あのアクセス解析が終了。無料について考える
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百参十六
無料フォトサービスに隔世の感
毎週、笠井枝理依さんの新作がないかをチェックしてしまいます。笠井枝理依さんとは女子大生のフリーモデルで、チェックするのは「写真素材 足成」です。「写真素材 足成」は有限会社エイムデザインが運営する写真素材サイトで、特に人物写真に重宝しております。以前は「山口沙羅」さんを使わせていただくことが多かったのですが、最近は笠井さんです。
「写真素材 足成」はすべての素材(写真)が「無料」で、利用可能範囲であれば、出典表記や提供サイトへのリンク、使用許可の申請などが不要です(できればコメントは欲しいとのこと)。さらに「商用OK」。素材を提供するサイトは沢山あっても、商用を認めていないところが多いのでこれは便利です。20世紀からサイト制作をしているものにとっては「衝撃」と表現しても過言ではありません。
無料。今回はこの魅惑的な言葉に迫ります。
午後5時までならとダッシュ
会社員だった20世紀。写真素材は有料が原則で、使用料は高額でした。そこで「フォト満タン」などの(当時としては)安価な素材集を購入してお茶を濁すのですが、どうしてもピタリと来るイメージがない場合は撮影です。しかし、当時の普及版のデジカメでは画像が粗く、発色も悪く商用には厳しいものがあります。使い捨てカメラの「写ルンです」で撮影して、スキャナーで読み込む方が、仕上がりは良いのですが現像しなければなりません。そこで、当日仕上げのDPE店の締め切り時間に間に合わせるために、なんども社用車のアクセルを踏み込んだものです。それがいま、プロ並みの写真素材を「足成」が無料で提供してくれます。
無料で思い出すものといえば、2009年発行のクリス・アンダーソンの著作『フリー』。クリス・アンダーソンは著書のなかで、
デジタルのものは遅かれ早かれ無料になる
と主張し、そのシンパは世界中に広がり、我が日本でも「フリー」は過剰に礼賛されました。いまなら「足成」もこの主張を裏付けると大騒ぎされたかもしれません。
アトムとビットは区別できない
とはいえ、全編を通しての主張は、翻訳版の副題にある「<無料>からお金を生み出す新戦略」のほうでしょう。丹念に読み込むと、各論で微妙に軌道修正しており、すべて無料になるとは断定していません。先ほどの主張にも「遅かれ」とあるのですが、これを慣用句ではなく、タイムスパンのレトリックとしてお茶を濁します。論旨としては「フリー(無料)」を足がかりに、ビジネス展開する戦略の提唱です。
実際には「遅かれ」が来る前に「終了」という結論もあります。無料ビジネスというのはとても難しく、試供品を企業から募り、無料で提供していた「サンプル・ラボ」の事業停止などが顕著な例です。クリス・アンダーソンは、リアル社会を原子で構成された「アトム」、ネットを「ビット」と分け、「アトム」においてのフリーの難しさは指摘していますが、つづく「ビット」は諸手を挙げて礼賛します。しかし、無料で息詰まるのは「ビット」の世界も同じです。
消えていったものたち
以下に並べたサービスを見て「懐かしい」とつぶやく人も多いことでしょう。
- 「カプライト/カプリッチ」
- 「Pubzine」
- 「ティアラオンライン」
- 「メルマガ天国」「Yahoo!メルマガ」
- 「Makcy!」
- 「E-Magazine」
みな、終了した無料メルマガスタンドです(E-Magazineは一部、有料版にて継続)。メルマガの発行を代行してくれるサービスで、かつては隆盛を極めたのですが、いずれもサービスを停止しました。また、老舗の「メルマ!」も、一年以上前に運営会社が株式会社サイバーエージェントからユニティ株式会社に継承され、最大手の「まぐまぐ!」は有料メルマガの発行に力を注いでいます。
わたしは、ここにあげたメルマガスタンドのいくつかから発行していましたが、サービス停止にともない失った読者は軽く1000人は越えています。これは無料のリスクの1つです。
いつ、終わるのかはわからない
メルマガだけではありません。今年の8月末を持って「Yahoo!アクセス解析」もサービスを停止しました。Infoseekの無料ホスティング「isweb」や、各種ブログサービスに、雨後の筍のごとく増殖した地域ポータルに地域SNSと、消えていった無料サービスをすべてあげることは不可能で、2000年の「AltaVista」の無料インターネットサービスの終了を挙げるまでもなく、「無料」であり続けるのはとても困難なことなのです。
また、無料のままでも使えなくなることもあります。「無料の雄」と呼んでも過言ではない、GmailとFirefoxの両者の組み合わせは、MacOS 10.4では正常動作が保証されていません。なにぶん古いOSのため、文句は言えませんが、「無料」は、サービス提供者の提示する条件に、利用者があわせなければならないのです。ちなみに、このMacはクラシック環境でのDTP専用機で、まだまだ現役です。
評価という貨幣で支払う
それでは最後にWeb担当者は「無料」とどう付き合うかですが、「無料」はその規約に「突然死」の免責条項をうたっており、過度な依存は厳禁です。無料以外の選択肢や、複数のサービスを併用し「保険」としてください。無料の高機能アクセス解析として有名なGoogle Analyticsですが、大手企業では複数のツールを使い分けているものです。メルマガなら有料版も視野に入れ、数百人単位の規模ならCGIで一斉配信スクリプトを自作しておくという手もあります。
「無料」のSNSにしても同様です。最近は、自社ホームページをFacebook上に置く企業も見受けられますが、サービスが停止したり、規約が変わる可能性はゼロではありません。
最後に「無料」の恩恵を得続けたいと願うなら、積極的に利用してクチコミで宣伝しなければなりません。前述の「フリー」で目を惹いた部分はこうです。
報酬は金銭だけではない。評価という報酬にも価値がある(筆者意訳)
評価が上がり、知名度が上がれば広告的価値が高まり、無料(あるいは別のビジネスモデル)で運営を続けることができるというわけです。笠井枝理依さん、カメラマンの皆さん、そして「足成」さん、いつもお世話になっております。
そして「Web担当者Forum」も無料Web情報提供サイト。お願いですから宣伝してください。煽りOKです。
今回のポイント
無料はなくなるリスクを抱えている
続いてほしい無料サービスは宣伝してください。お願いですから
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
「営業・マーケティング編」「コンテンツ制作・ツール編」発売中! - 『完全! ネット選挙マニュアル』
現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
コメント
「有料」も、サービス提供者の提示する条件に、利用者があわせなければならない
いつも宮脇さんの視点には感心しています。
しかし、揚げ足取り的なコメントですが、
「無料」は、サービス提供者の提示する条件に、利用者があわせなければならない
この点だけは無理矢理な感じですね。
何しろマイクロソフトは「サポート終了」で切り捨てるわけですから、
「有料」も、サービス提供者の提示する条件に、利用者があわせなければならない。
ちなみに、私はWindows2000ユーザーです。
コメントありがとう
コメントありがとうございます。
ご指摘はごもっとも。本文で触れたように「クラシック利用者」としては泉下のスティーブに言いたいことは沢山あります。
ただ、無料サービスのルール変更は有料版の比ではなく、Googleなどを筆頭に「振り回されている感」は否めません。これはミクシィが「あしあと」をなくしたり、最近は必死に
「Facebook風」
に付き合わされ辟易しています。