「IoM(私のインターネット)」時代の到来に、マーケターは気づいているだろうか
「私が望む時に、望む場所で、私が求めるものを、望む形で、提供してほしい」そうした顧客のニーズが顕在化する「IoM(私のインターネット)」時代に、マーケターはどうあるべきなのか。既存のチャネルですら重要性を失うかもしれない「ハイパーレリバンス」時代の足音に、あなたは気づいているか。
記事の要点:
- 「あなたが体験するインターネットは、指紋と同じくらいあなた固有のものだ」(米ワイアード誌)
- 従来の「境界」や「限界」といったものの意味が、ますます薄れていく、それが2015年に起こることだろう。
- デジタルネイティブな世代が、IoM推進の流れに直接絡んでいると考えられる。
デジタルマーケティングの観点でいうと、ここ数年は、信じられないほど革新に満ちた期間だった。そのなかでも2014年は、とりわけ影響が大きくて刺激的な1年だったと思う。
デジタルの世界をめぐる状況は、1年前でさえ予測できなかったほど成長して拡大し、「コンテンツ」「機能」「つながり」から成る1つの宇宙を創りだし、絶えず驚きを提供してくれた。
こうしたデジタルの宇宙は、人間のちっぽけな両腕では、抱え込もうと考えることすら、おこがましい。
だが、それと同時に(2014年がこの時代を象徴する年だと思う最大の理由でもあるが)、この拡大を続ける宇宙は本当に小さくなった――明らかに矛盾している表現ではあるのだが。
急成長して拡大するデジタル世界は、一方で、消費者である私たちに関するすべて、私たちが個人的に体験するもののすべてとなった。わかりづらいかもしれないので、米ワイアード誌がこれについて述べている表現を紹介しよう。こういうものだ。
あなたが体験するインターネットは、指紋と同じくらいあなた固有のものだ。
IoM(私のインターネット)が要求する極端な「私が望むように」
この傾向は、「IoT」ならぬ「IoM」にも現れている。
2014年が終わる頃、それまで重視されていた「モノのインターネット(IoT)」よりも、「私のインターネット(Internet of Me:IoM)」が意識されるようになってきた。
この「IoM」は、マーケティングの観点からみると、「“個客”体験をもたらすインターネット」的なアプローチだとも言える。さらに言うならば、顧客のデジタル消費に対する次のようなマインドに応える姿勢だ。
私は、望む時に、望む場所で、私が求めるものを、望む形で、提供してほしい。
だから、マーケターであるあなたは、それを実現するべきだ。
まったく、極端な「関連性」を要求するものだ。
しかし、この極端な「関連性」を望む消費者の数は増え続けた。それどころか2014年には、消費者が企業に対して当然のように要求するようになっていたのだ。
具体的には、ある商品を購入するかどうかの決定にパーソナライズされた体験が影響すると述べている消費者は、10人中9人にのぼっている。
そうしたぴったりの体験がすぐに見つからなければ、それを求めて別の場所へと去っていく人が今後増えていくだろう。まさに「最後の一瞬(last millisecond)」がものを言うというということであり、そうした傾向が実店舗にまで広がって「最後の数cm(last inch)」になっているのだ。
2014年に始まった「ハイパーレリバンス」の時代は2015年以降も続く
そうしたことを考慮すると、「極端なまでの関連性」を求められる「ハイパーレリバンス」の時代が2014年に始まったと言ってもよい。そして、その状況は2015年以降もきっと続くだろう。
たとえば、こんな技術について考えてほしい。
- 店との距離や店内の位置に基づいてリアルタイムでオススメ情報を提供するビーコン
- ジオフェンシング
- さまざまなモバイルプラットフォームを利用したマイクロターゲティング
- 動的コンテンツによるインタラクション
- 自動パーソナライズ
こうした施策は、それだけでもきわめて強力だが、全体を俯瞰してみると、「ハイパーレリバンス」に向けた業界全体の動きを表していると感じられないだろうか。
また、得られるものが多ければ多いほど、消費者とマーケターは間違いなく、ますます大きな驚きと喜びを感じ、さらに多くを求める。ウィッシュリストの先頭に書いてあるプレゼントでも、クリスマスの朝に箱を開いてそれがあったら嬉しい驚きを感じるのと同じだ。
Inc.誌も同じ意見で、次のように説明している。
このすべてが今後、高度にパーソナライズされて気配りの行き届いたものになり、消費者が意識していないものをも予測できるようになる。
「いつでも、どこでも」は従来の「境界」や「限界」に関係なく求められる
それに伴って、私たちマーケターは、人気の高い一部の企業やサービスで、本来なら重要だったはずの「チャネル」という区切られた概念が失われつつあるのを目にするようになった。IoMが頂点に立つ世界で、「どのチャネルで顧客とコミュニケーションしているのか」といった区別が必要だろうか? 消費者が、まさに自分の欲しい物を、欲しい時に、欲しい場所で、要望通りの方法で手に入れられるのなら、チャネルなんてものはどうでもいいのではないだろうか。
私がサイトを何度か訪問しながらまだ支払い手続きを済ませていないことを知った時、小売業者はショッピングアプリにプッシュ通知を送り、出荷期限を教えてくれる。私が何をいつ買ったかという詳しいデータがあるおかげで、一緒に使うと役に立つ製品やサービス案内、改良版やアップグレードが、それを求めている時に提供される。製品やサービス、商品、アドオンなど、確かに関連がありそうに思えるものを勧めてくれる――私がそうしたものを求めていると自覚しているかどうかに関係なく。
従来の「境界」や「限界」といったものの意味が、ますます薄れていく――それが2015年に起こることだろう。消費者自らが、自身の体験を構築するようになる。その力となるのは、企業が仕掛ける類まれなターゲティングと自動パーソナライズ戦略であり、それによって、先ほど述べたきわめて重要な「ハイパーレリバンス」がもたらされる。
デジタルネイティブな「The Me Me Me Generation(自分大好きな自己顕示欲世代)」に提供するべきデジタル体験
このIoMの隆盛を告げる明らかな兆しのほかに、2014年には、次に挙げるようものを含め、さまざまな前例のない力が数多く作用した。
- 脳科学とニューロマーケティングの融合
- 「最後の数cm(last inch)」と「最後の一瞬」のマーケティングという概念
- 「モバイルエリート」の急増
- アーティストであるマーケターの全体的な進化
- 「iPhone 6」の発売
ミレニアル世代のうち、最も若い層も大学に進学しているし、現在33歳になった最年長の層は、可処分所得が増えて市場に対して与える影響力も大きくなった。
両者には大きな年齢差があるように思えるが、どちらもデジタルネイティブであることから、モバイル端末を通じたサイト訪問やコンバージョンなどが増えてくるはずだ。
こうしたIoM推進の流れに直接絡んでいるように思えることから、この世代は「The Me Me Me Generation(自分大好きな自己顕示欲世代)」と呼ばれたこともある。
すべてが自分中心に回っていると考えるのがミレニアル世代のマインドなのであれば、ミレニアル世代のデジタル体験も、そうした期待と一致させるべきではないのか?
これは、コンテンツや製品、サービス、アクセスポイント、生産性ツールなど、すべてのものに言えることだ。市場に投入され、エンゲージメントを待ち構えているのであれば、「ハイパーレリバンス」を提供することが必要だ。さもないと支持は得られない。
「最後の一瞬」という概念のおかげで、ミレニアル世代は、「ハイパーレリバンス」を提供してくれる機会を探し求めて、あっという間に手の届かない場所に逃げてしまう。
2014年、デジタル世界の中心は「自分」だった。つまり、あなたとあなたの配偶者、あなたの上司、あなたの子ども、あなたの友人、そして多かれ少なかれ、あなたと何らかの関わりがある人たちが中心だったのだ。
IoTが当然のものになるよりも先にIoMが広がっているのだが、これは意外なことではない。「ハイパーレリバンス」を提供するエンゲージメントの機会が急増し、ミレニアル世代の影響力が増していることを考えると、当然の流れだとも言える。
ピンポイントで、完全にパーソナライズされた、「ハイパーレリバンス」をもった体験を瞬時に提供する必要性は、なくなりそうにない。それどころか、消費者の要求は2015年に急激に高まり、マーケターは消費者にアピールして、より早くより正確な情報を消費者の端末に表示しようと躍起になるだろう。
そうした要求の高まりとそれに絡む利害関係により、マーケターは、自動パーソナライズ機能やビッグデータ機能、デジタル体験を「最も大事な存在であるあなた」だけのものにするための分析戦略を通じて、コミュニケーションを「ハイパーレリバンス」に近づけていくことだろう。
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