企業ホームページ運営の心得

やってみました「ペニオク」実費体験ルポ、グレーゾーンを見分けるWeb担心得

ネットのグレーゾーンビジネスのチェックポイントについて
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百四

1コインでサッポロ一番塩味が届く

まともな企業のWeb担当者ならあまりご存じないでしょうが、ネットには「グレーゾーンビジネス」が溢れています。最近では、その噂の絶えない「ペニーオークション(以下、ペニオク)」の苦情が消費生活センターに急増しています。クレームの大半が落札できないというもので、主催者が不正操作しているのではないかという疑惑が持たれています。

昨年末、自宅に「サッポロ一番カップラーメン 塩味 12個入り1ケース」が届きました。ペニオクで妻が落札したのです。入会キャンペーンでもらったコインでクリックした1回で落札し、その価格はわずか5円です。はたして疑惑の真偽は? と、自腹を切ってチャレンジした結果は後ほど。今回は「グレーゾーン」のチェックポイント。

ひとひらのまぼろし

ペニオクは主催者(サイト運営者)が商品を0円で出品してはじまります。食品から電動バイクと、さまざまな商品が出品され、妻のように「破格値」で落札できる可能性があるのが最大の魅力です。入札単価は1円、5円と主催者が設定し、入札されるごとに加算されていきます。入札するにはコインやポイントが必要で、主催者から1枚50円から75円で購入します。落札に失敗してもコインは返却されません。これまでのオークションにはない、入札のたびに発生する手数料(コイン)という仕組みが苦情の原因となります。

実際に私は200枚ほどコインを投じて「Mac book Pro 17インチ」の落札にチャレンジしましたがあえなく撃沈。入札は1円ずつせり上がり、手のひらで消えるひとひらの雪のようにコイン=現金が溶けていきます。下世話な話ですが、本稿には金がかかっています。

検証「ペニオク」

コインやポイントはデジタル情報ですから、システム管理者がパラメータを操作すれば1億枚でも2億枚でも自由自在に増やせます。これをもって、主催者が入札者を装えば無敵です。こうした不正操作はかつて「ヤフオク」でも噂されました。しかし、ヤフオクは競合する入札者や出品者の履歴や評判といった、参考情報を公開することで公平性を裏付ける努力をしてきました。一方、多くのペニオクはこの点が不透明です。また、落札価格が高騰すれば高く売れるメリットと、コイン販売による入札手数料増加が不正操作のインセンティブを高めます。ネットサービスに慣れ親しんだユーザーからすれば、疑う理由としては十分でしょう。

ペニオクの疑惑を例えるなら、対戦相手とレフリーが手を組んだ暗闇のなかのボクシングです。勝ち目などありません。しかし、届いた「サッポロ一番」は本物(ふつう)でした。

不都合な落札者

なけなしの小遣いをはたいてのペニオク実験中、首をひねるシーンが多々ありました。締め切り時間が過ぎ、「処理中」と表示され、「終了」に変われば「落札」なのですが、一瞬「終了」が表示された刹那にカウントダウンが復活することが何度もあったのです。そのとき、「落札させない仕組み」のアルゴリズムを思い描いたのは、20年前にプログラマという名刺を持っていた人間だからです。「不都合な落札者」なら、オークション継続のルーチンを強制的に走らせることなど簡単です。

しかし、不正が行われていたとして、ペニオク運営会社に乗り込んで「システムを見せろ」といって見せてくれることはないでしょう。またセキュリティを理由に、サーバーを本社所在地以外に置き、秘密にすることはWeb屋からみれば反論できない正当な理由です。そこで「裏通り」の視点でチェックします。

裏通りの常識

まず、Webサイトに掲載されている社名や住所、運営責任者の氏名が「画像」になっているかという点に注目します。ざっくりと述べれば、検索エンジンは「文字情報」を中心に収集しており、会社概要のような基本情報は文字(テキスト)がベストです。商売において売名行為は自然な営業活動で、無名より有名なほうが有利で、反対に社名や住所を検索エンジンが探しにくくするメリットはありません。

会社概要の文字表記を画像にするのは、「名前を広めたくない」グレーな業者よく使う手法です。それはグレーゾーンビジネスを展開する人間の多くは常習犯で、過去の悪行を「ネットで検索」されないための予防策です。

ならば匿名や偽名を使えばというのは日の当たる世界の住民の発想。IPアドレスで管理されたネットに匿名性はなく、ひとたび警察が動けば3日と待たずに個人は特定され、虚偽の名前は「搾取目的」という動機の裏付けにされかねません。詐欺罪は「騙そうという意思」も犯罪構成要件で、設計ミスや手違いと言い逃れするためには「実在の名前」でなければならないのです。

信頼はサイトにある

会社概要がテキストでも安心できません。別のペニオクでは「住所」が正しく表記されていませんでした。「○丁目○番地○号」の「号」を表記していないのです。Web担編集部のように「番地」までの住所もあるのですが、そこは「号」まである地域であることは「グーグルストリートビュー」でも確認できます。

さらに「運営会社のURL」がないのも疑っていいでしょう。先ほど述べたように「売名」と同時に、しっかりした運営会社があるとアピールするのは信頼の担保となるからです。そして、これはペニオク事業者に限りません。BtoBのサービスでも同じです。

やりすぎなぐらいでいい

簡単なところでは「社名検索」や「社長名検索」でヒットしないなら、グレーゾーンと疑っていいでしょう。会社概要のチェック(同業者比較も)も必須項目です。取引銀行などの財務情報も要チェックです。大手都銀の名前が並んでいれば良いというものではなく、資本金の少ない会社の主要銀行に信金のなまえがあれば「手堅い」とみる1つの手がかりとなるからです。良し悪しを判ずるものではなく、BtoBの取引では企業文化や事業の継続性を考慮にいれてチェックするべきだからです。そして「グレー」な企業ならどこかで違和感が見つかります。

また、実績がないことはさほど問題ではありません。創業したてであっても、足りない歴史を技術力や経験の自己アピールや、ストーリーなどのコンテンツで伝えようと腐心する会社なら「グレー」の確率は下がります。「グレー」で儲けようとする連中は「楽して儲かる」ことがすべて、こうした面倒なアピールは避けたがるからです。

インターネットが登場したことで生活は便利になりましたが、玉石混交の情報・サービスを目利きする力が求められています。身を守るには知識を身につけるしかありません。もっとも、ここで紹介したチェックポイントは「序の口」。「ブラックビジネス」ではさらに巧妙な手口で偽装するのですが、それはまた別の話。

最後に、ペニオクの逆説的検証に挑みます。「安い商品なら落札できるのではないか」と、「カップヌードルライト シーフード味(12個入り1ケース)」に入札すると20円でゲットできました。こうした「落札実績」はグレーゾーンのアリバイ作りです。人を騙す基本は、小さな約束を守り大きな嘘をつくこと。そしていま、私の投じたコインを取材費で落とせないかと弊社専務と交渉中です。

今回のポイント

簡単なチェックでグレービジネスを回避

名を隠すサービスは疑ってOK

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