スタートアップのマーケティングを支援するコミュニティ「ビタミンゼミ」(※)。Marketing Nativeで5回目となる今回は、9月30日にオンラインで開催され、株式会社デジタリフト取締役の鹿熊亮甫さんが講師を務めた「広告コピーを作成するコツ」の内容をお伝えします。
コピーライティングに関する書籍は数多くありますが、体系的に学ぶ機会はそれほど多くないかもしれません。それだけに、鹿熊さんが教えるコピーの考え方やポイントを、多くの方が熱心に視聴していました。
今回はビタミンゼミでの講義の中から、デジタリフト流・広告コピーの思考方法と作成のコツのエッセンスを取り上げ、ご紹介します。
(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤 綾美)
※ビタミンゼミ:ビタミン株式会社が運営。詳細は【ビタミンゼミレポート#01】をご参照ください。
コピーライティングスキルはマーケティングスキルの上に成り立つ
鹿熊さん(以下、鹿熊) まずは質問です。Twitter広告を出す場合、「画像とテキスト」と、「テキストのみ」の広告を比べると、どちらのほうが効果は高いでしょうか。Twitter広告を出稿するとなると、画像にシンプルなテキストを合わせた広告を出す方が多いと思いますが、実はコピーが重要です。もちろんケースバイケースですが、我々が何十回もテストした結果、画像がなくても、コピーが尖っていると、効果が高い場合が多いという傾向がありました。読み手の心に訴えかけ、興味を引くコピーは、画像以上の成果を得ることが可能だということです。
そもそもコピーライティングとは何か、整理しておきましょう。「コピー」は言葉です。「人は感情でモノを買い、論理で正当化する」と言われますが、言葉は意図して人に影響を与え、感情を動かすことができます。言葉に強い影響力を持たせることのできるスキルが、コピーライティングです。
コピーライティングスキルとマーケティングスキルは、別のスキルではありません。コピーライティングスキルはマーケティングスキルの上に成り立つものです。そのため、マーケティングスキルがゼロの状態では良いコピーもなかなかできないでしょう。なお、ここで言及しているマーケティングスキルとは、広告運用ができることではありません。マーケティングに関する知識や3C、4P、SWOT分析といったフレームワークを理解したうえで、物事を考え、商品と向き合えている状態を「マーケティングスキルがある」としています。
優れたコピーの本質を真似る
反応が取れるコピーを書けるようになる方法は3つあります。
- TTP(徹底的にパクる、オマージュ)
- TTY(徹底的にやる)
- 「守破離」の法則
1つめは「徹底的にパクる」です。世の中には多種多様なコピーがあふれており、コピーを作れるようになるには、それらを徹底的に真似ることが重要です。2つめが「徹底的にやる」で、とにかくいろいろなパターンを試してみることです。我々も広告用のコピーを月間で100個ほど作ることがあります。3つめが「守破離の法則」です。これは修業の過程を表すのに使われる言葉で、まずは型を覚えて徹底的に守り、やがて既存の型を破れるようになり、最終的には型から離れていきましょうという話です。今回は「1」について補足しながら説明します。
「徹底的にパクる」ことが大切なのは、新しい表現をゼロから考えるよりも、すでに人々の反応を得ているコピーや、自身の心に刺さったコピーから学べることのほうが多いためです。電車の中の広告やTwitter広告、Facebook広告など、世の中にあふれるコピーに、基本的に新しいアイデアはありません。ほとんどは、すでに誰かがやっているアイデアを応用したものです。
パクるときには大切なポイントがあります。それは本質を真似ることと、ずらさないことです。文章をそのままコピーして使用するのも、もちろんNGです。ただ真似をするだけではあまり意味がなく、コピーの中のお客さまが魅力に感じている要素を理解し、そこから考えて真似ることが重要です。そうでない部分を真似ても、差別化は難しいので、お客さまのニーズを理解し、深掘りできると、訴求の幅も広がりやすくなります。
広告コピーに重要なファクト・メリット・ベネフィット
広告コピーを考えるうえで重要な3つの要素に、ファクト・メリット・ベネフィットがあります。ファクトとは商品やサービスの事実、機能を指します。メリットは商品やサービスの利点または長所で、ベネフィットは顧客にとっての利益や恩恵です。ファクト→メリット→ベネフィットの順にブレイクダウンしていくと、読み手を引き付ける広告コピーを考えることができます。
例として、次のようなノートパソコンがあるとしましょう。
▼ノートパソコン
・HDD容量:2TB
・RAMメモリ:16GB
・重さ:990g
・薄さ:10mm
・バッテリー容量:6calls 9600mAh
パソコンに詳しい人であれば、スペックを見て良いパソコンだと思うかもしれませんが、そうでない人にはよくわかりません。例えばファクトの部分だけをコピーに落とし込んでみると、「このPCは薄さ10mm!バッテリー容量も9600mmAhで大容量!」となります。しかし、このコピーでは魅力を感じない人もいます。パソコンに詳しくない人はバッテリー容量を言われても、良いかどうかわからないからです。
ファクトはあくまで事実です。ファクトだけで良さを判断できる人もいれば、できない人もいます。そこで、ファクトをもう少しブレイクダウンし、メリットに置き換えてみます。具体的には事実からメリットを抽出し、置き換える作業で、よりわかりやすい表現になります。
・HDD容量:2TB → たくさん保存できる
・RAMメモリ:16GB → サクサク動く
・重さ:990g → 軽い
・薄さ:10mm → かさばらない
・バッテリー容量:6calls 9600mAh → 電源が長持ちする
そして、メリットをさらにわかりやすい表現にするのがベネフィットです。感情面での恩恵であるベネフィットをうまく打ち出せると、人の感情を動かしやすくなります。商品やサービスの利用によって得られる気持ちや体験など、お客さまにとってのベネフィットを追求し、表現することが重要です。先ほどのノートパソコンの例でベネフィットを考えると次のようになります。
画像提供:株式会社デジタリフト
メリットとベネフィットに関しては、ターゲットの拡散と集中という注意点もあります。「たくさん保存できる」「電池が長持ちする」などのメリットによる訴求は、メッセージ性は弱くなるものの、そのぶん広いターゲットに刺さる可能性があります。一方ベネフィットによる訴求は、より内容が具体的になりメッセージ性は強まりますが、ターゲットは狭まるおそれがあります。
スタートアップ企業の事業立ち上げフェーズではターゲットが決まり切っていないケースがありますが、そうした場合はターゲットが狭まるベネフィットに寄ったコピーにはせず、メリットを重視したコピーで広くリーチできるようにすると良いでしょう。メリットとベネフィットはそれぞれに良しあしがあるため、状況に応じた使い分けが重要です。
また、1つのメリットに対してベネフィットは複数考えられる点も覚えておいてください。例えばテフロン加工(ファクト)で、焦げにくい(メリット)フライパンがあった場合、ベネフィットは「おいしい料理が作れる」「焦げを洗うストレスから解放される」などが挙げられます。料理がいつも焦げてしまい、おいしく作れない主婦がターゲットなら、「おいしい料理が作れる」を打ち出すべきですが、フライパンの焦げを洗うストレスから解放されたい人がターゲットなら「焦げを洗うストレスから解放される」と打ち出すべきです。複数あるベネフィットは、それぞれの訴求軸で刺さるターゲットが異なるため、注意しましょう。
ダメなコピーになる3つのポイント
広告の3原則に「Not Read」「Not Believe」「Not Act」があります。人は読まないし、信じないし、行動しません。言い換えると「人に期待してはいけない」ということです。その前提に立ったうえで広告について考えると、乗り越えなければいけないことがあります。
ダメなコピーは、「わかりづらい」「主張が一貫していない」「イメージ・想像ができない」という3つのポイントがあります。
文章がわかりづらい
わかりづらい文章は、「文法がおかしい」「言葉が難しい」「内容が回りくどい」の3つにたいてい分類されます。「文法がおかしい」とは、主語がなかったり、主語と述語の関係がおかしかったりすることです。文法のおかしな文章は読み手のストレスになりやすいので、文章を作成したら、読み手の立場に立って、おかしな点がないか確認しましょう。コピーを考える際、書き手の頭の中には書きたい内容の結論があるので言葉を省略しがちですが、読み手は商品・サービスの特徴やメリットを知らない点にも注意が必要です。
また、四字熟語や略語など、かっこいい言葉を使いたくなる気持ちはわかりますが、小学校3年生でも理解できるような文章を作りましょう。難しい言葉を使わないだけで、コピーはだいぶ良くなります。
内容が回りくどくならないようにするには、結論を先に書きます。結論を先に書くと、「回りくどい」「先が見えない」などの読み手のストレスを解消できます。
主張が一貫していない
主張が一貫していない文章は、人に納得感を与えることができません。コピーを作る際は主張がブレないようにしましょう。
イメージ・想像できない
人は想像できない物事に対して懐疑心を持ちやすいです。読み手が商品やサービスを使用している姿、または使用後の成功体験をイメージできるか否かが重要で、想像できないと、購買などの行動に移りにくくなります。
イメージを掻き立てるには、「五感を刺激するコピー」を作りましょう。人には視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚があり、この5つの感覚を刺激すると、イメージや記憶を呼び覚ますことができます。「りんごの味」と書けば、味覚の記憶を呼び覚ますことができますし、「ガスのニオイ」と書けば、ガスのニオイをイメージさせられるでしょう。五感の中でも特に、視覚的な表現によるアプローチは効果的です。人は物事を目で見て覚えており、視覚で得た情報が最も記憶に残りやすいと言われています。
コンバージョンに立ちはだかる3つの壁と乗り越え方
人がコンバージョンする際には3つの壁があります。1つめが興味・関心の壁で、2つめが共感・信用の壁、3つめが行動の壁です。この3つの壁をクリアできるとコンバージョンへと導けるので、意識してコピーを作りましょう。
1.興味・関心の壁
広告コピーは興味を持ってもらうことが第一目標です。興味を持ってもらえなければコンバージョンにはつながりません。ブランドのトーンや世界観を守ることも大切ですが、「あなた」「新しい」「ありえない」「たった1つの」など、目に留まりやすいキーワードを用いて読み手を引き付けるようにしましょう。
画像提供:株式会社デジタリフト
2.共感・信用の壁
次に重要なのが、読み手の共感・信用を勝ち取ることです。共感・信用を勝ち取るには次の4つのポイントがあります。
- 主張にはすべて理由を添える
- 言葉を変えて何度も説明する
- 多くの言葉、情報を与える
- 文体から自信を感じさせる
4つのポイントをもう少し具体的に掘り下げると、さらに次のようなテクニックがあります。
デメリットの公開と信用性
読み手の信用を勝ち取るために、情報の1つとして商品やサービスのデメリットをあえて伝える手法です。デメリットに加えてそれを上回るメリットがあることを伝え、信用度を上げます。
反論と信用性
反対意見や読み手の疑問を先に打ち出し、それらに反論する形で自らの主張や商品・サービスの正当性、メリットを訴える手法です。
保証と自信
商品やサービスに保証を付けるのも1つのテクニックです。保証が付くことによって信頼が生まれ、コンバージョンにつながります。
権威
人は、専門家や著名人の言動を信頼しやすい傾向にあります。心理学ではハロー効果やセレブ効果と呼ばれています。専門家や著名人の言葉を引用して広告コピーに用いるのも1つの方法です。
ストーリーテリング
端的に情報を述べるよりも、ストーリー性を持たせると良いでしょう。ストーリー性があるほうが人はイメージしやすく、記憶にも残りやすいためです。
客観的資料と証拠
事実に対し、客観的な資料や証拠がある場合は提示するべきです。「No.1」と言うならば、その根拠の提示が必要です。
3.行動の壁
人を行動させるために必要なことは主に2つです。「“今”行動すべき動機付けを行うこと」と「行動せずにはいられなくなる興奮状態を作ること」です。今行動しなければならない動機を明確にするには、希少性と緊急性を与えます。例えば「数量限定!残り○○個」(希少性)、「締め切りは○○日まで」(緊急性)などで、数が限られていることや締め切りが迫っている理由も明記します。
行動せずにいられなくなる興奮状態を作るには、成功体験を疑似体験させる方法があります。商品やサービスを使うことによって得られる優越感、幸福感、満足感、安心感などを読み手に想像させるのです。イメージできるプラスの感情や恩恵が大きいほど、商品・サービスを入手できないことに対する損失感も大きくなり、行動喚起につながります。
今回お伝えした内容に沿って、自社の商品やサービスについて考えてみてください。きっと新たな発見が生まれるでしょう。ちなみに広告コピーを作る際は、いきなり短いコピーを作ろうとせず、長めのコピーを考えるのがおすすめです。読み手にイメージさせる文章を作るトレーニングを行うと良いでしょう。
質疑応答
鹿熊さんによる講義の後は質疑応答が行われ、デジタリフトで広告コピーの制作を担当するWebエキスパート/AE(Account Executive)の朝長広樹さんも加わり、参加者の質問に回答しました。ここでは、その一部をご紹介します。
Q.ベネフィットを考える際に、ユーザーインタビューをしたほうが良いでしょうか。
朝長さん(以下、朝長) ユーザーインタビューができるなら、行ったほうが良いと思います。コピーを考える際はリサーチが8割、書くのが2割くらいのイメージで、私は調査を重視しているからです。ユーザーインタビュー以外に、GoogleやYahoo!知恵袋、Amazonで調べてみて、サジェストなどを参考にするのも1つの手です。
Q.朝長さんの思考の形成に役立った、おすすめの書籍を教えてください。
朝長 『買わせる文章が「誰でも」「思い通り」に書ける101の法則』(山口拓朗)は、書いてあるTipsが参考になるのでおすすめです。『脳科学マーケティング100の心理技術―顧客の購買欲求を生み出す脳と心の科学』(ロジャー・ドゥーリ―)は、心理学にあるブラックボックス的な部分を、脳科学を使って検証している点が参考になります。
Q.コピーを作るのに向いている人、向いていない人はいますか。
鹿熊 リサーチに時間をかけられない人はあまり向いていないと思います。物事の本質に近づくには、どうしても一定のリサーチ時間が必要だと考えています。スピード重視で進めるよりも、時間をかけて考える行為が活きるのがコピーの世界なのではないかと思います。
【今回の講師Profile】
鹿熊 亮甫(かくま・りょうすけ)@kakuma3
株式会社デジタリフト取締役
学生時代に株式会社フリークアウトにて新規事業の立ち上げなどを経験。2016年に株式会社デジタリフトに入社。現在は取締役兼AE Div統括を務め、マネジメントや事業統括を担う。
朝長 広樹(ともなが・ひろき)
株式会社デジタリフト Webエキスパート/AE
Webコンサルティング企業で広告運用に従事したのち、株式会社デジタリフトへ入社。Webエキスパート/AEを務める。
プロフィール画像提供:株式会社デジタリフト
【ビタミン株式会社】
高梨大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi
高松裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。100名を超える紹介制ビタミンゼミでは、信頼できる専門家から「一次情報」をスタートアップに届ける活動をしている。
https://vitaminzemi.studio.site/
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