企業ホームページ運営の心得

ABS卸売りセンターから知るフラッシュマーケティング活用法(後編)

販促目的ならどうやって次の利益に結びつけるかを考えて予算を組まなければなりません
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百参

赤字ではなく販促費

前回からの続きにつき、いきなりフラッシュマーケティング活用の本題に入ります。

フラッシュマーケティングは、クーポン発行会社の手数料によって「赤字」になることもあります。原価5,000円の商品を5,000円のクーポンとして売り、手数料の料率が50%なら2,500円損をするということです。ただし、「集客」のための「費用」とするなら赤字ではなく「広告費」です。スーパーマーケットにおける「玉子の特売」と同じです。

地元足立区の躍進企業「スーパーベルクス」では、毎週土日の朝夕計4回、数量限定で玉子の特売をするのですが、1月29日~1月30日はすべてL玉1パック「78円」でした。JA全農たまご株式会社のサイトによれば、翌日の1月31日現在の東京都の平均相場は「195円」。仕入れ価格は条件によって異なりますが、平均相場と同じと仮定すると1パック売るごとに117円損をしている計算です。つまり117円を「広告費」にできるのはそれ以上の利益が見込めるということ。これが前編で「予算」を繰り返した理由です。

営業マンから身を守る盾

2011年1月25日発売の写真誌「フラッシュ」に「グルーポンに騙された」と称する記事がありました。真相は定かではありませんが、クーポン会社の積極的な営業によって「手数料」の割合を知らないまま発行し、無断で発行枚数を増やしたとあります。そして、クーポンの仕組みから、

発行して使われなかったクーポン代金は、発行会社の取り分になる

と、利益を貪るために過剰な発行を迫ったような含みを持たせる仕上がりです。グルーポンの肩を持つわけではありませんが、仮に記事が本当だとしても、ビジネスは「取引」でお互い様。手数料の割合などは契約の初歩の初歩。発行枚数も同じです。無断で「増刷」したのなら損失は法廷闘争して取り戻せばよいだけのこと。同じ商売人として、同情はしますが、同意はできません。

強引な営業と熱意ある説得は受け手の主観次第で、ボタンの掛け違いが起こる原因ですが、回避するには「書面による契約」が必須で、書面の契約が「口先だけの約束」をする営業マンを遠ざける盾となります。

損をするフラッシュマーケティング

「契約書」を手にしたら、詳細な数字を確認してください。その数字がより正確な「予算」のもとになります。スーパーベルクスでの玉子の特売が、毎回「先着○○○名様」であるのは、販促費としての「予算」と、玉子の納入業者との仕入れ契約価格から算出されているからです。口約束の多い、出版業界でさえ「出版契約書」には印税の取り分、支払期限などは明記されております。

楽天市場でお馴染みの「共同購入」と「フラッシュマーケティング」の決定的な違いは、短期的な取引だけでみると足が出やすい構造になっていることです。だからこそ、1つの取引や、1回の売買で損失になっても、その後の取引で利益が出るような「予算組み」が重要となるのです。

花見で客を集める方法

前編で紹介した「イタリアンカフェ」に再登場願います。店から徒歩5分ほどの公園では春にソメイヨシノが花開き、隠れた花見スポットとして地元では有名です。そこで、こんな「クーポン」を用意します。

花見ロケハン、幹事にお任せ! クーポン

花見用のケータリングセットを格安料金で試食できるクーポンです。

企画の醍醐味は「試食後」にあります。試食後5名以上のケータリングお申し込みで、幹事様の試食代金とケータリング代金をキャッシュバックして、格安での「店内での2次会」の予約を受けるのです。

2次会というストーリー

「2次会」を狙うのは「ストーリー」に沿ってのこと。春とはいえ夜の花見は寒く、暖かい食べ物が欲しくなるだろう。その時、熱々の焼きたてピザやほっかほかのミネストローネがあれば……と。

予約の人数は「予算」から逆算します。ポイントは、

1人前のクーポン券で5人分の売上を期待できる

というもの。粗利を数式にするとこうなります。

(ケータリング申し込み人数-幹事)×1人当たりの粗利-(1人前の試食原価+クーポン手数料)=トータル粗利

あくまで基本原理に過ぎません。そして、この企画がクーポン各社の規定に抵触する場合は各社との「契約」に従ってください。

ABS卸売りセンターの戦略

我が足立区の有名店「ABS卸売りセンター」の販売戦略もフラッシュマーケティングの参考になります。飲食物、雑貨などの激安店としてなんどもメディアで取り上げられていますが、実はすべての商品が安いわけではなく、定番商品になると前述の「スーパーベルクス」のほうが安いことも少なくありません。

先日来店すると「タイ産チキンラーメン風インスタントラーメン」とPOPがかかる商品がありました。怪しげに眺めつつも好奇心に抗えず、買い物カゴに放り込みました。「他店にない商品に出会える楽しみ」がABS卸売りセンターの魅力で「安売り」は入り口に過ぎないのです。同様にフラッシュマーケティングも「きっかけ」に過ぎません。玉子の特売や試食クーポン、そして「タイ産チキンラーメン」だけでは商売にはならないように。

もともと「イベント性」に着目していたフラッシュマーケティングですが、「スカスカおせち」をきっかけに調べてみると、クーポン各社のサイト上の情報開示が不十分なことに気がつきました。これは、公開した情報は他社に模倣されやすいという仕組み上、仕方がないのかもしれません。そして、良くも悪くも「馴れ合い社会、日本」では、契約に疎く、この契約の確認をアドバイスするとこう反論されたこともあります。

相手を信頼していないみたいで失礼

予算と契約を説いた理由はここにあります。予算組みができないなら、契約が理解できないならフラッシュマーケティングに手を出すべきではないと考えます。しかし、それを理解した上でなら、各種クーポンは新しい客と出会う、1つのチャネルであることに間違いありません。正しい活用により、私たち消費者を楽しませてほしいと願います。

今回のポイント

来店者を次の利益に結びつけられるかが肝心=マネタイズ。

契約はビジネス上のお約束、しつこいぐらいの確認を。

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