衣袋宏美のデータハックス

アクセス解析は企画・設計が9割!時間と金を無駄にしない始め方 [アクセス解析tips]

アクセス解析をとりあえず導入してみて計測開始するのは混乱のもと。アクセス解析導入のあるべき姿とは?
衣袋宏美のデータハックス

いきなり計測し始めない

アクセス解析導入における、あるべき姿を考えてみたい。

忙しい現代、走りながら考えるということが重要ではあるが、アクセス解析で適当に走り始めることは混乱のもとである。たいていは、とにかく導入してみて計測を開始してしまうケースが多いのではないだろうか。この場合、知りたかったデータが実は導入したツールではわからないなどといったことが生じてしまう可能性がある。

マーケティング調査を行う場合と同様に、アクセス解析においても、企画・設計に9割の力を注ぐことが、お金をドブに捨てないコツと言える。

とにかくやってみて考えるのであれば、まず導入するのは無料のツールでなければいけない。というのも、アクセス解析を一から勉強するのは、時間的にも人的リソースから考えても難しく、やってみないとわからない場合が非常に多い。つまり「何がわからないか」がわからない状況だ。この時点で有料のツールを導入して、とにかく計測し始めることは禁物だ。まずは無料のツールを使うという方法は、走りながら考えてよい唯一のケースなのだ。

さて無料のツールを導入して計測を開始した場合でも、その先にも、たどるべき「アクセス解析導入でとるべきプロセス」がある。無料のツールによる導入実験で失敗を犯しながら勉強しつつ、同じ失敗を繰り返さないように、以下に示すのプロセスを順に進めていくことが必要だ。もちろん十分な時間があれば、無料のツールによる導入実験なしで、じっくり企画・設計の上、計測にふさわしいツールを選定し導入していくのがよいだろう。

アクセス解析導入でとるべきプロセス

どこまで細かく分けるかという問題はあるにせよ、下記9ステップがアクセス解析導入からPDCAサイクルを回すところまでの必要プロセスである。アクセス解析によってWebサイトの成果を向上させるためには、ここまできちんと行わないといけないということだ。

9つのステップは大きく4つに分類できる。「企画」「ツール導入」「数値管理」「行動」だ。この流れに沿って、簡単に各ステップについて解説しよう。

A. 企画(1)サイトの目標設定
(2)業績評価指標項目の設定
B. ツール導入(3)計測のためのツール選定
(4)導入準備、導入開始
C. 数値管理(5)データ確認
(6)業績評価指標の数値設定
D. 行動(7)Webサイトの改善やプロモーションの企画・実行
(8)施策の結果確認
(9)改善やプロモーションの修正

企画フェーズの進め方

「サイトの目標設定」「業績評価指標項目の設定」が「企画」フェーズだ。

アクセス解析における「企画」は、サイトの成果をどう測定すべきかを熟考することだ。そのためにはまず「サイトの目標設定」がないと始まらない。もちろん大きな会社のサイトであれば、複数の目的があってしかるべきで、目標が複数設定されていても構わない。

続いてそれぞれの目的に応じた業績評価指標を設定すること。これは各マネージメント・レベルに応じて別々に設定すること。具体的な例としてECサイトで考えてみると、次のようになる。

  • 全体を統轄する人間は、全体の売上高や一人当たりの利益額などといった、全体の損益・収支に直接関係する管理指標を見る。
  • 商品群Xを率いるマネージャーは、その商品群のコンバージョン率や新規購入率、リピート率、一人当たりの購入単価などを管理指標とする。

このように、「誰がどこのパフォーマンスの責任を負うべきか」を明確にしたうえで、その人がサイトのパフォーマンスをどの指標で測るべきかを設定することが事前に必要となる。こうすることで、ツール選定の際に、最低限必要な指標は何で、それをなるべく正確に計測できるツールはどれなのかという判断が明確になるわけだ。

ツール導入フェーズの進め方

「計測のためのツール選定」「導入準備、導入開始」が「ツール導入」フェーズだ。

何をどの位の頻度で、どの程度正確に計測しなければならないかということが企画フェーズで明らかになっていれば、ツール選定の基準は明確になっているはずなので、選定はそれほど難しくはないだろう。ただし、アクセス解析ツールの営業が「その測定はできます」と言っても、実際には面倒な作業をしないと測定できない場合があるので注意が必要だ。

ツール比較表などで「○」がついているが、誰も読めないような文字で脚注が付いている保険の契約書のようなものが多々あることは十分注意しておこう。実はこの非常につまらないことが、あとで大問題になることが多い。「できます」はウソではないのだが、ユーザーからすると騙されたと感じることになるケースもあるので注意しよう。

ここではアクセス解析の3大手法(サーバーログ型、Webビーコン型、パケットキャプチャー型)については解説しないが、たいていのアクセス解析関係の本で、それぞれのデータ収集の仕組みやそれぞれのクセが書いてあるので、それを理解した上で適切なツールの選定に生かしてほしい。

そしてそれぞれの手法で、Web制作部門やシステム部門などに対して、導入時と運用時において協力してもらう必要がある。それに関しても大体の理解をしておくことが、トラブル回避には必要となることも肝に銘じておこう。

数値管理フェーズの進め方

「データ確認」「業績評価指標の数値設定」の部分が「数値管理」フェーズだ。

KPI(主要業績評価指標)の数値目標はここで初めて設定できるのだ。ツールを導入する前に、実態もわからず数値目標を作っても、あまあまの目標になるか、とても実現できない数値になるかどちらかだろう。

どういう目標設定を行うかだが、過去の自サイトの実績をベースに少し高い目標を設定し、クリアするところから始めよう。季節変動もあると思うので、出来れば過去12か月のデータは欲しいところだが、最初はそうも言っていられない。対前月比から始めていこう。

行動フェーズの進め方

「Webサイトの改善やプロモーションの企画・実行」「施策の結果確認」「改善やプロモーションの修正」の部分が「行動」フェーズだ。

少し高い目標を作ったら、必ず何か施策を施していかないと目標数値には達成しないはずだ。集客のためのプロモーション、サイトの改修など日々の改善活動を企画・実行し、それをただちにチェックして、施策の確度を高めていく活動が重要である。

よくある「回らない」アクセス解析のパターン

まずよくありがちなケースとしては、「企画フェーズ」をすべて省略して、いきなり「計測のためのツール選定」から始めてしまうケースがある。この場合どういうことが起きるかというと、ある規模以上のサイトであれば、最上位の仕様のツールが最終選考に残り、あとはコストで決まってしまうという流れになってしまう。

たとえば、下記のような仕様は、自サイトのアクセス解析の必須条件でなくても、対応していない中位以下のツールは即選考対象外になってしまう。

  • リアルタイム分析
  • 広告効果測定ツールとの連動
  • APIの提供

不用意に必要以上の仕様のツールを導入し、高いコストを支払い、習熟にも時間が掛かるという苦しみを味わうことになるのだ。

また企画設計がきちんとできていないために、出てきた結果を改善に結び付けられない。つまり出てきた数字を単なる「結果論」としてしか受け止められないケースもよく見かける。つまり「データ確認」が目的となってしまっているということだ。あくまでこれは手段であって、ROI改善などのためのサイト改善が目的でなければいけない。行動に繋がらない計測は、やっていて空しい。

いずれにしても、担当者レベルでは解決しにくい問題に行き着くことが多いだろう。

  1. Webをどう活用するかという目的が明確か?
  2. ツール導入の目的が会社全体で共有され、浸透しているか、懐疑的な人はいないか?
  3. その実行のために、コストや人的リソース、教育などがきちんと配分されているのか?
  4. 数値をベースに改善提案をしていく風土があるのか?

Aは会社としての戦略がトップレベルから明示され、下に浸透しているかというマネージメントの問題だ。

BやCなどはアクセス解析にとどまらず、さまざまな「システム」を導入する場合における共通の課題であるので、この「動かないコンピュータ」の問題についての解決策については、これ以上語らないことにするが、これがアクセス解析導入においても重要なテーマの1つであることは間違いない。

Dは比較的現場レベルの活動で成果を積み上げていくことで、上を認めさせていくことは可能だ。場合によっては時間が掛かるかもしれないが、あるべきプロセスどおりに進まなくても、局地戦で成果を認めさせていくことを続けるしかない。

まとめ

  • いきなりツールを導入して計測し始めてはいけない
  • 「企画」「ツール導入」「数値管理」「行動」の流れに沿ってPDCAサイクルを進める
  • 担当者レベルでは解決しにくい問題も絡んでくるので、適宜対応が必要
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