iPad2の生産が止まる前に設備投資を
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百十参
頑張ろうニッポン
石原慎太郎東京都知事が東京上野公園での花見の自粛を呼びかけたことに、蓮舫節電啓発大臣が「権力による介入は好ましくないと」噛みつきました。東京ドームでのプロ野球ナイター開催に事実上の中止要請をした人の発言とは思えませんが、岩手県の酒蔵が「被災地岩手から『お花見』のお願い」と題したメッセージ動画をYouTubeに投稿したことも話題となり「反自粛論」も増えてきました。
過度な自粛は被災地域にとって好ましくありません。経済活動が停滞するからです。経済活動が正常化している地域では、過度な自粛をするよりも、被災地の産物を積極的に購入することが地元経済の復興の助けになりますし、活発な経済活動で税収が上がれば復興の原資にまわせます。そこで、我々Web担、そしてWeb業界関係者にできる経済活動をしようではないかという呼びかけが今回のテーマ。それは今後の日本経済も見据えてのことです。
もっとも、生活必需品に関して日本人はすっかり「贅沢」に慣れており自粛は長続きしません。近所の「スーパーベルクス」では、震災から3週間過ぎた日曜日の朝、焼き肉用の牛肉が飛ぶように売れていましたから、無用の心配かもしれません。
地震後にすぐに設備投資
3月11日の震災当日からの週末は取引先やスタッフ、そして家族や友人の安否確認に追われましたが、被災地の惨状をテレビ映像としてまざまざと見せられた週明けの月曜日、弊社は数台のパソコンと、最新版の業務用ソフトウェアを発注しました。北関東から東北にかけて、半導体レーザーやリチウムイオン電池、ブルーレイといったハイテク機器の部品の工場が多く、稼働停止が長引けば完成品の出荷にも影響します。実際に「iPad2」の生産が滞る恐れがある、という噂がでているように、供給不足を懸念してのことです。
昨年に入れ替える予定だったのですが、よくある「新製品待ち」をしているウチにずるずるとタイミングを逃していたものを一気に注文したのです。私も経営者の端くれ。こんな時に(弊社にとっては)大金をはたくリスクにすこしだけ躊躇しました。しかし、経済を動かすことで微力でも役に立てばという願いも込めて、清水の舞台からバンジージャンプを試みました。懸念が現実となれば「慧眼」と誇り、杞憂に終われば笑い話になるだけのことです。
20年ぶりの経済状態へ
また「情けは人のためならず」とは、かけた情けは巡りめぐって自分に帰ってくるものだ、という意味で、いま設備投資しろとする理由の1つです。
未曾有の震災から、我々日本人は復興するでしょう。しかし、なにをするにも先立つものが必要で、端的に述べればどれだけあってもお金が足りない状態となります。いまだ政府から具体策の提示はありませんが(4月11日時点)、国債の発行か、目的税による増税のどちらかとなるでしょう。復旧復興費用は少なく見積もっても10兆円は必要とされ、平成22年度の国の一般会計による歳出が92兆円ですから、単純計算で市場に流通するお金が1割以上増えることになり、その先に待つのは「インフレ」です。
ジャンプで知ったインフレ
終戦からバブル経済崩壊前までの日本はインフレが続き、ビールとタバコは毎年のように値上げされ、幼少時代に170円だった週刊少年ジャンプが190円になったとき、喫煙者で愛飲家だった父親の愚痴を理解したものです。
インフレとは需要が供給を上回り、物価が上がる経済状態です。今後、復興へ向けて需要が高まる一方、先ほど述べたようにハイテク部品の製造工場の再稼働が遅れれば供給不足が現実となります。加えて、国債発行などで市場にでまわるお金が多くなれば、相対的に貨幣価値が下がり、物価は反比例します。長らく下落基調だったパソコンや周辺機器の価格が値上げへと向かう可能性があるということです。また、復興が遅れると国際競争力が低下し「円」の価値が下落します。すると、資源も食糧も輸入に頼る日本のインフレはさらに加速します。
もちろん、可能性にすぎませんが、「震災前」と変わらぬ価格で購入できる「いま」買っておけば相対的に「お得」となり、経済支援になる「かも」しれないという話です。ちなみに物価の上昇にあわせて賃金も上がりますが、賃金は物価に(かなり)遅れて上昇しますので、すこし厳しい生活を覚悟しなければなりません。
サーバーリスクの分散
弊社では「サーバー」の見直しもすすめています。東日本大震災では、図らずも災害時にインターネットが強いことが証明されました。しかし、それも公開しているサーバーが無傷だったときの話で、サーバーの設置場所が被災地となればその限りではありません。また、かねてより懸念されている「関東直下型地震」や「東海地震」が起きた時に南関東、東海地方が無事でいられる保証はありません。そしてこれは太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレートと4枚のプレート上にある地震大国「日本」全域にいえることです。
自社サーバーをたてていても「保険」として、レンタルサーバーを借り、レンタルサーバーを利用しているなら、「データセンター」の設置場所によって複数社と契約しておくのです。データセンターでは耐震・免震構造といった地震対策がとられており、無停電装置や非常時の自家発電装置も備えていますが、発電に必要な燃料は有限ですし、建物は無事だとしても物理的にネットワークが切断される可能性もあります。複数のデータセンターと契約することで、関東のサーバーが落ちたら、関西や海外へといったように、いざという時のリスクを分散(バックアップ)するということです。
米百俵の精神
4月に入り、だいぶ需要が戻ってきたように感じますが、今後震災の影響がどのようにでるのかわからないというのが本音です。今ほどインターネットが普及していなかった阪神・淡路大震災は比較にならず、中越地震と比べても被災エリアが大きすぎます。弊社が積極的に設備投資した最後の理由は「暇」対策です。
仮に仕事が減り「暇」になれば購入した機材をじっくり研究し、最新版ソフトの使い方を勉強する予定です。仕事のない不安感は気持ちが後ろ向きになるもので、それを向学心でカバーする狙いです。納期に追われて取り組めない執筆活動や、新商品の開発も今まから楽しみにしています。仕事のない時こそ「米百俵」の精神で教育へとリソースを割きます。
過度な馬鹿騒ぎや、不見識な便乗商法は避けるべきですが、真っ当な経済活動は被災地への一助となります。供給不足とインフレと「暇」に備えて。そして間接的な「復興支援」のために設備投資を。
今回のポイント
経済情勢を見据えて設備投資
なにより活発な消費で復興支援!
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