公式アカウントは「SNSへの先入観」から解き放たれましょう!
企業・団体のSNS担当者のみなさん、日々のアカウント運用、大変おつかれさまです。お忙しい日々を送られるなか、良質で大量な情報インプットを続けることはできていますか?
SNS公式アカウントの投稿案を考えたり、(ほとんどの方は兼務だと思いますので)本業に追われたりしている間にも、SNS関連のニュースやトレンド、そして好事例はどんどん発生し、あっという間に流れ去ってしまいます。1人や数人でそれらすべてをキャッチアップし続けるのは至難の業といえるかもしれません。
当連載では、企業・団体のSNS担当者のみなさんにお役立ていただけそうな良質なSNS活用事例をピックアップし、「どこがすぐれているのか」「なぜ話題になったのか」などをやさしく解説していきます。企業・団体のSNS投稿やSNS施策のなかでも、比較的最近の事例や再現性のある事例を取り上げ、みなさんのSNSアカウント運用の参考にしていただけるような記事を目指しますので、よろしければどうぞお付き合いください。
今回取り上げるのは、固定観念にとらわれないSNSアカウント運用が大きな成果につながった事例です。
ライソン(LITHON)公式/一点突破家電メーカー
「おもしろ動画」はTikTok向き?Instagram向き?
『焼きペヤングメーカー』『応答くん』などで話題の家電メーカー・ライソンは、「定時になった瞬間会社で焼肉を始めたらどうなる!?」「お昼前に会社で回転寿司を始めたらどうなる!?」など、実際に自社製品を使って、社員がオフィスで調理・食事する動画を、SNSに投稿しています。
まだ仕事中の同僚たちを横目に調理を開始し“できたて”をほおばる担当者。なんとアルコールまで飲み始めています。普通の会社なら叱られそうな状況ですが、おいしそうな匂いや音につられて、同僚たちも集まりいっしょに食べたり飲んだり。最後には上司まで参加して実に楽しそうな時間が流れるのです。
動画では、製品のサイズ感、操作方法、使い勝手、完成する料理の見た目などがリアルに伝わり、「こんな家電あったんだ!欲しいかも」(非認知層)、「気になっていたあの家電、よさそうだから買おう」(顕在層)といった行動変容にもつながりそうです。
さらに、社員がみんな仲よく和気あい合いとしたオフィスの様子を見せることで、「会社に対する好意度向上」「入社希望者増加」といった効果も期待できるでしょう。
この動画はどのSNS向き?
さて、クスっと笑えて突っ込みどころも多いこの動画シリーズは、Instagramのリールに投稿されています。「Instagramらしくない内容では?」と思った方もいるでしょうか。実はInstagramのアルゴリズム上、リールでは「楽しさ」も重視されるので、これらの動画が多くの再生回数と反応を得ているのも納得の結果なのです。ちなみに同社も過去には"笑い抜きの"レシピ動画や、モデルを起用した製品紹介動画を投稿していましたが、再生回数は伸び悩んでいたようです。
https://webtan.impress.co.jp/e/2022/04/14/42547
また、「むしろTikTok向きの動画なのでは?」と感じた方もいるでしょうか。同社は同じ動画をTikTokやYouTubeショートにも投稿していますが、平均再生回数は「YouTubeショート>Instagramリール>TikTok」の順となっています。10代中心のTikTokよりも、可処分所得が多いユーザーが多いInstagramリールのほうが多く再生されているのは、同社にとって願ったり叶ったりの状況かもしれません。動画の内容やターゲットは誤っていないといえるでしょう。
山形 お菓子の杵屋本店
インスタ映え商品がTwitterで大バズリしたわけ
創業200余年の和菓子屋・杵屋本店は、目を奪われるほどに美しい和菓子「星合いの空」をSNSで紹介していました。食べるのがもったいないくらいに美しく写真映えするこの菓子は、Instagramとの相性が抜群と考えられます。もちろん同店も、5枚の画像を使って投稿、フォロワー数約2000に対して「いいね」は約1250とまずまずの反応を得ることができました。
※「サイトへの埋め込み」や「リンクをコピーしてブラウザで表示」といった操作を行うといいね数が表示されますが、環境により数字が変わるようです。
そして同日、3枚の画像を使ってTwitterにも投稿したところ、11万7,000いいねを獲得するほど大バズりしたのです。
うちのベテラン和菓子職人(63)が作った羊羹がめちゃめちゃエモいので一度見てほしい。。。#七夕 #羊羹 #星合いの空 pic.twitter.com/gzUVOuJeE4
— 山形 お菓子の杵屋本店 (@YamagataKineya) July 6, 2022
さらにこれがきっかけで多数の国内外メディアでも取り上げられ、注文が殺到する事態となりました。
同じ画像を使いながら、InstagramではなくTwitterで大反響となった理由は、その投稿テキストにあると考えられます。文字数は少ないものの、ことばの1つ1つがTwitterユーザーの心を揺れ動かし、圧倒的共感を得たのでしょう。
- 「ベテラン和菓子職人が作った」 →(手作りであることへの)驚き・親近感
- 「めちゃめちゃエモい」 → 共感するユーザーが続出
- 「見てほしい」 → 「買ってほしい」「買ってください」ではない点が好感
さらに同店はTwitter上でユーザーコメントにもていねいに返信しており、そのこまやかなコミュニケーションがUGC(User Generated Content:一般ユーザーによって作成されたコンテンツ)の増加につながっているようです。「星合いの空」をハッシュタグ等で検索してみると、InstagramよりもTwitterのほうがUGCが多く発生していることがわかります。
まとめ
各SNSの特長を学んだり多くの事例を見たりするにつれて、「Twitterで話題になる商品/投稿」「Instagramらしい/TikTokらしい動画」等の固定観念に知らぬ間にとらわれてはいませんか?
各SNSのユーザー層、トレンドは日々移り変わっています。思いもよらぬことがきっかけとなって、みなさんの会社の投稿が話題化・拡散する可能性もおおいにあるのです。その投稿、他のSNSからも発信してみませんか?
この事例にも注目!
大栗紙工株式会社
スタジオジブリ長編アニメーション映画『天空の城ラピュタ』がテレビ放送される日には、作品中盤に登場人物が唱える滅びの呪文「バルス」がTwitterのタイムラインにあふれる「バルス祭り」が有名ですね。2011年12月に同作品がテレビ放送された際には、世界の秒間ツイート投稿数(TPS)が新記録を達成したそうです。
その後、同作品がテレビ放送されるたびに企業の公式アカウントも「バルス祭り」に参加するなど加熱した頃もありましたが、最近はかなり落ち着いた感があります。とはいえ、2022年8月12日にテレビ放送された日にも世界のTwitterトレンドで1位・2位を占めていました。
https://twittrend.jp/time/1/2022081300/
そんな中で今年8月、テレビ放送の約3時間前に投稿されたのがこのツイートでした。
ノートを作る会社として気になる、ムスカの手帳📖
— 大栗紙工株式会社 (@OGUNO_notebook) August 12, 2022
●ページ数が多い
●ノド元まで水平に開く
●代々伝わる(丈夫で長持ち)
●拡大したら背に隙間が
以上のことから、ムスカ大佐の手帳は【糸かがり綴じ上製本(ハードカバー)ホローバック】の上質なものと推測します。#金ロー #ラピュタ #ムスカ pic.twitter.com/VZ0v7wXrv4
ノート会社としての矜持と知識の豊富さを感じさせるこの投稿には、好意的なコメントも多く寄せられました。同社はコメントへの返信もていねいに行っており、好印象です。
<コメント例>
ノート会社としての分析力をたたえるもの- 「着眼点がすごいですね、貴社のノート使ってみたくなりました」
- 「さすが、ノートを作る会社のあるべき考察力!」
- 「分析すげえ」
- 「こういう専門家ならではの着眼点大好きです」
- 「こういうのを考証って言うんだよな。楽しい」
- 「新しい視点が得られました♪」
- 「こういうの好き」
- 「ムスカ大佐の手帳として売り出しては?」
- 「ムスカ大佐とお揃いのノートが欲しいです」
さらに、放送中でも放送後でもなく“放送前”に投稿した点も秀逸です。このツイートを見たユーザーは、「新たな視点」「新たな楽しみ」を得た状態で、ラピュタのテレビ放送を楽しむことができるからです。「投稿内容」「投稿タイミング」両方をユーザー目線で検討できている点は、ぜひ真似したいものですね。
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