コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百参十壱
突然届いた「金払え」
残暑も一服し、ノンビリとした空気の流れる昼下がり、愛機MacBook Proがメールの着信を知らせます。
AdWords 広告主様
からはじまるそのメールはグーグルから届いた督促状でした。AdWordsの代金が引き落とせないので、広告掲載を停止するとあります。結論を先に述べておくと、グーグルのシステム障害が原因のトラブルでした。
AdWordsの支払い方法にはクレジットカード払いを選択しており、いままで5年以上も問題なく引き落とされていました。ノンビリとした空気が一変します。クライアントの広告を代理出稿しているアカウントだからです。小さな会社では独立した経理部門やWeb担当者はおらず、管理と支払いの手間を減らすために弊社で代行し、月々のメンテナンス料と合算して請求しています。
料金の未払いで広告停止されたとあれば、当社の信用問題にもなりかねません。そこで対応に動き出して、トラブル対応での「気遣い」の大切さをグーグルから学びました。反面教師ですが。
グーグルが嫌いになる瞬間
前回、最後に目にした光景から全体の印象が書き換えられてしまう恐れがあると話しましたが、今回の対応がグーグルという会社全体の印象を決める要因にもなりかねません。グーグルとの付き合いが短い企業にとってはなおさらでしょう。
私は、著書や連載でグーグルを批判することもありますが、基本的には好きな会社です。「マッドサイエンティスト」的な技術への信仰も、流行の尻を追いかけ言葉が二転三転することを恥じないWeb評論家に比べれば、「筋」が通っていて好感が持てます。しかし今回の「広告掲載停止通告」はいただけません。
一連の流れについては、ニュースサイトでも取り上げられていますが、以下に届いたメール原文を掲載します。
お支払い情報が正しいことをご確認のうえ、未払いの残高をお支払いください。お支払いの処理を完了できない場合は、お取引先の銀行または金融機関にお問い合わせのうえ、問題を解決してください。解決方法については、次のURLをご覧ください。
先月と同じままのカード情報を確認しても正しいとしか言いようがなく、「未払い」への手続きをとっても引き落としてくれません。後述しますが「未払い」という言葉は心拍数を高め、アドレナリンを分泌し、イヤな汗が流れ出ます。
マスターカードの迅速な対応
クレジットカード会社に電話を入れました。心配したのはカードが不正に利用されて与信枠(利用限度額)が一杯になっていることです。しかし、不正利用はなく、中古自動車を購入するぐらいの与信枠は残っており、AdWordsへの支払いには十分足りていました。そしてまったく非がないカード会社のオペレーターが「ご心配をお掛けしました」とこちらを気遣い、頭を下げます。この「気遣い」に冷静さを取り戻し「御手数おかけしました」と電話のこちら側で頭を下げてから、再びパソコン画面に向き合います。
グーグルのサイトにアクセスして対処法を探しますが、クレジットカードの登録情報を見直すか、別のクレジットカードを登録する方法しか、解決策が見つかりません。先ほどの指定されたURLに「メール」を見つけたので直接問い合わせしようとクリックすると、「問題点を分類する」と題したページが表示され、いくつかの選択肢が提示されます。当てはまる箇所をクリックしてたどり着いたページを要約すると
おまえが悪い
です。カードが限度額になっていたり、カード番号などが間違えていたりするのではないかの二択しかなく、利用者に責任があるという態度は明白です。この時点でグーグルへの不信は怒りに近い感情に転嫁していましたが、クライアントの件もあるのでメールフォームを探し出し、子細を記し送信します。
はじめてを累積と
最初の予告からわずか20分後、ちょうど問い合わせメールを送信し終えたころのこと、
Google AdWords -- 広告の掲載停止
と題したメールが届き、広告が停止されました。名誉のために強調しておきますが、私は取引先への支払いを何より優先します。10年間、手続き上のミスによる支払い漏れが1回あるだけで、これも発覚当日に振り込み、経理担当者と私の連名で謝罪文を提出しました。支払いは企業の信用における大前提で、未払いは言語道断です。地盤も人脈もないところから商売を始めた「どこかの馬の骨」にとって、もっとも守るべきものは信用なのです。
広告停止のメール本文にもグーグルの姿勢が透けて見えます。以下、原文。
お客様のアカウントでお支払いいただいていない費用の残高が累積しているため、広告の掲載を停止させていただいております。
累積ではありません。はじめてのことです。英語の直訳としては正しいのかもしれませんが、日本語的な「気遣い」はありません。いつもなら、定型文そのままなのだろうと軽く流すこともできたでしょうが、こちらが気遣う余裕はありません。
気遣いの一行
トラブルの原因であった、グーグルのシステム障害が復旧するまでに2日かかりました。問い合わせメールへの返信は広告停止から4時間45分後、障害の謝罪と対応中である旨、その間の広告掲載に関しては「コンビニ払い」と代換え案を提示しています。コンビニ払いに対して「御手数をお掛けしますが」ではなく、「広告費用をお支払い頂くことで」とある点も「気遣い」のなさを感じるのですが、当日中の回答はトラブル対応として及第点としてもよいでしょう。しかし、「気遣い」なく繰り返された自社に非がないといわんばかりの高飛車な対応は、企業イメージを大きく損なうものでした。
たとえば、私がグーグルの自動返信のメールを作文するなら、技術への絶対的な信頼から、自社のミスによる未受領があり得ないと信じていても、次の一文を入れます。
天変地異や回線のトラブルなど、不測の事態により引き落としできなかった可能性もございます
そのうえで、
御手数をお掛けしますが、下記手順にてお支払いの確認をいただき、その上でお支払いができない場合、ご一報ください
100%なんてない
天変地異や回線のトラブルを持ち出すことで、自社の責任を回避しながらもお客だけに責任があると決めつけないということです。大半の客は突然の督促や通告だけでも困惑するもので、自分の落ち度と断定されれば軽いパニックになります。そこから、自分に非がないとわかったときに、気遣いのない対応が怒りに転じることがあるのです。これを「気遣い」によって、回避します。それは同時に、万が一の事態が発生したときの逃げ場を用意することにもつながります。100%トラブルがおきないなど、あり得ないのですから。
グーグルの対応は米国流です。わずかでも非があると認めると、拡大解釈して賠償を求められるリスクを抱える訴訟大国では、一切のすきを与えないという姿勢が正解なのかもしれません。しかし、私たちが商売するのは日本です。この国では相手に非がある場合でも「気遣い」が必要なのです。
今回のポイント
督促には気遣いを織りこむ
非がないと思っていても「余白」を残しておく
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