コンテンツマーケティングの大御所が解き明かす、真のコンテンツ戦略とは
「コンテンツマーケティングへの影響力が大きい人物トップ50」で10位に選ばれた、ロバート・ローズ氏。現在のマーケティング、それも特にコンテンツマーケティングにおける実にユニークな発言者の1人に、CMO.comの編集長が米国の最新情報を聞いた。
記事のポイント
- すべてのマーケティングがコンテンツ。しかし、必ずしもコンテンツマーケティングであるとは限らない。その違いこそが、まさにコンテンツマーケティングで達成すべき目的の1つ。
- 「どんな企業であれ、ジャーニー内のある段階から次の段階へと買い手に進んでもらうために、コンテンツを作るようになる」という考えは、まったくもって問題がある。
- CMOが「革新」と「価値の創造」を推進する戦略リーダーへと変化するのは、とても現実的なこと。
ローズ氏は先ごろ、「コンテンツマーケティングへの影響力が大きい人物トップ50」で10位に選ばれた。『EContent Magazine』誌の定期コラムニストで、Content Marketing Institute(CMI)のジョー・ピュリッジ氏と共にポッドキャスト「This Old Marketing」の司会も務めている。氏がピュリッジ氏と共に執筆した書籍『オウンドメディアで成功するための戦略的コンテンツマーケティング』(小林 弘人監修、守岡桜訳、翔泳社)は、コンテンツマーケティングプロセスの「取扱説明書」と広く考えられている。
そうしたなかで、長らくローズ氏の動向を追っていたCMO.comに、同氏はコンテンツマーケティングの状況に関する最新の考えを語ってくれた。ローズ氏は、Adobeが米国ソルトレークシティで主催したデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Summit」で、コンテンツマーケティングの状況などについて講演も行っている。
マーケティングの第7の時代: 体験の時代
■CMO.com: 今度のAdobe Summitでのローズさんのセッションは、「マーケティングの第7の時代」というタイトルですね。「第7の時代」について伺う前に、他の6つの時代について少し教えてもらえますか?
●ローズ氏: よく知られたマーケティングの教科書はどれも、「マーケティングの5つの時代」というものに言及しています。順に次のとおりで、各時代は20~30年の長さです。
- 取引の時代
- 生産の時代
- 販売の時代
- マーケティング部門の時代
- マーケティング会社の時代
現在は、1990年代初頭から始まる第6の「関係(リレーションシップ)の時代」にあると一般に受け止められています。
そして今、第7の「体験(エクスペリエンス)の時代」へと進化しつつあります。2015年に入って2020年に向かう現在、そうした動きがあるということを、新著(ローズ氏とカーラ・ジョンソン氏による『Experiences: The 7th Era of Marketing』)で私たちは主張しているのです。
第7の時代への進化の特徴は、企業が消費者と「関係」をもつことの意味が複雑化することだと、私たちは考えています。「関係」という観点で大切なのは、消費者が何に対してロイヤルティをもつのかが変わって来ているということです。以前は「提供される製品やサービス」に対して消費者がロイヤルティをもっていました。しかし現在、消費者のロイヤルティは「作り出された体験」に向けられています。
そして、そうした経験の中心にあるのが、コンテンツなのです。
すべてのマーケティングがコンテンツ
■CMO.com: マーケターと話をすると、確かにその多くが、「コンテンツマーケティングを理解して採り入れなければならない」と考えるようになっていることがわかります。けれども、「コンテンツ」が何を意味するのかについてまだ混乱しているマーケターが多く、そうしたマーケターは「ストーリーテリング」がキャンペーン(宣伝などの一連の活動)に及ぼす影響を把握していません。彼らの考えを正すことができますか?
●ローズ氏: もちろんできますとも。それを聞いて彼らが考えを改めるかどうかは別問題ですけどね。
基本的に、いつも耳にする質問は、次のようなものです。
すべてのマーケティングがコンテンツだとは限らないんじゃないのか?
そして、この質問への答えは「いいえ、そんなことはない」です。
すべてのマーケティングがコンテンツです。しかし、必ずしもコンテンツマーケティングであるとは限りません。その違いこそが、まさにコンテンツマーケティングで達成すべき目的の1つなのです。
私たちは昔から、マーケターとして価値を「説明する」よう訓練されてきました。価値を説明するのは、私たちが本当に得意とすることです。私たちは、製品やサービスの価値を説明する方法を知っています。他にはない価値の提案や機能、メリット、信頼する根拠などを生み出す方法を承知しています。そして、テクノロジーは、私たちがそうしたプロセスを可能な限り効率化するのに役立ってきました。
マーケターにとってそれほど得意でないのは、コンテンツによって価値を実際に「作り出す」ことです ―― 正直な話、それを実行するための許可や権限が与えられたこともないのですが。
つまり、マーケターは今のところ、「販売する製品やサービスとは切り離された別のコンテンツ中心の体験によって価値を作り出すこと」は、していません。けれども、それこそがすばらしいコンテンツマーケティングなのです。マーケティングを行う製品に関係なく、それ自体に価値があるのです。
このことを本当にわかっている企業について考えてみましょう。たとえばレッドブル、アメリカン・エキスプレス、クラフト(Kraft)といった企業です。
これらの企業は、オーディエンスを構築するというはっきりした目的のためだけに、コンテンツによって別の価値を作り出しています。そしてその結果、喜んでくれたオーディエンスは、事業目標を押し上げてくれる資産となります。
ジョナサン・ミルデンホール氏がコカ・コーラのグローバル広告戦略担当副社長だったときに、私にそのことを説明してくれました。そのときに彼がした説明の仕方がとても気に入っています。ミルデンホール氏は、こう言っていました。
オーディエンスの感情の井戸を満たせば満たすほど、それに頼った商売をしなくて済む。
彼が言いたかったのは、コンテンツを通じて、オーディエンスにとっての価値をたくさん作り出せば作り出すほど、製品を安売りせずに済む、ということです。
ジャーニー内の大切なポイントで強烈な体験を提供する
■CMO.com: ストーリーテリングと顧客体験を同列に並べて論じるというのは、興味深い考えだと思います。カスタマージャーニーは長年、一直線でした。少なくとも、一直線だと考えられていました。つまり、「購入する」ためにAから始まってBで終わるのです。そうではない顧客体験というこの考えは、どうなのでしょうか? ストーリーテリングはそれにどう関わってくるのでしょうか?
●ローズ氏: 購入にいたる道のり(ジャーニー)は直線的な体験ではないことは、かなり以前からわかっていました。「糸玉」「巻き貝」のようなモデルや、ありとあらゆるモデルを、私たちは見てきました。
さらに言うと、「どんな企業であれ、ジャーニー内のある段階から次の段階へと買い手に進んでもらうために、コンテンツを作るようになる」という考えは、まったくもって問題があります。これは、会社の規模には関係ありません。
買い手はあらゆるチャネルで、購入するまでに小さな判断をいくつもします。そうした決定のタイミングすべてにおいて、あなたのコンテンツが判断に影響を及ぼすようになるとは思わないでしょう。そんなことはしないはずです。何とかそうしようとしたとしても、すべての段階のためにすばらしいコンテンツを制作するのは、無理な話です。
大切なのは、大きな節目で数々の強烈な体験を作り出すという発想です。単純化して、真に差別化できる体験を作り出してほしい。目標は、消費者がそうした体験に出会って衝撃を受け、「共有したい」「次の体験に移行したい」と思ってもらうことのはずです。
それを実現できるからこそ、コンテンツマーケティングは重要なのです。そして、こうした体験を実現するためのマーケティングの仕事は、顧客のライフサイクルを通して戦略的でなければいけませんし、著書でもその点について強調しています。
繰り返しますが、「買い手が購入するまでのジャーニーにおける、あらゆるチャネルとあらゆる段階に対応する」ことを目標にするべきではありません。強烈な体験を最低限の数だけ作り出すことを目標にすべきです。それも、私たちが対応しきれないようなプラットフォームでオーディエンスが共有したいと思うような体験を。
CMOの役割は、これまでと大きく変わる
■CMO.com: 今年のAdobe Summitのテーマの1つは、「マーケティングの先へ」という変革です。「従属的なサービス部門」から顧客体験の作り手および管理者への変化は、21世紀の最高マーケティング責任者(CMO)としての仕事のやり方にどう影響しますか?
●ローズ氏: 単純なことですが、たぶん容易ではないでしょう。基本的には、CMOの役割がこれまでなかったものに変化します。
CMOの権限が、単に「製品を売り込む新たな賢い方法を考え出すこと」以外にも広がるとしたら、どうでしょうか?
CMOの役割が、マーケティングによって価値の高いプロフィットセンターを作る「革新の総責任者(チーフ・イノベーター)」だったら、どうでしょう? そう、プロフィットセンターです。
奇妙だと思われますが、実際に起きていることです。熱心なユーザーがもつ価値はとても大きなもので、しかも彼らが登録済みユーザーであれば、コミュニケーションもしやすいですからね。
企業が「コンテンツ」と「テクノロジー」を組み合わせてプロフィットセンターとしての機能を担うことは、すでに可能です。そして、本物の企業は、採算が合うだけでなく、会社にとって利益を生み出すことのできる本物のコンテンツプログラムを作り出しています。
CMOが「革新」と「価値の創造」を推進する戦略リーダーへと変化するのは、とても現実的なことです。
たとえば、モトローラ ソリューションズの最高イノベーション責任者であるエドゥアルド・コンラド氏は、CMOの概念を「テクノロジー・販売・マーケティングを丸ごと1つのグループに統合すること」へと広げ、「マーケティング・ルネサンス」の先導役を務める活動をしています(「マーケティング・ルネサンス」とは、私たちの著書の序文としてコンラド氏が書いてくれた文章のなかで触れているもの)。
それに、こんなことを言っているのは私たちだけではありません。まさにこのテーマで新しい「マッキンゼーリポート」も発表されています。
成功する企業は、コンテンツ戦略を構築
■CMO.com: では、そうしたことをすべて考慮すると、マーケティングにおけるコンテンツの未来はどういうものになるのでしょうか? 現状はどうなのでしょうか? われわれは、どういう状況のなかで行動しているのでしょうか?
●ローズ氏: どんな組織も、コンテンツの作り方は知っています。しかし、反復可能な戦略的プロセスとしてコンテンツを理解している組織は、ほとんどありません。
「ウェブ」体験や「デジタル」体験が生まれて20年経つのに、いまだにコンテンツを「自分たちが作り出す製品やサービスの副産物」として扱っているのには、ちょっと驚きます。ウェブが生まれた頃に人気だったディスコやベルボトムのジーンズが遠い昔のものになったのと同じように、現在のウェブは、私たちが知っている初期のウェブとはほど遠いものになっています。
どの企業も、作成するコンテンツの量は昨年と比べて幾何級数的に増加しています。今後もそれは変わらないでしょう。コンテンツ技術が進歩しているのに、ほとんどの企業は、自分たちのメッセージやその伝え方を以前ほど把握していません。
マーケティング業界における私のヒーローの1人であるフィリップ・コトラー氏は15年前、著書『コトラーの戦略的マーケティング : いかに市場を創造し、攻略し、支配するか』( 木村達也訳、ダイヤモンド社)で、これからのマーケティングは「仕事のプロセスを根本的に見直し、顧客価値を特定して伝えたり提供したりできるようにする必要がある
」と述べています。これはすばらしい意見ですが、ほとんどの組織が、こうしたことをまだ実現できていません。
先ほども述べたように、今後10年間、すべての企業がコンテンツマーケティング戦略を手にするわけではないでしょう。けれども、成功を収めるすべての企業は、ここで述べたような戦略を構築し、それをもとに活動するようになっているはずです。
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