数あるプラットフォームの中でも、若年層にリーチしやすいとされるTikTok。若年層をターゲットとする企業のTikTok活用事例も増え、成果を上げているところが少しずつ見られるようになりました。
一方、活用してはいるものの成果が出ていなかったり、そもそも活用方法自体がよくわからないという企業もまだ多数存在します。
創業期のスタートアップを対象にした講座「シード・ゼミ」(主催・ビタミン株式会社)のレポート記事第6回は、TikTokを活用している、または活用に興味のある企業向けに「2023年TikTok最前線」をお届けします。講師は『スマホからヒットを生み出す TikTok活用大全』の著者でもある株式会社Natee 取締役COO 朝戸太將さんです。TikTokの最新情報や活用時のポイント、KPIの例のほか、講義に参加したスタートアップ企業の方々とのQ&Aの一部をご紹介します。
(構成:Marketing Native編集長 佐藤綾美、画像提供:株式会社Natee)
TikTokをはじめ、勢いを見せるショートムービー
Natee 朝戸(以下、朝戸) TikTokの最新データをお伝えする前に、前提としてメディアの変遷について押さえておきましょう。
現代はレコメンドの時代です。テレビをはじめとする4マスが人々のエンターテインメントの中心となっていた頃は、今よりもコンテンツの選択肢が少なかったことから、ザッピングするかのように情報を取得する時代でした。それが、好きなコンテンツを自分で検索する時代を経て、AIの発達によってレコメンドで好きなコンテンツが届いたり、見つかったりする時代になっています。かつてよりも受動的に情報を取得する人が増えつつあるのが現代の特徴です。
そうした中で急成長中のTikTokは、1日の平均視聴時間が増加傾向にあり、当初は若年層中心だったユーザーの年齢層も変化し、幅広い世代に利用されるようになっています。
また、ショートムービーはYouTubeでも主流になりつつあり、例えば2022年のYouTubeチャンネル総再生回数ランキングでは、トップ3すべてがショートムービー出身のクリエイターでした。TikTok以外のプラットフォームにもショートムービーの波は来ています。
TikTokと他のプラットフォームの違い
他のSNSプラットフォームとTikTokの違いは大きく3つあります。
- 広告もコンテンツの一種であり、“嫌なもの”ではなく“楽しいもの”であること
- 独自の優れたレコメンドシステムにより、類似ユーザーや潜在ユーザーにコンテンツが届きやすい
- フォロワー数にかかわらず拡散が生まれやすい
ビタミン 高松(以下、高松) TikTokがコンテンツをおすすめする仕組みについて、少し詳しく教えてください。独自のレコメンドシステムが優れているとのことなので、ユーザーについてそれほど意識せず動画を制作しても、ある程度は視聴されると考えて良いでしょうか。
朝戸 レコメンドシステムが優れていると言っても、ただ動画を制作して配信するだけでは再生回数は伸びません。動画のテーマや完全視聴時間、エンゲージメント数が影響してきます。
これはNateeで調査・分析した見解ですが、動画がジャンルごとに分類されており、TikTokがそれを学習しているとイメージしてください。例えば、「美容」のジャンルに分類された動画は「美容系の動画をよく見る」ユーザーにおすすめされます。このとき重視される指標は動画の完全視聴時間とエンゲージメント数です。より長く視聴されていて、エンゲージメント数の多い動画のほうが「質が良い」とみなされます。
ユーザーに視聴される動画を制作するには、狙いたいカテゴリーで再生回数が伸びている動画の傾向を押さえたうえで、自社のオリジナリティを加えるのが良いと考えています。
高松 ありがとうございます。
TikTokのファネルを超えていく強みとKPIの設定例
朝戸 TikTokやショートムービーの強みは、他のSNSや広告媒体に比べて時間あたりの情報量が多いところです。一般的には「認知 ⇒ 興味・関心 ⇒比較・検討 ⇒ 購入」のファネルごとに施策を打ち出しますが、TikTokは1つのコンテンツでユーザーを飽きさせることなく、リズムよく情報を提供できるので、興味・関心からいきなり購入につなげられるなど、ファネルを超えていく力を持っています。また、レコメンドシステムによって出合った新たなコンテンツをきっかけにユーザーが興味を抱き、購入が喚起されるケースもあります。
KPIに関しては、企業のタイプや施策によって設定する指標が異なります。例えば、ナショナルクライアントのように予算に余裕がある企業は、「TikTokブランドリフト調査(BLS)※」を活用して計測できる指標をKPIに設定するケースがあります。
小売り企業の場合、弊社で中間指標として設定することが多いのが「購入意向コメント率」です。これは投稿のコメント全体における「欲しい」「買いたい」など購入意向を示すコメントの割合で、売り上げと相関性があることがわかっています。
トライアルでTikTokを活用する企業は、動画の再生や認知拡大が最初の目標となるケースが多いため、再生単価(CPV)、エンゲージメント率などをKPIにすることを推奨しています。
また、Webアプリの提供まで行っている企業の場合は、TikTok広告を出稿し、他のインターネット広告と同様にCPIまたはCPA、CPOなどの指標をKPIに設定する傾向にあります。
※「TikTokブランドリフト調査(BLS)」:TikTokで実施したキャンペーンの効果を計測できるアンケートベースのデータサービス。ブランドの好感度や態度指標などを測定できる。
活用時のポイントはTikTokライクな動画を作ること
TikTokの活用方法は大きく3つあります。1つめが、認知獲得やプロダクトの利用意向の向上などを目的に、TikTokクリエイターにタイアップを依頼する方法。2つめは、アプリのインストールなどを目的とする広告運用。3つめが、ユーザーとの中長期的なコミュニケーションを図るため、自社でアカウントを運用し、コンテンツマーケティングに挑戦する方法です。
活用時のポイントは大きく2つあり、1つはTikTok上のトレンドも考慮しながら視聴者に喜ばれる企画にすることが挙げられます。これはTikTokクリエイターにタイアップを依頼する場合も同様です。TikTok経由で商品を購入した人を対象に行われたある調査では、動画の良かった点について、好きなクリエイターだったか否かよりも、内容のわかりやすさや役立つ情報が得られたことが回答の上位になっています。「誰が商品やサービスをおすすめするか」ももちろん大切ですが、それ以上に動画のわかりやすさや面白さが重要なのです。
もう1つのポイントは、「TikTokライク」つまりはTikTokらしい動画を作ることです。そのためにも、「これはTikTokらしい」とわかるようになるまで、TikTokで動画を視聴したり、投稿したりすることをおすすめします。我々が支援する際は、TikTokクリエイターの方々と一緒に制作することによって、企業の動画もTikTokライクになるよう取り組んでいます。
ここで、成功事例を3つご紹介します。
事例1:男性向けシェーバー
商品の認知拡大や購買促進を目的に、複数のTikTokクリエイターをキャスティングして、商品の使いやすさ、売っている場所などを訴求しました。施策全体で動画の再生回数は約550万回を達成し、商品の売り上げも前月比150~200%を記録した成功事例です。
事例2:金融系アプリ
サービスの認知拡大から、アプリのダウンロードまで、1つの動画でフルファネルを狙って施策を実施した例もあります。当初は、認知拡大を目的にTikTokクリエイターを起用した動画を配信していましたが、成果が良かったことから同じ動画で広告を出稿したところ、CPAが好調で3カ月以上同じクリエイティブで運用を続けることができました。
事例3:外食チェーン
若年層からの想起獲得を目的に、外食チェーンのアカウント運用を支援し、フォロワー数10倍などの成果を上げた事例もあります。「公式が教えてはいけない●●の裏技」「●●のCMを作ってみた」などとTikTokライクな動画を制作し、「公式アカウントが意外な内容を発信している」というギャップを狙いました。動画視聴から来店につながった数を計測するのは難しいため、外食チェーンのアカウントでNo.1を目指すことを初期の目標に運用しました。
TikTokの活用にまつわるQ&A
高松 朝戸さん、ありがとうございます。講義内容を受けて、ここからは朝戸さんに参加者の皆さんの質問に答えていただきます。
Q. うまくいかなかった事例や、そこから得られた教訓があれば教えてください。
朝戸 ある化粧品メーカーが初めてTikTokに取り組む際、限られた予算の中で認知だけでなく興味・関心、購入までKPIを追って失敗したことがあります。TikTokはフォロワーを飛び越えて動画が視聴されるパワーを持つ一方、人気のない動画はほとんど視聴されない可能性もあるため、成果を上げるには動画の質と本数の両方が重要です。つまり、制作したうちの何本かは再生回数が伸びない可能性があると想定し、施策を打ち出す必要がありますが、低予算の場合は制作できる本数が限られて十分な検証を行えません。そのため、投稿した動画がすべて伸びなかったり、コンバージョンが発生していても、分母となる再生回数が少なくて成果の振り返りがしづらかったり、TikTokクリエイターを1人しか起用しなくて比較検証できなかったりします。
予算に限りがある場合、KPIは絞って設定することが大切です。
高松 潤沢な予算があれば、認知、興味・関心、購入とすべてのファネルを追うことも可能ですか。
朝戸 はい、予算が多ければ可能です。
高松 動画の本数は、例えば10本制作して、そのうち1本で成果が出るくらいの確率でしょうか。
朝戸 それくらいの確率ですね。動画1本ずつの質もさることながら、一定の本数を打ち出し、訴求の切り口を変えることも重要です。
Q. TikTokはコンテンツの楽しさ、面白さが重要とありましたが、真面目に伝えたい情報やプロダクトは相性が悪いでしょうか。
朝戸 真面目な内容やエモーショナルで感動的な動画もTikTokでは数多く見られますが、必ずしも相性が良いとは言えません。TikTokは隙間時間に肩の力を抜いて視聴されることが多いプラットフォームのため、真面目な内容をそのまま伝えても再生回数が伸びづらい傾向にあります。エンターテインメントは感情が動くことが重要なので、ユーザーが寝る前に何も考えずに動画を見ているシーンを思い浮かべて、そうした場面でも「面白い」「いいな」と感じてもらえるような要素を意識的に盛り込むことが大切だと思います。
Q. ショートムービーに向いている商材・向いていない商材はありますか。
朝戸 現状で活用が当たり前になってきているのは、美容系の商材や不動産系、人材系、あとは若年層をターゲットにしている金融商品、教育サービスなどです。切り口や見せ方を変えればユーザーに刺さるケースもあるので、一概に「この業界はNG」とは言えませんが、購買につなげる目的で活用にあまり向いていないのは高級商材でしょう。TikTokで偶然視聴した動画をきっかけに「車が欲しい」と感じる人はあまり多くないと思います。例えば「若い人に車の良さを知ってもらいたい」という目的なら話は別ですが、高級商材でショートムービーから購買にダイレクトにひもづけるのはまだ難しいでしょう。
高松 「寝る前に何も考えずに動画を見ているシーンを思い浮かべて」という例えがわかりやすかったです。日用品などの身近な商品のほうが、何気なく動画を視聴しているときに刺さりやすいということでしょうか。
朝戸 そうですね。「最近気になっていた」というケースもあると思います。
高松 将来的には、ショートムービーの活用に向いている商材の幅が広がるイメージはありますか。
朝戸 はい、あります。TikTokユーザーの年代は徐々に上がってきているので、それに従いウケるコンテンツや活用に向く商材も変化していくと思います。
Q. ハッシュタグの選定は重要ですか。
朝戸 TikTokのハッシュタグはInstagramほど重要ではありません。Instagramの場合はハッシュタグなどで頻繁に検索されていますが、TikTokはそれに比べると検索があまり行われないプラットフォームだと感じています。ただし、検索されたときに上位に表示されたいカテゴリーやキーワードがある場合は、投稿にハッシュタグとして付けておくのが良いと思います。
Q. ローンチしたばかりのアプリのダウンロード数を伸ばしたい場合、どのようにTikTokを活用すれば良いでしょうか。アプリの使い方に関する動画を作ってみましたが、あまりうまくいっておらず、悩んでいます。
朝戸 アプリに関しては、動画が偶然流れてきて「私も使ってみよう」と思ってもらえるような導線を設ける必要があり、利用するメリットを語ってくれる人を増やしていくことが重要です。例えば、2021年から2022年にZ世代の間で流行したある写真アプリは、ローンチしたてのタイミングで複数のTikTokクリエイターがアプリの利用方法に関する動画をアップし、それが拡散して利用者が広がっていったことがありました。メジャーではないアプリでも、私だったら、プロダクトに共感してくれるクリエイターを募りつつ、その人たちを通じてTikTok上での情報発信量を増やしていくと思います。
Q. TikTokクリエイターを探す際はNateeのような支援会社に依頼するのが一般的ですか。自社でもアサインは可能でしょうか。
朝戸 支援会社に依頼するのではなく、自社で探してDMなどで連絡し、依頼するケースもよくあります。支援会社を間に挟まないほうがプロダクトに対する思いなどをクリエイターに直接伝えられるので、スタートアップのサービス立ち上げ初期はそのほうが良いかもしれません。クリエイター同士で横のつながりがありますので、まずは1人にお願いしてみて、そこから輪を広げてコミュニティを構築できると良いでしょう。
Q. 動画の本数をたくさん制作することができません。TikTokには「最低でも週1本」などの適切な投稿頻度はあるのでしょうか。月1本の投稿でも、動画の内容が良ければ再生されますか。
朝戸 TikTokのレコメンドシステム上、一定期間投稿していないアカウントの動画は再生回数が伸びづらい傾向にあるため、週1本は投稿したほうが良いと思います。一定の頻度で投稿することが重要であって、毎日投稿する必要はないので、週1本と決めたらそのペースを守るのが大切です。
Q. TikTokの運用チームを立ち上げる際、どのような役割が最低限必要でしょうか。
朝戸 企画・動画編集・投稿・分析などの役割が必要です。運用チームの人数は会社のリソース次第で、すべての役割を1人で担当している場合もありますし、複数人で分担していることもあります。チームの人数よりも大切だと思うのは、担当者やリーダーがどれだけTikTokに没頭できるかです。ショートムービーはたった1秒の編集が成果に影響することもあるので、動画を見ただけで「これはTikTokらしい」「これはTikTokでは伸びない」などの感覚を持てるくらいまでTikTokに没頭する必要があると思います。
Q. TikTokはイベントの集客にも活用できますか。
朝戸 日頃から定期的に発信していて、キャラ付けなどがされているアカウントであれば、イベントの集客も行えそうですが、開設したばかりのアカウントではあまりおすすめしません。また、TikTokで広告を配信する方法もありますが、自分が単発で出稿するなら、ターゲティングの精度がより高いFacebookを選ぶと思います。
高松 質問は以上です、ご回答ありがとうございました。最後に伝えたいことはありますか。
朝戸 1日1時間はTikTokを見てほしいです。私もNatee立ち上げ当初はTikTokにあまり興味がなかったので、往復1時間の通勤時間をすべてTikTokの視聴に充てました。デジタルプラットフォームやSNSはやはり自分で見て触って没入しないと、ユーザーとしての感覚が薄れてしまうと思います。
高松 それがTikTok活用の第一歩ということですね。講義中にあった「エンターテインメントは感情が動くことが重要」という話は、自分がそのような視点をあまり持ってこなかったので印象的でした。感情が動くかどうかが、コンテンツを作る際の重要な指標になりそうです。
ビタミン 高梨 自社のプロダクトのファンになってくれるクリエイターさんができると心強い、とわかったのが良かったです。我々ビタミンも、スタートアップ初期のマーケティングで「ヒアリングによって、まずは100人の友人をつくりましょう」とアドバイスすることが多いので、まさにそのイメージと同じだと思いました。
朝戸 TikTokは可能性に満ちた領域なので、引き続き注目してもらえると嬉しいです。
【講師Profile】
朝戸 太將(あさと・だいすけ)@asato_natee
株式会社Natee 取締役COO。
東京大学経済学部卒。2016年、株式会社リクルートキャリアに新卒入社。HR領域で採用や育成、組織づくりのコンサル営業に従事。個性と才能あふれる世界の実現に共感し、2019年5月よりNateeに参画する。創業期よりTikTok事業の統括を務め、広告主の多様なニーズに対してTikTokを軸としたソリューションを提供。
著書に『スマホからヒットを生み出す TikTok活用大全』(幻冬舎)がある。
【ビタミン株式会社】
高梨 大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi
高松 裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。2018年~2022年3月までスタートアップ企業のマーケティング支援コミュニティ「ビタミンゼミ」を運営。2022年8月より「ビタミンゼミ」の後身となる「シード・ゼミ」を開講し、信頼できる専門家から「一次情報」を全国の創業期企業に届ける活動を続けている。
https://note.com/teamvitamin/n/nbfc90efdd547
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