題だけでなく、認証フローもツールで実現できればと考え、その機能を持つツールを探して比較検討しました。FacebookとTwitterの両方に対応していることも条件でした。
求めている機能要件を満たしているツールの中で、つぶやきデスクは価格がお得でした。大規模でいろいろな機能があるよりも、投稿の承認機能があることを重視して、まずはトライアルで導入することになり、トライアルでは想定した承認ワークフローが回るのかを検証しました。それが2016年の夏頃で、正式導入したのが秋頃です。
――ツールを導入したことで、運用フローは変化しましたか。
村山承認の運用フローが改善できました。導入前までは、原稿の素案をWordで作成してメールで送り、それをリライトして戻してから投稿するという流れでしたが、非常に効率が悪かったのです。今は、つぶやきデスクで投稿を作成し、ツール上で承認フローを回せるので、スムーズになりました。
また、予約投稿の機能も助かっています。情報解禁日が決まっている場合は、早めに用意して予約投稿をしています。
ソーシャルメディアで共感を得て関係を深めたい
――公式アカウントの運用の話からは外れますが、学生さん向けのソーシャルメディアガイドラインなど、丁寧に作成されていますね。
村山はい。大学生のTwitter炎上が相次いだときに、学生向けのガイドラインを作成しました。炎上してしまうと、学校がどうこうよりも、学生個人が辛い目にあうので、そうしたことを減らしたいという思いからです。学生自身を守るためにも必ず読んでもらうようにしています。学校のWebサイトにも掲載していますし、冊子も配布しています。
――今後は取り組みたい施策はありますか。
金井Twitterではハッシュタグをもう少し効果的に使いたいですね。ソーシャルメディアの特性を活かした使い方で、共感を得て関係を作るという展開をしていきたいです。
村山動画をもう少し活用したいと考えています。案件によっては、写真+テキストよりも動画で紹介した方が伝えやすい場合があります。今は月に1~2本の動画をYouTubeにアップしていますが、本数を増やすことと投稿するプラットフォームの幅も広げたいですね。
――最後になりますが、産業能率大学の特色を教えてください。
村山最近、アクティブラーニングが話題ですが、産業能率大学では以前より推進してきました。学生の学びを重視して、積極的に取り組んでいるところに特色があり、企業や団体とコラボレーションして商品開発をしたり、地域創生のアイデアを出したり、といった活動をしています。
企業も社会的責任の一環で、大学とコラボすることは多いですが、産業能率大学の場合は形だけでなく、商品化など具体的なレベルまで落とし込んでいるのが特徴です。
金井私自身、取材を通して学生が考えるだけでなく、実際に作るところまで取り組んでいるところを見ていてスゴイと思います。先ほど例に挙げたカフェのメニュー以外にも、フリーペーパーの作成など、学生たちだけで形にするところまでやっているので、いい経験になっていると思います。
ソーシャルもやってます!