企業ホームページ運営の心得

ヨーグリーナの“煽り商法”論争に見つける温度差

本騒動からWebとリアルの温度差を知ることができます
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の406

半月で2度の出荷停止

Jason Enterline/iStock/Thinkstock

サントリー食品は、フレーバーウォーター「ヨーグリーナ」が発売数日で出荷停止になった理由を、

ソーシャルメディアなどによる情報拡散のスピードが速く、新商品のCMや広告を出してから消費者が認知するまでのリードタイムが今までと比べて短くなっている

と発表しました。端的に言えば、SNSによって予測以上に「売れすぎ」たということ。一方、SNS上ではヨーグリーナの「在庫写真」が同時多発的に拡散されていました。さかのぼること2週間前に発売された「レモンジーナ」も、新発売の翌日に「売れすぎ」として出荷停止を発表し、同じく「在庫あったよ」とSNSで拡散されていました。

半月の間に重なった出荷停止という事実から、飢餓感を演出する「品薄商法」や、人気があると喧伝する「煽り商法」だと批判に晒されています。そして「煽り」かどうかはともかく、本騒動からWebとリアルの温度差を知ることができます。

タイムラグ説と田舎在庫説

「煽り疑惑」への反論として、SNSで話題になった時期と、実際の入荷のタイミングのズレによる「タイムラグ説」が日経新聞電子版に発表されました。しかし、「ヨーグリーナ」は、サントリーの山梨工場を中心に生産されて全国へ輸送されます。そして遅くとも発売日の前日には、現地に到着していなければなりません。

実際、サントリー食品は「ヨーグリーナ」の初月販売計画120万ケースに対して、発売日の店頭到着分としての70万ケースの引き合いがあったと公表しています。仮にこの対応の遅れが理由なら、問題はSNSではなく物流です。

煽り否定派には「田舎在庫説」と呼べるものもあります。都会の若者はSNSの利用頻度が高く、SNSで話題になった商品をコンビニなどで求め、そして品切れになった。一方、田舎や高齢者が住む地域ではそれが起こらないから在庫写真が拡散されたというものです。

決定的な「証拠」

この説では「大人気」を理由に出荷停止になったことの説明ができません。「ヨーグリーナ」は「全国一斉発売」した商品です。少子高齢化の今、圧倒的に高齢者の人口比率は高く、土地面積でいえば「都会以外」が多いのです。つまり、「田舎在庫説」に従えば、むしろ「全国的な人気はないマニア向けアイテム」となり、「大人気」への論理矛盾が生まれます。

さらに「チラシ」という「証拠」が、私の手元に残されています。

出荷停止を発表した2日後、4月19日(日)の読売新聞朝刊に折り込まれたチラシに「ヨーグリーナ」を見つけます。4月21日(火)の日替わり枠の最上部に掲載。新聞折込チラシは、配布日の2日前には印刷されていなければなりません(参考:チラシが折込されるまで

4月21日(火)特売情報の左肩にヨーグリーナが掲載

当然、「版下(印刷するためのデザイン)」はその前に制作されますし、目玉商品の手配はさらにそれ以前です。小売業界の習慣的に「ヨーグリーナ」の発売日当日には、目玉商品として手配されていたと考えるのが自然です。そしてチラシの「掲載場所」によって、前述の2説と、サントリーの説明は輝きを失います。

ヨーグリーナの配置理由

ヨーグリーナが掲載された場所は、「左肩(左上)」と呼ばれるもっとも目立つ場所です。そこには「客寄せパンダ」を配置するのがセオリーです。チラシは売るものではなく、客を集めるもの=店に足を運ばせるためにあり、通常、客が集まるか集まらないかわからない「新発売」の商品は左肩を避けます。

念のために補足しておきますが、食品スーパーの話です。新型「iPhone」など、「新発売」に集客効果が期待できる、ケータイ量販店のチラシの話ではありません。

新発売の商品が「目玉」になる場合は、掲載する見返りに「販売奨励金」や「協賛金」の名目で補助金がでるか、破格の仕入れ値が提示される場合です。どちらにせよメーカー側の「営業努力」と呼ばれるもので、SNSのつぶやきとは別世界の話です。

学ぶべき小売店のサガ

「Twitterで話題になったから、特売の目玉に採用された可能性もある」と食い下がる人がいるかもしれませんが、それが理由なら「いま、Twitterで話題の」と紙面に添えるのが「チラシ屋」であり、1人でも多くのお客に足を運んで欲しい、と渇望するのが小売屋の習性(サガ)です。メーカーの営業マンなら、プリントアウトした画面を片手に小売店に売り込むことでしょう。そしてこの貪欲さをWeb担当者は見習うべきです。

この手の話題で、いつも置き去りにされるのが、Web業界人やネット民と、リアルの住民(特にビジネスマン)との温度差です。そもそもスーパーや量販店のバイヤーは、ネットに常駐できるほど暇ではありません。SNSなど、Web系の「手柄」を喧伝する情報の「妥当性」を測る際のポイントで、今回のこの「騒動(ネタ)」を取り上げた理由です。

出荷停止の真相とは

ヨーグリーナ出荷停止の真相について、公開情報をもとに仮説を立てるなら2つ。

1つは「営業マンが頑張りすぎた」こと。初月の出荷予定の58%を発売日当日に達成しており、「納品待ち」の注文を含めれば「完売」に近かったのではないかというもの。一部の店頭在庫を残して品切れだったということです。

そしてもう1つは、「こんなに受け入れられるとは思っていなかった」というもの。物珍しさで一度は手にしても、二度目がないのであれば、話題性で「売り切り」を狙った……とは邪推に過ぎませんが、営業経験者なら頷くところがあるでしょう。追加発注分という「余力」を残していなかったことや、「需要予測を誤ったことに弁解の余地もありません」という副社長の言葉からもにじみ出ます。

SNSプロモーションとしては大成功。拡散された在庫写真も、ヨーグリーナを欲している人に入手できるお店情報を「シェア」する「善意」を見つけるからです。また、「若者」のツイートを見ると「話題になっている」という情報だけに触れ、話題の中身を知らず好意的に解釈しているユーザーも少なくありません。ただし、「悪名は無名に勝る」と開き直るならですが。

今回のポイント

SNSの時代「大本営発表」は通じない

Webとリアルの温度差を意識する

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