広告でも大切なお金の話。リスティング広告の管理ミスに学ぶキャッシュフローの選択
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百参十七
リスティング広告はSEOに勝る
Web担として、すぐに「結果」をだしたいという相談には「リスティング広告」をすすめています。リスティング広告とはヤフーの「スポンサードサーチ(旧オーバーチュア)」と、グーグルの「アドワーズ」に代表される、検索結果やコンテンツに連動して表示される広告です。検索結果という利用者の知りたいキーワードに出稿できることから高い広告を期待でき、簡単な手続きで少ない投資から始められるのが魅力です。
検索結果の上位表示を目指す「SEO」も基礎体力をつけるために欠かせませんが、努力と結果が比例するわけではないのは「ブラック・テキスト芸」で紹介した通りです。一方、リスティング広告なら短期間に実施でき、テキスト芸がなくても「お金」で結果をある程度左右できます。
ただし、その「お金」についてスポンサードサーチとアドワーズでは取り扱いが異なり、その違いが大損失を招くこともあります。今回はスポンサードサーチとアドワーズに絞った「お金の話」です。
12万円の損失をだす
リスティング広告はクリックごとに課金され、単価は指定した「キーワード」への入札で決定し、最低入札価格は1クリック1円です。競合が多ければ競り上がり単価は高くなります。
たとえば、アドワーズにて「マンション」で1位表示を目指すと、推定平均クリック単価は533円とあり、推定クリック回数は1,563回で、利用金額は83万3,079円(2011年10月10日現在)。これを30日間続けると約2,500万円。実際には数円から数十円のキーワードも多く、1日の上限予算が設定できるので、事業規模に合わせることができるのですが、ともすれば莫大な「お金(費用)」を支払うリスクもあるということです。
それはこの秋、12万円の純損失を計上したわたしの経験からも明らかです。
いつのまにか出稿
広告は「キャンペーン」という単位で管理します。たとえば、Web屋なら「SEO」「CMS」「LPO」など、集客目的別にキーワードをまとめます。不用な時はキャンペーンを停止すれば表示されず、無駄な広告費用を使わずに済みます。ところが、なんらかの「誤操作」で停止していたキャンペーンをアクティブにしたことに気づかずに、12万円の広告費をアドワーズに支払いました。
停止していたキャンペーンは、以前「売上の90%がオーバーチュア経由でもアドワーズを利用する理由」で紹介した事例です。記事のさわりを述べれば、同じ広告を2つのリスティング広告に出稿した場合の成約率の偏りを指摘し、業種や商材により適切な広告媒体を選ぶべきというもので、このときのスポンサードサーチとアドワーズの成約比率は9:1で、圧倒的にスポンサードサーチに軍配があがりました。
あれから3年経っても結論は同じでした。このキャンペーンにおいてアドワーズの成約率は壊滅的で、前回の記事で示した仮説を証明するのに払った費用が12万円……とでもしなければ痛すぎる無駄金です。
やっぱり大事なお金の話
ミスの原因は、想像するに画面遷移が遅かったタイミングで、どこかをクリックしたからでしょう。グーグルに問い合わせてもいかんともしがたく、「それでは停止していた広告を再開した際に通知する機能などを今後追加することはないか」と訊ねても、
毎日チェックしていただくしか……
と、それはその通りです。この3年間停止させていたのですから、「停止しているはず」と30日間見落としたわたしのミスです。
そしてここからが「お金の話」。弊社ではいくつかのアカウントを管理しているのですが、「後払い」はこのアカウントだけでした。
キャッシュフローから考えると
スポンサードサーチとアドワーズ、2つのサービスは広告費の支払い方法に大きな違いがあります。スポンサードサーチは銀行振り込みか、クレジットカードによる「前払い」のみですが、アドワーズは「後払い」も選択できます。後払いは、広告予算が底をついても広告を継続して売上増加を期待できる点から、キャッシュフローでは有利となります。
しかし、他のアカウントはすべてスポンサードサーチの「前払い」で管理していました。その理由は「お金」です。顧客のアカウントに「前払い」で「立て替え」した場合に起こる「貸し倒れリスク」を避けるために、お客に直接振り込んでいただくか、あらかじめ預かってから、広告費を入金していたのです。想定外の広告費が発生した場合でも「前払い」分以上に請求が拡大することがないため、サーキットブレイカー(大きな相場が変動があった場合に取引を中断する制度)にもなります。また、スポンサードサーチは自動引き落とし額を自分で設定でき、引き落としがあるたびにその旨を告げるメールが届くので、異常があればその時に気づきます。
ただし、先にお金が手元から消える前払いは、キャッシュフローにおいてはマイナス。どちらを選ぶかは経営判断です。
自分で決められる
「後払いアドワーズ」は、もともと著書を書くために開設したアカウントでした。アドワーズのサービス内容、使い勝手を知ることが目的で、経営的視点ではなく、物書きの興味からで、深く考えずにはじめましたものでした。そのツケが12万円の損失です。
9月中旬に「10万円」が引き落とされていました。アドワーズの後払いが発生するのはアカウントごとの上限額に達したときか、毎月の引き落とし日のどちらかで、上限額は1万円、3万円、5万円、10万円と段階があり、利用月額がそれぞれの金額を超え、引き落としができた時点で上限額が上方にスライドし、最高が10万円です。
そして後払いから前払いに変更する際は、この上限額を納めなければなりません。つまり、わたしが今後、アドワーズの利用を「前払い」に変更するには、10万円を先払いしなければなりません。自分で前払い(自動引き落とし)する金額を決めることができるスポンサードサーチとの大きな違いです。
大企業にとってははした金かもしれない10万円は、中小企業や零細企業にとっては死活問題となりかねません。「お金」の視点からリスティング広告を整理するとこうなります。
スポンサードサーチ | アドワーズ | |
---|---|---|
前払いと後払い | 前払い | 両方 |
前払い金額の自己決定権 | あり | なし |
支払い(引き落とし) | あり | なし |
引き落とし報告の有無 | あり | なし |
グーグルのサポート担当が指摘するように、リスティング広告は毎日チェックするのが当然です。しかし……まあ人間にはうっかりということもあり、万が一の損失を最小化することを優先するなら「前払い」をすすめます。毎月の小遣いからコツコツと12万円を会社に返済することになった、わたしからの提言です。
今回のポイント
支払いのルールも比較して決める
金額の自己決定権は重要ポイント
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