いまさら聞けないオウンドメディアの定義。サイト立ち上げ前に知っておきたい基本とは? #01
昨今、マーケティング界隈を賑わす「オウンドメディア」というキーワード。みなさんはどの程度、理解していますか?
なんとなくイメージはできるけど、注目されている理由がピントこない。
うちの会社もやった方がいいのか、上司に聞かれたけどうまく説明できない。
など、マーケティングやコミュニケーション施策の1つとして実施検討を始めていたり、興味を持っていたりするWeb担当者の方も多いのではないでしょうか。今回は、改めてオウンドメディアを始める前に知っておきたいことを、40社以上のオウンドメディア立ち上げ支援を行ってきた筆者、サムライト 代表としての知見から解説していきたいと思います。
いまさら聞けないけど、オウンドメディアって何?
オウンドメディアを一言で簡単に説明すると、「Owned = 所有する」メディア、つまり「自社が所有するメディア」を意味します。
そもそも、オウンドメディアという言葉が最初に注目された背景には、「トリプルメディア※1」と呼ばれるメディア分類の考え方が提唱されたことが挙げられます。国内では2010年ごろにその概念が広まり始めました。
※1 「Paid Media(従来の広告メディア)」「Earned media(ソーシャルメディアなど、広告費で掲載をコントロールできないメディア)」に加え、「Owned media(自社が保有するメディア)」という分類を総称してトリプルメディアと呼びます。『トリプルメディアマーケティング』(2010、横山隆治著)などが詳しい。
トリプルメディア論でいうところの「オウンドメディア」は、広義の意味で捉えられています。Webサイトに加えて会報誌やカタログ、パンフレットなどメディアの形態にかかわらず、自社発信のメディアはすべてオウンドメディアという解釈です。
一方、最近注目を集める「オウンドメディア」が指す形式としては、ずばり「企業が運営するブログ形式のWebメディア」と言ってしまっても差し支えないでしょう。私が代表を務めるサムライト社では、こちらの概念をいわゆるオウンドメディアとして捉え、ブログ形式での企業メディアを展開しています。
それを踏まえた上で、改めてオウンドメディアの定義を記載すると、次のように表せるでしょう。
企業が発信したい情報を、ユーザー目線に合わせてコンテンツ化し、発信するメディア
企業側の都合だけで勝手にコンテンツを発信するのではなく、ユーザーが読みたい、知りたいと思う形に変えること、これが非常に重要です。
もちろん、広義のオウンドメディアには企業サイトや製品サイトなども含まれますが、ここではオリジナルコンテンツなどを中心とした、情報発信メディアを想定して解説していきます。
オウンドメディアが注目される4つの理由
次に、オウンドメディアが注目を集めている理由ですが、その背景にはいくつかの要因があると考えています。
- 情報過多による広告効果の低下
ユーザー環境の大きな変化、具体的にはスマートフォンの爆発的な普及と、それにともなうソーシャルメディアの台頭によって、ユーザー主導の情報流通が一般化し、情報量そのものが増加したことが挙げられます。結果として、従来型(一方通行)の広告メッセージが伝わりづらい環境となったのです。そこで、企業が自ら情報をコントロールし、顧客との関係を構築できるオウンドメディアの可能性に注目が集まっています。
- グーグルのアルゴリズムの変化
SEOだけを目的とした低品質のコンテンツや、有料のリンク購入に対する対策が本格化したことで、キーワードよってはかなり大きな順位変動が発生しました。広告効果の低下に加え、コンテンツの質を重視するというグーグルの方針が昔よりも明確になったことで、コンテンツマーケティングという手法が広まり、その手段の1つとしてオウンドメディアが注目されるようになりました。
- コンテンツの流動化
ソーシャルメディアによる情報発信は、強力な流通チャネルとして定着してきましたが、フロー型であるためコンテンツが資産として蓄積されていきません。数年前に流行したソーシャルメディアマーケティングを振り返ると、一時的な「賑やかし」に終わってしまった事例も多く見受けられます。そこで、ストック型のオウンドメディアをコンテンツ発信のハブと捉え、継続的なユーザー接点の確保、およびコンテンツのアーカイブ機能としての役割を持たせることが期待されています。
- メディア環境の変化
情報取得のデバイスが、PCからスマートフォンへと移行しつつある現在、その利用時間で最も割合が高いのが移動中や待ち時間など、ちょっとした空き時間の「暇つぶし」です。利用時間の約40%以上がコンテンツに時間を消費しているともいわれているなかで、受動的な顧客(潜在層)へより自然な流れで情報を届けるための手段として、コンテンツ形式での情報提供が効果的と考えられています。
これらの変化とその対応策として、今まさにオウンドメディアが注目を集めているといえます。
オウンドメディアって結局、何ができるの?
これまで、オウンドメディアが必要とされるに至った背景について説明をしてきました。ただ、オウンドメディアが企業のマーケティング課題のすべてを解決する救世主なのかといわれれば、決してそうではありません。
当然のことながら、Webマーケティング施策全体におけるオウンドメディアの目的およびゴールをしっかりと位置づけることが必要であり、過度な期待は禁物です。またそのためには、オウンドメディアが得意なこと、苦手なことをあらかじめ理解しておくことが望ましいでしょう。順番に説明していきます。
オウンドメディアでできること
- コンテンツの資産化にともなう脱・広告依存
オウンドメディアの基本は、「ユーザー目線のコンテンツを提供すること」に尽きます。良質なコンテンツをオウンドメディアに蓄積(ストック)していくことで、コンテンツ自体が資産となっていくため、広告費の削減につながる可能性があります。特に検索結果の上位表示を実現すれば、見込み顧客が継続的にオウンドメディアへ来訪してくれる状態を生み出すことが可能です。
- ソーシャルメディアを活用した情報拡散
ユーザー目線に合わせたコンテンツならば、FacebookやTwitterなどフロー型のソーシャルメディアへ情報を発信することで、より多くのユーザーにコンテンツを拡散させることが可能です。ソーシャルメディアによってユーザー特性が異なりますので、提供するコンテンツについても、どのソーシャルメディアで拡散されることを期待するのか、戦略的な企画設計が重要です。
- サービス認知・ブランドリフトによる中長期の顧客育成
ユーザーの課題や悩みに対して、機能性や価格訴求だけではない別の価値の提供を、コンテンツによって実現することも可能です。これまでのWebマーケティングの主流であった刈り取り型の施策ではリーチが難しい潜在層へ、サービスや企業のことを知ってもらうきっかけを作り出します。ユーザー目線のコンテンツ提供を通じて、信頼関係の構築を実現することは、オウンドメディアならではのメリットだといえるでしょう。
オウンドメディアが苦手なこと
- 即効性に乏しい
オウンドメディアは、すぐに成果が表れるものではありません。特に検索結果上位表示という効果は、良質なコンテンツが資産として一定数蓄積され、自然な被リンクが獲得できるようになるまで、なかなか表れづらい点が挙げられます。
開始後まもなく、リスティング広告などの短期施策とオウンドメディアのコストパフォーマンスを比較する企業をたまに見かけますが、それはオウンドメディアの特性を理解できていない典型例です。後述する運用負荷と相まって、「やっぱりオウンドメディアは止めよう」と、すぐに諦めてしまうケースを見ると、せっかく始めたのにもったいないと思ってしまいます。
- 運用が大変
オウンドメディアの運用は非常に大変です。内製する場合はもちろんのこと、ライティングを外部に依頼する場合であっても、コンテンツの企画や編集・校正および入稿作業、スケジュール管理、効果検証など、さまざまな業務が発生します。
「クラウドソーシングを活用すれば記事を安価に書いてもらえるんでしょ?」という声を聞きますが、それはあくまでオウンドメディア運営における作業行程の一部だということを理解する必要があるでしょう。
注目企業の事例で学ぶオウンドメディア活用法
続いて、オウンドメディアを上手に活用している企業の事例を見ていきます。数多くの支援実績があるサムライト社で提供しているオウンドメディア事例のなかから、いくつかピックアップしてみました。
大企業のオウンドメディア活用法
「YEs! MAGAZINE」(サッポロビール)
サッポロビールのオウンドメディア「Yes magazine」は、“ビールの答えが見つかるウェブマガジン”をテーマに、ビールにまつわるトリビアやビールと相性の良いレシピ、ビールの楽しみ方などのコンテンツを通じて、ヱビスビールの魅力を伝えることを目的に運営しています。
コンテンツ事例
缶詰チョイ足し簡単レシピで宅飲みをちょっと贅沢に
こちらの記事は、Facebookにて3,000近いいいね!を獲得。すでに認知度が高い商品であるため、直接的な広告表現ではなく、「手間のかからない少し上質なレシピ」を提供することで、間接的に商品の想起を促す設計となっています。
このように、テレビCMなどマス広告を中心とした広告戦略を展開する大企業でも、最近は多くのオウンドメディアが立ち上げられています。
スタートアップのオウンドメディア活用法
「イエマミレ」(ietty)
不動産賃貸関連サービスを提供するietty(イエッティ)では、「イエマミレ」というオウンドメディアを提供しています。不動産領域は運用型広告の激戦区。広告のキーワード単価が非常に高騰しているなか、後発のスタートアップが多額の予算を有している大手企業と競り合うのは非常に困難な状況です。そこでイエッティ社では、コンテンツによるSEOおよびソーシャルメディア経由の集客から、会員登録までをオウンドメディアの活用によって実現しています。
「“バズる”企画によって自然な被リンクを集めることを目的としたコンテンツ」「検索上位表示を目的として特定キーワードを狙って作成するコンテンツ」「会員登録につながりやすい傾向のあるコンテンツ」、これらを使い分けることで最適化を図っています。
コンテンツ事例
【ジロリアン必見!】都内のラーメン二郎がある26駅をまとめてみた。
こちらの記事はFacebookで4,000いいね!を突破するなど、非常に拡散されました。一見、賃貸サービスとは何の関係もない記事に見えますが、記事を拡散させることによって、賃貸物件の検索に欠かせない「駅名」での自然な被リンクを獲得することを狙っています。
BtoBサービス企業のオウンドメディア活用法
「スミフラボ」(住友不動産)
一般消費者向けサービスだけでなく、BtoBサービスでも有効活用が可能なのがオウンドメディアの利点です。「スミフラボ」は、住友不動産の賃貸オフィスサービスに対する顧客接点の構築などを目的に運営されています。立地やテナント情報だけでなく、ターゲットとなるビジネスパーソンに役立つ情報、たとえば働きやすさや組織論、採用論などオフィスと関連するコンテンツを展開しています。
コンテンツ事例
KAIZEN須藤憲司に学ぶスタートアップがワールドクラスの人材を採用する方法
自社テナントに入居している注目のベンチャー経営者へのインタビューをコンテンツ化し、拡散された記事です。オフィスビルのスペックなどを直接アピールするのではなく、人や組織に焦点を当て、働き方や採用方法などターゲットの共通関心事について事例を伝えることで、間接的にオフィス賃貸サービスの認知獲得や理解促進を狙っています。
ウォッチしておきたい国内の注目オウンドメディア
この他にも、注目すべきオウンドメディアについていくつかご紹介したいと思います。
自社運営のオウンドメディア
主に社員の方が執筆を担当したり、内製でオウンドメディアを運営している企業の事例をピックアップしました。その企業ならではのオリジナル情報を提供できるため、次の事例を見てもわかる通り、良質なコンテンツが目立ちます。
- LIG BLOG(LIG)
自社運営で数百万PVを誇るLIGの自社メディア。オウンドメディアでありながら広告収益を生んでいる点が特徴的。
- サイボウズ式(サイボウズ)
オウンドメディアの成功事例として必ず挙げられる、サイボウズのオウンドメディア。自社サービスの宣伝をせず、メディアとしての面白さを追求している。
- 電通報(電通)
電通の社員が実名でコラムを担当するオウンドメディア。専門的で質の高い情報が満載。
共同運営のオウンドメディア
いざオウンドメディアを始めようと思っても、社内にメディア運営のリソースおよびノウハウが足りないというケースの方が多いのではないでしょうか。ここでは、それらに長けた企業とタッグを組んでオウンドメディア運営を行う事例について紹介します。
- Beauty & Co.(資生堂)
資生堂が運営する美に関するオウンドメディア。オウンドメディア構築を得意とするインフォバーンがサポート。
- FASHION HEADLINE(ファッションヘッドライン)
三越伊勢丹とイードが共同出資した合弁会社、ファッションヘッドラインが運営するファッションニュースメディア。
- Lidea(ライオン)
ライオンが運営(ワンパクが編集)する暮らしにまつわるメディア。暮らしのマイスターと呼ばれる専門家への質問機能もある。
いかがでしたでしょうか。オウンドメディアを始めるにあたって、上記で説明した基本となる考え方や事例などをぜひ参考にしていただければと思います。
ソーシャルもやってます!