企業ホームページ運営の心得

Facebookは非課税、ヤフーなら増税。消費税と電子取引の抜け穴

消費税の課税対象は国内取引と輸入品、現状では海外からの電子書籍配信などは課税されません。
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の270

楽天の買収と増税

楽天がカナダの電子書籍出版企業「Kobo」を買収しました。海外企業の買収自体はさして珍しくありませんが、それによりめざましい成果を上げたという話は寡聞にして知りません。それより楽天市場の海外進出は「現地化」で苦戦していると、楽天の元ECコンサルタント(顧客担当者)から聞いたことがあります。辞めた社員の話ですから、うのみにはできませんが、今年の4月に撤退した中国市場の苦戦は言い当てていました。

「現地化」とは地域のニーズを汲み取り、商習慣や文化風俗に沿った対応をすることで、韓国サムスンの世界進出が成功した理由として紹介されます。ITの世界も同じで、それぞれの国の国民には、それぞれの趣味嗜好があり、サービス提供者側の論理を一方的に押しつけても受け入れられにくいからです。

ところが今回の買収目的を知り、なるほどと頷きます。カナダ企業買収目的の「現地」とは日本だったからです。そして本稿執筆時の2012年6月26日、増税法案は可決されました。

宙に消える消費税

編集部注

6月29日、財務省が2014年4月の増税に合わせ、海外からの電子書籍配信などに消費税を課す方針であると報道された。「海外電子書籍に消費税=14年の増税時―財務省」(時事通信社)

野田首相によれば、増税しなければ我が国はすぐに破綻するそうです。そこで消費税の増税ということですが、消費税の課税対象は「国内取引と輸入品」です。ジェトロの資料によれば、カナダも「輸出品」に消費税はかかりません。ここで注目すべきは、カナダで販売(配信)した電子書籍は、カナダからみて「輸出品」で非課税だということ。そして我が国の「税関」は輸入された電子書籍をチェックする機能をもっていません。つまり事実上、無税となるのです。

誤解なきように捕捉しておきますが、楽天の目的はこうした脱法的消費税回避ではないと思われます。来るべき消費税増税により拡大する競争阻害要因の排除とみるべきでしょう。なぜなら、「アマゾン」で買った電子書籍に消費税はかからないからです。

1,100円のインパクト

いまでも国内企業は消費税分だけ不利な競争を強いられています。そして2015年の10月には消費税が10%になりそうです。すると国内で発売される本体価格1,000円の電子書籍は1,100円となります。一方、海外から同じ本を発売したなら1,000円です。1割の価格差は大きく、競争上の不利は明白です。

「税」とは国家の主権を体現するもので、そのなかでも「消費税」は「サービス提供地」で徴収すると考えられております。一般的には事務所や営業所の所在地が基準となりますが、ネットでは現地法人や窓口を持たないサービスもあることから「サーバーの所在地」で判断することがあります。すると取引場所は「サーバー上」となり、カナダは国外、主権の及ばない異国です。

国益ならヤフーリスティング

ただし、業務の実態がなく、海外のレンタルサーバーを借りただけの「海外移転」は、「租税回避目的」の「脱税」と見なされることがあります。その点、実績のある海外企業を買収し、そこから電子書籍を配信することは通常の事業拡大に過ぎないと楽天は判断したのでしょう。

すでにリスティング広告の分野においては「内外格差」は生じています。アドワーズの広告費の請求元は、昨年はじめはアイルランドの「ダブリン」で、その後「香港」となっています。アドワーズの「ヘルプ」を見ても消費税(地域税と表記)はかからないとあります。一方のヤフーのヘルプには消費税が徴収されることが明記されています。リスティング広告は入札により上下しますので、単純な比較はできませんが、アドワーズは消費税分だけ安い理屈になります。

あとで再び触れますが、こうした不利な競争条件はすべてのネットサービスに通じます。

既得権益の保護を

財政再建のためと増税やむなしの声もあります。旗振り役は「新聞」です。しかし、彼らはチャッカリと新聞の「軽減税率」を求めています。軽減税率とは、特定の商品の消費税率を低く抑えるもので、超党派の議員連盟に働きかけて「新聞や書籍」の税率維持を目論んでいます。この「書籍」に電子版が含まれるかは微妙です。

それは、朝日新聞の秋山耿太郎社長がネット情報の氾濫を先に示したうえで、次のように発言しているから。

情報内容の正確性、世論形成力、あるいは国民への浸透度などから新聞の役割は重要と認識している。
(「活字文化議員連盟での意見表明」山岡けんじ議員ブログの資料より引用)

両者の差別化への思惑が透けて見えます。しかし、「新聞は特別」だというのなら、秋山社長が胸を張る「形成してきた世論」とやらが破綻寸前の財政事情を生み出したことについても意見を求めたいものです。

増税前にやらなければ

海外企業との不利な競争を強いられているのは楽天だけではありません。そして野田首相は増税を決定しました。しかし、消費税で財政再建を目指すなら最低でも18%、できれば30%弱まで引き上げなければならないといわれています。そうなれば消費税による価格差は、とても企業努力で吸収できる数字ではなく、国内の電子書籍およびネット広告市場は、いままで以上に海外勢に食い荒らされます。

海外ネット企業との競争はグーグルだけではなく、FacebookはヘルプでEUのVAT(Value Added Tax:付加価値税)について丁寧に日本語で説明していますが、日本の「消費税」については触れていません。Twitterにいたっては一般公開情報から、税に関する記述を見つけることができません。会社所在地を「San Francisco」と英語でつづり、「捜査当局」向けのコンテンツでは合衆国の法律に従うとあるのが彼らの答えでしょう。つまり、「日本のWeb空間」で取りはぐれている「消費税」は放置されたまま増税へと舵を切ったのです。

増税の前にやることがある、それはWeb空間においても同じです。

ちなみに消費税の課税問題についてEUでは1つの結論をだしています。域外の業者は、域内のどこかの国に登録し、そこへ一括納税し、各国の利用状況に応じて配分する仕組みです。もともとはOECD(経済協力開発機構)が1998年に発案したもので、サービスを受ける側で課税する「消費地課税」というものです。そしてこれにはグーグルもFacebookも従っています。

今回のポイント

まさしく「グローバル」な問題

増税の前にやること、やらなければならないことが実に多い

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