Web広告研究会セミナーレポート

消費者の9割は個人情報の提供に不安、パーソナルデータ活用には感情への配慮が必要

ネット広告と個人情報を扱う上で、企業が配慮すべきこととは
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

個人情報保護制度の改正に向け、2015年初頭に政府から改正案が提出される予定だ。企業のマーケティング活動にも深くかかわる個人情報保護制度の改正は、企業のマーケティング活動にどのように影響するのか。Web広告研究会の6月月例セミナーでは、ネット広告と個人情報のかかわり、パーソナルデータの利活用など、「個人情報保護法改正がマーケティング・コミュニケーションに及ぼす影響」をテーマに議論された。

不正な広告表示とは知らずに消費者が被害に遭う

一般社団法人ECネットワーク
理事
原田 由里氏

第1部は「ネット広告と個人情報の関わり」について、安心して参加できるインターネット取引市場の実現に向けた取り組みを行う、一般社団法人ECネットワーク 理事の原田由里氏が、実際の相談事例などを交えながら講演した。

まず原田氏は、インターネット広告への理解は消費者の世代によって異なり、ECネットワークに問い合わせる相談者の多くが、広告が出る仕組みを把握していないことを示す。海外から配信されている広告があると理解されていないことも多く、広告だと知らずにクリックして被害に遭う場合もあるという。

消費者庁が2011年10月に発表した「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項(PDF)」(2012年5月に一部改定)でも、こうしたネット広告の問題点が指摘されている。

続いて原田氏は、一般消費者が広告だとはわからない広告の事例をいくつか紹介する。

コンピュータにウイルスがあると警告が提示されて、表示されたセキュリティソフトをクレジットカードで購入してしまい、後から詐欺サイトとわかったケース

人気アプリのダウンロード方法を検索してたどり着いたサイトで、「ダウンロード」と書かれた広告をクリックして別サイトに誘導され、有料会員サービスに登録してしまったケース

後者は、人気のアプリをダウンロードしようと検索し、表示されたサイトで「ダウンロードボタン」を押したが、それが広告枠で配信されているものだと気づかずに、リンク先のサイトでサービス登録してしまったという例だ。グーグルに対して、これらのサイトがヒットしないように申請することもできるが、消される前に詐欺に遭ってしまうケースは多いという。

ターゲティング広告の認知もさほど高くないため、知らないうちに行動データが取られていることに多くの消費者が驚くのが実際だという。ターゲティングが迷惑な場合は無効にすることもできるが、詳しい方法は、各サイトを自分で確認して行う必要があると、ECネットワークでは消費者に説明している。

ターゲティング広告にかかわるトラブルとして、原田氏はSNSの登録属性を利用した事例を紹介。お得な初回サンプル価格をうたっているが、実際に注文すると継続契約になっていたという事例だ。

クレジットカード番号の入力画面にある、利用規約のリンク先を見ないと契約内容がわからなくなっている。一般消費者は利用規約をほとんど見ないため、お試し価格で注文できると思っていたのに、実は毎月商品を購入する契約なってしまっている。しかも、14日以内にキャンセルしないと、お試し分の商品まで正規料金で請求されてしまう(原田氏)

こうした広告は、不当な商品広告であるとSNSに通知することで消すことはできるが、ユーザーはSNSに頻繁にアクセスするため、消えるまでの数日間で被害にあってしまうという。

また、詐欺サイトが急増していることも問題だ。検索エンジンで「ブランド名+激安」などのキーワードで検索すると、悪質なサイトが上位に表示されることがあるが、一般消費者は検索上位のサイトは信頼できると思ってしまうと原田氏は警告する。特に最近は、大手ECサイトのデザインをコピーした詐欺サイトが急増しているという。

その他、過去に被害にあった際に登録した個人情報が、勝手に詐欺サイトの会社運営責任者として使われ、覚えのない請求書や問い合わせが届くといった二次被害も起きているという。

消費者が持つ法律への期待とギャップ

これらの詐欺サイトの多くは海外から配信されており、日本の事業者がいかに公正に運営を行うように努力していても、一般の消費者が広告を信用できない、個人情報の取扱を信用できないと感じてしまうという懸念がある(原田氏)

このように話す原田氏は、ECネットワークに寄せられる個人情報に関する主な相談は、「情報漏えい」「個人情報削除」「提供した個人情報の取扱」などの内容が多いと説明する。また、個人情報保護法は、情報を漏えいさせたり、悪用した事業者を厳しく取り締まる法律だという消費者の期待があったが、実際の法の趣旨は、そうした期待とは微妙な差があったと原田氏は説明する。

最も多く相談が寄せられるのは、ワンクリック詐欺と呼ばれるものだ。「アダルトサイトで間違ってクリックして高額な請求が行われたが、IPアドレスや機種で個人情報が知られてしまうのか」といったものや、「無料通話アプリのID交換をした女性の求めるままにアプリをインストールしたら、端末内の情報を盗まれてしまった」といった相談があると原田氏は説明する。

スマートフォンの不正アプリを使って約3,700万人の情報を不正に収集した事件も2013年に起きているが、このようなアプリで連絡先を不正に収集されても、本人はほとんど気づかないというのも問題だ。

一般の消費者は、知らないところから連絡が来ることに抵抗感がある」と話を続ける原田氏は、消費者は知らないところからDMなどが来たときに自分の個人情報の入手経路がわからないことに不安を覚え、合法的な手段で入手されていたとしても、だまされるキッカケになるかもしれないと感じるという。これには、ネット黎明期から知らない人に個人情報は教えないと教育されてきたことも影響している。

消費者の感情に配慮した取り組みが必要

消費者庁が発表した「平成26年度消費者白書」(2014年6月17日公表)によると、個人情報の漏えい事案件数は減少傾向にあり、苦情相談の内容は「不適正な取得」に関するものが全体の約4割とされている。これについて、原田氏は「同意していないことに使われていることを消費者は不満に思っている」と説明する。

また、多くの人が個人情報を提供するときに情報漏えいや目的外利用を不安視している一方、提供することでサポートや経済的メリットが得られるという、肯定的な考えもあるという。さらに、消費者白書では、ビッグデータの認知度は男性約3割、女性約1割に留まっていることが書かれており、ビッグデータを知らない人ほどその利活用に否定的で、不安を感じていることが明かされている。

収集したデータの活用が問題視された例として、原田氏は、2013年6月にJR東日本がSuicaの個人情報を削除した乗降履歴を日立製作所に販売後、反発を受けて販売を中止し、オプトアウト(利用販売の停止)を受け付けた事案を紹介。このケースでは、利用履歴などのデータが第三者に提供されることについて利用者に事前説明がなく、オプトアウトの周知が不十分であったことへの不満があったと原田氏は説明する。

こうした利用履歴の活用については、Tポイントカードが話題になることが多いのだが、前述のSuicaの事前が通知なくタダで利用しようとしたのに対して、Tポイントカードにはポイント還元があり、利用されることが事前にわかっていることが大きな違いだという。

マイナスイメージを避けるためには、利用者の感情に配慮した取り組みが必要だと話す原田氏は、法律論ではなく、以下の4点を考えてパーソナルデータを利用することが重要だと最後に話した。

利用者の感情に配慮した取り組み
  • 利用目的を明確に伝える
  • 不必要なデータを取らないという姿勢
  • 周知と同意による不信感の払拭
  • 消費者メリットの提示
この記事は、2014年6月26日に開催されたWeb広告研究会6月月例セミナーのレポートです。→第二部を読む

オリジナル記事はこちら:「消費者の9割は個人情報の提供に不安、パーソナルデータ活用には感情への配慮が必要」2014年6月26日開催 月例セミナー 第一部

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