ブランディングは伝言ゲーム! 経営を加速させる思考フレームとは?
「経営者とデザイナーの共創関係がブランディングの現場では非常に重要」と語るのは、株式会社エイトブランディングデザイン 代表の西澤明洋氏だ。
数多くのブランディングプロジェクトを手がけ、国内外100以上の受賞歴を持ち『ブランディングデザインの教科書』を著書に持つ同氏が「デジタルマーケターズサミット 2023 Winter」に登壇。経営とデザインの関係性に焦点を当てながら、強いブランドを作るポイントを解説した。
『ブランディングデザインの教科書』(著者:西澤 明洋 出版:パイインターナショナル)
すべての経営にブランディングは有効
そもそもブランディングとはどのような仕事なのか?
株式会社エイトブランディングデザインは17年にわたり、ブランド開発専門のデザイン会社として100以上のブランディングプロジェクトを手がけてきた。
その一例はクラフトビールのCOEDO。もともとは埼玉川越の小さな会社の地ビールだったが、リブランディングの結果、いまやクラフトビールとして世界進出し、売上を大きく伸ばしている。そのほかにも大手醤油メーカー、老舗の料理道具屋、芸術文化施設、さらには神社にいたるまで、幅広い企業団体のブランディングに貢献してきた。
ブランドというと嗜好品や高級品のイメージがあると思いますが、そんなことはなく、すべての経営にブランディングは効くと考えています(西澤氏)
ブランディングといえばロゴやパッケージのデザインをイメージしがちだが、それだけではない。西澤氏いわく「少し口やかましめのデザイン部長」として、その会社のデザイン以外の悩みも包括的に解決していくのだという。
ブランディングは「伝言ゲーム」
「ブランディング」は文脈や人によってさまざまな意味で使われるが、西澤氏はブランディイングを次のように定義する。
ある商品、サービスもしくは企業の全体としてのイメージに、ある一定の方向性をつくり出すことで、他者と差異化すること。
端的にいうと「ブランディングとは、差異化」「他とはどう違うかを、お客さまに正しく伝えること」だと西澤氏は言う。
一見当然のことにも思えるが、自社との違いを見つけられない、無理して目立とうとしてしまう、競合のマネをしてしまうなど、この差異化を正しく行うことは意外と難しいようだ。
ブランディングと、マーケティング・広告との違い
定義が文脈や人によって揺らぎやすい「ブランディング」「マーケティング」「広告」といった用語。西澤氏は「目的」と「伝達経路」の観点から、それらの言葉を明確に区分している。
まず、目的が異なる。マーケティングは売上を上げることを目的としており、いわば「売るゲーム」である。一方でブランディングは、売上を直接目的としているわけでなく、「伝えること」を目的としている。クチコミを介して良い評判が醸成されることを目指す、いわば「伝言ゲーム」である。
そして伝達経路も異なる。広告は一対多の一方的な伝達だが、ブランディングは人を介してクチコミとして拡散していく(下図の通り)。
西澤氏は上記のように各用語を定義しているが、マーケティングや広告を否定しているわけではない。
まずは伝言されるような情報設計や価値設計をして、そのうえで通常のマーケティング活動を行うと、飛躍的に効果が高まりやすい。順番が大切です(西澤氏)
ブランディング成功の鍵は、経営戦略からデザインまでの一貫性
続いて西澤氏は、ブランドにとって必要なものを3つ挙げた。これらは上から重要な順に並んでいるという。
- トップの熱い思い
- 良いモノ(サービス)
- コミュニケーションチーム
1番重要なのが「トップの熱い思い」だ。いくら商品やサービスが良く、広報が手慣れていたとしても、トップが「熱いメッセージを一貫して発信しつづけ」「プロジェクトメンバーが一丸」とならなければ、伝言ゲームが機能しづらい。多種多様なプロジェクトを経験した西澤氏はそう指摘する。
なお「トップ」は社長に限らず、「伝言ゲームの第一レイヤー層となるプロジェクトメンバー」を指している。デザイナーである西澤氏がコミュニケーションよりも「トップの熱い思い」を重視するのは意外かもしれないが、その背景にはこれから紹介する西澤氏のブランディング論がある。
ブランディングデザインの3階層
こちらが、ブランディング課題の整理に役立つ「ブランディングデザインの3階層®」の図だ。マネジメント、コンテンツ、コミュニケーション(=MCC)の3層から成る。
西澤氏は、この図を使った分析方法を紹介してくれた。
1. 横ぐしが通っているか確認
3階層の同じレイヤーの各要素に一貫性があり、横ぐしが通っているかを確認する。コミュニケーション層だけでなく真ん中のコンテンツ(商品・サービス)層においても、一貫性は重要だ。
ブランディングデザインでは、ビジュアルアイデンティティ(VI)やコーポレートアイデンティティ(CI)の一貫性が保たれた「トータルデザイン」を実現させようとする。
コミュニケーション層でいうと、ロゴ、パッケージ、ウェブサイト、広告などの各デザインにおいて、色彩やフォントなどのVIが保たれているかが重要とされている。
2. 縦ぐしが通っているか確認
しかし西澤氏は、横ぐし以上に、MCCを縦に貫く「縦ぐし」が重要であると主張する。それはMCCの上位レイヤーほど、差異化要因が強くなるからだという。
コミュニケーションのトータルデザインだけができても、差異化要因にはつながりにくい。コミュニケーションよりもコンテンツ、コンテンツよりもマネジメントの方に差異化要因があります(西澤氏)
戦略(マネジメント)によって商品・サービスの基礎設計が変わり、それに伴いコミュニケーションも変わる。たとえば飲食店でいうと、出店場所を高級なエリアとするか繁華街とするかで、料理の内容やコミュニケーションも変わる。
マネジメントも含むMCCの各レイヤーに一貫性を持たせ、縦ぐしを通すことが、強いブランドをつくるうえでは欠かせない。
統合的な働き方
マネジメントからコミュニケーションまで縦ぐしを通すために、エイトブランディングデザインが実践しているのが「統合的な働き方」だという。
「統合的な働き方」とは、経営者もデザインに関与し、逆にデザイナーも経営に関与するという、各レイヤーの境界線を廃した働き方を意味している。
デザイナーの視点から見ると、当然ながらコミュニケーション層の業務はほぼすべてを担当するが、統合的な働き方では、商品サービスの企画や、経営戦略にも関与していく。西澤氏の場合、デザイナーとして経営戦略のアイデア出しやその取りまとめなども担当する。
縦割りで分業せず、戦略からコンテンツの企画、コミュニケーションの実装までをみんなでやり抜くことが大事です(西澤氏)
逆に、経営者も「デザインはデザイン会社にお任せ」とするのではなく、コミュニケーションにも関与することで、企業のアイデンティティが行き渡ったコミュニケーションを実現しやすい。「共創関係、コ・クリエーション(Co-Creation)の関係がブランディングの現場では非常に重要」と西澤氏は強調する。
ブランド開発のプロセスとは? ポイントは一点集中
西澤氏はブランド開発のプロセスについても端的に解説した。
基本的には下図の通り、「リサーチ→プラン→コンセプト→デザイン→リサーチ……」というサイクルでブランドを構築するのだが、最重要ポイントは図の中央に位置する「フォーカス」だという。
フォーカスには2つの意味があり、ひとつ目は「経営資源を一点に集中させる」ことだ。
先述のとおり「ブランディングは差異化」であり、経営資源を他との差がつくれそうな部分に注力することで、差異をより鮮明にしやすい。しかし企業活動の現場では、各部署にそれぞれの意向があり、それぞれの顔を立てると経営資源をフォーカスできず、差異化が進みにくい。
また、競合他社に光る魅力があると、ついつい追随したくなるが、「ブランディングは差異化」という観点から見るとそれもNG行為のひとつだ。
フォーカスのもうひとつの意味が、コミュニケーション面で「言いたいことを絞る」こと。伝言ゲームのようにメッセージを広く伝播させるには、複数のメッセージより、覚えやすいひとつのキーワードの方が有利となる。
特に目先の売上を求める場合、年齢などの属性によってメッセージを出し分けて「みんなに好かれようとする」方向に行きがちだが、ブランディング的にはそうした行為は望ましくない。
講演最後の質問コーナーで西澤氏は、経営者がブランディングへの基本的な理解を持つ重要性を強調。ブランディング担当者に向けて「まずは決裁者・経営者の方々と一緒に、ブランディングとは何か、プロジェクトのゴールはどこにあるのか、といった点を見定めることで、プロジェクトを円滑に進めやすくなる」とアドバイスを送り、講演を締めくくった。
なお今回の講演内容の詳細は、西澤氏の著書『ブランディングデザインの教科書』(パイインターナショナル)に記されている。
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