企業ホームページ運営の心得

専門用語というニッチ市場、ウェブタインZを知っているか?

大きな業界であっても、業界人だけをターゲットとして専門用語や業界用語で狙うことでニッチ市場になります
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百十四

受験とサボり

高校受験のためにわが家に居候していた甥が勉強をサボってテレビを見ていたので叱りました。「ワンピース見ていただろ」と指摘すると「見てない」と口をとがらせ反論します。テレビ内蔵HDDに録画していたもので、未視聴の番組にある「NEW」のマークが消えているので見ていた事実は明白です。彼はこう続けます。「今日はドラゴンボールだ」。ワンピースを見ていたのは前日だという意味で、2日続けてサボっていたことが発覚したのでした。かつて「漫画ばっかり見てるんじゃない」と叱る父親に「アニメだ」と反論して張り倒された記憶が蘇ります。

問題は「ドラゴンボール」と「ワンピース」の違いではありません。しかし、本旨からすればどうでもよいようなわずか違いを利用するSEOがあります。それを私はニッチSEOと呼んでいます。

芯の名前は

ニッチとは「隙間」で、ニッチキーワードといえばSEOの世界ではまだ見つけられていない「鉱脈」のように表現されます。マニア向けのキーワードを探したり、複数キーワードを組み合わせたりすることで、マーケットを見つけようというものですが、私がニッチSEOとするのは、そうした言葉遊びではありません。もっと「当たりまえ」のことです。

製紙業界を例に見てみます。商業用印刷用紙はすでに断裁されている枚葉(カット紙)と、トイレットペーパー状の巻き取り(ロール紙)があります。枚葉は指定されたサイズにカットされたいわゆる「紙片」で、プリンター用紙のA4、B4、B5も製法は同じです。一方、巻き取りは紙が巻かれたままの状態ではカットできないので、紙を送り出しながら指定サイズに切断しふたたび「芯」に巻き取ります。この「芯」を「紙管」と呼びます。

言葉とボリュームの違い

「紙管」を切断する専用機械の紹介コンテンツを作ると3日後にはアクセスが急増しました。検索結果の上位に表示され、訪問者が絶えないのです。紙管ではなく「紙の芯」としていたら訪問者はほとんどなかったことでしょう。グーグルのキーワードツールでみると、「紙管」のグローバル月間検索ボリュームは9,900、「紙の芯」は0(測定不能)でした。いわゆる「業界用語」がニッチSEOのはじめの一歩です。

効果を高めるためにさらにニッチにします。「用途」などの関連キーワードを複数絡めていくのです。「紙管」は現在進行形の事案につき、すべてを紹介できませんが、あるキーワードと「切断」を加えたものからのアクセスが最多で、もちろん検索結果は1位です。

ここでいうニッチSEOとは、業界人だけをターゲットとして専門用語や業界用語でSEOをかけることです。ニッチ=狭い市場だという自覚から、広い世界へ訴えかける必然性を感じていない企業が多く、ホームページへの取り組みが弱いところも狙い目です。

時代で生まれるニッチ

独特の「略称」も業界用語といえるでしょう。フレームなしのメガネを「ツーポイント(フレームレス)」と呼びますが、メガネ業界では略して「ツーポ」で通じます。ニッチ化のために加える用途は「加工」ともう1つあるのですが、こちらも秘密。狙う業界は「メガネ屋」です。

一般的なメガネはレンズを削りフレームにはめ込みますが、ツーポイントはメガネレンズに直接穴をあけ、ハナとツルを取り付けます。レンズが割れれば売り物になりません。レンズの加工はメガネ屋さんの職人技の世界ですが、高齢化の波はここにも押し寄せ、微細な加工を「得意」としない高齢者……人生の先輩が増えてきたのです。また昔のメガネは形状にバリエーションが少なく、ツーポイント加工の経験が少ないことも理由の1つでしょう。

そこで「ツーポイント」の加工を受け付ける「メガネ屋あいてのメガネ屋」というコンセプトです。

商売用Webの醍醐味

ニッチSEOは、専門性の高いBtoB、または「マニア」向けの手法で、狭い市場でも一定の需要があり、釣り上げた時に応分の利益が期待できるときにだけ使えます。まるで「マグロの一本釣り」です。ときにマグロの群れにあたることもあります。先ほどの「紙管」は、印刷用紙だけで見れば「超ニッチ」でしたが、包装用フィルムや、シールの巻き取りなど、幅広い業種に需要があったのです。

ニッチSEOを手がけ、結果に結びついたとき「ホームページ屋」になったよろこびを噛みしめます。ほしい人と売りたい人をつなげる私。たとえば、北海道のニッチな需要と、沖縄県のニッチな供給を結びつけることは、低コストで広範囲の情報発信ができる「ホームページ」にしかできないことで、関係したすべての人が幸せになれる「稼業」はそう多くはありません。

ウェブタインZを知っているか

最後にニッチSEOを手がける際の注意に触れておきます。業界用語と「独自のキーワード」は似て非なるものだということです。たとえば、自社で新発売した栄養ドリンク「ウェブタインZ」の検索結果が1位になっても商売に結びつくことはないでしょう。なぜなら、そもそも「ウェブタインZ」を客が知らなければ検索してくれないからです。また、業界用語と「用途」の組み合わせがニッチSEOの骨子ではありますが、意味のない組み合わせは論外で「SEO カレーライス」も同じです。この組み合わせで1位に表示されても、商売に結びつくことはないのですが、これで検索結果の上位にいることを喜ぶWeb屋さんがいる不思議な世界に溜息です。

冒頭のやり取りでふと考えました。ワンピースかドラゴンボールの違いが大人にとって些末なことであるのは、あいまいな表現でも文脈から理解する「日本語」に慣れ親しんでいるからであって、ブランクによって「キーワード」が区切られる英文の常識が、乱雑なテキストからでもキーワードの抽出を容易にし、検索エンジンを発展させ、SEOにつながったのではないかと。

今回のポイント

業界用語+用途でニッチが生まれる

さらに+αでコンバージョンレートは高まる

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