大手企業の最新事例2種から学ぶ、オウンドメディアのSEOトラブル改善策
製品やサービス、企業情報を発信する場として、多くの企業が取り組んでいるオウンドメディア運営。基本的なSEO施策を行っているにもかかわらず、「上がってほしいキーワードの順位がなかなか上がらない」「サイトをリニューアルしたら急に流入数が激減した」など、原因不明のトラブルに頭を抱えるWeb担当者は少なくない。
「Web担当者Forum ミーティング 2024 秋」では、SEOコンサルティングを手掛けるシンメトリックの鈴木泰子氏が登壇。大手企業の事例をもとに、最新のオウンドメディアSEO改善手法について語った。
検索エンジンの仕組みをおさらい
SEO改善の実例に入る前に、改めて検索エンジンの仕組みを簡単におさらいしておこう。検索エンジンは、ユーザーが検索したキーワードから、ユーザーの検索意図を読み取って、“最もマッチした”と考えられるコンテンツを検索結果として上から順に表示している。
では何をもって“最もマッチした”と判断しているのか。検索エンジンは多様な要因を評価に使っているが、本講演では「ドメインの権威性」と「コンテンツの価値」の2つにフォーカスして説明していった。
近年、検索エンジンはリアルな世界のブランド力を検索結果に反映しようと試行錯誤しています。そのため、実ビジネスのブランド力がドメインの権威性に影響を与えます。他方、多くの人が利用しているコンテンツであれば、実績としてドメインの権威性に反映されるため、コンテンツの価値がドメインの権威性を高める側面もあります(鈴木氏)
今のSEOでは「ドメインの権威性」と「コンテンツの価値」を高める取り組みが重要だということだ。その上で鈴木氏はSEOの基本対策として以下の3点を挙げた。
- 実ビジネスにマッチしたコンテンツでブランド力を活かす
- 他サイトよりも、価値の高いコンテンツにする
- 上記を検索エンジンに正しく伝える
SEO対策の事例2つを紹介
ここからは、鈴木氏が紹介したSEO対策の事例から2つを抜粋して、詳しく見ていこう。
Case① ドメイン移転後、検索流入が急減
これは、企業ドメインからサブドメインへ移転した直後から、検索流入が3分の1に急減してしまった例である。
GA4のオーガニックサーチからの検索流入数が、移転前は月間3.5万セッションほど獲得していたものの、移転を機に2万セッション以下に激減、さらにその翌月には1万セッション近くにまで減少してしまった。
この情報だけを見ると、企業ドメインからサブドメインへ移転したことが急減の要因であると考えがちだが、はたしてそうなのだろうか。
一般的な仮説としては、「強い企業ドメインから新設のサブドメインへ移転したことで権威性が低下したこと」、「もともと記事の品質が高くなく、権威性の低いドメインから配信されるようになったことで、それまで強いドメインによって底上げされていた評価が見直されたこと」の2つが急減につながったのではないかと考えられる。しかし、シンメトリックの見立ては異なる。
移転後も記事内容やページ数は元のサイトのまま、リダイレクトなどの基本的なSEOは実施していました。一般的に、移転後は一時的な減少は見られますが、通常1〜2ヶ月程度で元に戻ります。それにもかかわらず、長期的に戻っていないことから、別の要因が考えられます(鈴木氏)
移転したとはいえ、企業ドメインから新たに切ったサブドメインであり、ヘッダーのデザインなども変えていないため、以前とまったく異なるサイトとみなされるとは考えにくい。加えて、コンサルタントの目から見て、コンテンツの質も低いものではなかった。
では、なぜドメインの権威性やコンテンツの品質に問題がないのに、セッションが激減してしまったのか。調査を進めると、次の2つのことがわかった。
原因① 配信方式の変更
1つ目は「配信方式の変更」である。リニューアル後のサイトでは、関連記事を見せて回遊させる狙いから、ページの下部に別の記事を掲載する構造変更が行われていた。その結果、1つのURLで2つの記事が配信されている状態になっており、ソースを見ると大幅な変更が入っていることがわかった。
原因② 基本的なSEOの不足
2つ目は「基本的なSEOの不足」だ。タイトルが曖昧だったり、見出しタグが不足していたり、HTMLの構造に問題があったり、HTMLのタグが正しく使われていなかったりするなど、基本的なSEOが不十分であった。
これらの2つの要因から、検索エンジンが「リニューアル前の評価をそのまま引き継ぐには不適切である」と認識してしまったと考えられるのだ。
2つの対策
そこで、対策として下記2点を行った。
- 1記事1トピックに戻して関連記事の掲載を行わない
- 基本的なテクニカルSEOの実施(タグ設定やセクショニングの見直し)
結果、改善施策を施した直後から回復傾向に転じ、3ヶ月後には主要な記事の検索流入数が元に戻った。さらに、移転から14ヶ月後には、移転前の水準へと戻すことができたという。
ドメイン移行時のSEOの考慮点まとめ
「今回のようにURLの変更が発生したときには、検索エンジンによって一斉にコンテンツが再評価されます。原則として、リダイレクトなどの適切な設定をしておけば、以前の評価は受け継がれます。しかし、それは無条件ではありません。コンテンツが変われば、評価も変わります」と語る鈴木氏は、ドメイン移転の際に担当者が考慮すべきポイントとして以下の3点を挙げた。
- 大幅な構造変更は別コンテンツとして誤認識されるリスクがあるため、なるべく避ける
- 実力以上に過大評価されていたコンテンツは、再評価のタイミングで下落のリスクがある
- 基本的なSEOを施しておくと、検索エンジンの評価速度や精度を上げることができる
Case② B2Bニッチサイトの伸び悩み
専門性が高いB2B領域では、ドメインの権威性が高いサイトであっても、頭打ちになることが多い。数値目標を達成するために、何かできることはあるのだろうか。
この事例で取り上げた企業は、業界最大手。B2Bでも知名度が高い企業であり、かなり強いドメインでオウンドメディアを運営していた。ビジネス領域の時事ネタや技術トレンドの解説記事を中心に毎月更新していたが、近年、検索流入数の伸び悩みが課題だった。
B2B領域のSEOでは、検索対象のキーワードのボリュームが小さいことが特徴だ。とはいえ、ビジネスとしてオウンドメディアを運営する以上、数値目標の達成が求められる。当該企業でもメインのキーワードの検索数は月間数十から数百程度で、「次のコンテンツを何のキーワードで作ればいいかわからない」と常に悩んでいる状態だった。
そうなると、検索ボリュームの大きい単語を狙いたくなるが、安易に手を出すのは危険だと鈴木氏は警鐘を鳴らす。
バズワードは注目度が高いため、他業界の最大手も参入してきます。官公庁の公式サイト、新聞やビジネス誌のようなニュースメディア、辞書や辞典のような大型サイトもSEOの競合となるように、評価されるサイトの傾向も一定しません。ドメインの権威性が高いサイトでは、時折上位を獲得できるため意識されにくいですが、ギャンブル的で不安定な運営に陥りやすいです。大企業であれば他部門のコンテンツとバッティングしてしまう懸念もあります。
これだけリスクがありながらも、バズワード(ビッグワード)からの流入はコンバージョン率が低いという悲しい現実もあるんです(鈴木氏)
2つの対策
そこでシンメトリックが立てた対策の方針は、次の2つだ。
対策① ビジネス分析を行い、新たなキーワードを発掘する
事業・商材・ターゲットユーザーの情報から、見込み客の検索行動を定義して、キーワードに落とし込んでいく。
対策② できるだけ自社の事業分野に近い専門用語にシフトする
たとえ検索ボリュームが減ったとしても、専門性を重視したキーワードを選定する。記事内容を見直し、既存記事もリライトする。
これらの改善策を実施した結果、全体の検索流入数は2倍強にまで増加したという。
B2B領域のSEO成功のポイントまとめ
B2B領域のSEOでは、“いかに有益で専門的なキーワードを捻出するか”が肝になります。SEOキーワードデータベースは有効でない場合が多いです。商談相手が、どんなワードで検索して自社サイトにたどり着いたのか、何に興味を持っているのか、といったリサーチを行い、キーワードに落とし込むことが近道です(鈴木氏)
加えて、「価値のあるコンテンツ(専門性が高く独自性のあるコンテンツ)を制作するには、外部の協力会社に委託するのではなく、自社で内製するのがおすすめ」と鈴木氏は強調する。自社のビジネスにはそもそも独自のノウハウや他社と比較した優位性が備わっているはず。その知見のもとで作ったコンテンツであれば、他のコンテンツにはない新しい観点や解決策が織り込まれたコンテンツとなる。そんなコンテンツに触れた人は、きっとコンバージョンもしやすいはずだ。
ただし、価値ある情報を持っている人がSEOに明るいとは限らない。コンテンツを執筆する時間を取るのが難しいことも往々にしてあるだろう。そんなときは、キーワードを選定して全体をコーディネートする人、コンテンツの中身を語る人、テクニカルSEOを施す人で手分けするのも有効だ。
セッションでは、この2つの事例以外にも、「強力ドメインのメガサイトが原因不明の長期減少に陥った事例」「競合の多いB2C大手が長期停滞状態に陥った事例」などが紹介され、それぞれ改善に至った施策についても解説された。
「SEOトラブルの解決」「サイト特性別のPDCA」両面から支援
本稿で詳しく紹介したCase①はSEOトラブルの解決事例であり、Case②はサイト特性別のPDCA施策の事例である。シンメトリックでは、この両面からSEOコンサルティングサービスを提供している。
前者の「SEOトラブルの解決」においては、はじめに1〜3ヶ月の短期集中で調査を行い、トラブルの原因を解明。問題の性質や規模、改善見込みを把握した上で、おおむね3〜6ヶ月の改善対策コンサルティングを依頼することができる。
後者の「サイト特性別のPDCA施策」では、一般的なコンサルティング形式で、初期分析後に施策の方針や年間スケジュールを作成し、施策を実施していく。その後は月次レポートを中心に、実施後の検証を行いながらPDCAを回していく。オウンドメディアのSEO集客だけでなくコンバージョン率の改善まで依頼可能だ。
鈴木氏は、「すでにSEOの協力会社さんがいらっしゃる場合でも、両社で役割分担をして一緒に進めていくこともできるので、SEOでお困りの方はぜひお気軽にご相談いただければ」と語り、セッションを締めくくった。
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