コンテンツ価値を高める説得力、顧客の心をつかむ専門家作戦
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の333
論理的な説明という落とし穴
グーグルは検索順位の決定において「コンテンツの価値」を優先するといいます。先日、とある事件を検索すると、ただコピペしただけの「まとめサイト」が1位に表示され、その元になった記事は2位に表示されていました。価値あるコンテンツの見極めは、世界中の才能が集うグーグルにも困難なのかもしれません。
私にグーグル社員になれるような才能や学歴はありませんが、少なくともお客の姿は知っています。お客がコンテンツに価値を感じるのは、「説得力」があればこそ。これは対面販売でも飛び込み営業でも同じです。換言すれば説得力が「価値」を生み出すのです。
説得力を高めるのに用いるのは、学説や論文、実験データではありません。これらは説得の補足資料に過ぎません。なぜなら「客は素人」だからです。データを見ても「ふーん」ぐらいの感想しか持たないのです。データを見て理解できるのは「専門家」です。そしてその「専門家」こそが説得力を生み出し、ひいてはコンテンツの価値を高める方法につながります。
コードネームは「専門家」
社員コンテンツの稿で、外食店のスタッフを「焼酎のソムリエ」とした事例を紹介しました。この肩書きは日本酒サービス研究会・酒匠研究会が主催する資格『焼酎アドバイザー』とは無関係で、店で用意している十数種類の焼酎について詳しく説明できるという、会社独自の基準に過ぎません。
しかし、ホームページのスタッフ紹介に「焼酎のソムリエ」と掲載後、お客に声を掛けられるようになり、焼酎の銘柄で迷ったら、彼に声を掛けるというのがこの店のルールになりました。そのお店限定の専門家が説得力をもった事例です。
意外に思われるかもしれませんが、サイトとは限定された空間です。ネットは理論上、無限に匹敵する空間をもちますが、ユーザーが訪問できる範囲は有限です。ましてや、脊椎反射レベルに「ネットで検索」をするWeb業界人と異なり、一般のお客は直感的にたどり着いたサイトで答えを得たいと期待しています。答えがないからと、何度も検索を繰り返す作業は「めんどう」ですし、多すぎる情報は混乱のもとになるからです。「探し方が甘い。きちんと読んでいない」というのは提供者側の視点。
そして、たどり着いた先に「専門家」を見つければ頼りにします。こうしたお客の習性を利用し、説得力を生み出すアプローチを「専門家作戦」と名付けます。
日本人のメンタリティ
お客が専門家を信じるのは、裏返せば単純な話です。お客からは、「店舗スタッフや社員は一般的にその道のプロ」だと見られているからです。家電量販店でスタッフを捕まえて機能を確認するのは、彼らが「プロ」だと考えている証拠です。そのプロが専門家という「肩書き」を持てば、お客はより信頼する、つまりは説得力を感じるという寸法です。
日本人は肩書きに弱いのです。権威に弱いと言ってもいいでしょう。さらに相手の主張をまずは信じる善性が加わります。不動産会社のなかには、部下もいないのに「部長」の肩書きをつけさせることがあります。理由の1つはお客との価格交渉で、「大胆な値引き」という切り札の演出のためです。一兵卒が提示できる値引きと、部長のそれでは説得力が異なると思い込ませるためです。
肩書きの選び方
間違いではありませんが「専門家」と、そのままの記すのは野暮です。そこで「ソムリエ」のような代名詞的な肩書きをつけます。
- マイスター
- コンシェルジュ
- 先生
- 師匠
その他、「○○のカリスマ」というのもあります。業種業態、キャラクターにより適時選択しますが、最近では「学者」も選択肢の1つです。読売新聞ではまだ学生の身分でありながら、「社会学者」と紹介される著名人もいるからです。仮にお客に論拠を問われれば、読売新聞の内規に準拠していますと回答してください(読者センターによれば、読売新聞にとって「学者」という表記にアカデミックな裏付けは不要とのことです)。
専門家になるのは社員やスタッフ。しかし、社員コンテンツで触れたように、個人情報の流出につながりかねないので無理強いは厳禁です。ではどうするか、一番の適任者は「社長」です。どうにか口説いて引きずりだ……お出まし願ってください。だれも出たがらなければ、イラストや「ゆるキャラ」でもOKです。
躍動感を生みだす演出
露出OKのスタッフ=専門家が見つかれば、その「プロフィール写真」は気取ったものにします。ただのスナップでは格落ちするからです。「イケメン風」「コスプレ風」「謎の男風」というのも選択肢の1つです。それも難しければ、スナップショットを切り抜き、グレースケールや、セピア風にするだけでも雰囲気がでます。要するに「ちょっと違う感」を演出するということです。
さらに写真に踏み込めば、決め台詞ではカメラに向かって指を指し、悩みどころでは首をひねり、すでに陳腐化していますが「今でしょ!」の振りまねなども効果的で、コンテンツに躍動感が生まれます。こうした写真の参考になるのが『BIGtomorrow』や『週刊SPA!』などの一般紙です。
そして言葉は「断定調」とします。お客におもねるようでは権威が失墜します。独断と偏見で結構。専門家の主観で語ります。もちろん、薬事法にふれるような内容や作り話のウソは論外ですが、一般論でまとめるのではなく、ズバッと結論を述べることで説得力が増すのです。
昭和時代への回帰
私は営業マン時代、「断言」することでお客の信頼を得ました。お客は自分以上の素人だから突っ込まれることはまれです。そして過ちに気がついたときは、指摘される前にこちらから切り出し謝罪します。おもしろいもので、この姿勢を「誠実」と評価するお客は少なくありません。
専門家作戦とは古き昭和時代への回帰です。かつて町内において「肉の専門家」は「肉屋」でした。同じく魚は魚屋で、野菜のことなら八百屋の大将の出番でした。彼らは町内においての専門家でアリ、権威で、店頭ではスターだったのです。サイトという小さな空間でこれらを再現し、説得力を高め、お客にとってのコンテンツ価値を高めるのが専門家作戦です。
最後に専門家作戦で参考になるのが本サイト。ここでの「安田編集長」の役割は、まさしく「専門家」です。
今回のポイント
専門家の力で説得力を高める
名乗ったもの勝ちという専門家の真実
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