セルフレジ「指静脈で2秒で認証」「クレカもスマホも不要」で決済&ポイント付与完了、便利すぎる!
東武鉄道と日立製作所は2023年8月、決済・ポイント付与・年齢確認がワンストップでできる「指静脈認証」システムを搭載したセルフレジを発表した。2023年度中に東武ストアの複数店舗に導入される。同システムは認証精度が高く、2秒で認証し、本人確認・決済・ポイント付与もわずかな時間で完了する。
これは両社が協業する「生体認証を活用した共通プラットフォーム」事業の一環で、指静脈認証のほかに、顔認証も可能だという。同事業にはどんな構想があり、2つの認証方法には、それぞれどんなメリット・デメリットがあるのか。
日立製作所の清藤大介氏にこれらの疑問を聞くとともに、ライターが指静脈認証によるレジ決済を体験してみた。
指をかざせば2秒で認証完了、ストレスフリーに買い物できる
東武鉄道(以下、東武)と日立製作所(以下、日立)が展開する指静脈認証によるセルフレジ決済システムは、片手の人差し指、中指、薬指の3本の静脈によって認証する。
実際に店舗で決済を利用する流れは、次の通りだ:
- 専用ウェブサイトにアクセスし、氏名、生年月日、住所、電話番号、クレジットカード情報などを登録
- 店舗に出向き、専用機器で指静脈の情報を登録。係員が登録情報と身分証明書の内容が合っているかを目視で確認する
- セルフレジで購入する商品をスキャンし、専用機器に3本の指をかざして決済
実際に体験してみると、「静脈認証」のボタンを押して3本の指をかざしたら、あっという間に決済できた。財布からクレジットカードを出す手間も、スマホの画面を開く手間もなく、ものの数秒で完了。アルコールを購入する際も、店員による年齢確認は必要ない。日常的に通うスーパーやコンビニなどで利用すれば、ストレスフリーな買い物ができそうだ。
指静脈の記録には専用機器が必要になるため、最初の1回は必ず店舗に出向いて登録する必要がある。ここが最大のハードルだが、それさえ済ませれば、あとは指をかざすだけでいい。
静脈は指紋のように環境要因で変わることはないので、基本的には一度登録すれば、定期的に再登録する必要はない。成長期の子どもの場合は、指が長くなると静脈のパターンも変わるため、1年おきに登録更新を促すそうだ。
日立と東武による「共通プラットフォーム」の強み
指静脈認証によるセルフレジ決済は、日立と東武が2023年中に立ち上げる「共通プラットフォーム」が基盤となる。第一弾として東武ストアに導入され、その後はホテルのチェックインやスポーツクラブの入退館管理など、東武グループのサービスへの導入を検討している。並行して、同事業に賛同するさまざまな企業のサービスや施設にも導入を広げるとしている。
認証方法は『指静脈』と『顔』の2種類があり、各事業者がどちらかを選択できます。指静脈認証は日立が開発した技術を、顔認証は協業している他社の技術を活用しています。
同プラットフォームの活用により買い物、宿泊、エンターテインメントなど、あらゆる場面で安全で手軽な決済、ポイント付与、本人確認が可能になります。将来的に生体認証のインフラになることを目指します(清藤氏)
ユーザーは一度どこかで生体情報を登録すれば、同プラットフォームを導入する全店舗で生体認証を利用できる。事業者側も各店舗ごとにユーザー登録をする手間が省ける。ユーザーにとっても、事業者にとっても、メリットが多い仕組みだ。
清藤氏によれば、日立では数年前に同プラットフォームの構想が生まれ、2022年の春頃から協業できる企業を探していた。そのなかで生体認証に可能性を感じ、取り入れたいと考えていた東武が共感し、協業に至った。
国内では、生体認証による決済や本人確認の導入が進んでいる。競合のシステムと比較した場合、東武と日立による共通プラットフォームの強みは、どこにあるのか。
私たちの強みは2点あります。1つは『高いセキュリティ』です。日立には特許を取得した『PBI(公開型生体認証基盤)』の技術があり、生体情報を復元不可能な形に『一方向性変換』してクラウド上に保存できます。万一、生体情報が漏洩しても解読できません。
もう1つは『ロールモデルの存在』です。私たちのプロジェクトでは、まず東武グループのサービスに生体認証が導入されます。プラットフォームは使える場所が増えなければ利便性が高まりませんが、ロールモデルが多くいることで、同じ業種への導入が進むだろうと考えています(清藤氏)
セキュリティにおいては、他社システムも暗号化はしているはずだ。しかし、漏洩した際にその方法が解読されると、生体情報が筒抜けになる危険性があるかもしれない。その点、生体情報を不可逆な形式にしているシステムでは安心度が高い。
「指静脈」と「顔」、それぞれのメリット・デメリットは?
同プラットフォームは「指静脈」と「顔」の2種類の認証方法があるが、認証精度に違いはあるのだろうか。日立、及び生体認証を提供する各社のプレスリリースなどを参考に調べてみた。
認証精度の考え方には、本人なのに拒否されてしまう「本人拒否率」と、他人なのに本人であると認証してしまう「他人受入率」の2つがある。これを踏まえ、両者の違いを比べると、次のようになるという:
- 指静脈認証
本人拒否率が1万分の1回の場合に、他人受入率が6250万分の1 - 顔認証
本人拒否率が1万分の1回の場合に、他人受入率が10万分の1
日立が採用している顔認証技術は、2つの顔画像が同一人物か否かを判定する1:1認証方式で、世界1位の評価結果を得ている。ただ、それでも一般的に一卵性双生児を見分けるのは難しいようだ。また、黒人の場合も精度が下がる。一方、指静脈の情報は後天的なものであり、一卵性双生児でも見分けることが可能となる。黒人でも高い精度を維持できる。
このように顔認証では誤認証のリスクがあることから、本事業では認証前に任意の4桁のピンコードを入力するなどして、それを防ぐという。つまり、精度の高さとスピードの速さを基準にすると、指静脈認証の優位性が高い。
ただし、上述した通り「指静脈認証」は事前登録の際に難点があり、店舗に出向かなければならない。この点「顔認証」は店舗などに出向かずとも、スマートフォンで事前登録ができる。ピンコードを入力する手間はあるが、それでもクレジットカードや電子決済を使うよりもスムーズだろう。
商業施設や鉄道関係から反響が多い
2023年8月29日の正式発表後、同プロジェクトには10社以上から問い合わせがあったという。
当初の予想どおり、スーパーなどの小売を含めた商業施設や鉄道関係からの問い合わせが中心です。まずは東武グループのサービスから展開していくので、同様の業種の企業が興味を持ってくださったのだろうと思います(清藤氏)
同プラットフォームは病院やクリニック、ホテル、テーマパークなどでも活用が期待されるが、まずはスーパーやコンビニなど全国チェーンの店舗で導入したいと清藤氏は展望を話した。
生体情報はパスワードのように書き換えができないことから、漏洩してしまえば悪用されかねない。しかし、同プラットフォームでは万全のセキュリティ対策がなされており、安心感を持って利用できる気がした。
あらゆる場所で生体認証による決済や本人確認ができるようになれば、モノを持ち歩く必要がなくなり、モノを紛失するトラブルもなくなる。カードの磁気不良やスマホの充電量も気にしなくていい。そんな世界が一日も早く実現することを願いたい。
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