Web廃墟物件が生み出すマイナスプロモーション、アクセスログが教えてくれない風評被害
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の407
サイレントマジョリティの恐怖
ある営業中の店に関する情報が、地域情報の寄せられるネット掲示板に書き込まれていました。嫌がらせではありません。Webサイトの「更新」をおこたったことで生まれた風評被害です。それは「実害」を「感じない」ことで生まれます。
商売で難しいところは、「見えているお客さま」に満足していただくだけでなく、「見えていないお客さま」のことも想定しなければならない点です
とは、小宮一慶著『一生成長し続ける人が大事にしている、五賢人の言葉』で紹介されていた、セブン&アイ・ホールディングスの名誉会長 伊藤雅俊氏の言葉。いわゆる「サイレントマジョリティ(物言わぬ客)」の重要性を説くもので、未更新のWebサイトに通じます。
今回は更新が滞ることの具体的な「デメリット」と、未更新が発生するメカニズム、未更新を回避するための「心得」を紹介します。
勝手に閉店されていた
ある衣料品店に「Webサイトを見た」と電話をしてきたユーザーは、恐る恐る次のように切り出しました。
営業していますか?
同店のサイトの「最新」と題された情報の日付は2年前、「イベント」をクリックすると3年前の売り出しが案内されていました。つまり2年の「未更新」です。滞っている更新に「倒産しているのではないか」と思ったのです。わざわざ独自ドメインとサーバー費用を払って、お客を遠ざけていたということです。ちなみに、ドメインの更新に費用が発生することを知っている一般人(非IT系)は多くありません。
アクセスログが教えてくれない
わざわざ電話をかけてくれたお客の他に、いったい何人のお客が「倒産している」と思って去ったのかを「アクセスログ」は教えてくれません。そして、大多数の訪問者は「サイレントマジョリティ」です。
「閉店したんじゃね?」というネット上の書き込みへの返信が、冒頭の「潰れたんだね」につながります。更新が滞っていることを論拠とした同様の事例は、別の店舗でも見かけますが、リアル店舗は元気に営業中です。
ネット検索はユーザーの語彙の範囲に限定されるので、別の機会でも同じキーワードで検索結果にたどり着きます。そして「未更新」に繰り返し触れることで、勝手な思いこみが強化され、さらに書き込まれた「憶測」を「事実」と「誤認」するネットユーザーは決して少数派ではありません。
ドッグイヤーと呼ばれる理由
未更新によるデメリットが発生する期間は、業種によって異なりますが、1か月でも許されない業種があります。
ある犬のブリーダー(繁殖・販売)のサイトには「可愛い赤ちゃんワンちゃんたち♪」と題したコンテンツがありました。「最新情報」にあった撮影年月日は、すでに1か月前のものです。俗に「ドッグイヤー」と呼ばれるほど犬の成長は早く、生後1年で人間換算の15~17才ほどになります。また、6か月ごろまで犬は毎週単位で成長し、見た目も大きさも大きく変化します。この時期の「1か月の未更新」は致命的です。子犬を求めるユーザーは、「今の姿」を知りたいのです。
なお、いつものことですが、名前や時間軸などは事実からずらしており、本稿の文言通りのサイトが実在しても、まったく無関係です。
心理的な抵抗
次は未更新が生まれるメカニズムについて考えてみます。未更新サイトの「Web担当者」は何をしていたのでしょうか。
衣料品サイトの更新は「社長」が、ブリーダーのサイトは「ブリーダー」が、すなわち代表者が更新していました。中小零細企業の現場では、社長みずから仕事をしていることも多く、社長でなくても「専任」のWeb担当者がいることはまれです。衣料品の社長は商談と仕入れに飛び回り、ブリーダーは餌やりと散歩に追われていたようです。つまり、「通常業務」を優先する一方でWebの更新作業は放置したのであり、「目に見える実害」はありません。
さらに、しばらく放置した「罪悪感」から、より良い情報を発信しようと目論みますが、それは素振りもせずに場外ホームランを狙うほど無謀な行為です。まとめて更新しようとたくらむ人もいますが、1日30回を目標とした腹筋を、1週間サボったからと210回やって帳尻合わせようとするほど愚かな挑戦です。そして「未更新サイト」が生まれます。
未更新サイトと更新方法に相関関係はないと考えます。経験則といくつかのサイトの定点観測から、無料でも有料でも、外注でも自力でも、それぞれ特有の違いはなかったからです。
更新に向く情報とは
最後に「未更新」を回避するための「心得」を、冒頭で紹介した本にある、同じく伊藤雅俊さんの言葉から紹介します。
お客さまが求めているものはなにか
つまり、更新とは「お客が知りたい情報」の提供であり、サイトのレゾンデートル(存在意義)です。衣料品のサイトなら、入荷した新作商品や今年のトレンドですし、ブリーダーなら子犬そのものです。子犬を毎日「写メ」で撮ってアップロードするだけで、犬好きの心を動かす「最新情報」になります。
もちろん、BtoBでも同じ。建築会社なら手がけた物件ですし、Web屋なら旬は「モバイルフレンドリー」でしょうか。さらにグーグルがスマホ事業に本格参入し、IT業界の最終戦争が「モバイルゲドン」がはじまると騒いでいるといったトリビアだってあります。つまり、商売をしている限り「更新」するための情報が途絶えることなど「あり得ない」のです。
しかし、それでも「未更新」サイトは現れます。放置されたままの姿はまるで「廃墟物件」。お客を遠ざける「マイナスプロモーション」です。Webを疎かにしている動かぬ証拠であり、顧客が対応に不安を感じるのは、お客の立場で考えれば自明です。
そこで次回は未更新サイトを撲滅するために、更新を継続する方法をタイプ別に紹介します。
今回のポイント
廃墟物件というマイナスプロモーション
更新とはWebの義務である
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