コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百弐
不景気のせいにするのは楽
米国の不動産バブルが崩壊し、悲観論が蔓延しています。同じくネガティブに語られることの多い1990年前後の「元祖バブル」の絶頂期に私は社会人デビューしました。毎晩のように飲み歩き、雑誌で紹介された店にタクシーで乗り付けたものです。この祭りに参加できたことに感謝しています。東京湾沿いを「ウォーターフロント」と呼び、そこに出店するレストランは魚介の網焼きを「シーフード料理」と名付けて高値で販売していました。
「海の家じゃん」心の中で呟きましたが、祭りに水挿す野暮はしません。
バブル崩壊後、不況がやってくるとフリーターとなり「後の祭り」という言葉をライブで体験し、それが「搾取」だと気づき広告代理店に潜り込みました。そこで商売の裏側を知り、「ウォーターフロント」が道理にかなったものだと気がつきました。
バブルにボロ儲けし、不景気でもそこそこ売る。そのための基本技術が「差別化」です。バブルと東京湾が教えてくれます。
花嫁道中という差別
差別化が大切。コンサルタントが念仏のように唱えますが、具体策が示されることはほとんどありません。会社員時代の顧問コンサルタントに差別化の具体策を尋ねると「私が答えたら皆さんの会社ではなくなってしまいます。皆さんが考えることが大切なのです」と煙に巻かれました。
正論ですが「模範演技」を示さずにバック転をさせるのは危険です。実例を示し、技術を教える方が企業のためになると私は考えます。なぜなら差別化は簡単にできるからです。結論を述べれば幾つかの技術の組み合わせです。今振り返るにこの「先生」は自分の差別化をされていませんでした。
連載100回記念でプレゼントした「花嫁道中」は「差別化」の実例を示すサンプルです。
客は素人なのですよ
製造元の「両関酒造」さんには申し訳ないのですがこう説明します。
「ラベル一枚で差別化。プレミアがついてヤフオクで高値取引」
一般的にウィスキーや焼酎といった蒸留酒は樽などで「寝かせる」と深みがでてまろやかになり、「花嫁道中」は5年間貯蔵されたもので焼酎としての評価も高く、沖縄の泡盛も焼酎の仲間で3年寝かせたものは「古酒」として1ランク高くなります。が、これは「酒好き」にしか理解できません。
裏返せば「酒好き」ならば、「五年熟成」だけでその価値を推し量ることができます。しかし、新規客の開拓とは「知らない層」へのアピールが重要です。焼酎から遠い「萌えイラスト」に見事と唸ります。
季節は理解しやすい共通項
「花嫁道中」の差別化は「パッケージ」によるアプローチです。パッケージで知ってもらう「きっかけ」を用意するのです。このアプローチには「ポケモンカレー」や「ゴーオンジャーソーセージ」があり、古典的な手法でもあります。
残念ながら良いものが売れるとは限りません。売れないというのではなく、良いものと理解されるには時間がかかるのです。そこで早く理解されるために「差別化」します。今年の流行語で言うなら「あなたとは違うんです」とアピールします。首相が新聞記者と差別化することに意味があるとは思いませんが。
続いて差別化の定番が「季節イベント」です。今が盛りの「クリスマス」「正月」などに便乗します。カラーバリエーションのある商材なら、赤と緑を集めたクリスマスセットや、「メリークリスマス」と印刷されたシールを貼るだけでも効果があります。客は商品に対して素人ですが、クリスマスは理解でき、勝手に特別なイメージを重ねてくれます。
得をしたいという欲求を満たしてあげる
同じ商品を買うなら少しでも得をしたいものです。金銭的なメリットだけではありません。自分を客の立場に置き換えて想像してください。たかがシールでも、他店が商品を並べているだけの中で、シールを貼るという手間を掛けてくれた心に嬉しくなる、つまり得した気分になりませんか?
余談を少し。10月になると「ハロウィン」が騒がしいのは、新たな季節イベントを定着させようとする「大人の事情」です。八百万の神様がいる日本ですから、1つぐらい宗教儀式が増えても問題ないのですが、いまひとつ定着しない理由は「大人が楽しめない」ので「金」が動かないからです。クリスマスやバレンタインのような「色恋」も絡んでいませんし。
平山さんの真鯛とウォーターフロント
ネーミングは差別化の定石です。
「養殖の鯛」
「平山さんの育てた真鯛」
両者は同じものです。しかし、どちらを食べたいでしょうか。養殖ではなく「育てた」というのがポイントで、同じ意味でも言葉のチョイスと組み合わせで差をつけることができるのです。「生産者の顔が見える野菜」と同じです。
かつて東京湾沿いがウォーターフロントと呼ばれトレンドの中心だった時代、港区の浜松町で働いており、昼休みに足を伸ばした竹芝桟橋でみた海は真っ黒で人もまばらです。これが夜になると、肩パットの過剰にはいったDCブランドに身を包んだ三高を探すOLと、24時間戦うつもりのビジネス戦士たちが、粗末な……いや、簡素な作りの飲食店が提供するインフレ価格の普通の料理に行列します。「ウォーターフロント」というネーミングが東京湾の現実を忘れさせてくれたのです。夜の海はどうせ真っ黒ですが。
差別化ができないものはないと断言します。
不利と有利は表裏一体です。先日「木曽路」というしゃぶしゃぶ屋に行くと、高めの料金設定にも満席です。道路の反対側にある全国チェーンの低価格しゃぶしゃぶ屋は閑散としています。安いものしか売れないという時代にです。高いはデメリットではなく「高級」の裏付けにもなり、それに見合ったサービスが「差別」となり格差を生みます。木曽路は接客がウリで、「鍋奉行」も標準装備されています。こちらは断ることもできますが。
次回はこの「差別化」をより踏み込み、すべての業種のホームページで使える方法を紹介します。
♪今回のポイント
差別化は基本技術の組み合わせ。
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