インタビュー

「貝印」は若者に知られていなかった!? 認知度を上げた取り組みとデザイン思考な商品開発

カミソリ、包丁で国内トップシェアを誇る貝印だが、若年層の認知が低いという課題があった。世の中の流れを捉え商品開発や広告で若年層からのブランド認知を高めている裏側をインタビュー。

1980年に創業した総合刃物メーカー貝印。そんな貝印の最も有名な商品は包丁やカミソリだ。しかし、近年『#剃るに自由を🄬』をテーマにしたコミュニケーションを掲げた施策を展開し、マーケティング大賞を受賞。

バーチャルモデルを起用した広告

社会の流れを汲みつつ、Z世代など若年層に向けたコミュニケーション施策や、デザイン思考での製品開発など革新的な取り組みを行っている。同社の執行役員 CMOであり、マーケティング本部副本部長の鈴木曜氏に話を聞いた。

株式会社貝印 執行役員 CMO/マーケティング本部 副本部長 鈴木曜氏

国内トップシェアの刃物メーカーでも若年層のブランド認知がなかった

1932年に初の国産替刃カミソリを製造し、1998年には世界初の3枚刃カミソリを開発するなど、半世紀上にわたって使い捨てカミソリの国内トップシェアを誇る貝印。カミソリ以外にも爪切りや包丁など、あらゆる刃物を扱っている。包丁もカミソリと同様、国内シェア1位で、「関孫六」という銘の包丁はきっと誰もがどこかで見たことがあるだろう。

貝印の包丁「関孫六」シリーズ ホームセンターやスーパーの調理器具コーナーで見たことがあるはず
このようにカミソリ、包丁で国内トップシェアを誇る貝印だが、「若年層のブランド認知が低い」という課題があった。認知度を調査してみたところ、50代以降のユーザーからの認知度は高いものの、10代~20代の認知度は約30%ほどだったという。

若年層への認知が低いというのは、ゆゆしき事態だと思いました。ユーザーがカミソリ売り場に行く前に『貝印』という存在を認知してもらえるようにしなければと(鈴木氏)

しかし、ユーザーにカミソリのブランドを認知してもらうのは難しい。カミソリを購入するきっかけも、機能不全や紛失、劣化など必要に迫られてというシーンが多いだろう。さらに、ユーザーが「カミソリを買おう」とドラッグストアへ行ったとしても、さまざまなメーカーが製品を出しており、差別化してユーザーへアピールするのは困難だ。そのため、各メーカーはまずは「売り場の棚に製品を陳列してもらうこと」を重視した戦略をとっていた。

しかし、鈴木氏は市場を取り巻く環境の変化に合わせて、「売り場が製品にあること」ではなく、ブランドの思想を含めて理解してもらえるようにしたいと語る。

現在は店頭よりもECでゆっくり考えて選ぶ環境になってきたり、若者を中心に環境へ配慮した商品に対する関心が高まってきたり、市場を取り巻く環境と文化的側面が変わってきています。製品を知ってもらうより、ブランドの思想を含めて製品を理解してもらうことが大事だと考えていて、話題性のあるものをブランド名と一緒に出し、認知を獲得していくような施策を行っています(鈴木氏)

さらに、若年層には価値観の多様化が強く見られ、「1つの媒体で強烈なマーケティング投資をしても認知は得られないだろう」と鈴木氏は語る。

テレビなどのマスメディアで世論が醸成されるのではなく、今はデジタルメディアからマスメディアに情報が流れて世論を動かしたり、SNSの論調が企業を動かしたりします。日本はコンサバティブで、集団的な民族ですが、その中でも個性を尊重しようという流れができていて、特殊な環境下にあります。こういった世の中の流れや論調を捉え、さまざまな方法でアピールしていくことが重要です(鈴木氏)

次に、鈴木氏は具体的な若年層の認知向上への取り組みとして、以下の取り組みを紹介した。

それぞれの取り組みについて紹介する。

世の中の動きを捉えた「#剃るに自由を」の広告

「#剃るに自由を」の広告は2020年に渋谷に掲載された貝印の企業広告だ。処理されていない脇毛を見せる女性(バーチャルモデル)と、「ムダかどうかは、自分で決める。」というキャッチコピーが印象的だ。

カミソリを作っているメーカーとしては、剃毛する人が多い方が利益が出るはずなのだが、なぜこのような広告を掲載したのだろうか? やはりこの広告の掲載の背景には、「世の中の流れがある」と鈴木氏は語る。

バーチャルモデルを起用した広告(再掲)

私の持論として、文化や世の論調からユーザーのインサイトが生まれ、市場が生まれると思っています。なので、文化の写し鏡としてのインサイトを探しているんです。社会の動きに目を向けたとき、性差や格差に注目が集まっていると感じました。特にムダ毛の処理には性差がある。そこでまず、剃毛についての意識調査を行いました(鈴木氏)

世の中の動きに目を向けて、剃毛に関する意識調査を行った結果、剃毛や脱毛に対して束縛感や違和感を抱く20代、10代が男女問わず多いことがわかったそうだ。ファッションや髪型のように自分自身で自由に決めたいと思っている人も多いことがわかった。

我々としてはムダ毛を剃ってくれなければカミソリは売れませんが、意識調査の結果を受けて、『剃るも剃らないも個人の自由で良い』とブランドとして発信しなければならないと思いました。何が正解だと示すのではなく、『今は個の時代になり、自分で決めていいんだ』と示したかった。そして、特定の人間を使うとその人の思想が出てしまうのでバーチャルモデルを起用した企業広告を発信しました(鈴木氏)

ブランドとして剃毛の自由を表現した広告を掲載するというのはかなりチャレンジングに感じるが、やはり議論は生まれたという。ただ、その議論はネガティブなものではなかった。

広告を見たらみんな意見を発信したいだろうから、論争になるのはわかっていました。多様性の時代なので、正義は1つではなく対話や議論を生み出す動きも必要だと考えています。ただ、ネガティブな論争にならないよう、フラットな立場でチューニングしていくことは大事です(鈴木氏)

実際にユーザーから寄せられた声はポジティブな意見が多かったという。SNSでの反応のほかにも、お客様相談部への問い合わせにもコメントが届いた。「#剃るに自由を」と打ち出した貝印への姿勢に対する評価がされたのだ。

環境に配慮した紙カミソリの開発、発売

「#剃るに自由を」の広告と同じく若年層向けの取り組みとして、世界初の「紙カミソリ」も挙げられる。これもチャレンジングな取り組みだが、開発の背景にはやはり世の中の動きがあった。もともとは創業110周年記念で立ち上げたプロジェクトの一つだった。

世界初の組み立て式「紙カミソリ」

使い捨てカミソリのシェアが1位のブランドとして、社会的に海洋性プラスチックゴミが問題になっているのに、プラスチック製のカミソリを作ることに疑問を抱いたという。実は貝印では1992年から生物分解プラスチック採用のカミソリを販売していたが、時代の流れに合わず注目されていなかった。

創業110周年記念のプロジェクトには他にもバイオマスプラスチックのカミソリや分別廃棄できるハサミ、竹ハンドルの包丁などを構想していましたが、「紙カミソリ」への反応が一番良かったです。構想段階でプロトタイプを製作していたので、すぐに商品化へ動き出しました(鈴木氏)

「紙カミソリ」は紙だからこそカラーバリエーション豊富で、ジェンダーレスなデザインも可能になった。その結果、テスト販売は3日で完売し、環境に配慮した取り組みと製品の新しさで多くのメディアでも取り上げられた。これらの施策の結果、若年層からのブランド認知度は向上していった。

世の中の動きに素早く対応するデザイン思考な製品開発

世の中の動きや社会課題に目を向けて、インサイトを探っている貝印だが、その秘密は調査にある。貝印ではブランドに関係する定期的な調査はもちろん、疑問に思ったことや若者の動きで気になることはその都度調査を行っている。

マーケティング部は比較的調査に長けた人が多いので、自分達でインタビュー調査をします。外部調査を使うこともありますが、新製品を開発するときにカミソリや刃物についてわかっていないとできない質問もあるので、社内の人間がインタビュアーになって調査をとりまとめることも多いのです(鈴木氏)

さらに、調査の結果で見出したインサイトから素早く商品開発へつなげるために、デザイン思考を心がけているという。先述したとおり、紙カミソリは構想段階でプロトタイプを製作していたほどだ。

私はもともと北欧のクリエイティブエージェンシーに所属していたのですが、そのときにウェブサイトはデザイン思考で制作していました。ウェブサイトだと、フィードバックを受けながら、より良いものをどんどん変えていくのは基本ですよね。メーカーでもデザイン思考で物を作った方が良いプロダクトが作れると思っていたんです。平面のデザイン上でも、見ると想像できるようなプロトタイプを作ってみることが大事だと考えています(鈴木氏)

製造ラインを確保して製品化する前に、デザインをなるべく具現化してプロトタイプを製作することで、社内のフィードバックを貰いながら製品開発をし、製品化しているのだ。さらに、マーケティング本部の中にクリエイターとデザイナーを包括したことにより、プロトタイプ製作の時点で知的財産を守った状態でプロダクトを発表している。

このようなデザイン思考によって、貝印ではインサイトを見つけ、企画し、デザインのプロトタイプを製作し、承認されたら商品化へ動くという動きができており、スピーディーな商品開発が可能になったと鈴木氏は言う。

また、今後の取り組みについて鈴木氏は「社内に留まらず段階的にコラボレーションなども含め、このような事例を増やしていきたい」と述べた。

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