緊急事態には検索キャッシュを活用。クラウドでもバックアップを
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の271
未曾有の惨劇
ヤフー子会社のレンタルサーバー会社「ファーストサーバ」が6月20日、未曾有の事故をおこしました。メンテナンスの際にサーバー上のデータが消えてしまうだけでも大事件ですが、バックアップデータまで消してしまった「大惨事」です。そして消去したデータを「復活」できなかったことは致命傷です。同社を利用していた企業は小林製薬やロフトなど5000社を超え、ロフトなどは事故から5日たっても最低限の情報以外は掲載されていない「仮設サイト」で急場を凌いでいました。
すべてのデータやアプリケーションをネット上に置くという「クラウド(コンピューティング)」の説明はセールストークに過ぎません。広義においてはレンタルサーバーもクラウドを構成する要素で、サーバーは雲(クラウド)の上にはなく地面に置かれており、ヴァーチャルではなく物理的に存在するハードディスクに保存されています。
人為的ミスでデータが消去されることもあれば、ハードディスクという機械が突然クラッシュすることも珍しくありません。そして備えなければ憂いがまっています。本稿執筆の1週間前、弊社の経理用のハードディスクが突然旅立ちました。
被害者を激怒させる説明
ファーストサーバ社の事故理由を一言で解説すると「恐ろしいほどの単純ミス」です。同社が事故の原因として6月25日に公開された中間報告を見ると、検証環境でプログラムの不備が見落とされ、本番(運用)環境で見逃され、それをバックアップサーバーにも同時に適用したとあります。
検証と本番はともかく、バックアップまで同時に更新すればバックアップの用をなさないので論外です。しかし、この報告をみて同情してしまいました。初歩的で単純すぎるミスであるが故に、大惨事に見合った説明を用意できない担当者の苦悩が滲み出ていたからです。
正しくは、
うっかりを合理的に説明などできない。
となるのですが……被害者感情を逆なでしたとしたらすいません。
23年前の警告
私がプログラマになってすぐ、先輩にきつく言われたのが「del *.*」の厳禁です。今のように不要ファイルを削除するためのゴミ箱は「MS-DOS」にはありません。コマンドラインから「del(Delete=削除の意味)」のあとに「ファイル名」を指定して削除します。そして「*(アスタリスク)」は「ワイルドカード」と呼ばれすべてを意味します。トランプでいうところの「ジョーカー」のようなもので、「*.*」は全ファイル削除を意味します。
一般的にコンピュータのファイル削除は、ファイルデータの先頭文字を削除することでOSが認識できないようにします。だから削除直後ならこの先頭文字を復活させることでデータを復旧させることができるのですが、かならず復旧できる保証はなく、そもそも余計な仕事が増えることは自明で、配属から数日でそこつさが知れ渡っていた私に先輩がクギを刺したのです。ファーストサーバ社の事故の引き金を引いたコマンド(命令)は、平成元年に私が先輩から指摘されたものと同種です。
1日も早い復旧のために
ファーストサーバ社が早急にデータ復旧を断念したのは、単純な削除だけではなく、データを完全に消去するために、無意味なデータを上書きするなどの処理をしていたのでしょう。するとデータが永遠に失われるわけですから、より慎重にならなければならなかったのですが、うっかりは……。
一方、Web担当者の仕事は、「消えました、復旧できません」からが本番です。バックアップの重要性は言わずもがなで、先のロフトなどは数日たっても「仮設」だったことから、十分なバックアップを取っていなかったのでしょう。Web上でCMSを使い、オンラインだけでコンテンツを管理していたとするなら、今回の事件は全データの消失を意味します。
しかし、文字情報だけの「仮設」でも迅速に復旧させなければならない理由は「検索エンジン」です。特定のキーワードで良い順位を取っていても、「Not found」で順位を下げられては二重の被害となります。そんな最悪の事態での対処方法が「検索エンジン」に残るキャッシュです。いち早くコピペして、文字情報だけでもレスキューします。
写真データは原本さえあれば
写真は原本さえ残っていれば時間はかかっても復旧ができます。デジカメで撮影していたなら、消去したデータを復旧させることもできるのは先に紹介した理由からです。上書きさえされていなければ、SDカードなどからかなりの確率で復活させることができます。フリーソフトも出回っているので、トラブルのない平時に一度試しておくといいでしょう。
今回のファーストサーバ社は、オプションで「バックアップ」サービスも提供していました。ただし、バックアップと一言で言っても、すべてのデータを含むのかそれとも差分だけなのか、ビルが災害で倒壊したとしても安全な遠隔地に保存するのかなど、さまざまな要素を含んでいます。今回の件では、そのバックアップが消失したのですから目も当てられませんが、やはりデータは自己管理すべきでしょう。
バックアップに意外と役立つのが「ダウンローダー」です。サイトを丸ごとダウンロードしておくと、万が一の時に迅速に復旧できます。大きな声では言えませんが、あるサイトを「全消失」してしまったときに、その前週にたまたま「ダウンローダー」で落としていたデータがあり救われたことがあります。
本当にかける保険
さらに「静的な環境」、つまりCD-ROM、DVD、SDカードなどパソコンから切り離した環境でのバックアップも備えておくべきです。ウイルスによる破壊はもちろん、ハードディスクのような動的な記憶装置の場合、物理的破壊が起こる確率が高いからです。所詮は機械です。いつ壊れるかはわかりません。バックアップとはいざというときの「保険」なのです。
保険といえば、三井住友海上火災保険の「クラウドプロテクター」という本当の保険も発売されています。月額5万円ちょっとで、最高5,000万円まで保証してくれます。保証対象は、火災、落雷、水害、地震、コンピュータウイルス、サイバー攻撃などで、データを消失した場合の復旧費用や損失などに対して保険金が支払われます。
弊社は保険をかけ忘れていました。クライアントのデータは定期的にバックアップを取っていましたが、おもに経理用に使っていたハードディスクがクラッシュしたのです。そして今、経理担当は「紙のデータ」というバックアップから10か月分の復旧作業という憂いを噛みしめております。
今回のポイント
クラウドの時代でもローカルなバックアップを
機械は必ず壊れるという大原則
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