企業ホームページ運営の心得

金持ちグーグルと普通のサイト。無料は商売の非常識

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の参十

無料化ゲームは強者故の戦術

有料会員サイトが新規会員の獲得で苦しんでいると「無料にしなさい」とコンサルタントがアドバイスしました。今時のネットサービスは無料が当たり前だといいます。

※1:Googleはオンライン上の無料ワープロ・表計算ツール「Google Docs & Spreadsheets」をサービスしている。Word、Excelほか多数のフォーマットに対応する。

確かにブラウザが有料だった時代は遥か昔日の思い出となり、グーグルにより「ワード」も「エクセル」もいらなくなりつつあります。※1

グーグル礼賛派はこの戦略を「無料化ゲーム」と持ち上げます。常にゲームの主導権を握ることで勝ち続けていると英雄扱いです。

しかし、グーグルの「無料戦略」はセレブだからできるということはあまり語られません。ヤフーやMSNの検索エンジンに採用されて知名度を手にし、株式上場時の売り出し分だけで約1,826億円(為替レートは当時)という莫大なキャッシュをゲットしたスーパーセレブなのです。この額は江崎グリコの7月4日現在の時価総額とほぼ同じで、グーグルのすべての株式時価総額は20兆円を超えており電卓では計算できません。

成功を揶揄するものではありません。しかし、グーグルには無料を支える企業体力が十二分にあり、普通のサイトや商売と前提条件が違いすぎるのです。

無料と有料。そこには商売の真実があります。

事例が少ないからストーリーとなる

クチコミなどによる成功例を耳にするようになりました。

古くは「恋愛の神様」「mixi」もそうでしょうし、最近ではジェイマジック社の「顔ちぇき!」(サービスは携帯専用)などもクチコミからですし、歴史を紐解けば「ヤフー」も「リンク集」が広まったのが始まりです。

ここから「無料でサービスインして3年以内に株式上場」と夢を見たくなるのですが、成功確率はもの凄く低く、だからニュースになり話題となります。

また、成功したのは無料サイト(サービス)の前に「魅力溢れる」という定冠詞がついていたからで、「無料ありき」ではありません。そして、成功したビジネスも、サービスインしてから利用者を集めたのではなく、利用者が集まったことでビジネスチャンスが見えてきたものが殆どなのです。

失敗例は掃いて捨てるほどある

採算ラインは儲けが多いほど数は少なくなる。1クリック1円の検索連動型広告であったとしても、無限に広がるウェブという分母があるので採算ラインをキープできるわけだ。

ライブドアは無料プロバイダ。大手通信会社に電機メーカーが鳴り物入りで始めた無料国産ポータルサイトは軒並み苦戦し、GMOが手がけた無料ビジネスマッチングサイト「ご商談.com」が2年で歴史から消えたのは、グループの会長が夢を手帳に書き忘れたからでしょう。

商売では「無料」で成功しているところのほうが少ないのです。

商売が成立するには「採算ライン」を超えなければなりません。採算ラインは儲けが多いほど数は少なく、少なければ分母が大きくなります。住宅販売の一軒分の利益を得るのに、チロルチョコなら何百万個も売らなければならないということです。

グーグルは広く浅く広告費を集める「超々薄利多売」ですが、これが成立するのは超巨大な分母があるからです。

高尚な目的を掲げても無料ではダメ

ホームページを無料で……というのはよくある話ですが、芳しい話は聞こえてきません。

NPO法人を立ち上げ、「商店街の活性化」の為に無料でホームページを作るという試みがありました。

地域の異業種交流団体や行政の御用機関など、さまざまなチャネルを使って「無料でお店のホームページ作ります」と活動していたのですが、利用者は増えず2年と持たずに撤退しました。

NPO関係者から相談を受けた私は、この破綻をあの占い師並にズバリ予言していました。

詳しく訊くと実は営利目的で、商店街サイトに人を集めて販売マージンなどを得たいといい、NPOにしたのも「客が信用するだろう」という理由です。

そこで、ビジネスなら尚のこと無料は論外だとアドバイスしました。

知らないものの価値を決めるものは?

とある個人で運営する地域サイトは、店舗紹介を「有料」としていました。歴史ある旅篭町の名前を冠していることを理由に、「地元の名前を使うのだからタダで紹介しろ」という不満の声もありましたが、月々僅かな金額でしたので参加店は増えていきました。

こちらは今、都心に居を移されて業務を拡大しています。

両者の違いは「価値」についての真実で「知らないものの価値というのは支払った金額で測る」ということです。

ホームページの価値を知っている人なら無料の良さをわかりますが、知らない人間に0円で提示するのはそれだけの価値しかないと誤解させるものなのです。

一方、僅かでもお金を支払えば「価値」が加えられます。そこから集客できたり販売できれば「費用対効果」が見え、次に繋がる可能性が広がるというワケです。

また、真っ当な商売人ならただより高いものはないと訝しがりますし、苦労には駄賃で報いるものです。相手の人間性が見え隠れするのも有料ならではです。

無料でダメなのか無料だからダメなのか

商売は対価を受けとり成立します。

逆説的に感じるかも知れませんが、対価(売価)が価値を決めるということです。

数十万円のブランドバックも、100円のハンバーガーも、それぞれ払った以上の価値があると信じているから買います。100円のハンバーガーが50円の価値しかないと思いながらお金を払う人はいません。購入後の後悔は別として。

ネットサービスは「無料」と常識のように語られることがありますが無料で成功する商売はレアなのです。

冒頭のコンサルに「それでは無料にしたら会員が急増しますか?」と尋ねると口をつぐみました。根拠などなく「無料なら自分でも見るかも知れない」という程度のものでした。裏を返せばこのサイトに金を払う価値はないと言っているようなもので、非常に失礼な話です。

無料にする前に「価値を教えてあげる」ことがWeb担当者の仕事です。

そして無料化への信仰は、「タダにすれば客が来る」という思考停止を招くのでご注意を。

♪今回のポイント

金を払う人とタダで調達しようとする人のどちらが「客」か。

無料化ゲームはスーパーセレブの戦い方。無料はワイルドカードじゃない。

※初出時より一部内容を訂正いたしました。グーグルの検索エンジンが、MSNに採用された事実はありません。
用語集
Google / mixi / キャッシュ / クチコミ / リンク / 商品価値 / 対価 / 採算ライン / 検索エンジン / 検索連動型広告 / 無料ビジネス
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