コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の331
増税がもたらす刺激
2013年10月1日の夕方、安倍首相は消費税の増税を発表しました。増税発表から一週間後の読売新聞の世論調査で「賃上げ望めず」という回答が67%に上ります。増税分を売価に反映させれば売上は落ち込み、企業努力で吸収すれば粗利が削られます。
「賃上げ」が困難であることを世論は感覚的に理解しているのでしょう。すると増税後の個人消費の落ち込みは否めません。ショックを和らげるための経済対策が年末にも発表され、その結果BtoB市場を刺激するだろうと前々回指摘し、「社長コンテンツ」の重要性を説きました。増税が決まりましたので、その号での予告通りBtoB向けのコンテンツを紹介します。
それは人の本能
いわゆる「生産者の顔が見える○○」という切り口に客がひかれるのは錯覚に過ぎません。斉藤さんが笑顔でレンコンを持っていても、レンコンの味が良くなることなどなく、田中さんの顔写真にブリの脂を増やす効果はありません。さらに言えば、多くの場合、写真の主が生産者である証拠は、なに1つ示されていません。しかし、それでも消費者は斉藤さんの笑顔を信用します(本稿の登場人物は仮名、実在の斉藤さん田中さんとは無関係です)。
生産者の写真を見て、お客が安心する理由はWebに通じます。「人の存在」です。これはBtoCでもBtoBでも同じ。人の存在を感じることで安心感を得るのは人間の本能だからです。そこで用意するのが「社員コンテンツ」です。つまり、本サイトに置き換えれば「生産者(編集者)の顔が見えるサイト」を目指すということです。
副次的な効果が高い社員コンテンツ
「社員コンテンツ」とは「スタッフ(紹介)ページ」です。社員の氏名、年齢、キャリアなどに加え人となりを紹介します。社長と違い、社員なら愛読書が漫画の『ワンピース』でも問題ありません。ある企業で実際に『ワンピース』と掲載してみると、取引先では必ず話題となり、初対面の相手との話のきっかけになったといいます。
営業マンのように外部と察する職種なら「スタッフページ」は第2の名刺と言っていいでしょう。そして総務や業務、製造や開発など「内勤」でも可能な限り紹介します。生き生きとして働く様子は「元気な会社」という印象を与えるからです。
そしてスタッフページにはもう1つのメリットがあります。
焼酎ソムリエの効果
景気対策の効果が表れれば、困難となるのが「採用活動」です。すでに建築業界はすべての職種で人手不足が深刻で、アベノミクスの効果と増税前の駆け込み需要も重なり、小売りや飲食業界の一部でも人材不足が囁かれています。
まったく同じ条件の企業なら、元気そうな会社を選ぶのが人情です。そう、元気の判断材料がスタッフページです。未経験者は職務内容どころか、待遇の相場もわかりません。しかし、先輩スタッフの笑顔や『ワンピース』なら理解できます。つまりスタッフページは「求人」を手助けするコンテンツなのです。
スタッフページは演出することもできます。ある飲食店でベテランウェイターに「焼酎のソムリエ」なる肩書きを付し、公開しました。すると、お客から飲み物の相談を受ける回数が増えたのです。公的資格である必要はありません。この方法は応用が利くので、近日掘り下げる予定です。
バカッターが生まれる過程
お客に安心感を与え、採用にも良い影響が期待でき、企業イメージの演出までできる
それならば、と社員コンテンツをより強化するために「社員ブログ」をと欲をかく気持ちはわかります。しかし、眞鍋かをりさんが「ブログの女王」と呼ばれた時代から、同種の挑戦は数多く見かけますが、成功例はほとんどありません。
ある中華料理屋が、料理長にブログを書かせました。当初は店の宣伝だけの当たり障りのないブログでしたが、ときおり触れるバックヤードのネタにお客が食いつきコメントを寄せ、リアルの店舗で「ブログ見てるよ」と声を掛けられるようになります。次第にブログエントリーは舞台裏のネタばかりとなり、果てには経営批判まで始めます。
ネットで情報発信しているうちに、自分の存在を実力以上に錯覚する人は多く、最終形が失言系「バカッター」です。そもそも社内の立場と、社外からの目のバランスをとれる社員は少なく、過剰な期待は社員にとっても会社にとっても不幸なだけです。更新を管理できる「スタッフページ」に留めることをオススメします。
社員コンテンツの課題
社員コンテンツは会社にとって多くのメリットがあります。しかし、あまり活用が進んでいない、未開拓のコンテンツ分野でもあります。Facebook、Twitter、ブログなど、自分の名前(個人を特定できるハンドルネームも含め)で活動する人も多いWeb業界と違い、自分の名前を晒すことに難色を示す人はとても多いのです。「恥ずかしい」というのが主な理由ですが、無理強いはできません。「顔写真」1つ公開しただけでも実害がありえるからです。
一度、公開された写真はだれの手をもってしてもコントロールできません。FacebookやTwitterに載せた女性のスナップ写真が、風俗系サイトで使われる被害はすでに起きています。社員コンテンツにもそのリスクがあり、制作の際は十分な説明のうえ、納得した人だけを掲載しなければなりません。
実際に取り組むと、社員コンテンツはなかなか手間がかかります。それに見合った効果は期待できますが、無理強いは「パワハラ」。厳禁と心得てください。
今回のポイント
社員コンテンツは企業を伝える
ただし、プライバシー保護はお忘れなく
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